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転換7「色々考えるところもあるんです」

どうも、作者です。

物凄く久し振りの更新ですいません。

正月が、正月で、正月でして……(意味不明)。


今回は、ちょっとシリアス展開です。

ギャグを期待していた方は申し訳ございません。

『こいつ、こんなものも書くのか。』とでも思ってやってください。


御意見・御感想随時お待ちしております。



では、本編へどうぞ。



 何だかんだで、もうあれから1ヶ月近くがたってしまっている……。

 俺たちはいつものように学校へ通い、俺も京もこの奇妙な生活に少しずつ慣れてしまいつつあった。もちろん、まだまだ違和感を感じるところもあるが、周りから『女』として扱われることに抵抗を感じなくなった、というのは確かだ。


 ……不本意ながらな。

 従って、俺は今自分が『男』だという実感が切実に欲しいわけであって。


「…………」


 こんなものは、いらないわけだ。……いきなり『こんなもの』などと言われても、何のことだかわからないと思う。簡単に説明する。

 俺たち、まぁ俺と京は先程言った通りに今日も普通に学校に登校してきたわけだ。そしてまず玄関ですることと言ったら、そう、靴を履く、だろ?

 靴を履くためには、当然靴箱を開けなければいけないと思うのだが、問題はそこだ。

 

 靴箱の中には、上履きの上に綺麗に置かれている、白い封筒があったのだ。


 こんな特異な場所での封筒など、誰だって一つしか考えられないだろう。俺は嫌な予感を全身に感じながら、封筒を開け、中身を読んだ。


 そこには、こう書かれていた。


『神谷きよさんへ。あなたに伝えたい話があります。今日の放課後、もし良かったら体育館裏に来てください。待ってます。1―A武田大和より』



「……はあぁぁぁ」


 嫌な予感、見事に的中。俺は身体中の全てを吐き出すように、盛大に息を吐いた。


 ……何でだよぉ。


「おい、きよ。何やってんだ?」


 意気消沈し、思わずしゃがみ込んでいる俺の後ろから、京が覗き込んでくる。


「……これ」


 俺はそのまま、手に持っていた封筒をゆっくりと京に渡した。京はそれを手にとり見やると、驚きに目を見開いた。


「これ、ラブレターじゃねえか!!」


「バカ!! 声がでかい!!」


 封筒を持ったまま叫びをあげた京を、慌てて俺が口を塞ぐ。その後周りを急いで確認する。幸い、誰も聞いている人はいなかった。

 ……うぅ、京の野郎。さっきから俺が『ラブレター』って直接言わないようにしてたのに、あっけなく言いやがって。ラブレター、なんて。


「いや、でもこれは……どうする?」


「どうするも何も、俺は男なんだぞ? 受けられるわけないだろうが」


 動揺している京に、俺は腕を組んでキッパリと言い放つ。まだ、まだ、ラブレターと決まったわけではないのだ。……一応。いきなり『ラブレターがきました』なんて言われてもそれこそ困るし、出来得る限りその可能性を信じていたい。俺の男としての尊厳のために。


「ははぁん。……まだラブレターだと決まってない、って顔だな?」


「えっ!?」


 いきなり核心を突かれ、俺は上擦った声をあげてしまう。

 そ、そんなにわかるほど顔に出ていたのだろうか? ……というかそもそも『まだラブレターとは決まってないって顔』って、どんな顔なんだよ?


「見ず知らずの奴に対しての、しかも異性への手紙に、他に何があるんだ? ……現実逃避は止めなさい」


 京はムッと睨みつけている俺を見下ろしながら笑って言って、俺の顔面に手紙をペシンと貼り付けた。

 ……それは京からしてみれば当然の対応だったのかもしれないし、『他に何か最良の選択があるのか?』と聞かれれば、俺に答えることは出来なかっただろう。それに、京は俺を陥れる気だって全くないし、軽い気持ちで言ったのだろう。そんなことは、わかっていた。

 けれども、俺はこの時何故だか無性にムカついてしまったのだ。京の余裕そうな表情とか、自分は無関係だといった態度とか、理由は探せばいくらでも見つかるような気はするのだが。

