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転換30「祭りってのはやっぱりテンション上がるもんです」

死んでません。……一応。詳細はあとがきにて。

 ドンドンドン、ドンドコドン。

 その音色は、闇夜に混じってどこまでも強く響き渡る。太鼓の力強い音には、人の気持ちをどこかしら昂揚させてくれるような気がした。だから何だと言われればそれまでなのだが、それでも、だ。

 やっぱり夏といえば、海と並んでこれだと思う。


「きよさん、準備できたー?」


 俺の部屋の前のドアがノックされ、急くような声が俺の耳に入る。俺は慌てて手の動きを速めたのだが、やっぱり慣れていないとそんなものは無意味であるわけだ。


「ごめん、手伝って……」


「ま、そんなことだろうと思ったけどね」


 俺はすぐさま陥落し、美樹に小さく訴えかける。それに美樹は得意気な声でドアを開け、中に入ってきた。美樹の目には、浴衣を着れずに困り果てている俺の姿が映っているのだろう。

 もうお分かりかもしれないが、今日は年に一度の町内夏祭りの日。今年はいままでとは色々と違いすぎているが、だからといって面白くないわけがない。むしろ、今から楽しみで仕方がない。だが、いかんせん俺は今女の子の身体。女物の浴衣が着れずに困っていた、というわけだ。

 まぁ、こうして美樹が手伝ってくれているので良かったわけだが。


「はい終わり! よく似合ってるよ、きよさん」


「ありがと」


 そうこうしているうちに着付けが終わったらしい。……さすが女の子だ。俺は満足そうに笑う美樹に笑顔でお礼を言った。

 階段を下りて居間へ行くと、すでに着替え終わってソファーに座っている京がいた。

 淡い水色を基調とした着物に、黒い帯。去年まで俺が着ていたものだ。実は俺は和服がけっこう好きなので、お気に入りだったりする。


「よう、二人とも遅かったな」


 軽い様子で俺たちに声をかけてくる京。和服特有の広い袖に腕を通していて、やはりと思った。……まぁ、言わずもがな。そうやってるのがなんか好きなんだ。俺も、つまり京も。


「お兄ちゃんってばわかってないなぁ~。女の人っていうのは支度に時間がかかるものなの!」


「そういうもんかねぇ……」


 美樹が『ちっ、ちっ、ちっ』と指を振って言ったのに、京は頭をポリポリとかいて呟いた。正直、俺は慣れてしまったが、美樹に言う通り。女の子というものは色々大変なんだと思う。


『そうですねぇ、私も毎朝パーマをかけるのが大変なんですよ~』


「お前、パーマかけてないじゃん」


 思わず、小声でツッコミを入れる。そんなに綺麗なストレートのくせにと、大声で言ってやりたい。女神はそれを聞くと朗らかに笑い、定位置の俺の隣まで移動した。京は小さく苦笑しおもむろに立ち上がると、俺たちに言った。


「じゃあまぁ、とりあえず行くか!」


「うん、行こう行こう!」


 その言葉に美樹が待ち遠しそうに返事をし、俺は頷く。まだ祭りは始まるか始まらないかの時刻だが、早めに行くのに越したことはないだろう。……文字通り、後の祭りとならないように。

 相変わらずすでにはしゃいでいる女神に微笑み、俺たちは玄関のドアを開けた。


「今日って、朱菜さんたちも来るんだよね?」


 道すがら、美樹が笑顔で俺たちに聞いてくる。その表情は明るく、嬉しそうだ。……なるほど、すでにみんなとも仲良くなったのだろう。この前の海のときに初めてちゃんと会話をしたというのに。我が妹ながら、人懐こい性格である。俺は若干兄(姉?)馬鹿のような気持ちで、それに答えた。


「うん、朱菜も緑も葵も。もちろん深白もくるよ」


「……さて、ここでみなさまに残念なニュースです」


 突然、京が語調を変えて言い出した。すぐさま女神が『何ですかそのノリ』をツッコミを入れたが、京は気にしない。


「どんなニュース?」


 俺と美樹が同時に言った。京はそれにこほん、と一つ咳払いをして遠い目をして、言う。


「本日は、今田俊平も参加することとなっております」


『げっ、あの男ですか……』


「え? お兄ちゃん、誰なのその人?」


 変わらないふざけ口調だったが、女神と美樹二人ともが大きめの反応を見せた。女神のほうはまぁ、恐らく、というか絶対『来んのかよ』的な発言。美樹のほうは、あくまで『今田俊平』という存在を知らないからこその発言。

 どちらの気持ちも、実にもっとも。……そしてそんな中俺は、『俊平、来るんだ……』と半ば存在を忘れかけていた頭でぼんやりと思っていた。


「俊平、かわいそうな奴……」


「ねぇ、だから誰なの? お兄ちゃん!」


 本音でなく京が言ったのに、美樹は若干頬をふくらませて聞いた。知らないほうがいいこともあるというのに。悪いが、そう思ってしまった。







「わー、意外と人多いねー!」


 祭会場に辿りつき、賑わっているその様子を見て美樹が大仰に言った。

 まぁ確かに、夜店がまだ準備中なわりには人の行きかいが多く、活気に満ちているといってもいいだろう。俺たちは待ち合わせ場所のベンチに座り込んで残りのみんなを待っていた。


