転換4「男であることの煩わしさと大変さ」
どうも、作者です。
今回は、前回の話の京視点ということで進んでいきます。
話が進まなくて申し訳ないと思いますが、『京はこんな風に感じてたのか』と思って頂けたら幸いです。
では、本編へどうぞ。
やぁ、みんな元気? 京お兄さんだよ!
……ごめんなさい調子こいてました。
俺の名前は神谷京。この前まではごく普通の高校生だったんだけど、今は大変なことになっている。ある事件がきっかけで俺が二人になってしまい、もう一人の方は女として、『神谷きよ』として生きていかなくてはならなくなった。
まぁ、覚悟を決めて生きていかなけりゃ駄目になったってわけだ。……端折りすぎか
てなわけで、今回はそうなってから初めての学校に行ったときの話をしよう。
朝。俺が眠気を覚ますために冷水で顔を洗っていると、ふと、後ろに気配を感じる。顔をタオルで軽く拭いてから振り返ると、そこにはだるそうな『きよ』がいた。
「……おはよ」
「おぅ、おはよ」
まだ眠そうな目をこすりながら言ってくるきよに俺は至極爽やかな返事をする。どうやらまだ起き抜けのようで、薄緑のパジャマをそのまま着ていた。
……う~ん。改めてその姿を見て、俺は思う。
やっぱ可愛いんだな、こいつ。華奢な身体にあどけない顔立ちをしていて、何ていうか守ってあげたくなる。そして、それと同時に、あの、何というか。思春期の男子にありがちな気持ちも湧いてくるというか……ごめんなさい自重します。
でも、本当に見た目が良いんだよな。何か儚くて、例えて言えばお人形みたいな感じだ。綺麗な金髪してるし、ぬけるように肌は白い。
とにかく、心が『俺』じゃなければ、お近づきになりたいぐらいだ。……ていうか何かずるいよなぁ。
女神め、俺もどうせならイケメン(死語)にしてくれれば良かったのに……!!
「何見てんだ? ……まぁいいや。俺、着替えてくるから」
思わず頭の中で暴走していると、いつの間にかきよはもういなくなっていた。ちょっと切なくなったので俺はリビングへ向かうことにする。
食卓は賑やかだった。美樹が、きよが今日から学校へ行くことを、自分のことのように喜んでいたのが印象的だった。きよも、美樹に対していつもより優しい感じがして、一見すると仲の良い姉妹のように見えたほどだ。
……実際、あの二人は以前に比べて大分仲良くなっていた。特に美樹はきよにかなりなついていて、今では美樹はきよに敬語を使っておらず、きよも以前のように呼び捨てで呼んでいた。
嬉しい反面、兄としてはちょっと複雑な気分だった。
学校までの道を、男女が一緒に登校する。それだけ聞けば、かなりドキドキのシチュエーションではある。まぁ、それだけ聞けばの話なのだが。
「なぁ……。さっきから誰かに見られてないか?」
そんなことを俺が思っていると、突然きよが言ってきた。
そして、その言葉の言わんとするところを俺はわかっていたし、気が付いていた。さっきからの俺たち、もといきよへの視線に、だ。しかも、大体理由がわかっている。
……普通に考えて、俺の隣にいるこいつが美少女だからだろう。
前にも何度か言ったことがあるだろうが、こいつは何故かとても可愛らしい見た目になってしまっているのだ。そりゃもう、そこらの売れないアイドルなんて目じゃないくらい。
そんな女の子が道を歩いていたら、そりゃあ人間見てしまうものだろう。例え、それが邪な思いじゃないにしても、女性だったとしても。……ま、とはいえ、わざわざそんなことを説明するのも面倒だし何かちょっと悔しい気もする。だから俺は、気づいていないような返事をしたのだ。
何の変哲もない学校の廊下を二人で歩く。事故の後に少しの間入院していたため、ちょっと久しぶりだ。ドアも前と変わっていない。……いや、当たり前なのだが。
「はよーっす!!」
二人で同じ挨拶を言いながら教室へ入ると、クラスの奴らが急に静まり返った。一瞬、しばらくぶりの俺への反応に戸惑っているのかとも思ったが、それにしても様子がおかしい。どうやら違うことに対してのようだった。
……そっか。こいつ今は違う人間じゃん!!
