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転換37「恋する男子に祝福と勇気と、少しだけ甘酸っぱさを」

あつはなつい。なつはあつい。






皆さん、節電しましょう(謎

 夏の太陽の日差しにあてられたわけじゃあない。かといって、そこに明確な理由があるかと聞かれれば、望む答えを導き出すことも出来ないかもしれない。

 でも、この思いは何か今までのそれとは違うような気がして。理性は何も言うことを聞かず、やけに自分の心臓の鼓動を近く感じて――。


 僕は気付けば、全速力で走り出していた。





「好きな人が出来た!?」


 たいして広くもない部屋に、俺と京の驚きの声がこだました。俺は目の前の少年をまさかという思いでもう一度じっと見た。

 今日もいつものように日差しが強い夏の一日。ありふれた夏の一日。だが、いつもとは違うことがあった。いつもどおりに浩人が遊びに来て、いつもどおりじゃない様子で言ったのだ。……『好きな人ができた』、と。

 思わず俺も京もそのまま言葉を繰り返してしまった。あの浩人に好きな人なんて。女神も驚きの色は隠せていない。浩人はちょこんと床に体育座りをしたまま俯いている。


「浩人……今、お前なんつった?」


 京が恐る恐る浩人に問いかける。どうしてそんな様子で聞くのか、傍から見れば理解に苦しむだろう。浩人は俯いていた顔をゆっくりとあげて、今度は少し強い語気で言った。


「だから、好きな人ができたんだって!」


 カァッと顔を赤くする。……どうやら、冗談ではないらしい。こんなにも年相応の浩人は、ぶりっこ以外で一度も見たことがない。


『浩人が好きな人……ですか』


「わかった! 好きなやつって男だろ!」


「怒るよ京兄」


「…………すまん」


 京のふざけた物言いに睨んで言い返す。さすがに京も冗談ではないと気付いたようで、素直に謝った。……これはどうやら、かなり本気のようだ。


「……で、誰なの? 好きな子って」


 真面目な話とわかったところで俺はようやく口を開く。浩人に好きな子ができたということだけでビッグニュースなのだ。その当の本人にはやっぱり興味がある。……それも、かなり。

 浩人は恥ずかしそうに口を開いた。


「同じクラスの女の子だよ。……髪の長い子で、笑顔がすっごく可愛いんだ」


「ほおぉ……」


『メロメロですねぇ』


 真っ赤になりながらも幸せそうな浩人に京も女神も思わず顔をニヤけさせる。浩人はそれにあえて構わず、ポツポツと続けた。


「最初は全然だったんだ。……体育の時間で転んで膝を擦りむいたときに、優しくハンカチを貸してくれて……。それから」


 何だか、聞いているこっちが赤面してしまいそうなくらいの青春っぷりである。……といってもまだお互いに小学生なのだが。

 浩人にも、可愛いところがあったものだ。


「なるほどなぁ、お前に好きな子がなぁ……」


「その笑みやめてよ、京兄」


「いやバカにしてるわけじゃないんだ。ただなんか微笑ましいなぁって」


『青春ですねぇ……』


「いいけどさぁ……実際、僕もびっくりしてるし」


 浩人は恨めしそうな顔を視線を向けながらも、まんざら嫌そうではなかった。二人の生温かい笑みにも渋々頷いてみせる。揃いも揃ってバカな二人である。

 ……まぁ、かくいう俺も笑みを抑えきれないわけであるが。


『それで、どうしたいんですか?』


 そんな何とも言えない変な空気の最中さなか、女神が浩人を見て言った。

 それはそうだ。浩人は好きな子ができて、今日俺たちの家に来て、それを告白した。つまり、何か俺たちに相談したことがあるのだろう。


「うん、あのね……」


 浩人もそれをわかっているのか、たどたどしく話し始めた。そして、小さく、本当に小さく言った。


「ラブレターを書くのを手伝ってほしいんだ」


 恥ずかしそうな浩人。いくら微弱な声だろうと静かにしていれば聞こえてしまう。すなわち、俺たちの耳にはしっかりと今の言葉が届いているというわけだ。

 ……今日は浩人にびっくりさせられてばっかりだ。


『そんなまどろっこしいことしなくても、直接言えばいいでしょうに』


「そうそう、そっちのほうが男らしいよ」


 女神と俺が言う。ラブレターとはなかなかに古風な方法だが、浩人の性格的には実際に話すほうが断然いいと思うのだ。そういう思いも込めての言葉なのだが、どうやら浩人はあまり乗り気ではないようだ。


