転換33「来年もまた」
学園祭終わったよー! やったー! これからは受験モードだよー! ウヒー!
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っていうか今回長っ! それでは本編へ進んで覚悟しろよこの虫野郎!!(某カードアニメ風に
「熱くなりすぎた……」
「あぁ。あれが一回200円だったとしたら、……ゾッとするぜ」
夜風を受けながら人混みを歩く俺たち。子供みたいにムキになってた自分に少し反省する。
あの後、京だけが成功したのに黙っていられなかった俺は何度も金魚すくいに挑戦した。俺が成功するとそれに触発されて京が、そしてまた俺が……というふうにともすれば無限ループにさえなりそうな争いを繰り広げてしまったのだ。今思うと実に馬鹿らしいことなのだが、恐らく十回以上はやってしまっただろう。
『50円って、ある意味恐ろしいのかも知れませんね……』
女神の言うとおりかもしれない。『50円で安い』という意識が根底にあったからこそ、まだいけると思い歯止めが効かなくなってしまったのだ。そういう意図はなかったにせよ、ケンちゃん、恐ろしい奴……。
「祭りパワーってやっぱりすごいね……」
「そうだな、こいつらも俺たちに付き合わされて大変だったかもなぁ」
京が右手に持ってる透明な袋を上げる。中には京が一番最初にゲットした黒の金魚が入っていた。
俺の袋の中には、狙っていた赤い金魚。意地になって二人して何匹もとりはしたが、無駄に殺すことになるので飼えるぐらいに一匹ずつもらったのだった。中で泳いでいる可愛らしい生き物を眺め、俺は思わず呟く。
「すごい可愛く見えてきた。……苦労したぶん、愛着が湧いたのかも」
『ふふ、名前は付けないんですか?』
その女神の言葉に、俺も京も納得する。なるほど、名前はきちんと付けてあげなければいけないだろう。少しの間考えたのち、閃く。
「赤子」
「黒太郎」
『うわ、センスが微塵も感じられない名前……』
女神がとてつもなく残念そうな顔をしてみせる。確かに言いたいことはわかるけどさ、いいじゃん……別に。それに、こういう名前のほうが意外と愛着がわくもんなんだぞ。
俺がそういう思いを暗に込めて女神をジトーッとにらむと、女神は苦笑いして『まぁ、いいんじゃないですか?』と言った。
それにしても……。
「なぁ、京。夏っぽいものってこれでいいのかな?」
「うーん……確かに夏っぽいことは間違いないんだけど。優勝を狙えるか、と聞かれると微妙だな」
『それじゃあひたすらお店めぐりですよ~! まだ時間はあるんですから!』
「そうだな、そうすっか……ん?」
不意に、京が足を止める。目を細めて遠くの何かを見ているようだ。
「京、何見てるんだ?」
言って、俺も京の視線を追う。……そして、気付く。俺たちと同じように、涼しげな浴衣に身を包んだ黒髪の男性。童顔が黒縁の眼鏡で相殺され、キリッとした印象を受けながらも爽やかな雰囲気さえもまとっている。
「ぶっちゃんじゃん!」
「…………?」
俺と京が同時に声をあげると、当の本人は遠いながらも不思議そうに振り返る。
『今日は何だかよく知り合いに会いますね~』
「年に一度のお祭りだからね」
女神が面白そうに言ったのに頷き、人をさけながらぶっちゃんの元へ向かった。
「おっ、何だ神谷たちか。一体誰かと思ったぞ」
「あらあら、生徒さん?」
ぶっちゃんは俺たちにようやく気付くと声をかけてくる。そしてその後に、高く澄んだ声が聞こえてくる。驚き声の方向を見やると、そこには月の光を浴びて淡く微笑む一人の女性がいた。
「驚かせちゃったかしら。初めまして、私、月影透子っていうの。よろしくね」
「か、神谷きよです」
「神谷京です」
薄い唇が綺麗に笑みを作り、藍色の長髪が上品に風に揺れる。大人っぽくて美人だ、とてつもなく。可愛い金魚の柄の浴衣を着ているのが子供っぽくて、そのギャップがなおさら彼女の美しさを際立たせているようにも思えた。
「何を二人とも感心の息なんかついてるんだ」
「いやぁ、まさかぶっちゃんにこんな美人の彼女さんがいたとは思わなくてさ」
「どういう意味だそれは」