俺も相当気付くのが遅かったが、当の本人も今まで気付いていなかったようで、見てわかるぐらいの大量の汗をかいていた。
「失礼しましたぁっ!!」
居たたまれなくなったのか、きよはそう言い残すとマッハで逃げていった。そんなあいつに俺が出来ることは、同情の眼差しで背中を見送ることだけであった……。
「おい、京!!」
俺がぼーっと立ち尽くしていると、駆け寄ってきた男子生徒に声をかけられる。
「よぉ、俊平! 久しぶりだな!!」
「久しぶり!! ……じゃねーよ!! ちょっと見ない間に何あんな超絶可愛い女の子と一緒に登校してくるようになってんだよぉ!? 父さんそんな息子に育てた覚えはないぞぉ!!」
「は?」
一気にまくしたてる俊平に、俺は口をへの字にする。
何を言っているんだこのヴァカは。久しぶりに登校してきた友達の心配より女の話が先かよ。……ていうか正確には女じゃないんだけど、相変わらずというか、何というか……。
「馬鹿、違ぇーよ! あいつはなぁ……」
しかしきよのことを『女じゃない』などと今のあいつの姿では言えるわけもなく、俺は言い淀む。
そんな俺をここぞとばかりに責め立てる俊平、もといヴァカ。それには何故か、いつの間にか加わった他の男子たちもいた。
……おい、お前ら。暇だな。
「誰!? 誰なんだよぉ!? ……てめぇ、もしやお手々繋いで仲良く登校なんてしてないだろうなぁ!? このスケコマシ野郎!!」
「そうだ!! そうだ!!」
「一人だけ抜け駆けなんて卑怯だぞ!!」
「バーカバーカ!!」
段々と趣旨が変わっていき、いつの間にか俺の悪口大会になっていく。言われのない暴言を浴びせられそろそろトサカにきていた俺は、わめいている奴らに一言、言い放った。
「あんまり調子こくなよ馬鹿共……。キレんぞ」
「すいませんでした」
地を這うように言った俺の負を込めた言葉に、男子共はもの凄い勢いで綺麗な土下座を披露した。
その後は、何時もと同じように時間までガヤガヤと話し込んでいた。大抵は昨日見たテレビの話とか、取るに足らないものだ。まぁ、高校生男子の会話なんてそんなものだ。
しばらくすると、俺たちの担任の長渕豪、通称ぶっちゃんが教室へ入ってきた。
「え~と、今日はみんなに嬉しい知らせがある」
みんなが静まった後に、ぶっちゃんははきはきとした声で言った。みんなはそれに訝しげな顔をしていたが、俺は一発でわかった。……きよのことだと。
そういや、転校生扱いだったな……。
俺は母さんが言った言葉を今更思い出していた。
「おい、京。……一体何だろうな?」
隣の席の俊平がひそひそと俺に話しかけてくる。理由がわかっていない奴にとっては、予想内の発言と言える。俺はちょっとだけ得意な気持ちになって、あえて突き放してみることにする。
「さあねぇ」
だから、短く笑うとはぐらかすように視線を逸らした。
「ん? お前、何か知ってんのかよ?」
「ほらほら、前見ろって」
俺の発言に突っ込んだ俊平を、俺は指を指してたしなめる。
「わかったよ……」
そう言って俊平は渋々前を見る。すると、一人の金髪の女子生徒がゆっくりと教室へ入ってきた。わかっていると思うだろうが、勿論きよだ。
そして、クラスのみんながきよを先程の人物と認識した途端、誰も何も言わなくなった。
もちろんさっき俺と一緒に教室に入ってきたことが原因だ。
きよもその視線に耐えられなかったのか、俺の方へと視線を泳がせた。俺はそんな半身の狼狽ぶりに、思わずくすりと笑ってしまった。
だが、きよには一体どう見えたのだろうか、何故か怒りに肩を震わせ、うわごとのように何かを呟いているようだった。
……見ていて、ちょっと怖いぞ。
「かーみーやー」
問題はここだ。空気が気まずくなってしまっていたので、ぶっちゃんがフォローしようと、きよの肩を叩いた。すると。
「ひゃっ!!」
きよは何か、とてつもなく可愛らしい悲鳴をあげた。直後、きよは顔を真っ赤にしつつ俯いた。そりゃあ、自分でも驚いたのだろう。
……しかしなぁ。
驚いたのはこっちの方だ。俺たちは同位体、つまり同じ魂を持っているはずだ。だが少なくとも、俺は肩を叩かれたぐらいじゃあんな声は出さない、いや出せない。……女神が言うには、微妙に考え方や性格が変わるというらしいが、それが影響してるのか?
……それにそうだとしても、こんなになるもんなのか?
『こんなになるもんなんですよ、これがまた』
「うおわっ!!」
いきなり目の前に女神が現れる。俺は驚きのあまり、危うく椅子からこけそうになるが、すんでのところで踏みとどまる。あ、あぶねぇ……!!
