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転換31「ぽいものってのは意外と身近にある」

あぁー、今年も夏がやってきましたねぇ……去年の同じ季節あたりから夏編が始まったのに、まだ夏だね! 不思議!


冗談はさておき、今度からこれぐらいの頻度で更新できるように頑張ります。……がんばり、ます

何か話の書き方忘れてしまったので何かあったらバンバン言ってください!


それでは、本編へどうぞ~♪

「しっかし、今年は特に賑わってるわねー」


「そうだね。うっかりしてるとはぐれそう」


『きよは私がついてるから大丈夫ですよ~?』


 朱菜が辺りを見回して言ったのに俺が頷き、女神がどんと胸をはる。

 屋台が林立して建っている祭りの通りを練り歩く。俺たちの今日の人数は合計で八人もいるため(正確には見えないだけで女神もいるが)、かなりの大所帯になってしまっている。

 食べ物なら唐揚げやらフランクフルトやら、ゲームなら金魚すくいから射的まで。かき氷なども合わせて、実に祭りらしい様相をかもし出していた。人が行き交っては過ぎていくそれは何とも情緒に溢れていると、ある意味思う。

 ……まさに『夏』。そんな感じだ。


「なんか、あれだなー……。去年の夏はこんな風になるなんて、全然思わなかったな」


 歩いている最中、京が空を見上げてぽつりと言った。みんなが自然と優しい顔になっていくのが見てとれる。


「そうだなぁ。私らも、まさかこんな大人数になってるとは思わなかったよ」


「私も、……きよに会えた」


 葵がからからと笑い、深白もこっちを振り向きながらに、力強く言った。美樹はそれを見て、嬉しそうな顔をしている。

 俺も、変わったと思う。その変化は必ずしも良いことばかりではなくて。つらいことや、戸惑ったことだってたくさんあった。……でも、今こうして笑っていられるのは、みんなのおかげなんだと思う。嬉しい、変化なんだと信じてる。

 思わず、つながってる女神の手を強く握った。この温もりも、俺が俺でいるあかし。そう思うと、いつもそばにいて励ましてくれるこの存在が愛しくて仕方なくなったんだ。


『……きよ』


 女神は少し驚きながらも、微笑んでこの手を握り返してくれる。……誤解しないように言っておくが、別に俺たちは変な意味でこうしているわけじゃないぞ? ただ、そういう気持ちになることもあるってだけだ。


「なぁにみんな感傷的になってんのよ。明日別れるわけじゃあるまいし。……そんなに大人数が珍しいっていうんなら、また分けてあげるわよ?」


 柔らかい雰囲気を、朱菜があたたかく破壊する。朱菜のいいところ。ムードメーカーでいつもみんなを引っ張っていってくれる。みんな、朱菜の続きの言葉を待つ。

 朱菜は迷惑にならないように脇にみんなを誘導してよせたあと、弾んだ声で言った。


「第二回! 二人一組チームバトル~!!」


 パフパフ、という擬音が似合いそうな様子で発表されたもの。……大体、わかったような気がする。『第二回』というのと、『二人一組』という言葉で。


「何それ?」


 一人呆けた顔をしている俊平を無視して朱菜は続けた。


「その名の通り、二人で一つのチームとなって競ってもらいます! ルールは簡単、この祭り会場の中から『夏らしいもの』を探してくる。制限時間は花火の打ち上げが始まる時間まで!」