京がからかっているが、実際別にぶっちゃんは不細工でもなんでもない。芸能人なみに顔が整っているわけではないが、彼女ができても十分おかしくない顔立ちなのだ。だが今ぶっちゃんの隣にいる人、透子さんがあまりにも美人すぎる。だから、京の気持ちもわからないでもない。
俺の隣にいる女神とかいう変人も美人なのだが、それとも質の違う感じだ。
ぶっちゃんは少し照れているようだが、透子さんは変わらず微笑んでいる。
「可愛らしい子たちね、豪さん」
「豪さん……とな」
「ラブラブだ……」
『密な関係ですね』
「お前ら、楽しそうだな」
妄想の余地のありすぎる発言に、京、俺、女神がそれぞれ言う。ぶっちゃんはずれた眼鏡を直しながらそれをたしなめる。……意外な一面だ。
「……もしかして、俺たちお邪魔した?」
「子供はいらん気をまわさなくてもいい。生徒が声をかけたんだから教師にとっては嬉しいに決まってるだろう」
京が気付いたように言うと、ぶっちゃんは気にもかけずに悪戯っぽく笑みを浮かべた。
『ここまで人ができてると、何か疑いたくなりますよね』
「いらんことは言わなくていいの」
女神の冗談には、小声でしっかりとツッコミを入れておく。
しばらく話していると、ぶっちゃんが腕を組んで目を細めた。そして、どこか懐かしげな顔をした。
「まぁ、若いうちに色々楽しんでおくんだぞ。使い古された言葉かもしれんが、青春っていうのは何にも代えられないものだから。……見たところ、二人もデートなんだろ?」
「なっ!!」
『ち、違います!!』
的確なようでどこかずれているぶっちゃんの直接的な発言に俺たちは一斉に声を荒げる。ぶっちゃんは一瞬呆けて、それからまた大仰に笑った。
「はっはっはっはっは。そこで否定するところは、まだまだ子供だなぁ」
「真っ赤になって否定しちゃって、か~わいい! ふふっ」
「だ、だから違うって……!」
心底楽しそうなぶっちゃんと、さっきまでの大人びた雰囲気はどこへやらの透子さん。口元は緩み、ちょっと危険な笑みを浮かべている。
……今までの経験上、こうなったら何を言っても無駄なような気がする。
『私がいますー!! デートじゃないですー!!』
初めて、女神の存在が他の人にも認識されたらいいのにと思った。これだけ必死に叫んでも、女神の叫びは俺と京の耳を痛めるだけなのだ。
京はというと、耳まで真っ赤にして二人に食い下がっていた。言うまでもなく、効果はあまりないようだ。
「照れるな照れるな。それもまた青春だぞ?」
「若いっていいわねぇ。ピュアな感じ、こっちまで青春時代に戻れそう」
「あー、もう! 一生言ってろ天然バカップル!!」
言うや否や、京は俺の手を握った。
「え、き、京?」
「付き合ってられん、行くぞきよ!」
『あ、ちょっと、私も行きます!』
そのまま逃げるようにして走り出す京に、俺は転ばないようにして慌てて足をあわせる。……でもさ、京。動揺してるのは確かにわかるけど、こんな風に手をつないだら逆効果なんじゃないのか? ほら、ぶっちゃんたちだって何かすごい生温かい笑みを浮かべて見送ってくれてるし。周りの目もあるし、俺もちょっと恥ずかしいんだけど。
そんなことを気にする余裕もないんだろう。しょうがない奴。……でもまぁ、いいか。俺は振り返り、遠ざかるぶっちゃんたちに苦笑いを返し、つないだ手を握り返した。
ジャリ、と土を踏んで引きずる音がした。乾燥した地面は少しのことで砂埃さえあげる。それが冷たい夜風がすくい上げて舞う。どこか詩美とした切なさがある。
「何度きてもここはいいな」
「そうだな。……女神、どう?」
『……キレイです』
切り立った小高い丘。祭り会場から少し離れた場所にあるここら見る景色は、俺が知っている限り一番眺めのいい場所だ。
見下ろすと、色彩豊かな町並みが月や星々に照らされていた。その奥には港と、海が見える。
『ここから見る花火はすごそうですね』
「おう、まぁな。迫力大だぜ」
柔らかく女神が微笑み、髪をかき上げた。同時に風が吹き、頬を撫でる。
もうそろそろ、花火の打ち上げの時間になる。俺たちはとっておきのこの場所を待ち合わせ場所に指定していたのだ。朱菜たちにも前もって場所を教えてある。
