103話 タコの願い
嘘だろ? オイラの目の前でアイツが……アルトロが氷漬けになっちまった!
オイラにいつも意地悪して偉そうにしていたのに、最後は何て呆気ないんだ。
オイラは心のどこかで安心していたんだ、アイツが来てくれれば必ずこの状況を打破できるって。
だからオイラは安心して二人の戦いを観戦していたのに、なんだよこれは!
なんで負けてんだよ!
お前はオイラに言ったじゃないか、自分はクロム=エトワールだって。
最強の魔王の一人がなんでこんなに簡単に負けるんだよ!
アイツの事なんて……アルトロの事なんて全然好きじゃないのに、どうして涙が止まらないんだ!
どうしてこんなに悲しくて悔しいんだよ。
何でこんなにも止めど無く溢れては流れるんだよ!
許せないよ、許せるわけがない!
オイラの友達を殺したこの悪魔族の男、ゼセットだけは許せない!
オイラじゃゼセットには勝てない事ぐらいわかってる、だけど友達の仇を取るためにやらなきゃいけない時があるんだ!
男には引いちゃいけない時があるんだ!
オイラはやるぞ! やってやるぞ!
オイラは溢れる涙を触手で拭い、ただじっと凍りついたアルトロを見つめるゼセットの野郎を睨みつけてやった。
「お前だけは許さないぞ! オイラが相手になってやる!」
ゼセットはオイラにゆっくりと体を向けると、冷え切った冷たい目でオイラを見ている。
「お前に今一度問う。クロム=エトワールについて知っていることを答えろ」
「オイラの友達を殺したお前なんかに教えることは何もない!」
「そうか……。なら言いたくなるようにしてやろう」
恐怖で目を逸らしてしまいそうになるけど、目を逸しちゃダメだ。
しっかりと奴の動きを見て対応するんだ。
オイラはゼセットから目を離すことは無かった、ゼセットの一挙手一投足に全神経を注ぎ、どこから襲ってきてもすぐに対応できるようにしていたんだ。
だけど、何もかもが違いすぎた。
オイラとゼセットではそもそも生まれ持ったポテンシャルに差がありすぎたんだ。
いくら全神経を注ぎ目を凝らしてみたところで、ゼセットの動きを目で追えなければ意味がなかったんだ!
前方に居たはずのゼセットは突然オイラの視界から消え去り。
刹那――
背後に悪寒が走る。恐る恐る振り返ると、ゼセットがオイラを見下ろしていた。
不味い! そう脳が判断した時にはもう遅かった。
オイラはゼセットに踏みつけられ、体中に激痛が走り身動きが取れなくなっていたんだ。
「ぐぅぅ……この野郎、はな……せ」
オイラはゼセットの足を触手で掴み、必死に足を退かそうとするが全く動かない。
その間もゼセットはゆっくりと足に力を込め、押し潰されるオイラの体は悲鳴を上げ力が抜けていく。
「うあわあああああ」
「少しは答える気になったか?」
「い……ただろ、おまえ……なんかに、はなすこと……はない」
「意地で命を捨てるとは、つまらん奴だな」
「意地のひとつも……持てないタコ……よりは、マシだ!」
ミシミシと大地も悲鳴を上げ、オイラの意識も遠ざかりそうになっていた。
オイラは近くに居たメルトに助けを求めようと目を向けるが、地面にヘタリ込み、とても助けてくれなんて言える状態じゃない。
誰かいないのかとゆっくりと首を回すが、誰もいない。
ゼセットの仲間の女はじっと黙ってオイラが潰れていくところを見ているだけだ。
もう終わりだ。オイラはここで死ぬんだ。
諦めかけたその時!
凍りついていたアイツの体から蒸気が噴き上がっている!
生きて……生きていたんだ!
血反吐を吐き涙を零し、死ぬほど痛いはずなのに、笑っちまった。
アイツがあの程度で死ぬはずなんてなかったんだ。
アイツがついたくだらない嘘を、今だけは信じたくなったよ。
今だけは信じてやるから……だから、早く――
「助けてくれぇぇアルトロォォ!」
オイラは叫んだよ、最後の力を込めて力一杯叫んだんだ!
すると、オイラを踏んづけていたゼセットも体中から蒸気を上げるアルトロに気づき、呆然とアルトロを見つめ、オイラを踏む足の力が弱まっていく。
ゼセットの仲間の女も口に手を当てて驚きを隠せずにいる。
さぁ、甦れアルトロ! そしてコイツ等をコテンパンにしてくれ!
ジジムを殺った時みたいにさっさと倒してくれよ!
この作品を少しでも気に入ってくださったら、下の評価ボタンを押して頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします。