 一息に言って、朱菜は何でか満足そうに俺たちを見た。海へ行ったときとだいたいノリは一緒だ。


「……朱菜。もしかしてここに来る前から考えてたりした?」


「まぁねー。どうせヒマを持て余すかなーと思って」


 俺の言葉にも、悠々として答えてみせる。いつものことながら、よくもまぁ思いつくものだなぁと、俺は半ば感心していた。とりあえずと、京が言った。


「今日は人数ぴったりだけど……、判定はどうするんだ?」


「そこらへんはみんなで決めればいいわよ。さ、それじゃさっそくチーム組みましょう!」


 素朴な疑問は早々に消え。前と同じく女神を抜かしたチーム編成の時間に入る。瞬間、俺の右手が誰かの両手に握られた。


「……きよ、私と組もう」


 深白だった。『あれ? これって何ていうデジャヴ?』という指摘はなしにさせてもらおう。たかがゲームなのに、と思うぐらいに何故か真剣な眼差しでこちらを見ている。その迫力に、少し気圧された。そして、その表情を見て思い出してしまう。……この間の、夜のこと。俺は気恥ずかしくなって顔を赤くしてしまったのだが、深白はどうやら気にしてないようだった。


「おー、ずるいぞ深白! 私もきよと組んでみたいなぁ」


「それはあたしも同じよ?」


「私もきよさんと組みたいです」


「……じゃあ私も」


 それを皮切りにして、負けじと葵が深白の肩に手をおき、朱菜がにべもなく言い放ち、美樹はおずおずと言った。そして緑は含みのある笑みで……、ちょっと待てぃ。『じゃあ』ってなんだ『じゃあ』って。緑は面白半分で言っているだけだと俺は思う。


「じゃあ俺も――」


「空気読め、殺られるぞ……」


 突き抜けて明るい笑顔で俊平が言おうとし、京がそれを手でふさいでとめる。……経験者だからこそわかる、女の子の怖さだろうか。


『私はまた仲間はずれですか、はぁ……』


「ま、まぁ仕方ないよ……」


 隣でわざとらしくため息をつかれたので、慌ててフォローする。これだけ目立つ金髪で美人なのに見えないなんて、と心の中でつぶやく。口に出して言ったら、過度に喜んで抱きつかれそうだったから。