「一番乗りだけど……な」
「うん、結局金魚ぐらいしかなかったな。……夏らしいもの」
『そういえばそうですねぇ』
そこだけが唯一の不安だ。別に金魚でもいいのかもしれないけど……みんなのことだから、何かすごいの持ってきそうだし。
「というか、遅くないか? まさか忘れてるとか、ないよな……」
「それはさすがにないと思うけど……」
腕を組んで呟いた京に俺が言う。すると、まさしくというタイミングで声が聞こえる。
「あっ、いたいた! きよ~」
「……はやいんだね、二人とも」
明るくよく通る声と、優しく囁くような声。朱菜と緑だ。
「涼しいな~。うん、いい場所いい場所!」
「いい景色だ……」
続けて、間延びした声と、それと対照的にキリッと締まった声も聞こえてくる。朱菜たちの後ろから葵と深白が姿を見せた。
「あれ? ……四人で一緒だったの?」
「ん? あぁ、ここに来る途中で会っただけよ」
「そうそう、勝負はちゃあんと二人チームでやったぜ」
俺の問いに朱菜と葵が即座に答える。別に疑って言ったわけではないのだが、なるほど。とりあえず合点がいく。
『これであとは二人ですね』
「俊平と美樹かぁ。……大丈夫かなぁ」
「……もしかして、何かの事件に」
「おい西城、ポソリと不吉なこと言うな」
笑顔で言った緑を京が制する。……冗談なのだろうが、緑が言うと何かの予言みたく聞こえるから困る。俊平だけならいざ知らず、美樹がいるのだから忘れているということはないはずだ。
「私、ちょっと近くまで行ってみるね」
少し不安になったので、歩き出す。もしかしたらここの道がわからなくて入り口あたりで迷っているのかもしれない。そう思ったからだ。
しかし、俺の行動は無駄に終わった。
「きよさんたちお待たせ!」
「いやー、道教えてもらってたけどさ。木とか茂みとかでわかりづら……うおっ! すっげぇいい景色!!」
美樹の慌てた声に続いて、俊平のバカでかい声が聞こえてくる。どうやら結局迷っていたようだが、……俊平がうるさい。みんなもすごくぬるぅい目を俊平に向けている。
「確かにいい景色だけどさ……何かお前に言われるとイラッとくるな」
「おいおい酷いこと言うな我が親友よ!」
『すごく……ウザいです……』
長くなりそうだな。俺がそう思い苦笑していると、朱菜がおもむろに手を叩く。
「はいはい、それに構ってないでさっさと夏らしいもの大会の品評会するわよ!」
「それって……」
わざとらしい『それ』扱いに美樹が困ったように微笑んだ。だがそのことには構わず、葵が腕を回す。
「よっしゃ、優勝するぜ!!」
そう葵が言っている間に、何故か深白が俺の隣まで来ていた。思わず、見上げてしまう。
「……深白? どうしたの?」
「いや、別に」
ぽそりと呟き、優しく俺の頭を撫で始める。俺にはまったく意味がわからないのだが、本人はどうしてか至極満足そうだ。
『私もなでなでします~』
何故か、もう一人加わる。……いったい何なんだこの状況は。葵が呆れ顔で言った。
「こら、深白。お前は私のチームだろが」
「……チッ」
「舌打ちすんなアホンダラ!」
「はいはい終了ー、ケンカしない」
「……とりあえず、私たちからいくね」
朱菜が間に入り止める。その後、緑が微笑む。みんなが注目するなか二人が取り出したものは、カップに氷が入ったものに赤やら緑やらのシロップがかかったもの、つまりかき氷だった。
「どう? ベタだけど、これこそスタンダードな夏でしょ?」
「……しかも、朱菜が赤のイチゴシロップで、私が緑のメロンシロップだったり」
「別にそれはどうでもいいんだけどね……」
なるほど。ありきたりなものかもしれないが、シンプルイズベスト。確かにそれに勝るものはないだろう。夏という季節になれば、かき氷というものは否応なく存在感を発揮するものでもある。
「なんかそう言われると、かき氷が神聖じみて思えてきたな……」
「確かに。……ただのかき氷なんだけどね」
『あれだけ堂々と勝ち誇られますとね』
京があごに手を当ててゴクリと唾を飲み、女神も少なからず感心する。この勝負、どうやら物だけでただ勝負が決まるわけではないようだ。紹介するときの説得力、力強さ、演出などが『モノ』に付加価値をつける。……意外と、奥が深い。