 それよりも違う、何か言葉には形容のしがたい怒りが渦巻いてしまったのだと思う。


「いっつもいっつも他人事扱いだよな……。自分が女になってたかもしれないのによ……!」


 一種の、嫉妬だったのかもしれない。俺は気付けば、そんな言葉を放っていた。


 京はそんな俺の言葉に、最初は面食らったようにしていたが、すぐにさっきの『やれやれ』といった表情に戻っていった。ふぅっ、とため息をつく。


「またそれかよ……。何度も言ったろ? なっちまったもんは仕方ないって」


 呆れ顔でかけられる言葉。その一言一言がやけに冷静で、対照的に怒っている自分が惨めで、尚更腹が立った。腹が立って、仕方なかった。


「あぁ、そうかよ!? ……元は同じつっても、所詮今は他人だもんな。そりゃそうだよな!」


 頭では冷静に考えられているのに、心がついていかない。例えるなら、今の俺はそんな状況だった。

 怒りに身を任せてわめき散らすなんて、赤ん坊と一緒だ。この歳になってまですることでもない。……だが、俺は何故か止まることが出来なかった。


「お前、一体どうしたんだよ。何いきなり怒ってるんだ?」


 京はさすがに俺の様子がおかしいのに気付いたのか、声をかけてくる。その言葉も、今の俺には煩わしくさえあった。

 ……誰のせいで怒っていると思ってるんだ。


「うるさい!!」


 俺はそれを遮って叫ぶと、怒りで熱くなった顔を手で隠しながら走り去っていった。

 これ以上ここにいても、ますます俺がおかしくなるだけだと思ったからだ。


「きよ? おい、きよっ!? 一体、何だってんだよ……!?」


 動揺した京の言葉は、俺には届かなかった。












 教室についても、俺はずっと机に突っ伏したままだった。挨拶なんて、する気分にならなかった。

 あれから、京も遅れて教室に入ってきたが、もちろん一切口を聞いていない。さっきのことがずっと胸に残っているような感じなのだ。

 明らかに俺のやつあたりなのはわかっている。……わかってはいるのだ。


「きよ、神谷くんと何かあったの……ってうわぁ!! 何その顔!?」


 心配して様子を見に来たのだろう、朱菜が俺を見て驚きの声をあげた。

 ……俺は、それにも目だけを向けていた。


「ほんとにどうしたの……? きよ、大丈夫?」


 見かねた緑も気遣うようにおずおずと声をかけてくる。だが、今の俺にはそれに返すべき適切な言葉も出てこなかった。何を言っていいのか、どうやって口を開けばいいのかもわからない。


「大丈夫だよ……」


 だから俺は、腑抜けたような返事をした。


「大丈夫……って、どう見てもそうは見えねえぜ?」


「何かあるんなら、相談に乗るわよ。……それとも、私たちには話せないこと?」


 いつになく真剣な口調で葵が言い、朱菜もそれに追随するように問い掛けてくる。俺は、うつむく。


「ごめん………」


 ……こうして心配をかけてるのに。胸が痛かったが、こんな事情は話そうと思っても話せない。それに、話したとしてもどうにかなるとは思わなかった。俺は首を小さく振って、謝罪の言葉を述べた。


「そう……」


 三人は俺の言葉を聞くと、それ以上の追求はしなかった。


 ただ、悲しそうな顔だけが、胸に刺さった。









 その日は、憂鬱だった。何ともやり切れない気持ちが長々と管を巻いて居座っているようで、俺はずっと無気力のままだった。誰とも、話さえしない。

 そんな俺の気持ちに同調するかのように雨はザーザーと降り、放課後になった今でもそれは止むことはなく、むしろ一層激しさを増していた。

 俺は鞄を持つと、おぼつかない足取りでノロノロと玄関まで向かっていく。


 ……もちろん、京はいない。


 玄関に着き、靴箱を開けたところで、今朝の手紙を思い出す。……確か、体育館裏で待っていると書いていたはずだ。最初は行く気すらなかったが、今はどうでも良かった。どうせやることもないのだから、と投げやりな気持ちさえ抱いて、俺は行くことにした。

 外はどしゃ降りの雨だったが、俺は傘を差さないままでそこへ向かった。わざわざ買うのもめんどくさかったから。……朝の時と違って、何故だか酷く落ち着いている自分がいたように思えた。


 その場所は体育館裏ということもあって、屋根でいくらか雨粒が軽減された。だがそれでも、この激しさでは、十分もいれば俺の身体をびしょ濡れにするくらいは、わけはない。俺は頭のてっぺんからつま先までをしっとりと濡らし、そこに立っていた。