「うぉーい、みんなー!!」


 そして、予想通りと言えば予想通りのこと。やけに不安定な気持ちになる大きな声がここぞとばかりに迫ってくる。


「いやー、遅いじゃんか! 待ちくたびれてまだやってない夜店めぐりし終わってきちまったぜぇ! ま、といっても俺が早く来すぎたんだけどな、アッハッハッハッハ!! ほんと、楽しみだなぁ今日は!!」


 そう言って楽しそうに一人で勝手に笑う目の前の男。見覚えのある茶髪に妙に腹が立つ顔。……美樹は当然疑問符を浮かべているし、俺も序盤からこいつに気力を使い果たしたくない。そう思い、女神とともに黙っていると、京が死んだ目で言った。


「いや、……どちら様でしょうか?」


「ひどっ!! 中学校時代からの付き合いだろ!? マイフレンド、親友だぜ! あ、いや、マイベストフレンドだぜ!?」


「いや、ちょっと……ほんと、そういうの勘弁してほしいんですけど……」


「What!? あくまで知らないふり!?」


 両手を前に出して言う京に茶髪の男は妙に良い発音で叫びをあげた。

 ……どうでもいいが、美樹が面白いぐらいに引いてるぞ、不審者さん。


『最初っからとばしてますねー』


「そうだな、そして空回りしてるなぁ」


 アハハ、とまるでそこいらの女子高生みたいに、俺と女神は笑う。


「うっ、うぅっ……、京がいじめる……」


 そうこうしているうちに、ついに心が折れてしまったようで。地面に座って人目もはばからずに泣き始めた。……実に異様な光景ではある。京が、さすがに言った。


「泣くなよ、俊平。愛だろ? 愛」


「そんな愛いらねぇよぉおぃ!!」


 笑顔で俊平の肩をポンポンと叩いた京に、俊平は振り向いて涙顔で思いっきり叫んだ。まぁ、これもいつものことだなと思う。


『私もきよへの愛なら負けてませんよー』


「はりあわなくていいからさ……」


 ……いつものことです、はい、これも。俺は言い、女神に微笑む。そしてやっと状況が落ち着いた後、空気を読んでいた美樹がおずおずと口を開いた。


「お兄ちゃん……。この人が今田俊平さん?」


 一拍、京が振り向く。そして言った。


「あぁ……残念ながらな」


「何で遠い目するの!? 紛うことなき俊平ですけど!?」


 俊平はガクガクと京を揺すりたてるが、当の本人は光を失った目のまま微動だにしない。可哀想かとも思うが、俊平はこれくらいでは全くへこたれないので大丈夫なのである。


「お、この子が美樹ちゃん?」


『どんだけ立ち直り早いんですか』


 聞こえないのに思わず女神もツッコむほど。俊平はぽかんとしている美樹に目線を向けて言った。……そういえば、友達歴は長いのに今まで一度も家に入れたことがなかったからな。


「いやー、よろしく美樹ちゃん! 京の親友の俊平って言うんだ!」


「まぁ、おおむねそんな感じだ」


「そうだったんだ……。よろしくお願いします、俊平さん!」


 ひたすら嬉しそうな俊平に美樹は丁寧にお辞儀をする。……シスコンかもしれないが、何かムカツクな。

 そう思っていると、美樹は不思議そうに顔を上げた。


「でも、前からの親友らしいのに、私初めて会ったよ? お兄ちゃん……」


「そうだぜ京! お前、いっつも遊ぶときは俺ん家かどっかゲーセンとかじゃねぇか!」


「あぁ……」


 二人の言葉に、俺と京が同時に声をあげる。女神が不思議そうな顔をしてこちらを見ているが、もちろん理由はしっかり存在する。だが今の状況では俺は言うことはできない。だからこそ、京に任せることにする。

 京は口をへの字にして言った。


「うちに妹がいるって言った途端、興味津々になったから、呼ぶのをやめた」


「あ、すんません……」


「…………」


『あらあら、それはまぁ……』


 憮然とした京の態度に俊平はすぐさま平謝り。美樹は無言で俊平と少しだけ距離をおき、女神は口に手を当てて。俺はそんな馬鹿馬鹿しくも笑える光景に、わずかに頬を緩ませていた。







「げっ、……何で今田くんがここにいるの?」


「わぁ、とっても素敵な反応ありがとう」


 その後、少し遅れて他のみんなも合流し始め。最後に来た朱菜が俊平を見るなり言った。いつもツインテールにしている髪を左に一つに括っていて、花の形のピンで留めている。

 葵、緑、深白の三人も艶やかに浴衣を着こなしていた。……こういう姿を見ていると、つくづく思う。『女の子』というものは、服や髪型一つで変わるものなのだなぁ、と。そして、今の俺も他の人にはそういう感じにうつっているかと思うと、何となくこそばゆい気分だった。