 その後視線を深白たちに戻すと、何やら大変なことになってきていた。


「きよは私と組む! ……問題はないだろ」


「問題大アリよ! 深白ときよを二人っきりにさせたら、色々な意味で危ないじゃない!!」


「そうだそうだー、フラグバリバリ立ててんじゃねぇか!」


「……ということで、否決」


「…………」


 どうやら、深白VS三人という構図になっているようだった。美樹はすでに戦線離脱をして、とりあえずは観戦。俺や京、俊平は怖くて止められるわけもない。

 深白が、また言った。


「二人っきりになったからって変なことなんてするか! こんなおおやけの場で……」


「何さらっと問題発言してんのよ!」


「……公の場じゃあなければ、いいってことだね」


 ……何も聞こえなかったぞ、俺は。

 もはや収拾がつかなくなってきたとき、美樹が苦笑いで中に割って入った。


「みなさん、ケンカしないでください。……大人気ないですよ?」


「…………」


「うっ……」


 さすがというか何というか、もっともな美樹の言葉に四人はやむなく黙り込む。こうなれば美樹は強く、俺や京を叱るときのように四人に言った。


「もう、この中じゃ誰がきよさんと組んでも文句があるでしょう? ……きよさん、だからお兄ちゃんと組んでほしんだけど」


「あ、……うん」


 てきぱきと指示をする美樹。はりきり屋の一面が久しぶりに表に出ているような、そんな気さえする。


「何でそいつと……!」


「おいおい、ひどい言われようだな」


 深白が悔しそうに言ったのに、京は両手をあげて目を閉じ、首を横に振った。美樹は一瞬あっけにとられたような表情をするが、すぐに言い放った。


「お兄ちゃんだったら、きよさんと二人きりでも何の心配もないからです。……ヘタレだから」


「ふぉぉおい……。実の妹のほうがもっとひどかったなぁ」


「やったな京! お墨付きだぜ!」


「一応言っとくが、ほめられてないぞ?」


 京は美樹の言葉に驚くが、俊平の発言にすぐに気をとりなおしてツッコミを入れる。……すごい条件反射だなぁ。

 他のみんなは美樹の言葉を聞いて少しの思案ののち、先ほどまでが嘘のようにあっさり納得した。


「そうね。……神谷くんなら心配ないわね」


「そうだなー、神谷だしなー」


「神谷くん、だしね」


「……仕方ない、か」


「なぁ、俺ってお前らにとっていったい何!? いっぱしの男以下!?」


『でも、確かに京はあまり年頃の男子らしくないですよねぇ』


 うん、俺もそう思う。何ていうか達観してるっていうか、ガツガツしていないというか。……そうやって見られるのも仕方ないと思うぞ、京。まぁ、だからといって俊平みたいになるのもどうかとは思うけど。

 とにかく、俺はまたしても京と組むことになったようだ。


「納得いかねぇぇえぇ!!」


 ……一人、収まりがつかないやつはいるが。


「よーし、じゃあ俺と組んでもいい人ー!」


「…………」


 打ち合わせでもしたのだろうか。一瞬、祭りの賑やかささえも押さえ込むかのように辺りが静まり返った。誰も、何も喋らない。みんな目が死んでるぅ。


「え、いや、あのー……? 俺と……」


「…………」


「うっ、うっ、えぐっ、えっ……」


「泣くこたぁないでしょうが。さすがに冗談よ」


 小さな子供みたいに嗚咽をあげ始めた俊平に、朱菜が目を細くして言う。するとすぐさま俊平の顔から涙が消え去り、俺はそのある意味の純心さに小さく吹き出してしまった。


「じゃあ、今度こそ誰か組もうぜー?」


「あ、じゃあ私が俊平さんとで行きます」


 再び明るさを取り戻した俊平の呼びかけに応じたのは、何と美樹だった。初めて会ったばかりのときは、若干引き気味であったというのに、……我が妹ながら順応性が高いやつだ。俺はやたらと喜んでいる俊平を横目にそう思った。

 その後、成り行きを見ていた葵が言う。


「前と同じでいいか、慣れてるし。深白ー、組もうぜー?」


「……そうするか」


 短いため息をついてから答える深白。今度は朱菜が言う。


「うわ、じゃああたしは緑と?」


「朱菜……。何をわざとらしく『うわ』とか言ってるのかな? かな?」


 本音ではない文句を言いながら朱菜は緑と向き合い、俺は思わず苦笑する。……あと緑。さりげなく版権ネタ使うのはやめぃ。


『これでチームは決まりましたね~。まぁ、私たちは実質三人ですけどね~』


 嬉しそうな女神の声。恐らく、俺と京だけになるので自由に行動できるようになるのが嬉しいのだろう。まぁ、何はともあれ女神の言うとおり、チームわけは終わったのだ。


「それじゃ改めて、制限時間は花火が始まる、今から二時間後まで! よーい、スタート!」


 右手を振り下ろしてスタートも合図がきって落とされ、俺たちはそれぞれに歩きだした。







「……で、何を探すの?」


「さぁね、その場のノリよ、ノリ。どうせ勝ちたくて提案したわけじゃないんだし」


 二人になってしまった祭会場内、あたしは後ろから聞こえる緑の声に言葉を返す。おおよそ意味のとおらないその言葉に、緑はあたしの後ろをゆっくりついてきているままで、ぽつりと言った。


「……もしかして、みんなと離れたかったの?」


「誤解を招くようなこと言わないでよ。……それじゃあ、あたしがみんなを嫌っているみたいじゃない」


 わざとらしい言い方。あたしはそれに合わせてわざとらしく憤慨してみせる。嫌っているなら、一緒にこんなところ来るわけないじゃない。……まぁ、緑が言いたくなった気持ちはわかるけど。


「ごめん。じゃあ、言い方を変えるね。……気持ちの整理が、したかったの?」


「…………」


 今度は横並びになって言われた言葉。満面の笑みを浮かべているその顔を軽く引っぱたいてやりたい衝動にかられたのは、別に今に始まったことじゃない。……唐突に図星を突くのよね、この子は。


