30話 ふんどし
あっしは最低でやんす。
孤児だったあっしたちは幼い頃からずっと一緒だったでやんす。
そんな兄弟同然のスネークをあっしは置き去りにして走ってるでやんす。
あっしは最低のクズ野郎でやんす。
止めど無く溢れる涙で視界が悪いでやんす。
視界が悪かったからかあっしは躓き転けたでやんす。
「――ぐぅ゛ぅ゛う゛う」
涙が止まらないでやんす!
起き上がるでやんす、立ち上がって走るでやんす!
今だけ、今だけは何も考えてはいけないでやんす。
友の、家族の想いを無駄にしないためにも走るでやんす。
あっしは地面に手を突き、勢いよく地面に頭突きをしたでやんす。
顔中を流れるそれが汗なのか涙なのか、鼻水か額から流れ落ちる血なのかはわからないでやんす。
わからなくていいでやんす。
あっしは手に力を込め、体を起こしたでやんす。
スネークが命を懸けて遂行しようとした任務をやり遂げねばいけないでやんす。
泣き崩れている時間なんてないでやんす!
先ほどの道が使えないのなら、遠回りになるけど迂回して確実にアーロン隊長とパリスの姉さんの元に行かなくてはいけないでやんす。
あっしは走ってきた道を振り返り、引き戻したい心と体を抑え付け、再び走り出したでやんす!
路地を駆け抜けあっしは南東の戦場にたどり着いたでやんす。
ここからアーロン隊長とパリスの姉さんを探さなくてはいけないでやんす。
南東には数は減ったとはいえ、まだ沢山のパリセミリスの兵がうじゃうじゃいるでやんす。
街並みは地獄とかし、無数の屍が築かれているでやんす。
パリセミリス兵だけの屍ではないでやんす、中にはレジスタンスの方々の痛ましいご遺体もあるでやんす。
みんな命を懸け戦っているんでやんす、あっしもあっしの戦いをするでやんす。
確かアーロン隊長とパリスの姉さんの初期位置はこっちだったでやんす。
あっしは戦場の中を恐怖で身が固まりそうになりながらも必死で駆け抜け、見落とさぬように周囲に目を凝らしながら移動したでやんす。
ここにもいない。
こっちにもいない。
一体どこにいるんでやんすか!
そんな時、遠く前方に奇妙な人影を発見したでやんす!
黒髪の肩まで伸びたボブスタイルに、なぜか下半身パンツ丸出しで高笑いを響かせながら、恐怖に顔を歪めたパリセミリスの男たちを殺し回っているパリスの姉さんでやんす!
近くには全身に返り血を浴び、全身を赤く染め上げた悪魔のようなアーロン隊長の姿もあるでやんす!
あっしは近い方のパリスの姉さんの元まで全力で走ったでやんす。
姉さんに駆け寄りながらあっしは叫んだでやんす。
「姉さーん! パリスの姉さぁーん!」
姉さんはあっしの声に気づいてくれたみたいで、あっしの方を見て天使のような微笑みを浮かべ、手を大きく振ってくれている。
あっしが姉さんの元にたどり着くと、姉さんはあっしのフードを取り顔を確認し表情を曇らせているでやんす。
「ポブ! あんたどうしたのその顔! それに何でそんなに泣いているの?」
「あっしのことはいいでやんす、それより至急姉さんとアーロン隊長に知らせなければならないことがあるでやんす!」
姉さんはすぐに何かを悟り、アーロン隊長を呼んでくれたでやんす。
あっしはお二人に魔族のこととスネークのことを必死に伝えたでやんす。
「話はわかった! よくここまで伝えに来てくれた!」
あっしの役目は終わったでやんす。
今からあっしが助けに行くでやんすよスネーク!
あっしはお二人に別れを告げ、すぐにスネークの元へ行こうとしやした。
「そういうことなんで、あっしはスネークの元に急ぎやす!」
「待ちなさい!」
あっしが立ち去ろうとしたら姉さんに止められたでやんす。
「なんでやんすか?」
姉さんはアーロン隊長に向かい話をし始めたでやんす。
「隊長! 魔族如き一人で大丈夫ですよね!」
「当然だ! 俺の仲間は誰も死なせない! とっとと行ってスネークを助けてこい!」
「了解です!」
お二人の会話を聞きあっしは涙が再び洪水のように流れ出やした。
「泣いてる暇はないわよポブ! スネークの元まで案内しなさい!」
「了解でやす!」
あっしは走った、怖いものなどもはやないでやす!
パンツ丸出しの最強の姉さんがあっしにはついてるでやす!
あっしが再び路地に入るとパリセミリス兵が現れたでやす。
だけど一瞬で姉さんのレイピアが敵を葬るでやす。
あっしの後ろにぴったりと付いて走る姉さんに伝えるでやす!
「あそこの路地を曲がった先でやんす!」
あっしが振り向きざまに伝えると姉さんが頷き、二人で速度をあげたでやんす。
路地を曲がった先であっしは膝から崩れ落ちた。
「スネェェェェグゥゥゥ」
スネークは無残な姿で横たわり、8人の兵に笑いながらボールのように蹴られていたでやんす。
「さっき逃げたやつじゃねぇーか」
「おい見ろよ!」
「パンツ丸出しの女を連れて戻ってきやがったぜ!」
高笑いを上げる男たちをよそ目に、姉さんはスネークに目を向けると、見たこともない鬼の形相になっていたでやんす。
「おいこの女犯しちまうかぁ!」
「っお! いいね」
「戦場で女とや――」
次の瞬間、男は口から上を刎ね飛ばされたでやんす。
それはもう一瞬の出来事でやした。
姉さんはパリセミリスの一人を殺すと、怒気を上げたでやんす。
「あんたら死ぬ準備……しなくていいや」
「な、なんだこのイカレ女!」
「おい、ヤバくねぇかコイツ?」
「たかが女ひとりだ、全員でやりゃ問題ない!」
何もわかってないでやんす。
お前らの前にいるそのお方は、最強のパンツの使者でやんす!
「ヤッちまえ!」
男が仲間に合図を出し、一斉に姉さんに襲いかかったでやんす。
だが、無敵の姉さんの敵じゃありやせん。
走り込み突っ込んだ男は気がつくと、首がなかったでやんす。
あっしにはもう姉さんのレイピアを見ることすら不可能でやした。
気がつくと8人いたパリセミリス兵は全滅していたでやんす。
姉さんはゆっくりとスネークの元に歩き、横たわるスネークを抱きかかえると、あっしに声をかけた。
「ポブ! まだ生きがある! スネークはまだ生きている!」
あっしはその言葉を聞き再び泣き崩れ、姉さんは腰袋からポーションを取り出し、ゆっくりとスネークに飲ませてくれやした。
あっしは近づき声をかけやした。
「任務はぜい゛ごうじだでやん゛ず」
スネークは確かにあっしを見ていったでやす。
「良かったっす」
スネークは笑顔で喜んでいたでやんす。
姉さんもスネークに労いの言葉をかけてくれたでやんす。
「よくやったね!」
あっしは感謝を込めズボンを脱ぎ、姉さんに差し出したでやんす。
「っえ? なに?」
「あっしはチビでやすから姉さんにはハーフパンツにしかなりやせんが、使ってくだせぇ!」
姉さんはなぜか少し固まっていやしたが、あっしのズボンを手に取ってくれやした。
「……うん、ありがとう」
姉さんはズボンを履きパンツの使者は身を潜めやした。
あっしはパンツではございません、あっしはふんどしでごぜぇやす。
今日からあっしはふんどしの使者になるでやす。
――次回 31話、鬼人。
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