 天気予報では晴れと出ていたため俺は傘を持ってきていなかったが、仮に持って来ていたとしても、使わなかったかもしれない。

 『今は雨に打たれていたかった』などと、詩的なフレーズでも使ってみよう。


 冷たさが、心地よかった。


 ……男が来たのは、それから数分たった後だった。その男はもちろん傘を差した状態で現れ、傘の一つも差していない俺を見るなり慌てて言った。


「だ、大丈夫!? ずぶ濡れじゃないか!!」


 男はすぐさま自分の傘に入るように言ってきたが、俺はそれをやんわりと拒否した。男はまだ心配そうに何かを言いたげだったが、俺はそれに気にすることもなく言った。


「……お話って、何ですか?」


「あ、あぁ……。実はね……」


 自分でも驚くくらいに、抑揚のない声だった。だが男はそれを気にする風もなく、照れるように頭を掻いた。若干、頬が朱に染まっていた。


「俺、君のこと……が好きなんだ。……出会った時から一目惚れでさ。俺、何の取り得もないけど、良かったら、……お友達から付き合ってくれないかな!?」



 予想通りの言葉だった。


 顔を真っ赤にして必死に一世一代の告白をしている彼を、俺は今、どれほど冷めた目で見ているのだろうか。

 『何だ』としか思えなかった。それは、俺が男だとかという理由を抜きにした、今の俺の心の醜さを表したものなのだろう。


「ごめんなさい……。私、好きな人いるんで」


 俺は、偽物の笑顔で、最も簡単に断れる言葉を吐いた。……もちろん、嘘だ。

 男は、笑顔のままで固まった。そして、その笑顔が引きつっていたことに、俺は気付いていた。

 最低の断り方だったと思う。相手が男だから断るのは仕方無いにしても『あなたの気持ちはとても嬉しいです』とか、もっと相手のことを思いやった言い方は他にもあったはずだ。

 今の俺の言い方では、つまり『お前なんかどうでもいい』という意味に等しい言葉となっている。

 一言の下に切り捨てられた彼の思いは、いかほどのものだろうか。『はっきり言う』ということは時として確かに大切かもしれないが、俺だったら、この対応はきつい。


 ……俺はそれをわかっていて、やったのだ。


「あ、そ、そうか。あはは……、ごめんね! 無駄な時間取らせちゃって!! そ、それじゃ!!」


 男は何とかそれだけ言うと、逃げるように去っていった。

 俺が不快にならないようにと、必死に作り笑顔を浮かべていた。その様子に、俺は若干罪悪感を覚える。今更な話だ、あれだけ酷いことをしておきながら……。









 男が帰った後も、俺はそこに立ち尽くしていた。すでに制服はびしょびしょで、髪からもポタポタと滴を垂れ流している。だが、気持ち悪いとは微塵も感じなかった。濡れている。それだけだ。

 何をするわけでもなく、ただ呆然として立っていた。


『……風邪引きますよ』


 後ろから声がかけられる。振り向くとそこには、悲しげな女神が立っていた。


「…………」


 俺は何も答えなかった。否、何も、答えられなかった。


『ひどい顔ですね……』


 かけられる言葉。それは、今日何度か言われた台詞だった。ならば一体俺は、今どんな顔をしてここに立っているのだろうか?


 ……わかるはずもない。


「……何で俺の所なんか来たんだよ。京の所へ行けばいいだろ? 仲良いんだし」


『何言ってるんですか、まったく……』


 女神は何故か慈愛に満ちた表情で笑うと、俺を後ろから優しく抱き締めた。冷えた体には過ぎた温もりを感じて、同時に俺は何かこみ上げるものを感じた。たまらずに、俯いた。


『……こんなスケスケの格好でいたら、襲っちゃいますよ?』


「……アホか」


 女神はいつもと変わらない調子で俺に接してきて、あまり多くは言わなかった。


 ……ただ、ずっと俺の身体を抱き締めてくれていた。


『……そろそろ、帰りましょう?』


 そして最後に一言、そう言った。


「うん……」


 俺も、それに素直に頷いた。

 そして、我が家へと歩いていった。……降りしきる雨の中。

後書き劇場

第五回「久々に小ネタが出来た」


どうも、作者です。


今更気付いたんですけど、小ネタっていうか本編でスルーされたところの補完になってますよね。すいません(笑)


それでは。


きよ「なぁ、女神?」


女神『何ですか、可愛い方の主人公』


京「何その呼び方」


女神『可愛くない方は黙っててください』


京「あ、やっぱり俺はその呼び方なんだ」


きよ「……え~と、いいですか? お二人さん」


二人『はいはい』


きよ「(やっぱ、仲良いよなぁ……)女神って、名前何ていうんだ?」


京「……確かに。おい、何ていうんだ?」


女神『え~? そんなに知りたいですか~?』


京「うわ、何かいきなりめっちゃウザくなった」


女神『黙れブ男。……きよ、知りたいですか?』


きよ「(ブ男……。俺も傷付くなぁ……)う、うん……」


女神『しょうがないですね~! じゃあ、特別にきよにだけ。……ごにょごにょ』


きよ「へぇ~、そんな名前なのか」


京「……あのー、俺にも教えてもらいませんかね?」


女神『先程の非礼を謝りますか? この無礼者』


京「……。おい、きよ! 教えてくれよ」


きよ「別にいいけ―」

女神『きよ~? 教えたら、物凄く恥ずかしい出来事があなたを待ってますよ~? ……それでもいいですか?』


きよ「……ごめん、やっぱ無理」


京「…………(何か、いっつもこんなオチのような気がする)」


そして、普通に終わる。


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