102話 氷帝
「おい、そこのお前! 俺のミゼアとはどういう関係だ?」
ボケっと立ったまま睨みつけてくる男の運命を決める問いに、眉を吊り上げて答える気はなさそうだ。
ミゼアはそんな俺と元彼? らしき男を交互に見て焦っている。
今彼の俺と元彼との修羅場なのだ、焦るのは当然かもしれんな!
俺はそんな未練がましい男からミゼアを救い出してやるのだ。
「安心しろミゼアよ! この未練の塊のようなマヌケが二度とお前にちょっかいを出さぬよう、俺が懲らしめてやる!」
「な、何を言ってるんだ! コイツは私の――」
ミゼアの別れの言葉を直接聞きたくなかったのか、元彼はミゼアが話を終わるのを待たず突っ込んできた。
俺は近くに居た邪魔になりそうなメルトを遠くへ蹴り飛ばし、手に持っていたタコをメルトの元へ投げ、元彼を迎えてやった。
元彼は見事な手数で応戦してくるが、俺はそれを受け流しては躱し、土手っ腹に軽く一撃入れてやる。
ドーンと音を上げて元彼の体が軽く浮き上がったのだが、元彼は意外とタフなようで素早く後方へステップを踏みながら体制を立て直している。
牛の時は今の一撃で悶絶していたのだが、少しはやるようだな!
俺と距離を取った元彼は一段とキレておる。
「許さんぞ人間が! その肉切り刻んでくれる」
囁くように怒りを口にした元彼の足元が凍りつくと、パリパリと妙な音を鳴らしながら大気中の水分を凍らせ、氷の結晶を創り上げた。
元彼が結晶に手を翳すと氷は砕け、砕けた結晶の中から見事な氷の三叉槍が出現した。
氷の結晶から出現した三叉槍はズサッと大地に突き刺さると、突き刺さった周辺が凍りつき、ひんやりとした冷気を漂わせている。
元彼は大地に突き刺さった三叉槍を抜き取り、華麗な槍捌きでグルグルと三叉槍を体の周りで回し、俺に槍先を突きつけている。
敵ながらあっぱれだな!
宝石のようにキラキラと輝く三叉槍は美しく、あの三叉槍で突いた全てを瞬時に凍りつかせるのだろうな。
創製魔法の類ではなさそうなところを見ると、魔技によるモノか?
何れにせよ生まれ持った抜群のセンスがあってこそなせる技だな!
「死に行く前に一つだけ答えろ! お前はクロム=エトワールの何を知っている?」
またそれか。ミゼアにしても元彼にしてもなぜ前世の俺を探しているのだ?
「クロムを見つけ出して一体何をする気なんだ?」
「お前には関係のないことだ。答えぬのなら死ね」
どうやら本気で俺を殺す気らしい。
再び突っ込んで来ては、右手に構えた三叉槍から鋭い突きを繰り出しているが、残念だが俺には通用しない。
俺は元彼の三叉槍を漆黒の剣でなぎ払い華麗にあしらってやる。
「ミゼアから手を引くならその見事な魔技に免じて、命は見逃してやっても良いのだぞ?」
「めでたい奴だ。死ぬのは貴様だ!」
剣と槍の応酬の中、せっかく死なぬチャンスをくれてやったというのに!
この愚か者はミゼアから手を引く気はなさそうだ。
元彼はまた距離を取り、手にしていた三叉槍を天に向かって投げると、宙に投げられた三叉槍が夕暮れの光を反射して輝いた。
「――ダイヤモンドダスト!」
輝いた三叉槍に向かって技の名を叫ぶと三叉槍は一段と輝きを増している。
強烈な光を放った三叉槍がスーパーノヴァの如く最後の光を放つと、三叉槍は見事に木っ端微塵に砕けてしまった。
創り上げた自らの武器を砕いてしまうとは、一体何がしたかったのかと呆気に取られていると、パリパリとまたどこからか何かが凍りつく音が聞こえる。
三叉槍を失った元彼を見ると、何故か俺を見て笑っている。
すると離れた所から俺たちの戦いを見ていたタコルが叫んでいる。
「お前体が凍りついてるぞ!」
タコルの言葉を聞き透かさず自分の体に目をやると、足元や腕がパリパリと音を立ててゆっくりと凍りついている。
なるほど、三叉槍を砕きその破片をミクロ単位まで粉砕して、大気中に漂う空気に乗せて俺の体内へ運んだということか。
内側から俺を凍らせるつもりか?
「見事な技だな! 感心したぞ!」
「ほぉ~、自らの体が凍りつく様を見ても、命乞いひとつせず堂々たる振る舞いを見せる姿には感服するが、お前はもう終わりだ!」
「ヒヒ」
「何がおかしい? 死の恐怖を前にイカレたか?」
俺は嬉しかったのだ!
少しだけこのミゼアの元彼に感謝すらしているのだ!
だって、俺の頭部に生えた気色の悪いキノコが凍りつき、手で払うと砕けて消えたのだ!
まさかこのような除去の方法があったとは予想外だった!
俺は笑った、嬉しくて嬉しくて……ただ笑った。
笑う俺の体はゆっくりと凍りついていき、きっと誰もが一度目にしたら瞳を奪われるほど美しい氷像となっていただろう。
完全に凍りつく前に目にしたミゼアは呆然と俺を見つめ、タコルとメルトは絶望に顔を歪めていた。
爺さんは死んだふりをし続けているのか、本当に死んでしまったのかわからないが、相変わらず大地と口づけを交わしている。
一方元彼は、困惑の表情で俺を見ていた。
きっと凍りつく俺が笑っていたから、気味が悪かったのだろう。
「――アルトロー!」
凍りつく最後に俺の名を口にしたのがタコだったのは……なんか納得がいかない……な。
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