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転換35「誰にだってきっと」

Q.そんな更新速度で大丈夫か?




A.大丈夫じゃない、問題だ。

「おはようー」


 次の日の朝、俺はいつものように登校した。ざわついた空気の中で俺の目に映ったものは、奥にいるみんなの姿だった。いつもどおりにそこへ近づいていくと、昨日はいなかった朱菜と目が合った。


「おはよ、きよ!」


 快活な笑顔。大人っぽい雰囲気にギャップのある女の子らしいツインテール。芯の強さを象徴しているかのような鋭い双眸そうぼう。懐かしい感覚をうっすら覚えながらも、朱菜であることを俺の脳がしっかりと理解する。


「おはよう朱菜。風邪大丈夫だった?」


 心配の俺の言葉に朱菜は元気良く笑った。


「大丈夫、ただの風邪だったしもう今日はいつも通りの体調だから! ……ま、惜しむらくはこれで高校生活皆勤賞を逃したってとこね」


「まぁそこらへんは安心しろって朱菜。私が代わりに貰っておいてやるからさ」


「……その前に、気が早すぎるけどね。二人とも」


 控えめな緑の突っ込みに明るく笑う二人。思わず俺まで笑みがこぼれてしまう。

 元気で良かった。……本当に。


「……相変わらず朝から元気だのぉ、お前さんたちは。わしゃついていけんわい」


 俺の隣にいた京が自分の席につきながらしわがれ声を出した。……何だかそれ、持ちネタになりつつなってないか?


「何、神谷くん。一日あたしが休んでる間に玉手箱でも開けちゃったわけ?」


 ぱちくり目をまばたきさせる朱菜。


「あーそうそう。道端に落ちててなー」


 至極適当に相槌を打つ葵。


「……ほらおじいちゃん。ごはんは昨日食べたでしょ?」


 あやすように優しげな口調で微笑む緑。京はこちらを振り向いて嫌そうに目を細めた。


「ろくに冗談も言わせてくれねえのかよ……というか西城、飯は毎日食わせろ」


 もっともである。


「……ふっ、あはは! あんたたちって本当に賑やかよね!」


「お前が言うなーッ!!」


「いや、それこそ葵には言われたくないわよ!」


 一連のおバカなやりとりに朱菜がたまらず吹き出し、それに葵がふざけて突っ込み、さらに突っ込みかえされる。いつもと、変わらない光景。


「…………?」


 だが、何かその笑顔の裏に暗みが見えた。……単なる俺の思い過ごしかもしれないが、何故だかそんな気がしたのだ。


「あの、朱菜――」


「お、深白じゃん! はよーっす!」


「……今日は遅かったね」


「一日ぶりじゃない、深白!」


 頼りなく投げかけられた声は、慌しい声によっていとも容易くさえぎられてしまう。


「……おはよう。きよと、その他」


「おやおや、聞き捨てならない言葉が聞こえましたなぁ。どうします、藤川右大臣殿?」


「そうね……市中引き回しの刑よ! 緑!!」


「承知しまし……私にどうしろって?」


 何だかまた漫才が始まっているようだった。緑が弄られているのは珍しい気がする。遊びのきっかけにされた当の深白本人は、いつもと何ら変わらぬ様子で俺たちの輪に加わる。……ため息を一つついて。


「おはよう、深白」


「うん、おはようきよ」


「呆れたバカップルね……」


 首を振って朱菜が肩をすくめてみせる。そのまま、またみんなで笑いあい、茶化しあいながら会話を楽しんでいた。

 朱菜は、変わらず笑顔だった。






「さようなら! みんな、気をつけて帰るんだぞ!!」


 放課後。ぶっちゃんの声が教室に響き渡り、クラスメイトはまばらに帰っていく。やっと授業が終わった、と普段の俺なら背伸びして意気揚々と帰路につくところだが。

 ……今日はそうもいかない。俺はおもむろに席から立ち上がった。


「朱菜」


 帰り支度をしている、後姿の朱菜に声をかける。それに気付いた朱菜が振り返り、ツインテールが小さく揺れた。


「……どしたの? きよからあたしに話しかけてくるなんて珍しいわね」


「えっとさ……今日、朱菜の家に行ってもいいかな? 勉強教えてもらいたくて」


 もちろん、嘘だ。朱菜の様子が変だから、それが何故なのか、原因は何なのかを確かめたい。もし俺の思い違いであるのならば、それでいい。言葉通りに勉強でも教えてもらおうとでも思っていた。……しかし、朱菜は苦笑して言った。


