転換21「仲良くなるために必要なこと」
どうも、作者です。あ、すいません石を投げないでください。すいません治りました、治りましたからどうかご容赦を。
……ふざけてすいません、ご迷惑おかけしました。
またいつも通りの周期に戻りたいと思いますので、付き合ってくださる方はよろしくお願いします。
かなり間が空いたけど、まだ深白のターンか……(笑)
ではでは、本編へどうぞです!!
翌日。清々しい気分で学校に来た俺だったが、ぶっちゃんの一言により、何とも微妙な気分になった。
「えー。南野は今日、休みだ」
南野、つまりは深白のことだ。昨日の一件があったので、今日はどんな反応をしてくれるか楽しみにしていたのに。周りからも『珍しいな』とか、『今まで一回も休んだことなかったのに』などと聞こえてくる。
俺は少しだけ、不安になった。ただの風邪だとは思うが、何故か心配になる。……そんなモヤモヤした思いを抱えながら、俺は今日の授業を流し聞きしていた。
「おーい、ちょっといいか? 神谷」
「? ……はい」
そしてそのまま放課後。俺はぶっちゃんにふと呼び止められる。俺が招かれるままに教卓の前まで行くと、ぶっちゃんは眼鏡のズレを直しながら言った。
「今日、南野が休んだだろ? プリントを、家まで届けてくれないか?」
薄いプリントの束を重ねながら、今度はネクタイを手で弄くる。そんなせわしない様子に俺は苦笑する。そして、内心で『丁度良い』と思いつつ、返答した。
「私でよければ」
「ありがとう、これは住所だ。……それで、だな」
「?」
プリントを受け取った俺に対して、ぶっちゃんはまだ何かの話があるようだった。しばし唸るように考え込むと、訳が分からない俺を見つめて、言った。
「プリントは実は建前でだな……。南野の見舞いに行って欲しいんだ」
「お見舞い、ですか?」
ぶっちゃんは『うん』と首を振って頷く。……そもそも俺は深白のことが心配だったので、別にお見舞い自体はいいのだが。
「でも、ご両親がいるんじゃないですか?」
率直な俺の疑問。当たり前だが、普通なら家に両親がいる。そんな状況で俺が見舞いに行ったら、邪魔になるのではないかと思ったのだ。するとぶっちゃんは俺のそんな思いを察したのか、『そこなんだよ』という風に言う。
「南野は、アパートで一人暮らしなんだ」
「……そうだったんですか」
「本当なら俺が行ってやりたいんだが、俺は教師だし男だ。……お前の方が適任だろう。頼まれてくれるか?」
「はい、わかりました!」
申し訳なさそうなぶっちゃんの態度。別にぶっちゃんは何も悪くないのだが、それがぶっちゃんらしくもある。俺は個人的な気持ちもあって、この心優しい教師の頼みを快く引き受けた。
「ここか……」
紙に書かれている住所を見直して、俺は一人呟く。深白の家はぶっちゃんの言っていた通りアパートで、しかも若干古かった。階段は所々寂れていて、それがそこはかとない雰囲気を醸し出していた。
俺は入り口の住人表を見て、二階部分に南野の名前を発見する。その通りに階段を上っていく。ギシギシ、という音が嫌に高く響いた。
俺は扉の前まで来ると、チャイムを鳴らす。小気味よい音が辺りに響き渡るが、一向に誰も出てくる気配は無い。俺は今度は、アパート特有の分厚い壁を叩きながらチャイムを鳴らした。同時に、声も上げる。
「深白さーん! 神谷だけどー!」
そのまま呼びかけを続けると、ふと扉が内側から開かれる。そこには、パジャマ姿で顔を真っ赤にしている、深白の姿があった。
「……何しに来た」
「プリントを届けに。あと、お見舞い」