「……ふっ、その程度か」
「くっくっく……まだまだ青いぜ。朱菜、緑」
突然、深白と葵が自信ありげに笑った。
「……何よ葵、含みのある笑いね」
「まぁな。……それじゃあ前座も終わったことだし、そろそろ私らの持ってきたモノを見てもらおうか」
キッとにらんだ朱菜を葵は軽く流し、悪役のように手に持っていた白い袋から何かを取り出した。
「……扇風機?」
「そうさ! 確かにかき氷も夏かもしれないが、二人とも『祭り』という単語にこだわりすぎだぜ。別にテーマは夏祭りじゃない、夏だ」
「その点、扇風機は祭りなど関係なしにどこの家庭にもあるもの。キング・オブ・サマーだ」
美樹がおずおずと言ったのに、二人ともが余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)のどや顔で答える。……何というか、非常にノリノリだと思う。特に、深白さん。
『キング・オブ・サマーはないですよね』
「それはあれか。扇風機がキングはさすがにねえよ的な意味なのか、その発言はねえよ的な意味なのか」
『どっちもです』
「あ、あはは……」
ひそひそ声でツッコミを入れる女神と京に、俺はただただ笑うしかない。深白に聞こえたらどうするつもりなんだよ、京。
ま、まぁともあれ、だ。二人ともなかなかに夏らしいものを持ってきたようで……、……。
「……ん?」
何かが引っかかる。さらっと流したが、どうしようもない違和感の塊が俺の心をせっついているような気がする。
「……葵、深白。どうして扇風機なんて持ってるの?」
緑のその言葉に、やっとその奇異感に納得がいく。そうだ、何故葵たちがそんなものを持っているのか。条件は祭会場にあるモノだし、家から持ってきたのなら反則だ。
みんなの視線を受けて、葵はむしろにんまりとして腕を組んでいた。
「ふっふっふ……どうして持っているのか、気になるだろ? もちろん家から持ってくるなんてことはしてないぞ。……聞いて驚け! なんとこの扇風機、深白が出店のクジで当てた最新小型扇風機なのだ!!」
いっそ清々しいくらいに、何かの漫画の決め台詞のように葵は叫んだ。心なしか、深白もしてやったりな顔をしている。なるほど、それなら確かに納得がいくが……、とてつもない運だな、深白。俺なんて、今までの人生でクジに当たったことなんてただの一度たりともないというのに。
「深白が当てたんなら、葵は何にもしてないじゃない」
「な!? 二人一組なんだから深白の功績は私の功績でもあるだろ!」
「何つうジャイアニズムだよ」
朱菜が嫌味っぽく言うと、葵は動揺して反論する。そして、それに京がツッコむ。……なかなかにいいチームワークである。深白本人はそれを黙って見ている。俺は微笑んで深白に言った。
「深白、すごいね。扇風機なんてクジで当てちゃうなんて。私クジ運ないから羨ましいな」
「! ……ありがとう」
それを聞くと、深白は何故か驚いたような表情を見せ、そのあと力強くガッツポーズをとった。緑がそれを見てクスクスと笑う。
「……さ、今度はきよたちの番だよ?」
言われて、俺と京、そして女神は顔を見合わせる。微妙にさっきから一応金魚の入れた袋は隠していた。見えないように後ろ手で持っている。だが、雰囲気的にも内容的にも、勝てる気がしない。正直、順番が逆だったんじゃないかとさえ思う。
「もう隠す必要もないわよ。さあきよ? 出しなさい」
「う……」
何だか、先生に叱られていじけている子供みたいで、非常に情けない。朱菜やみんなに催促され、俺と京は仕方なく袋を出した。袋の中では赤子と黒太郎がのんきに泳いでいた。
「……金魚」
「そうだよ、金魚だ。夏といえば祭り、祭りといえば金魚すくいだろ。金魚の象徴である赤色と黒色がそろってるんだからこれ以上なく夏だ。夏ったら夏だ。……夏なんだッ!!」
「涙ふけよ、神谷」
喋っているうちに感情が高ぶってきた京の肩を葵がポン、とたたく。俺まで切なくなってくる。
「金魚は夏だよ!」
『そうです、キング・オブ・サマーです!』