「そうね。それが、一番しっくりくるかも」


 二人で歩きながら、ゆっくりと答える。今は祭りのことなんて、すっかり忘れてしまっている自分がいる。あたしは緑の目を見て言った。


「あたしたち三人って、中学校のときからずっと一緒だったじゃない?」


「……そうだね」


 緑は、思い出すように答えてくれた。


「だから、当たり前のように一緒にいるって安心できるのよ。……でも、きよは違うじゃない」


「深白?」


 何でそんなに鋭いのだろうか。……もしかして、あたしって、わかりやすいのかしら? あたしは自分自身に呆れながらも、正直に白状することにした。


「うん、何かきよをとられそうな感じがして。いや、とられるっていうか、二人一緒にどこかに消えそうな感じがして。……見ているのが少し辛かったところがあったのよね。子供みたいな考えなんだけどね」


「気持ちはわかるよ? ……でも、大丈夫」


 緑はそれでも穏やかな口調のまま、いつもと変わることのない笑顔を向けている。髪留めの鈴がりぃん、小さく鳴って、あたしは視線を向けた。


「どうして、わかるのよ?」


「……さぁ? なんとなく。でも、いちいち考えてたら、お互いに良くないよ?」


「緑って、案外楽天的なのね」


「そうだね、そうかもしれない」


 小首を傾げた緑は、何故か微笑ましそうだった。なんとなく、自分でもわかるような気はする。


「そう、ね。いちいち考えていても仕方ないわね!」


 顔を上げたあたしの表情に、緑は満足そうだった。……ほんと、何考えてるんだか。


「じゃ、夏らしいものでも探す?」


「当たり前でしょ! 吹っ切れたし、こうなったら優勝狙うわよ!!」


 祭りの時間はまだまだある。大好きな射的の看板を見つけ、あたしは緑を引っ張って店に向かった。







 ……それにしても。


「なぁ、夏らしいものってなんだと思う?」


「…………」


 それにしても、だ。この無口さは、正直問題なんじゃないかと私は思うわけだ、うん。いや、実際無口なのが悪いかと聞かれればそうではないと私も思う。もともとそういう性格の奴だっているわけなんだし。それは仕方ないと私も思う。

 でも、相手側としてはなかなかにきついものだ。こいつの場合、無口でさらに無表情だから、私の質問を聞いていないのか、それともただ単に考え込んでいるだけなのか。それもわからない。

 というか私自身、騒ぐのは得意だけどそんな話し上手なわけはないのだから、話が続かない。……これが他のやつらだったら、そうはならないんだけどなぁ。なんだか、初デートの彼氏の気分みたいだ。


「おっ、かき氷!」


「…………」


 のってこない。もしかして私、失敗した? ビーチバレーのときみたいに、いい感じだったからと一緒に組んでみたんだが、今更になって気付く。

 ビーチバレーはスポーツで、必然的にあまり喋る必要がないので上手くいっていたのだ、と。

 そのまま、さっき私が指差したかき氷屋を通り過ぎていく。黒髪の少女はそのままだ。


「……深白」


「……何だ?」


 名前を呼ぶと、さすがに答えてくれる。こいつはいったい、どういう基準で会話を成り立たせようとしているのだろうか。純粋に興味がわくな、これは。


「もっとこう、言葉に反応してくれ。そうじゃないと、会話が続かないんだな、これがまた」


 笑いかけながら、私は素直に言った。別にお互い悪くはないのだから、嘘をつく必要なんてどこにもないからな。まどろっこしいのよりは、はっきり言ったほうが早いしわかりやすい。……私の持論でもある。


「……無理にはできない。こういう奴だ」


 そう思ってはいたのだが、そっけなく返される。まぁ、多分そんな感じのことを言われるだろうとは思っていたけど。私が仕方ないかと思っていると、隣の深白から意外な一言が発せられた。