深白の辛辣な問い掛けに、俺はにべもなく言い放つ。……ぶっちゃんと同じように、わざとお見舞いをついでにした自分が可愛らしかった。深白は苦しそうに一回咳をすると、それでも強気な目線を崩さないで俺を睨んだ。
「帰れ」
「うわ、すごい熱。お邪魔するね」
「お、おい!」
素っ気ない態度をされることは、今の俺にはもう分かっていた。だから気にせず深白を連れて、部屋の中に入った。
……少々強引だが、これぐらいはしないと深白は大人しくしてくれないだろう。
部屋に入って、俺は少し驚く。一人暮らしで尚かつ深白の性格なら、部屋の中は多少なりとも散らかっていると思ったのだ。だが実際にはそんなことはなく、深白の部屋は清潔感に溢れていた。
ただ、床に敷かれたままの布団が、深白の体調の悪さを現していた。
「プリントを置いたら、帰れよ」
「出来ないよ。深白さん、辛そうだもん」
「…………」
「ほら、今にも倒れそう。寝てていいよ」
立ちながらフラフラとしている深白に、たまらず俺は言う。深白はさすがに辛いのか、素直に俺に従い布団を被った。
「ごめん、ちょっと探すためにあさるかも」
深白はそれに、何も答えない。無言の肯定なのか、それとも苦しくて喋る気力がないのか。わからないが、俺はとにかく探した。そして俺は棚からタオルを、風呂場から桶を発見した。
氷嚢は無いが、代わりなら俺にも出来る。俺は桶に冷たい水を入れタオルを浸し、それをきつく絞る。そしてそれをそっと、横になっている深白の頭に乗せた。
その冷たさに深白は一瞬びくりとするが、しばらくするとその気持ちよさに、目を細めた。
「寝てていいよ?」
「ぅ……」
俺は努めて穏やかに、安心させるように言った。深白は俺に何かを言おうとしたが、やがて眠気に負けるように静かに目を閉じた。
「ん……」
「あ、起きた?」
それから一時間ぐらい経った頃。すっかり眠ってしまっていた深白が目を覚ます。対して俺はというと、台所にいた。あの後俺は深白が寝たのを見届けた後、何か作ってあげようと買い物に行っていた。
そしてちょっと前に帰ってき、簡単なおじやを作っていたのだった。美樹や母さんに日頃習っているだけあって、自分でもなかなかの出来だと思う。味噌のいい匂いが、鼻孔をくすぐるようだった。
「……帰れって言っただろ」
不意に、後ろから声をかけられる。起きた深白はまだ顔が赤くて、苦しそうだった。だがそれにも増して、敵意を感じる。今までで一回も感じたことのないような、先程までとは全く違う態度。
俺は怪訝に思いながらも、出来たおじやをおぼんに乗せる。
「だからほっとけないって。……勝手だけど、おじや作ったよ?」
「……!!」
深白はそれに何故か、苦虫を噛み潰したような顔をする。俺は見ない振りをして、深白のもとまで運ぶ。
「深白さん、一人で食べられる? 食べられないんだったら」
「うるさいっ!!」
俺が白いレンゲを持って、笑みを浮かべて言ったときだった。持っていたおじやが、おぼんごと宙を舞った。
「え……?」
それは、前にも言われた言葉だった。『うるさい』、……拒絶の言葉。おじやは俺や深白にはかかなかったものの、脇の床に中身をぶちまけ、無惨に転がっていた。深白は、自分自身で驚いたような、そんな表情をしていた。
一瞬、意味がわからなかった。自分は嫌われてはいないのだと、徐々に仲良くなっているのだと、勝手に思いこんでいた。……だが、その結果がこれだ。おじやのいい香りは、今や皮肉なものでしかない。
「……っ」
じわりと、涙が目に滲んだ。それを見られたくなくて、俺は立ち上がって一気に振り返る。そうして、ぶちまけられたおじやを片付けないままにして、俺は部屋を後にした。
「……はぁ、はぁっ」
家に帰り、誰の顔も見ないままに一目散に自分の部屋まで駆け込む。バタンと、乱暴すぎる音が響いた。俺はベッドに勢いよく倒れ込む。