「無理……絶対目の前に立ったらアガるし……」


「おいおい」


 あまりに浩人らしからぬしおらしい発言。京も驚く。……恋というものは、こうも人間を変えてしまうものなのか。恐ろしいものである。

 仕方ないが、ラブレターでいってみるのも確かに手かもしれない。とりあえず聞いてみることにする。


「手伝うって、文面を考えろってこと?」


「うん、僕も考えるから。……なかなかいい言葉が思いつかなくて」


 申し訳なさそうな浩人。こんなにまで素直だと協力してあげたくなるのが人の常ってやつだろう。


「わかった、手伝うよ」


『なんか面白そうですし、私も協力してあげましょうか』


「可愛い弟分のためだ、一肌脱ぐか」


 かくして、俺たち四人によるラブレター執筆大会が始まったのだった。




 暑さ対策にクーラーをつけ、風の音が聞こえる部屋。俺達は皆無言でペンを走らせていた。……無論、ラブレターを書いているからだ。

 書くにあたって、浩人からその女の子に関しての情報をいくつか教えてもらった。名前は響谷京香ひびやきょうか。黒髪のストレートで、肩の下あたりまでのロングヘアー。背は小さい方で、優しくて笑顔がとてつもなく可愛いらしい。勉強もできて、家庭科も大の得意だとか。

 小学生でそんな完璧超人がいるのかと疑いたくなるものだが、実際いるんだろうから世界は広い。……いや、浩人の学校にいるのだから狭いのかもしれないが。

 まぁとにかく、それらの情報と先程の浩人の熱い思いを参考にラブレターを書いているわけである。

 不思議なことに、自分のラブレターではないと思うと大胆な言葉もポンポンと書けてしまう。決して、ふざけているわけではない。ともあれ、初めてにしてはよく書けていると思う出来栄えになってきた。