俺も女神も負けじと主張する。だがみんなの顔は、俺たちの意見が届いていないということを雄弁に語っていた。
「金魚ってさぁ……神谷くんが言ってた通り、夏というより祭り限定なのよね。ねぇ、緑」
「うん。夏なことには多分間違いないんだろうけど、ちょっと……ね?」
「…………」
悔しい。せっかく何回もチャレンジした成果なのに。……ごめん、赤子、黒太郎。
「……きよ、あの」
「おっと深白、敗者への優しさは相手を傷つけるだけだぜ?」
「そのコントいらない」
「なっ、ちがっ! きよ私はただ……」
葵の言葉を深白ごとばっさり切ると、いっそ面白いぐらいに深白が動揺して声を荒げる。冗談で言ったのだが、しょんぼりと犬のように落ち込んでいる深白を、不覚にもちょっと可愛いと思ってしまう。
――と、その時。
「ふっふっふ、はっはっは……ふぁーはっはっはっはっは!! 俺のターン!!」
最初はくつくつと小さく、どんどんと大仰に大きさを増す笑い声。俺たちが振り向くと、奴は不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「いや、正確には俺たちのターン、か……。だが、失望した! 失望したぞ、人間よ!!」
「何なんだそのキャラは……」
いちいち大げさな動きをつけて叫ぶ俊平に、京が辟易して言う。朱菜たちはふと、何かに気付いたような顔をしている。
「そういえば……美樹ちゃんも今田くんもさっきまでほとんど喋ってなかったわね。今田くんに至っては一言すら喋ってなかったような気が……」
「そうとも。俺たちは最後の発表に向けてあえて黙っていたんだ! ね? 美樹ちゃん」
「はい! とっておきの切り札です!!」
ノリノリで答える俊平と美樹。どうやらよほど自信があるようだ。『切り札』なんて言葉まで使っているのだから、どうやら何か秘策があるらしい。
『俊平のことだから、どうしようもなくショボいものだったりして……』
「あー、あるある! あははっ」
ひそひそ声でなかなかに酷いことを言ってのける俺と女神。もしそうだったら本当に面白いのに。
「へ~、そんなに自信あるんだ。……じゃ、早速見せてもらおうかしら?」
強気に挑発する朱菜。
「…………ふん」
少し興味ありげな深白。
「ふふ。……これでもう、後戻りはできないね」
黒くはにかむ緑。
「もしこれで大したことないもんだったら、承知しないぜ~! 今田のみ」
わざとらしく指の関節を鳴らす葵。……というか、何気に酷いことをおっしゃっている。
まぁ、何のかんの言って、みんな期待しているようである。これはふかしたな、俊平。俺がニヤニヤしながら俊平を見やると、奴はあれだけプレッシャーをかけられたにも関わらず、なお得意顔であった。なん……だと……?
「どうしたんだよ二人とも。早くその“切り札”とやらを見せてくれよ」
しびれを切らした京が尋ねる。それを聞くと俊平は、祭会場が下に見える丘の最奥の部分まで歩を進め、こちらを振り返った。
「まぁまぁ、そう焦るなよ京。……美樹ちゃん時間は?」
「大丈夫、予定通りです! もうすぐ!」
笑顔で問いに答える美樹。いったい何が始まるというのだろうか。過度な期待にみんなが自然に黙り込んでいると、時計を見た俊平が突如叫んだ。
「そんじゃ、本日のメインイベントいってみますか! さん! にぃ! いーち!!」
「どん!!」
二人が同時に言ったのをちょうど合図にしたように、一斉にドゥン、という発射音が響いた。続けて、どこか不安定で、それでいて儚く耳に残る甲高い音。その音とともに無数の色のついた煙が上がっていき、夜空に舞う。そして一定の高さまでのぼりきるとゴールだと言わんばかりに音と煙は漆黒に消え、あたりは一瞬静寂に包まれる。
少しの間をおいたのち、それは快音を響かせて色鮮やかに炸裂した。
『うわぁ…………』
女神が感嘆の息をもらす。いや、女神だけではない。……ここにいるみんなも、それは同じだった。
赤、青、緑、白などの綺麗な色の花がしっちゃかめっちゃかに咲き乱れては雨粒の音とともに散っていく。その寂しさを感じる暇もなく、すぐさま夜空には次の花たちが咲いていき、黒い空をカラフルに彩っていく。そして、また散るのだ。