「あーもうっ! 何だよあいつ!!」
感情のまま、深白への怒りを叫びにする。
「せっかく人が、あんな……」
一人よがり。そんな言葉が頭に思い浮かんで、俺はまた涙が落ちるのを感じた。そうだ、何が一番嫌だったのか。仲良くなれたのだと、自己満足していた自分が一番、嫌だったのだ。
深白にとっては、迷惑なだけ。その事実は、俺の心に容赦なく痛みを与えた。
『……きよ』
「……!」
不意に、女神が目の前に現れる。俺は涙を拭いながらそれを見上げる。女神は、少し怒ったように言った。
『だから、私言ったじゃないですか』
「……うるさい」
女神の咎めるような言葉。いつもなら笑顔で反応できるのに、どう考えても今は無理だ。俺は顔を背ける。
『仲良くなろうとして話しかけて。……それできよが泣いているなんて、おかしいです』
「……!!」
『ねぇ、きよ。やっぱり……』
「うるさいな!! 女神には関係ないだろ!?」
ハッと、言ってしまってから気付く。これは、八つ当たりだと。深白のことを頭にきておきながら、何ら変わりはないことを俺は今、してしまったのだ。
女神のこんなにも悲しげで、泣きそうな顔を、俺は今まで見たことがない。
『きよのバカ!!』
「あっ、女神……」
言うやいなや、すっと目の前から消えていく。……残ったのは、俺だけ。
「何、やってるんだろう。俺……」
しばらく、呆然とベッドに座り込んでいた。すると、ドアがゆっくりと開かれる音がする。
「男口調……、下まで聞こえてたぜ?」
京だった。その表情は明るく、冗談混じりのその言葉は、それが前置きであるように聞こえた。
「女神、泣いてたぞ」
「…………」
京の口から発せられた言葉は俺の肩に重くのしかかり、俯かせる。京はゆっくりと、俺の隣まで歩み寄ってくる。
「別に俺はお前を責める気はなねぇよ。ただ、まぁ……」
そこまで言って、京は俺の背中を優しく二、三回叩く。そして、微笑みを浮かべて言った。
「あんま、背負い込むなよ? ……女神も、頑張りすぎてるお前見て、心配したんだよ」
「京……」
いつものふざけた態度とは違う。包み込むような表情。俺は自分を弱いと思いながらも、更に涙を溢れさせていた。
……涙腺がゆるくなったのは、一体何のせいだろうか。
「うん、……ありがとう」
「まぁ、やれるとこまでやってみろよ」
京はニカッ、と笑うといつもの調子で元気づけるように言った。俺はやはり、誰かに甘えているところがあるかもしれない。
強くなりたい、と素直に思った。
後書き劇場
第二十三回「サブタイ、気にしてる?」
どもです、作者です。
今回の話はですねー、まぁお約束と言えばお約束? そう簡単に墜ちない深白ということですね(え
いや、そういうことを言いたいんじゃなかった!
まぁ、タイトルの方に書いてますが、今回のサブタイトル。『仲良くなるために必要なこと』。これは濁して、『喧嘩』という意味を含ませたかったんですよー……。ほ、ほら! 喧嘩するほど仲が良いっていうじゃないですか、あの、ほら……!!
伝わりませんよね、すいませんorz
まぁ、アレです。作者結構サブタイ付ける時、凝るときは凝ります。でも、適当な時は適当です。プロローグのサブタイとかね(笑)。皆様が、これを読んで少しでもサブタイを気にしてくれれば嬉しいです。いや、そうしたら手抜きの時バレるような……(え
まぁ、見てくれるだけで十分嬉しいですけどね! 今回のことをちょっと言ってみたかっただけなので、頭の隅にでも追いやってください(笑)
深白との出会い編も、あとちょっとですね。後もう少し、お付き合い下さい!
では、以上! TARでした!!