『オッス、オラ女神。お困りですか?』
「いや、そんなギリギリの挨拶いいから。……つかお前、こんなとこで出てきていいのかよ!?」
『大丈夫です。ザ・ワー○ド使ってますから』
「だからギリギリだなぁ、さっきからよぉ!! てかもうアウトだよ!!」
とはいえ、そのおかげで俺が痛い奴に扱われるのは免れたようだ。その証拠に、俺の周囲は前のように真っ白になっている。少し、ほっとする。驚かされた挙句痛い子扱いされるなんていくらなんでも酷すぎる。
「……じゃあ本題に入るけどさ。やっぱりそんなに変わるもんなのか?」
『そりゃそうです。魂と肉体は呼応しあうんですから。いくら心が男だろうと、体が女じゃあ変わりもしますよ。それに、肉体に合いやすいように、あなたの魂の女の子らしい部分を入れましたからね』
女神の答えてくれた言葉に、俺はしばし閉口する。……信じられなかったからだ。
「俺に女らしい部分なんてあったのか?」
『はい。……誰にでもあるものですよ? 女の子にだって、当たり前に男の子らしい部分はあります』
「そうか……何だか、複雑な気分だな」
『良いじゃないですか。あなたの百倍可愛らしいですよ?』
「いや、だからこそ複雑で……、ねぇちょっと待とう? 何でそこで俺を引き合いに出したの?」
俺は頭を抱えて女神に言った。すると、女神は清らかな笑みを浮かべながら、首を傾げて言った。
『事実ですよ?』
「比べるもんじゃねえだろうが!! 男と女で可愛さなんて……、あ」
『ね? もう、そうなんですよ』
女神はうふふ、と楽しそうに笑った。
……そうだ、今俺ははっきりと言った。『男』と『女』、と。つまりそれは、俺があいつを女として見てるというわけで。
「だーっ!! ……俺は俺だっ!!」
俺は頭をグシャグシャとかきむしり、叫ぶ。少し難しく考えてしまった。そうさ、いちいちそんなことなんて考えなくてもいい。
ぱんっ! と自分の頬を両手で叩き、ドロドロとした思いを払拭する。そして、心の中でもう一度呟く。……俺は俺だ。
女神はそんな俺の一連の行動を黙って見届けた後、静かに口を開いた。
『落ち着きました?』
「あぁ。ありがとうな、女神」
『勘違いすんじゃねーぞ、この雄野郎。テメーの為じゃなくてきよの為だ』
「何でいきなりそこでキレるの」
女神はわざとらしくふざけて言うと、姿を消した。そしてその瞬間、真っ白だった景色が元に戻る。
「か、神谷……、きよです。……よろしく」
ぶっちゃんに促されて、きよがぼそぼそと自己紹介をした。
「よーし! みんな、仲良くなっ!!」
そして、ぶっちゃんがフォローするようにまとめる。俺は先程の思いを頭の中で何度も反復させて気持ちを落ち着かせていると、ふと視線に気付く。周囲を見渡すと、心なしか全男子にまで睨まれているような気がする。
……もちろん、隣の俊平からも。
俊平は、ジトーッとした目でこちらを見ると、やたらと抑揚のない声で言った。
「……後で、話聞かせてもらうぜ」
一難去ってまた一難。おそらく、他の男子も同じことを思っているのだろう。……今日は忙しくなりそうだなぁ。
俺はどこか客観的に思いながら、頬杖をつきながら深いため息を吐くのだった。
後書き劇場
第二話「女の子は色々と大変です」
どうも、作者です。後書きでおまけをやると言っておきながら、字数制限に早くも挫けそうです。
では、おまけへ。
京「なぁ、きよ。聞きたいことがあるんだけどよ」
きよ「ん? 何だよ、京」
京「お前ってさ。……女になってから、風呂とかトイレとかどうしてんの?」
きよ「っ!!」
女神『そういえばそうですね。……どうしてたんです?』
きよ「いや……、さすがに入らない訳にはいかないから、その。出来るだけ見ないようにして……入ってた、けど。でも別にその、そういうつもりで入ってるんじゃ……」
二人「ほ~」
きよ「な、何だよその目!! その顔!!」
京「……きよちゃんのエッチ」
女神『エッチ』
きよ「ち、違っ……!! 仕方ないだろっ!?」
京「だって、ねぇ?」
女神『ねぇ~?』
きよ「だぁかぁらぁ!! 違うんだってぇ!! ……うぅぅ。ぐすっ」
京「あら、べそかいてら」
女神『ちょいと、いじめすぎましたかね?』
きよ「……だって、目隠しして、京に頼もうかとも思ったけど、それって何か違うじゃん……」
京「ちょっと待て。……それ、なんてエロゲ?」
女神『何想像してんだエロ坊主』
きよ「自分に発情してんじゃねーよ」
京「ご、誤解だっ!!」
きよ「……変態」
女神『変態。死ねこの社会不適格者♪』
京「結局、最終的にはこうなるわけか…。あと女神口悪すぎ!!」
……終わっとけ。