「あー……、ごめん、きよ。今日はちょっとヤボ用があって。また今度でいい?」


「あ……うん。わかった、じゃあ今度で」


 両手を合わせて詫びる朱菜。俺は動揺しながらも了承の言葉を口にする。


「じゃ、またね!」


 そのままカバン左手に教室を去る朱菜。


「……で、どーすんすかきよさん」


「追いかける! ごめん京、先に帰ってて」


「へーへー。……ほどほどにな」


 いつの間にか隣にいた京に一声かけて、俺も足早に教室を出る。そのまま急いで朱菜を追いかけ、玄関を出たところでやっと姿を見つける。

 校門を出て歩いていく朱菜に、気付かれない程度の距離でついていく。尾行なんて悪いことをしている自分が少々後ろめたいが、心配な気持ちには勝てない。


「朱菜、どこに……?」


 尾行をしているうちに、気付く。朱菜は自分の家には向かっていない。用があると言っていたのだからそれは当たり前のことかもしれないが、それだけでなくどんどん人気のないところへと向かっているのだ。

 ……用って一体、なんなんだろう。そんな思いが頭の中をかけめぐるが、声には出さずついていく。いくつもの電信柱を超え、うだる日差しを浴びながら歩を進めていく。

 しばらくすると、近代的な建物が少ない一昔前のような草木にあふれた場所に出た。もしかして、初代町を出たのかもしれない。

 思っていると、朱菜が砂利道の坂を登り始めた。慌てて俺もついていく。坂を登りきると、開けた土地に出た。……そこで俺を迎えてくれたのは、古びた寺と、たくさんの墓石だった。


「え……」


 あっけにとられている俺をよそに、朱菜は迷うこともなく一つの墓の前に歩み寄っていく。

 その前にしゃがみこみ、お線香に火をつけて静かに手を合わせる朱菜。その姿はどことなく神秘的な気さえする。


「ここって結構遠いから、墓参りするのも一苦労よね……そう思わない? きよ」


「っ!?」


 不意に、朱菜が口を開いた。しかも、尾行をしていたはずの俺に向かって。

 ……バレていたのだ。


「…………」


 隠れていた木陰から姿を現す。朱菜は髪を風になびかせながら俺のほうを見て、何故か笑っていた。


「あの……尾行なんかしちゃってごめん。どうしても朱菜のことが心配で……」


「いいのよ別に。そういう気持ちはあたしにも……わかる」


 そう言って、ふっ、と遠く寂しい笑顔を浮かべた。


「それにしても、やっぱりきよの目は誤魔化せないか。結構明るくしてたつもりだったんだけど」


 言いながら朱菜は俺に手招きをする。何とも言えない気持ちで墓の前まで歩いていき、やがて朱菜の立っている墓の前までたどりつくと、はっきりと墓石の……藤川という文字が見えた。


「朱菜、これ……」


「……ま、何ていうかね、墓よ。見てのとおり」


 わざとらしすぎるほど、あっけなく朱菜は言い放った。まるで空気が止まったかのように、上手く息を吸い込めない。吐き出すこともできない、そんな感じだった。

 続けて朱菜はぽつりと言った。


「……藤川朱理ふじかわあかり。あたしの、姉さんの」


「!!」


 鈍器で殴られたかのような衝撃が俺の頭を襲った。朱菜の口調は乾いている。淡々と、それでいて冗談めかしたような雰囲気もする。だからこそ、痛々しい。


「あたしがちっちゃい頃、交通事故で死んだわ。……歩道を飛び出したバカだったあたしをかばってね」


 ますます思考が深みに落ちていく。朱菜にお姉さんがいたという事実。そのお姉さんがすでに亡くなっていたという事実。そして、死因が朱菜をかばってだという事実。すべてが思考の渦にぐちゃぐちゃになって飲み込まれ、また鮮明に浮かび上がる。


「ほんと、笑えるわよね。漫画みたいなベタな死に方でさ……」


「朱菜!!」


 たまらず、叫んだ。姉を馬鹿にしてるのではなく、自分自身を傷つけているように思えたから。俺は俯き、両手をぎゅっと握り締めた。


「ごめん、辛いこと思い出させちゃって……もういい。もう、いいから」


 目の前の少女は今、いったいどんな気持ちで言葉を紡いでいたのだろう。もし俺の前で『俺のせいで』美樹が死ぬことになったら……。

 わかるわけがない。そんなとてつもない苦しみを、悲しみを、俺は想像することも出来ない。苦しみを分かち合えることもないのに人の傷口を無神経にほじくり回した。……俺は、馬鹿か。