ドーン。ドンドン。
耳を劈くような轟音さえもが、心地よく全身になじんでいた。まるで、初めから俺たちの身体がこの鼓動を待ち望んでいたかのよう。
「決められた時間に開始っつっても誤差があるしさ。こんなに上手くタイミングが合うとは思ってなかったけど……いいもんだろ? 花火って」
「これが私たちの“夏らしいもの”です」
誰もが見とれて声も出さずにいる中、俊平と美樹が囁くように優しく言った。
「確かに……これは、すごいね」
俺は何の含みもなく、素直にそう言った。ここまで見事な演出をされた以上、どこにも非のつけようがない。……完全にしてやられたという感じだ。
そう思っていたのはきっと俺だけじゃなくて、その証拠にか、自然とみんなも笑顔だった。京と女神はすっかり感心しきっているようだった。
「今思うと、花火ってこれ以上ないくらいに夏だよな。……どうして気が付かなかったんだ、俺」
『持ち運びできないってところが盲点でしたね』
まったく、その通りだと思う。いくら花火の打ち上げ開始時間が決まっているとはいえ、俊平の言った通り誤差はあると普通は思う。俺には、とてもじゃないが思いつかなかった。
「……この“切り札”、どっちが考えたの?」
緑が柔らかい笑顔で聞いた。それに俊平が照れたように顔を赤くし、美樹が自分のことであるかのように嬉しそうに答える。
「俊平さんです! すごいですよね!」
「今田くんが……? たまにはまともなことも考えつくのね」
「あぁ、キレイだ」
「少し見直したぜ、今田!」
朱菜も、深白も、葵も。誰もが俊平に賛辞の言葉を贈る。
「い、いや~。それほどでも」
あたふたとしながら、俊平はよく漫画にあるセリフを口にした。認められたのが嬉しいのか、平静を装っていても口の端がにやけているのがよくわかる。
ドーン。
一際強く、迫力のある花火が闇夜に響いた。自分を選んでくれた俊平に応えるために必死で自らの存在を主張している。そんな風にさえ思えた。
「悔しいけど、圧倒的ね……。みんな、優勝は今田・美樹チームでいいわね!?」
「さんせー!!」
朱菜の確認をみんなの同意で受け入れた。夏といえば花火。……うん、文句なしだ。
「……優勝した今田くんには、もれなく葵・深白チームから最新式小型扇風機が贈呈されます」
緑がぽつりと呟くと、深白は狼狽した。
「なに!? ……いや、これはきよに」
「深白。……気持ちはありがたいけど、せっかくだし私はいいから。俊平にあげてやって?」
「きよがそう言うなら……」
一瞬躊躇したがほどなく頷き、渋々ながらも扇風機は俊平に渡された。
「え、でもチームだし。美樹ちゃんは……」
受け取った当の本人は手に持ったそれと美樹とを交互に見やり、戸惑っていた。賞品を分けることができないので美樹に気をつかっているのだろう。
目が合った美樹は、当たり前のように言った。
「私はいいですから、俊平さんがもらってください! 考えたのは俊平さんなんですから」
「……ありがとう!」
「良かったな、俊平」
普段見せないような穏やかな笑みを浮かべた俊平に、京も笑って肩を叩いた。
ふと、葵が言った。
「というかさー、賞品をやるのは別に構わないんだけど私らのチームだけ、というか深白だけがやるのはかわいそうじゃないか?」
「もちろん、私たちも何かはするわよ。……そうね、俊平くんは超高い扇風機もらったことだし、あたしたちは一人ずつ美樹ちゃんに何でもおごるわ」
「お、それぁいいな。俺は賛成」
朱菜の提案に京がすぐさま答える。
このシスコンめ! ……まぁ、俺も人のことは言えないんだけど。もちろん俺たちにも断る理由などないため、快く賛同する。
「あ、ありがとうございます……」
美樹はまさか自分が、とでも思っていたのか、キョトンとした顔だった。……まったく、実の妹ながら欲がない。
『きよきよ~! 私にもチョコバナナおごってください!』
「お前の場合は少し自重しろ」
『ぶ~。……きよの意地悪。せっかくチョコバナナをエロく食べる方法を教えてあげようと思ったのに』
「……それはいらないけど、仕方ないな。帰りにおごってあげるから」