 ほどなく俺が書き終わり、やがて続々とペンの音が止む。どうやら、全員が書き終えたようだ。……ゆっくりとその場で顔をあげる。


「終わったみたい……だね」


 いちおう確認の意味で、声に出して聞いてみせる。その問いに全員が一様に頷いた。……浩人以外は自信満々の笑みだ。


『それじゃあ、お披露目といきましょうか』


「よし! じゃ、浩人からな」


「えっ!?」


 爽やかに言った二人に浩人が狼狽する。自分が一番最初だとは思っていなかったのだろう。だがしかし、現実は非情である。


「言いだしっぺの法則だよ、浩人」


 俺の追撃に浩人は非情に苦い顔をする。


「……わかったよ」


 覚悟を決めたのか、浩人は俺たちにゆっくりと紙を差し出す。……そのラブレターの文面はこうだ。

 『響谷京香さん。あなたのことが好きです。もしよかったら、友達からでいいので付き合ってください。川屋浩人』。


「ど……どうかな?」


「…………」


「うーん……」


『むむぅ……」


 浩人の言葉に、俺達は至って歯切れの悪い反応を返してみせる。


「な、なに? なんか悪かった?」


 当然不安になる浩人。悪いというわけではないのだが……なんというか、まぁ。


「丁寧すぎる感じがするなぁ」


「そう、それ」


 言いたかったことを京が代弁してくれたので、俺はそれに賛同する。


「なんかね、真面目すぎてインパクトに欠けるっていうか、綺麗すぎるっていうか……」


『そうですねぇ。これじゃああまりにも印象に残らないと思います。……普通すぎて』


「そ、そうかなぁ……」


 どうやら浩人以外はだいたい俺と同じことを思っていたようだ。そうだよ、男ならもっとドーンといかないとね。


「じゃあ、きよ姉のやつ見せてよ」


「いいよ、はい」


 少し不満気な浩人が俺に要求して、俺はそれを了承する。みんなの前に俺が書いた紙を何事もなく広げてやる。


 『響谷京香さんへ。笑顔で優しいあなたが好きです。転んだ僕にハンカチを貸してくれたときから、ずっと好きでした。付き合ってください。川屋浩人』。


「わりとシンプルでしょ?」


 三人の顔を交互に見やり、俺はヘンと鼻を鳴らしてみせる。好きになったエピソードも交えながら相手の好きなところを簡潔に述べている。率直で、なおかつ印象的だろう。


「ちょ、ちょっと恥ずかしくないこれ……?」


 浩人が顔を真っ赤にして弱々しく問いかけてくる。俺はそんな浩人に強く言った。


「何言ってんの。こんぐらいで恥ずかしがってたら、そもそも付き合うことなんてできっこないよ!」


「そうそう! 男はキザなくらいでちょうどいいんだよ」


 さも体験談であるかのように説教をかます俺と京。無論、異性と付き合ったことなどは俺たちは一度もない。……浩人には、内緒だぞ?


『まぁでも、少しくらいの羞恥心は捨てなきゃ恋愛はできないっていうのは確かですよ?』


「う、うん……わかった」


「よし、それじゃあ次は俺のを見せてやろう」


 渋々納得したような浩人に、京は笑顔で手元の紙を差し出した。その自信満々なラブレターの内容はこれだ。

 『好きです。ハンカチを貸してくれたときから、気付けば目で追っていました。優しい笑顔が好きです。僕と付き合ってください! 川屋浩人』。


「どやぁ…………」


『うるせーバーカ』


 イラッとくるほどの笑顔の京に女神が鋭く罵声を浴びせる。さて、肝心のラブレターの内容だが……。


「なんか、私のパワーアップ版って感じ。良くも悪くも」


「だろ?」


『褒めてないです』


 浩人に達成感に溢れた視線を送る京。浩人は露骨に嫌な顔をした。


「キザすぎるよこれ。……僕のキャラじゃないし」


「ばっか! それがいいんだろ?」


「だいたい最後の『!』なに?」


「いや、真剣でなおかつ激しい情愛をあらわしていてだな……」


「うえぇ……」


 したり顔で解説する京と、複雑そうな浩人。微妙に、好きになったエピソードを入れているあたりとかが俺と被っているのが鼻持ちならない。


『全然ダメですね。ま、しょせんは京ということでしょうか』


「なんだとぉ……!?」


 悪役っぽく笑いながら京を見下す女神。京がピクリと反応する。

 女神はゆっくりと立ち上がり、床に自らのラブレターをたたきつけた。


『私の考えたラブレターを読んで、震えて腰を抜かすがいいです!!』


 ……さて、文面を読もう。


 『YO! YO! 俺の心のマドンナ! 君を見てると俺の心臓バックバクゥ!(FU!) 二人で未来をゲッチューウォンチューアイラビュー!! 川屋浩人より、愛を込めて』。


