転換16「子供だからって、調子にのるな!!」
どうも、作者です。
更新が遅い作者で本当に申し訳ないと思います。あぁ、執筆が早い方が羨ましい……orz
まぁ、作者が他のものをちょくちょく書いているっていうのもあるんですが(死)。嘆いても仕方ないので、頑張っていきたいです(笑)
今回は、ちょっとだけイヤンなシーンがあったり、なかったり(どっちだ)
ではでは、本編へどうぞ~♪
「ただいまー」
「ただいま」
見慣れた玄関を開け放ち、俺と京の声が我が家に響く。そしてそれと同時にリビングから母さんの声と、知らない女の人の談笑の声が聞こえる。
……どうやら、誰か来ているらしい。
「あら、京、きよ。お帰りなさい」
「こんにちは」
そのまま、いったい誰だろうと静かにリビングに入る。俺たちが帰ってきたことを知ると、母さんはやっとそれに気付いて声をかけた。ソファーに座っている女性もカップをテーブルに置き、程なく挨拶をしてくる。
「こんにちは」
「まぁ、礼儀正しいのねぇ」
慌てて俺たちがお辞儀をすると、女性は口に手を当てて上品に笑う。その一連の仕草に、何故だか俺は顔が赤くなってしまう。
思うに母さんの友人だろうから、母さんと同年代だと思うのだが……。
柔らかい雰囲気を持っていて、とても若々しい綺麗な中年の女性だった。
「……んじゃあ、俺たち上に行ってるから」
「待ちなさい、京。……浩人くんと遊んでやってちょうだい?」
話し込んでいるのだろうと思った京が、無愛想ながらも再度礼をして俺に目配せをする。俺も邪魔をしないようにと、それに小さく頷いて部屋を出ようとするが、母さんがそれを慌てて止めた。
……何か、誰だかわからない名前が飛び出したな。
「母さんたち、ちょっとお話ししてるから。……その間、二人で遊んであげて? 本当なら美樹が適任なんだけど、まだ帰ってきてないし」
「ごめんなさいねぇ。頼めるかしら?」
女性はそう言うと、黒い髪をした男の子を手招きして自分の前に立たせる。そして、姿勢をきちんと正させて俺たちに紹介した。その男の子は小学校低学年くらいであろう小さい子で、背丈は今の俺の胸程度までしかない。俺たちの視線を受けて、緊張したようにシャツの袖を掴む仕草は、年相応で純粋に可愛らしい。
「……まぁ、俺はいいけど」
「私も構いません」
続けて、京と俺が軽く返事をする。
……まぁ、どうせすることもないし、子守りくらい大丈夫だろう。それに、大人しい子みたいだし。
「ありがとう。……さ、浩人。お兄ちゃんとお姉ちゃんに挨拶なさい」
女性はそれに嬉しそうに微笑むと、男の子の頭を優しく撫でて促した。それに顔を一瞬だけ俯かせると、男の子はもじもじと身体を揺らしながら、挨拶をした。
「よ、よろしくお願いします……!」
俺たちはそれを見て顔を見合わせ、微笑ましさに顔を綻ばせた。
とりあえず今は俺の部屋は(表面上)女の部屋なので、この子は更に緊張するだろう。……ということで、俺たちは男の子を京の部屋に連れてきた。
「…………」
「あのー、浩人くん?」
だが、それでもまだ駄目なようで。先程から顔を俯かせて、一言も喋らない。こういう子は人見知りが激しいから、打ち解けるまでが難しい。その分、そうなればすぐに懐いてくれるのだが。
「んな怖がんなって。別に何もしねぇよ」
京が柄にもなく優しく語りかける。
「本当に?」
「あぁ」
おずおずと上目遣いに言った浩人に、京は微笑みながら言った。
……なかなか、子供の扱い上手いな。 俺がそんな風に若干感心していると、浩人は京の言葉にいきなり顔を上げる。
「……ありがと」
そして例えるならニヤリと、とても子供がするものではない笑みを浮かべて言った。 俺と京が浩人のいきなりの変貌に動揺していると、その笑顔を満面の笑みに変えて、おもむろに俺に抱きついてきた。
「えっ!?」
「お姉ちゃん、綺麗だね~」
そう言ってまるで猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らして顔を寄せる。京はあまりにも予想外の出来事にポカーンと口を開けたままだ。
「ちょっ……、浩人、くん……!?」
もちろん俺だって驚きはある。だがそれよりも今、俺にしがみついて離れないこの少年をどうにかすることの方が先決だ。俺は赤く上気した顔で、必死に引き剥がそうとする。