「……別に、きよのせいじゃないのよ」


 静かに朱菜は言った。俯いた顔をあげて朱菜を見ると、目を細めて儚く笑みを浮かべていた。


「誰にだって心にしまっておきたいものがある。でも、それで自分の中に閉じこもっているままじゃ何も変わらない。……変われない」


「…………」


「だからいずれきよにも話そうと思っていた。話して楽になって、あわよくば慰めてもらいたいなんていう弱い心も持ってたわ」


 ふわりと、風とともに髪をかき上げた。


「でもやっぱり恐くて……だから、さ。こうやって無理にでも来てくれたほうが良かったのかもね」


「朱菜……」


 朱菜の声は、さっきよりは幾分か明るく聞こえる。俺の中の罪悪感が、そう言わせているのかもしれないが。……それでも。

 朱菜は、言った。


「昨日あたし、休んだじゃない?」


「え、……あ、うん」


 いきなり話を転換させられて間の抜けた返答をする。朱菜は軽い調子で続けた。


「その日が姉さんの命日だったのよ。だからその日ばかりは父さんも母さんも帰ってきてたんだけど、あたしがいきなり高熱を出しちゃって。……それで昨日ここに来れなかったぶん、今日来たってわけ」


「そう、だったんだ……」


「正直なところ、姉さんがあたしのことを恨んでるのかとも……思った。あたしなんかをかばって死んだ姉さんが、あたしを憎んでるのかなって――」


「そんなこと!!」


 思わず叫んだ俺に、朱菜は顔だけをこちらに向け、けれども確かに優しく笑った。


「うん、もうやめる。死んだ姉さんの言葉は誰にも代弁できない。もちろん、都合良く『朱菜が無事で良かった』なんて思ってるなんて確証はないし……それと同じで、あたしのことを恨んでいるのかもわからない。だから自然体のままいこうって」


「……うん」


「けじめをつけなくっちゃね。……いつまでもウジウジしてらんないし!」


 そう言って背伸びした朱菜の顔は晴れ晴れとしていて、どこか吹っ切れたようにも見えた。勢い良くくるんっと一回転して、朱菜は微笑んだ。


「ありがとね、きよ。……切り替えさせてくれて」


「私は何も……」


 つられて俺も微笑むと、朱菜の微笑は満面の笑顔に変わった。

 寺を出る坂道を下りながら、朱菜は言った。


「帰りましょ! そうだ、アイスでも買っていくー?」


 天真爛漫にこちらに手を振る朱菜。俺は先を歩く朱菜を追いかけて走り出した。

後書き劇場

第四十三回「ぶっちゃけここのタイトルっていらな(ry」


どうも、作者でございますですます。更新が遅いのは言い訳はしないです。多分今はまだ更新速度は上げるのは無理だと思います。ご容赦ください。


俺「実際さ。このサイト内で毎日更新してる人って何?」


きよ「いや、何って……」


俺「化け物なの? 何なの? 何でそんなポンポン書けるの? バカなの? 死ぬの?」


京「とりあえず落ち着けよ……」


女神『嫉妬乙』


俺「うぅ……だってだって、ありえないじゃないですか。毎日更新とかすごすぎワロタのレベルですよ!? そら僕だって目指したことありますよ? でも……」


きよ「無理だった、と」


京「お前最初の頃から一週間に一話とかだったもんな」


俺「ごめーぬ…………」


女神『まぁいいんじゃないですか? 早ければいいってもんじゃありませんし。量より質って言葉もあります』


俺「おぉ、女神さんが何やらいいことを……!」


女神『そういう人たちはたいていクオリティも高いですけどね』


京「追撃してどうすんだよ」


きよ「酷い顔になってるぞこいつ」


俺「……神は言っている。ここで死ぬ運命さだめではないと」


京「死亡フラグじゃねーか」


女神『はいもう気が済みましたかー? そろそろここも〆ますよー』


俺「ちょ、僕が唯一ふざけられるところなのに……」


きよ「そんなこと言っても毎度毎度gdgdだからなぁ」


俺「わかりました! 次こそ何かちゃんとやります!!」


京「何かって、……何だよ」


女神『何ですか』


俺「……何かは、何かですよ」


きよ「やっぱ終わろうか」


俺「次もよろしくねッ!!」


京「何でいきなり宣伝しだしてんだこいつ」


女神『仕方ありませんね。では皆様、また次回~』

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