 …………。


『どうですか!!』


「いや、もうつっこみどころが多すぎてどこからつっこめばいいかわかんねぇよ!!」


「……京兄に同意」


 果たしてこれはラブレターと本当に言えるのだろうか、いや、言えはしない。本当に、何もかもが意味がわからない。

 色々とおかしすぎるが。京に任せることにしよう。


「はい京、どうぞ」


「まずなんでラップ調なんだよ! しかも意味がわかんねぇし! あとなんで最後だけいきなり素に戻ってるんだよ!!」


『おぉう』


「おぉう、じゃねーよ!!」


『いぇい』


「いぇいでもねぇ! なんで喜んでんだよ!!」


 言って欲しいことはだいたい京が言ってくれたので、まぁよしとしよう。俺は女神と京をいつもどおりに引き離し、呆れた様子の浩人を見た。


「浩人どう……って聞くまでもないか」


「うん……察して……」


 当然である。あんなラブレターをわたしたら、恋が成就しないどころか、彼女から一生奇異の目で見られる学園生活を送ることになるだろう。それだけは避けたい。

 ……しかし。


「どのラブレターも気に入らないとなると……どうするの?」


「うーん……どうしよう……」


『そうですねぇ』


「むむー……」


 四人して悩む。三人寄れば文殊の知恵というのん、四人でこの体たらくとは何ともふがいない。

 その時、部屋のドアがいきなりガチャリと開いた。


「ジュースとおかし、持って来たよ」


「…………」


「……どうしたの?」


 おぼんを持った美樹が、俺たちの沈んだ様子を見て言った。……そうだ、美樹ならきっといい案を出してくれるに違いない。


「ありがとう。あの、実はね……」


 とりあえず礼を言って、俺は美樹に諸々(もろもろ)の事情を説明することにした。






「……なるほどね」


「なんかいい案ないかな?」


 俺の隣にぽすんと座って、美樹は深く頷いた。俺が聞くと、目を細めて思考する。

 やがて、口を開く。


「やっぱりラブレターじゃなく、自分の口でしっかり言ったほうがいいと思う」


 その言葉は、最初の状況と極めて類似したものだった。俺たちは顔を見合わせたあと、浩人を見る。


「それは最初に言ったんだけどな……」


「うん。浩人がアガっちゃうから無理って……」


「う……」


 浩人はしゅんとして、ますます俯いてしまう。美樹はそれを見て、怒るでも叱るでもなく、ぽんと浩人の肩の上に手を置いた。


「浩人くん、緊張は確かにするかもしれないけど、やっぱりそこは少し勇気を出さないと」


「…………」


 優しい声音で言う美樹。浩人は顔を少し背けてしまう。


「ラブレターも確かに一つの方法かもしれないよ? でもやっぱり女の子からすれば、自分の口で、目を見て言ってもらったほうが嬉しいと私は思うな。つたなくてもいいから、自分の思いを飾らないで正直に言おうよ」


「…………」


 真摯しんしな美樹の言葉を、浩人は黙って聞いていた。……そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと一度だけ頷いた。


「うん。……僕、自分で言う」


「よし、それでこそ男だ!」


 気恥ずかしそうに、けれどもしっかりと決意を込めた浩人の言葉。京は笑って浩人の背中をたたいた。


『説得のプロですね』


「すごいね美樹。あんなに頑なだった浩人をその気にさせちゃうなんて」


「私は背中を押しただけだよ」


 俺たちの言葉にペロッと舌を出してはにかんでみせる。……我が妹ながら、しっかりしたものである。


「お兄ちゃんも告白しないの?」


「……誰にだよ」


「すぐ近くにいるじゃない」


「何も見えねーな」


 ……いったい誰のことだろう。誰のことなんだか、俺には皆目見当もつかない。つかないったらつかない。


『きよ、好きですよ?』


「はいはい私もだよ」


 いつもの人は軽く流しておく。『酷いですー』という抗議の声が右耳から聞こえるが、おそらく幻聴だろう。


「みんな、ありがとうね。ちゃんと言ってみせるから」


「……うん」


「がんばってね、浩人くん」


『当たって砕けろですよ』


「……がんばれ」


 浩人のやる気が出て告白は直接ということになって、この場は解散したのだった。










「……心臓バクバクいってきた」


 短く深呼吸をして浩人が言った。あれから数日、彼女にどうにか約束を取り付けた浩人は、人気のない広場で待っていた。……不安だからという理由で、俺、京、女神もいる。

 学校が終わったあとの待ち合わせ。『響谷京香』さんは委員の仕事で少し遅れるということで、こうしてみんなで待っているのだ。今日も太陽が元気だが、恐らく浩人は緊張のあまり暑さなど感じていないだろう。……熱さなら、嫌というほど感じているだろうが。


「浩人、無理にかっこつけなくていいからな」


「噛んでもいいから、しっかり伝えるんだよ」


『とにかく勢いです!』


 わざわざここまでついてくる俺たちは相当なおせっかいだろう。気になるのだからしかたがない。……ただ、この間励ましの言葉をかけて一旦別れただけに、ちょっとしまらないが。


「……! 来た!」


 浩人が声を裏返らせて叫んだ。その目線を追うと、走ってくる人影が見える。俺たちにはここからだとわからないが、浩人が言うならきっとそうなのだろう。

 俺たちは浩人の後ろの茂みに隠れることにする。


「がんばれよ! 浩人!」


「うん!」


 やがて影は大きくなり、しだいにはっきりとしてくる。息を切らしながら浩人の目の前に立ったその子は、可愛らしい女の子だった。


「ごめんね浩人くん! ちょっと委員の仕事が長引いちゃって……」


「ううん! 全然そんなことないよ!」


 申し訳なさそうに微笑む彼女に浩人は不自然な早口で返す。完全に緊張しているのは間違いない。

 浩人の話でしか聞いたことはなかったが、……なるほど浩人の言っていたとおり、確かに可愛らしい子だ。小柄で華奢な体格に良く似合う、少しフリルがついたスカートにブラウス。綺麗な黒髪が清楚な雰囲気を醸し出している。そして何より、つぶらな瞳が小動物を連想させた。