「うわ~、いい匂い~」
だが俺の手を逃れるように浩人は更に強く抱きついてきた。そしてふいに、胸の辺りで顔をこすりつけてくる。
「ひ、浩人くふぁっ、や、めなさい、ひぅっ」
「っておいおい! 何やってんだそこのガキ!!」
途切れ途切れになってしまった俺の注意の代わりに、京が我に返ったように慌てて叫ぶ。それに浩人は京の方へ顔だけ向けると、笑顔で言った。
「なーにー? お兄ちゃん?」
その表情は天使のようで、ひたすらに無垢だ。だがその手はどことなく嫌な動きで、さっきから俺の、その、変なところばかりを触っているように思える。……あ、あまり言いたくないのだが。
京もそれに気付いたようで先程の微笑みから一変、呆れたような目を向けている。
「……とりあえず離れろ」
「えー?」
言葉と共に、京が浩人の首根っこを掴んで俺から引き剥がす。浩人は掴まれながら、それに不満そうに頬を膨らませた。
「お兄ちゃん、何もしないって言ったのにー」
「前言撤回だ馬鹿やろう。お前さっきまでの、あれ演技だな?」
「うん、まぁねー」
子供特有の妙に間延びした声で、浩人は隠すこともなく言った。そして驚いている俺、溜息をついている京を順番に見やると、まるで種明かしをするかのような邪気のない笑顔を浮かべた。
「そうしていれば、みんな優しいもん」
「そんな笑顔で言われても……」
俺は思わず苦笑する。ここまで堂々とぶりっこを明言するのはある意味珍しい。京はベッドにぼすっと座りながら、疲れたように両手を上げた。浩人は、なおもニコニコ顔だ。
「あと僕、女の人大好きだから」
「本能に忠実すぎる」
にべもなく言った浩人に、京は渋い顔で腕組みをしながら言った。何となく俺もベッドに座ると、浩人が眼を輝かせながら突進してくる。
……思ったより、速い。
「だから、お姉ちゃんも好きー!」
「あのね、浩人くん……。そんな理由で女の人を」
「お姉ちゃん、お胸小ちゃいねー?」
「なっ!!」
俺の精一杯の注意を聞かずに、浩人は無垢な瞳でもの凄く失礼なことを言ってのけた。俺が男でも、どうしようもない恥ずかしさが襲ってくるほどだ。……何故だ?
俺は真っ赤になって、口をパクパクとさせていた。マセガキとは、こういう子のことを言うのだろう。
「確か、揉むと大きくなるんだよね?」
「え? ひぁっ!」
訂正。マセガキではなく、エロ親父だこいつは。……思わず悲鳴を上げてしまったのが悔やまれる。葵の数十倍、ねちっこい……っていうかお前本当に小学生か?
俺はさすがに叱ろうとするが、浩人の後ろに京が仁王立ちでいるのが目に入り、手を止める。
「やめんかエロガキ!!」
同時に、ズビシと右手で浩人の頭にチョップをかます。浩人の身体がわざとではなく勢いよく俺に倒れ込む。
そして、しばしの沈黙の後、両手で頭を抑えた浩人が大声を上げた。
「うわぁあん! 痛いよぉー!!」
……あぁ、くそ。卑怯だぞ。
俺はバタバタと階段を駆け上がる音を聞きながら、素直にそう思った。
「……京。大人げないと思わないの?」
「あの、お母さ」
「きよは黙っててなさい」
「はい……」
一階、リビング。あの後俺たちは浩人の演技にまんまとしてやられ、『お兄ちゃんが何にもしてないのにぶった~』という浩人の言葉を信じ込んだ母さんに、逆に叱られていた。俺たちというのは語弊があるかもしれない、正確には京だ。
「…………」
その京はというと、先程からぶすっとしたままだんまりを決め込んでいる。……まぁ、当然と言えば当然だが。
俺がフォローしようと思っても、無駄なようだった。
「京? 黙ってないで何とか言いなさい」
「まぁ、もういいじゃないの。きっと何か理由があったのよ。……理由もなしに怒るような子じゃないでしょう? 京くんは」
語気を強くする母さんを、女性が微笑みながら宥める。
「……ふぅ。仕方ないわね。でも、京。何かあったとしても、大人なんだから優しく注意しなさいよ?」
「……わぁったよ」
京の様子に、母さんは『仕方ない』と京を釈放する。京は悔しそうに返事をし、泣いているふりをしている浩人を連れて、三人で部屋へ戻った。
「あー、痛かった。幼児虐待だよー? お兄ちゃん」