「……ただ、別にお前らが気に入らないからわざと、というわけではない」


 これを聞いた瞬間、私はいったいどんな顔をしていたのだろう、自分でもわからない。つまり、だ。深白の言ったことを翻訳すると、『(きよは論外で)私たちのことを嫌ってはいない』ということなんだ。


「へっへー、そうかそうか」


「…………?」


 急に笑顔になった私に、深白が珍しく表情を変え、訝しげにこちらを見てくる。それはそうだろう。でも、そうわかっただけでこっちは安心できてしまう。……だって、そうだろ? 自分は嫌われてないってわかるって、すげぇ嬉しいことじゃないか?


「さぁ、とっとと夏らしいものでも探すかぁ!」


「あぁ」


 嬉々と言った私に、深白は短く答えると後をついてきた。








 あぁ。やっぱり神様ってのは、どこかで俺のこともしっかり見ていてくれたんだなぁ。俺は隣の天使を眺めながら、顔がにやけるのを抑えられなかった。


「どうかしたんですか?」


「だ、大丈夫大丈夫! 何でもないから!」


 下から上目遣いで覗き込まれる。彼女いない歴十六年の俺にとっては、サービスしてくれているとしか思えない。


「いやー、美樹ちゃんはほんとにいい子だなぁー! 京のやつ、こんな可愛い妹がいてうらやましいぜ!」


「そ、そんなことないですよ! ……それに、きよさんたちのほうがもっと素敵な人たちばっかりです!」


 いや、可愛い。十分美樹ちゃんも可愛い。そして、確かにきよちゃんたちも可愛いと思う。女の子たちの中でも、指折りの可愛さだ! ……京の周りには、可愛い女の子ばっかりだ。


「思えば、昔からそうだった。」


「……何がですか?」


「おぉっと、聞いてくれるかい美樹ちゃん!?」


 俺のわざとらしい言い方にも素直に頷いてくれる美樹ちゃん。俺はぽつぽつと喋り始めた。


「いや、京のやつさ? 本人は全然気付いてないんだけど、昔から女の子に結構モテるんだよ」


「……初耳です」


 心底意外そうに呟く美樹ちゃん。なかなか、実の兄に対してひどい反応だ。俺は構わず続ける。


「あいつ、ずっと一緒にいる美樹ちゃんならわかると思うんだけど、悟り開いてる感じじゃん? まぁ全部ではないけど、俺たち男子がバカやってるのをたしなめる役っていうか」


「何となく、わかる気がします」


「そういうあいつが、中学校のころも女子の間で人気が高かったんだよ。でもあいつあんなだから、女子たちもじれったく思っていた感じだったけど」


「へ、へぇ……そうなんですか」


「『神谷くんって、何か他の男子と違って大人よねー』とか、『委員の仕事もてきぱきこなすし、頼りになるし』とか。俺あんまり悔しいんで、何も言わずに京の頭を叩きまくったもん」


「笑顔で言うことじゃないです!」


「大丈夫、その後しっかりふくろにされたから」


 言って、同時に笑いがこぼれた。いつも女子たちから警戒されていた俺が、こんな子と一緒に話せて、しかも話が弾んでいる。いやらしい気持ちはなしに、純粋に楽しく、嬉しかった。俺はふと、話を変えてみる。


「ところで、夏らしいものって何だろうね?」


「うーん……考えても、オーソドックスなものになっちゃいますよね」


 俺の言葉に美樹ちゃんは口元に人差し指をあてて考える仕草をするが、あまり浮かばないようだった。俺も話題転換のつもりで言ってみただけだったので、さっぱり出てきていない。

 この会場内で、夏らしいもの。浴衣、かき氷、金魚すくい。挙げればキリがないのだが、美樹ちゃんが言う通りオーソドックスだ。優勝を狙うならもう少し凝ったものでなくては。


「あ……」


「?」


 そんな風にぼーっと思考をめぐらせていた俺に、唐突にひらめきが落ちる。……そうか。その手があったか!