『浩人のやつ、とんだ面食いですね』


「言ってやるなよ」


「……いちおう、容姿というよりハンカチエピソードで惚れたんだって」


 ヒソヒソと秘密裏に話をする俺たち。なかなかに好き勝手なことを言っている。

 彼女、京香ちゃんが優しく微笑んだ。


「それで、話したいことってなに?」


 その一言で、空気が変わった。決して追い詰めるような、どうにかしてやろうという言い方ではない。だが、浩人にとっては極度の不安と緊張を招く言葉であるのだ。


「う、うん……あの……」


 ゆっくりと、小さく浩人が喋った。いや、喋ったというよりはうめいたというほうが正しいのかもしれない。ゴクリと唾を飲み込む音さえ聞こえる程の静寂。京香ちゃんは不思議そうに浩人を見つめている。


「京香ちゃん……ぼく……」


「うん」


 すでに顔は汗だくで、何やら苦しそうでもある。


「浩人! 言え! 言っちまえ!!」


『男の子でしょうが!!』


 しゃがみながら思わず声援を送る京と女神。もちろん、聞こえないような小さい声ではある。そして、俺も二人と気持ちは同じだった。

 浩人! ……勇気出せっ!!


「…………」


 浩人は真っ赤になって。流れ落ちる汗を袖で拭った。そして、大きく深呼吸をして、京香ちゃんを見つめた。

 一瞬、何ともいえない間が流れる。


「ぼくっ……、京香ちゃんのことが好きなんだ!!」


「えっ……!」


 晴れた青空に、大きな声がこだました。

 ……言った。言った、言った!

 俺たちは今にも倒れてしまいそうな浩人に、心からのガッツポーズを送った。ちゃんと言えた。それだけでもう御の字だ。

 ところが、予想外に浩人は続けた。


「いっつも笑顔で優しい京香ちゃんが好きで……ハンカチ貸してもらったときから、ずっと」


 吹っ切れたのか落ち着いたのか今度は静かに、けれども情熱的に浩人は告白した。

 そこまで言ったか! 俺は何故だかこちらまでもがドキドキしてくるのを感じて、二人を見据えた。浩人だけでなく、彼女の顔も赤くなっている。


「ありがとう。……浩人くんの気持ち、すごい嬉しい」


 しばしの無言ののち、顔をあげた京香ちゃんが笑顔で言った。優しい表情だ。


「お、おぉ……!?」


「京、静かに」


 興奮する京を制して俺は二人をさらに凝視する。浩人は京香ちゃんの目を見たままじっと、ただ立っていた。

 やがて、再び彼女が口を開いた。


「でも、ごめんね。……私、好きな人がいるの」


 困ったように、しかしはっきりと告げた。……空気が、止まったような気がした。


「本当にごめんね……」


 もう一度、目を細めて彼女は言った。……ここにいる誰もが、やっとその状況を理解した。浩人の恋が、叶わなかったということを。

 浩人は俯いていた。そして、その肩が小刻みに震えているのを俺は見逃さなかった。


「勝手だけど、これからはまたお友達としてよろしくね……浩人くん」


「…………うん」


「それじゃ、私はこれで。またね、浩人くん」


 浩人の様子を察したのか、彼女は最後にもう一度だけ笑ってみせると、ゆっくりと歩いて帰っていった。……後に残ったのは立ち尽くした浩人と、茂みの裏の俺たちだけ。

 せみが、一際うるさく鳴いている。


「…………」


 俺たちは無言で茂みから出る。そのまま浩人の元まで歩み寄った。

 途端、急に浩人が振り返った。


「あは、はははは!! いやー、フラれちゃった!」


 底抜けに明るく、突如笑い出す。右手で後頭部をかきかき、『残念だな~』といつもの調子で言ってみせる。


『おバカ』


 女神がそんな浩人を軽く小突く。……みんな、わかっているのだ。今浩人がどんな気持ちで、どうして明るく振る舞っているかなんて。


「お前は偉かったよ。ちゃんと自分の言葉で男らしくしっかり言った」


 京は言って、浩人の頭にポンと手を置いた。

 ……本当に頑張ったと思う。振られたのは事実だし、仕方ないことだ。今さら何が変わるわけでもないし、告白する前に戻れるわけでもない。でも、ちょっとぐらいほめてあげてもいいはずだ。