寂しそうな姿に俺が折れると、女神は途端に子供のような無邪気な笑顔を見せる。
『わーい! きよ大好きですー!!』
甘いな、と思いつつも俺は笑みを浮かべていた。俺はどうも女神の笑顔には弱いらしい。
「ほらきよ、さっさと行くわよ~!」
「うん、今行くー!」
少し前の朱菜の声に俺は返事をして歩き出す。
夏の思い出が、たくさんできた。この身体になってから、初めての夏。これからもまだ、初めてがたくさん待っている。……どうしてだろう、今の俺には不安より期待のほうが強く感じられる。
きっとそれは、みんながいるから。来年も、一緒に行こう。そしてそのときは、『夏祭りに来ている俺たち』がみんなにとって何よりの夏である証になっているように。ふざけあって、そう言えるように。強く願いを込めて俺は走り出した。
後書き劇場
第四十回「君がいた夏は遠い夢の中」
そぉ~らぁ~にぃきえてぇ~えったぁ♪ 打ち上ぁげぇ~はぁなぁびぃ~♪
デケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデン!!デケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデンデケデン!!
デケデンデケデンデン!!
夏祭り「(#^ω^)ピキピキ」
どうも、作者です(意味不明
夏ですねぇ。めぐりめぐって一年たちましたねぇ。……この小説も、一年以上続いてることになるんですかね。更新が遅いから一年でこんだけしか進んでないわけですが、初めて来た人が初投稿日時を知らずに見れば
「わぁ! 何か結構話数あるや!」
ってなりますよね(死
※~ここから何故か意味のわからないことを言い出します~
それはそうと、もうすぐポ○モンの新作が発売されますよね。えぇ、話題をすりかえたのは承知しております。
初代からずっとやってきた作者にとっては買うしかないのですよ! えぇそりゃあもう! 金があれば2バージョン買いたい気分ですもの!
すんごい楽しみですよ? 何もうあのミジュ○ルとかコロ○リとかいうの! 可愛すぎですよ、作者を殺す気なんですか!?
まぁ、作者が望むことはですね。ゲー○リさん、強ポケを出すのもいいですが、デリ○ードやらラ○カスやらオニ○リルやらの子たちを、使いたい人のために救済してくださいということですよ。あ、あと俺の嫁のコ○トックたんm(強制終了
ただいま戻りました。えぇ、ご迷惑おかけしましてすいませんです。作者が廃人であることがバレただけDA☆ZE
他にもスマ○ラXとかも廃人だよ……(ぽそっ
……と、それはさておき。今回長くありませんでした!? なんとびっくり、聞いて驚キング! 今回は今までで一番文字数が多いです! つまり一番長い!
結構前にはしゃいでいた転換15:「純喫茶フラワーへようこそ?」よりも長いという……何をハッスルしているんだろう作者は……(さぁ?
更新期間を長くあけたぶん、これで帳尻あわせにしたつもりか? と思ってるそこのあなた!
正 解 で す ( お い
今回、いつにもまして作者の暴走具合が酷いと思うんですが、猛暑の夏、皆様いかがお過ごしでしょうか?(え
もうね! 後書きというか落書きノートだよね!!ww
きよ「お前せっかく本編がイイハナシダナーだったのに……」
俺「いえいえ、作者の場合はイイハナシカナーですよ」
京「自分で言うなよ」
女神『むしろイイハナシダトオモッテクレタラウレシイナーですよね』
俺「あ、それもいいかもですね」
きよ・京「なげぇよ!!」
俺「最近後書きがメインになりつつあるのでいかんですな。怒られないうちに終わりましょう」
きよ「強引だな」
京「うちの読者はアホな作者にも異常なまでに優しいから大丈夫だと思うがな」
俺「そうやって逃げ道を作るような真似はやめてください! 作者がヘタレだってバレちゃうじゃないの!!」
女神『もうバレてますでしょうが』
俺「ですよねー」
京「ということで、これで今回のお話は終了です」
きよ「御意見・御感想などありましたらいつでも待ってます! 嬉しいです」
女神『それでは、また次のお話で会いましょうね~♪』
俺「以上、作者から、でした!!」