「美樹ちゃん! ……ここで一番夏らしいもの、見つけたぜ!」


「え、ほんとですか!? 教えてください!!」


「へへっ! ……それはさぁ」


 驚きをあらわにする美樹ちゃんに、俺は得意になって教えてやった。








 ……実際のところ、俺ってそんなに男らしくないのだろうか。自分の中では、『男の中の男!』とまでは行かずとも、それなりには男らしいとは思っていたのだが。ああもみんなから男を否定されると、少し落ち込む。


「京~、まだ怒ってんのか? ごめんってば。みんなも悪気があったわけじゃないって」


『まったく。そんなことでウジウジウジウジと……。そんなだからいつまでたってもヘタレ扱いなんですよ?』


「女神も、余計なこと言わない!」


 隣で連れ立って歩きながら、きよと女神が順に話しかけてくる。俺の顔色をうかがうようにするきよと、ため息をつきながらに言ってくる女神。ここで俺が本気にこいつらに怒っていたら、口論にでもなりそうなものだが、別に俺はまったく怒っていない。第一、こんなことにいちいち怒るほど、俺は度量の狭い男ではない……と、自負している。

 でも。俺は思う。ちょっと怒っているふりをしてみるのも、悪くはないかな、と。


「……別に、怒ってねぇよ」


 わざとやっつけに言った。とたん、きよが焦りの色を表情に浮かべるのだから、ちょっと面白い。このぐらいの仕返しだったら、バチは当たらないだろう。

 きよは、フォローを重ねる。


「いや、ほら。京が女の子に変なことをしない紳士なやつだから、みんなそう言っちゃっただけだって!」


 ……今だ。俺はツッコミを入れやすいように、わざと軽薄な口調で言った。


「ほ~、そうかそうか。そんなに俺がヘタレで勇気もないというなら、無防備なお前でも襲ってやろうか? なんならこの場で」


「えっ……」


『なっ……!』


 笑うなり怒るなりしてきよがつっこんで、それで俺が『冗談だよ。俺別に怒ってねーし』と言うつもりだった。……だが、理想と現実は違った。

 きよは俺の発言を聞いて、一瞬の間をあけて意味を理解したとき、一気に顔を真っ赤に染め上げた。そして、その小さな口を開けたまま狼狽している。女神は女神で、驚きで固まっている。

 きよは何を考えたのか、大きな瞳をうるませて右へと左へと視線を泳がせていた。

 ……いったい、どういうことなんだ! 俺は焦る。そりゃあもう、もんのすごく。軽い冗談のつもりだったのがまさかここまで場を一変させることなんて、予想だにしていなかった。俺が何とか空気を和ませようと声を発しようとしたとき、右のこめかみにすさまじい衝撃がはしる。


『女神デストラクションスペシウムキイィィッック!!』


「みらぼれあす!?」


 久々の掛け声と久々の悲鳴が響き、気付いたときには俺はなすすべもなく女神に蹴り飛ばされていた。当然バランスを崩して倒れるが、人が多かったために通りすがりの人にもたれかかってしまう。


「すっ、すいません!」


「何だい兄ちゃん。そっちの美人の彼女と痴話げんかでもしたのか!? 豪快なことだ! ハッハッハッハッハ!!」


 ぶつかったのは、がたいのいい中年男性だった。怒ることもなく、愛想良くからかって場を和ませてくれたので、おおごとにはならずにすむ。そのかわり、周りがいっせいに笑いに包まれてしまったが。


「すいませんでした」


 俺はもう一度深くお辞儀をして謝ると、きよの手を握った。視線が色々な意味で俺たちに集中していて恥ずかしい。中には指をさしている子連れの夫婦もいた。


「仲直りしろよー、兄ちゃん!」


 先ほどの男性の明るい野次を背に、俺はそのまま走り去った。








「女神! 何しやがんだてめぇ!! しかもあんな大勢の人がいるところで!!」


 人気ひとけのない雑木林までたどりつき、開口一番に俺は言った。もちろん、さっきのことについてだ。他の人がいて俺が変なやつになってしまうのでさっきは言えなかったが、とりあえず言っておかないと気がすまない。