「こういうときは、素直に甘えていいんだよ。……浩人」


「う……、くっ、ひっ、うくっ、うっ……」


 ……ちょっとぐらい、泣かせてあげてもいいはずだ。きっと、こうやってみんな大人になっていくんだろう。失恋を知った浩人は、きっとこれからもっと素晴らしい恋が出来るはず。

 声を押し殺して泣く浩人を、俺はぎゅっと抱きしめた。

後書き劇場

第四十六回「夏」



どうも、作者です。前回寒いとか言ってるうちに、もうすっかり夏ですね。暑いですね。……え? それは前回と今回で差が空きすぎてるからだって?

はっはっは、何をおっしゃるウサギさん。ちゃんと一ヶ月単位で更新を……できてない……だと……!


はい、すみません。今回ちょっと長めだったから許してちょんまげ(古い)



俺「いや~、それにしても」


朱菜「なによ?」


俺「えっ」


緑「……どうかした?」


俺「えっえっ」


葵「なんだよさっきから……」


俺「」


俺「ちょっと待ってくださいよ」


朱菜「だから何よって言ってるでしょうが」


俺「失礼ですけど、何ゆえあなたたちが後書きの世界に? いつもの方たちはいずこへ……?」


葵「あー、気にしない気にしない」


俺「え、いや、そういうわけにはいきませんよ」


朱菜「きよたちなら、今回はちょっと用があるから席を外すって言ってたわよ」


俺「あれ、そうなんですか」


緑「……ふふ、そうだといいね」


俺「やめてくださいよさらっと怖いこと言うの!!」


葵「というわけで、今回は代理で私たちがきたわけだ」


俺「は、はぁ……」


緑「……貴重な出番だしね」


俺「…………」


朱菜「そっぽ向いてるんじゃないわよ!」


俺「いたたたっ! すみません!」


朱菜「まったく……最初からの友達なんだし、もう少し優遇してくれたって罰は当たらないと思うけど?」


俺「すいません、こちらにも色々事情があるんですよ」


葵「まー、いいけどよ」


緑「……しかたないね」


俺「ありがとうございます。……あれ?」


朱菜「どうしたの?」


俺「そういえば……深白さんはどうしたんです?」


葵「あぁ、深白なら『きよがいないんなら行かない』ってさ」


俺「さよですか、らしいっちゃあらしいですね」


朱菜「そうね、まぁ別にいいけどね」


緑「……これで私たちだけで独占できるしね」


俺「だからなんなんですか!? 本編より黒いんですけどこの人!!」


朱菜「気にしないで。不定期にこうなるの」


葵「そうそう、生理みたいなものだ」


俺「花の女子高校生が普通に生理とか言うもんじゃありませんっ!!」


葵「いちいちうるせーなぁ」


朱菜「まぁまぁ」


俺「はぁ……もう終わっていいですか? 疲れました」


緑「……いいけど」


葵「あ、じゃあさ! 最後のアレだけは私らに言わせてくれよ!!」


朱菜「ナイスアイディア! 葵!」


俺「アレ? ……あー! はいはい、いいですよそのくらい」


葵「よっしゃぁー!」


緑「……ふふ、何だか緊張するね」


朱菜「チャンスよチャンス、ここで読者の方々にアピールすれば私らの後書きでの出番が増えるかもしれない!」


俺「勝手に変なこと言わないでくださいー」


朱菜「(無視して)いっせーのーで!」


葵「御意見・御感想いつでも待ってまーす!」


緑「……また次の回で、会いましょう」


朱菜「以上! 作者からでした!」





俺「次の回にあなたたちが出るかどうかはわかr」


バキドカゴスグシャチュィイイインドカァアアアアン


三人「…………」


俺「」←返事がない。ただの屍のようだ。

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