『きよってば、何ぼーっとしてるんですかぁ?』


「ん、何でもないよ」


 べたーとくっついてくる女神に軽く笑って俺は言う。何はともあれ、これで今日のメンバーは全員そろったということになる。俊平が満面の笑顔で言った。


「みんな浴衣似合ってるなー。……これだけ可愛い女の子がいると、『両手に花』どころか『全てに花』だよな、京!」


「俺に同意を求めるな、かつ意味分からん、かつ死ね」


「またまたぁ……! 本当はみんなの浴衣姿見て萌え萌えしてるくせにぃ!」


「…………」


「ぐえぇっ! ロープロープ!!」


 京の無言での首絞めが炸裂し、俊平は蛙のようなうめき声をだす。もちろん、みんなは止めない。それどころか、緑がぽつりと言った。


「神谷くん、まさかそんなことを日頃から考えている犯罪者予備軍だったなんて……」


「最低だなー、神谷」


『最低だなー、神谷』


「最低ね、神谷くん」


「…………」


「おいなんでだ!? 何でみんなこいつの言うことを真に受けるんだ!? ねぇ教えて!?」


 追随してみんなからの追撃が飛ぶ。葵は京を指差して笑って言い、女神はわざとらしくそれを真似し。朱菜はわずかに頬を染めて京をにらみ、深白は無言で俺の身体を自分の近くへ引き寄せた(つまり京から離れさせた)。京の悲痛な叫びはいつものごとく無視。

 俊平が一言、言った。


「何か、ごめんな、京」


「…………」


「あはははは」


 自らの人差し指同士をつんつんさせて申し訳なさそうに言う俊平に、京は短くため息をついた。それを見て美樹が朗らかに笑う。きっと、本当の俊平の人となりがわかったのだろう。……こいつは気のいい奴で、今みたいに必要のにところでも何となく謝ってしまうところもあるお人好し。

 ……親友というのは、嘘ではない。


「みなさんいつも通りお元気そうで良かったです! 今日はよろしくお願いします!」


 不意の、美樹の言葉。相変わらず、律儀というか真面目というか。場を和ませる発言に、自然みんなの顔も明るくなったように見えた。


「じゃ、もう祭りも始まるし。……そろそろ行こうか? みんな」


 そして、頃合を見計らっての俺の言葉に、みんなが一様に頷いてくれる。どんどんと賑やかさを増していくお祭りに、無意識のうちにでも気持ちも高まるというものだ。


「行こっか?」


『はい!』


 俺はワクワクと瞳を輝かせている女神とゆっくり手をつなぎ、前を行くみんなを追って歩き出した。

後書き劇場

第三十七回「謝罪」



どうも、作者です。とりあえず今回のは冗談で済まされないレベルの更新停止でしたのでおふざけはなしでいきたいと思います。


まずは、長い間更新を滞らせていたこと、申し訳ありませんでした。理由というほどの大したものではないですが、一応、言い訳としてお聞きいただければ幸いです。


一つ目としては、作者が高校三年になるちょっと前の時期から忙しくなってきて、それが三年生となった今も続いているということです。ですが恐らく社会人のかたのほうが忙しいと思いますので、言い訳になるでしょう。


二つ目、一番これが深刻な理由なのですが。話が思いつかないということなのです。

この言い方はもしかしたら間違ってるかもしれません。ただ単にネタ切れ、というわけではないような気もするのです。それというのは更新が止まる少し前から作者自身が思っていたことなのですが、どうも話がマンネリ化していると思うんです。


停止していたとき、この小説を一から見直して、そうしたら書けるかなと思ったんです。でも見直せば見直すほど後半は同じ展開なような気がして……そのスタンスで書くとどうも次の話も何度書いても同じようになってしまう。そんなことが何回か続きまして、深刻に困っておりました。

自分で納得がいかない、という感じなんです。といっても別に今までの小説がそんな凄いものかというとそういうことではなくて。客観的に見て凄いかはわからないけど、今までのは自分の中の全力は出せてたと思うんです。それが今だと自分でもよくわからない状態になっている、というのが実情です。


長々とごめんなさい。わかりにくい上に見苦しいと思います。ですが、そんなわけなので前みたいに週一回のペースは無理そうです。前までも週一が守られていないときが多々ありましたが。

でもとりあえず完結までは持っていきたいと思います。一応終わりは最初から決まってたんで、打ち切り漫画のように急いで終わらせたりはしないつもりです。


四苦八苦しながらこれからも亀のような更新で書いていきたいと思いますので、付き合ってくださる方はよろしくお願いします。

最後に。ファンでいてくださった方々に何の報告などもなしに更新を停止させていたこと、本当に申し訳ないと思っています。


作者のあとがきでした。

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