 だが女神は怯むことなく、キッと俺を睨んで真っ向から言い返した。


『あなたが変態なこと言い出しやがるからでしょうがぁ!!』


「め、女神! ただの冗談だろ? な?」


 途中で、まだ若干顔が赤いきよが止めに入る。そして、その後俺のほうを向く。


「なぁ、京。じ、冗談だよな?」


「あ、あぁ。何か言うタイミングが悪かったかもしれんが、そうだ」


『冗談にしてもです! その言葉のせいで何か変な空気になっちゃったじゃないですか!! ガラにもなく変なことを言うからです!!』


「悪かったよ……。でも、痛かったぞ」


『……じゃあ、蹴ったことについては、謝ります』


 一連のやりとりを終えて、それでひとまず女神もおとなしくなるのだが……。

 何なんだ、この雰囲気は。俺がきよを襲うなんて冗談に決まっているじゃないか。俺か? 俺が悪いのか? いや、でも二人の反応を見る限り、完全に本当だとは思っていないに違いない。とすると、あの言葉の意味を、一瞬でも想像してしまったのだろうか。『俺が、きよを、襲う』……。

 淡いピンクの浴衣を着こなしあどけなく微笑むきよ。その髪には、可愛らしい花の飾りの髪留め。小さくて華奢な身体は、浴衣という服装にはぴったりと合っている。むしろ、そうでなければいけない気さえする、神秘的な美しさだ。だが同時に、その清純さに汚れをつけたいという、男の欲望が俺を襲う。今にも折れてしまいそうな両の手首をつかみ、薄桃色の唇にそっと自分の唇を……。


 ……っておい! 何で俺はどっかにありそうなエロ小説っぽい話を展開させているんだ!! アホ! 俺のアホ!!

 よこしまな考えを急いで頭の中から追い出し、俺は何事もなかったかのように二人のほうを振り返った。


『……今、何考えてました?』


「いや、特に何も」


「…………」


 女神の刺すような視線にも、きよのまた顔を赤くしての視線にも、俺は百万ドルの笑顔で変わらず返した。


「さぁて、それじゃあ気を取り直して、ちゃんと夏らしいものでも探すか!」


 俺はまだこちらをじーっと見てきている二人をあえて無視して、明るく言った。

後書き劇場

第三十八回「涙がちょちょぎれた」


どもい、作者です。突然ですが、皆様大好きです。


……いえ、何をトチ狂っているのかとお思いでしょうがとりあえず石は投げない方向でお願いします。

何がというと、前回転換30を投稿したあとの、皆様の心温まる感想です。正直なところ、あれだけ更新していなかったのだからもうほとんど愛想もつかされているだろうと思いました。ところが、たくさんの人からの励ましの感想がすぐさま返ってきて……


嬉しかったです。普段からの人や、『今まで感想を送ったことがなかっただけ』でずっと応援してくれていた人とか。ネットの世界でこんなにも胸が温かくなるとは思ってもみませんでした。更新は遅くとも、ちゃんと最終話まで書かせてもらいたいと思います。絶対、絶対、です。


京「本当にありがとうな……。俺も感動したぜ!」


きよ「みんなの期待に応えられるよう頑張ります」


女神『さすがに今回ばかりはふざけたことも言ってらんないですね~。皆様、ありがとうございました♪』


俺「ありがとうー!! うぉおおお!!」


三人『お前は黙れ』


俺「なんで……」




こんなバカなことをやっていられるのも皆様のおかげです! これからも頑張りまーす!

御意見・御感想いつでもお待ちしております。以上、TARでした!!

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