「うるせぇクソガキ。……くだらない泣き真似しやがって」
部屋に入るなりピタッと泣き止んだ浩人に、京は不機嫌も露わに言う。俺もさすがに少しやりすぎかな、と思う。反省している様子が見られない浩人に、少しきつめに言った。
「浩人くん。……今度ああいうことしたら、怒るよ」
それを聞くと、浩人は少し驚いたように目を見開く。だがしかし、すぐに先程の笑みに戻ると、俺に抱きついて言った。
「ああいうことって、こういうこと?」
「てめっ、ガキ……!」
「こ、のっ……!」
そのまままたへばりついてくる浩人に、俺は今度こそと手をグーにして振りかぶる。だが、浩人は少しも焦らずに言ってのけた。
「また、怒られるよ?」
「うっ……!」
「ぐっ……!!」
その言葉に、俺、京のどちらともが止まる。そうだ、どんに中身が変態エロガキであろうと、外面は素直で内気な男の子。手を出せば、こいつの演技力じゃ俺たちが不利になるだけなのは自明の理。……さっきと同じことになってしまう。
俺たちがそれに気付いて何も出来ずにいると、浩人はそれをわかった上で微笑んだ。
「子供って、いいねー」
「くぁっ、この……!」
……このガキ、本気で殴ってやろうか? 俺の心の中で天使と悪魔が激しく拮抗している、その時だった。
『ちょっと家を空けてれば……、何ですか? このガキは』
声と共に、浩人が俺の身体から引き剥がされる。腰までの長い金髪に、羽衣のような神秘的な布を身に纏った女性。その端正な顔立ちは、今や不快に染まって浩人を睨んでいる。
「女神!」
京は何故かガッツポーズをしていた。俺は呆然としている浩人を尻目に、ぐりぐりやらで乱れた衣服を直しながら、その名を叫んだ。女神はそんな俺を見て、何故か息を荒くしながら言った。
『きよ、……あぁ。こんなガキに蹂躙されて、頬を紅潮させて可愛い目には涙を溜めて、呼吸は乱れてるわ服も乱れてるわで。こんなことなら私が先に食っておけばよかったー!!』
「待て待て待てー!! 何もされてないよ! ていうかお前は俺を一体どういう方向へ持って逝きたいんだー!!」
女神の赤裸々な告白に、俺は芯まで真っ赤になって怒鳴りつける。京は、少し顔を赤くして苦笑していた。……ちなみに、持って逝くの『逝く』は、間違ってないぞ?
「綺麗なお姉さんだ……」
ふいに、浩人が女神を見て呟く。……まぁ、女神は見た目だけならトップアイドル、いやそれ以上のものを持っているのだから、気持ちはわからなくもないが。
って、そうじゃないだろ俺! ……こいつ、女神が見えてる!?
「わーいぶっ!」
『寄らないで下さいー』
懲りもせずに突進していった浩人を、女神はその細い腕で易々と頭を押さえつけて止めた。他の人に見えない女神が何でこいつに見えるかはわからないが、女神は容赦しない。笑顔が、今は頼もしい。
『きよを触りやがってこのエロガキ……! それに私の存在に気付いて、触っていいのはきよだけです!』
「あれ? 俺は?」
京の切ない呟きを無視して、女神はそのまま浩人のおでこにデコピンをかました。
……泣く、浩人。
「どうしたの? 浩人くん」
すぐに先程と同じように母さんと女性が駆けつけてくるが、先程と状況は少し違う。
「あの、あのお姉さんが……!」
「? ……きよちゃんのこと?」
「違うよ、そうじゃなくて……」
浩人は必死に女神のことを指差すが、当然二人には伝わるわけもない。……そう、見えなくて当然なのだ。見えるはずはない。
「本当だってば! ……ここにお姉さんが」
「誰もいないわよ。……変な子ねぇ」
よって無情にも味方は去っていき、後に残ったのは笑顔の京と、女神、俺。浩人は心底訳がわからないようで、顔面蒼白だった。
目には目を、歯には歯を。理不尽な攻撃には、理不尽な仕返しを。
「お、お姉ちゃ……」
『きよに触るなエロガキ』
助けを求めるように俺に近寄った浩人に、無慈悲にも顔面に蹴りを入れる女神。まぁさすがにかなり手加減してあるが、浩人をこれ以上俺に近づける気は全くないらしい。……いくら小利口なガキでも、やっぱり子供は子供だ。
先程の京と同じ。理不尽な思いを感じて、目にいっぱい涙を浮かべている。偽物ではなく、本当の涙を。……少々可哀想だが、自業自得である。
浩人が京に弱々しく振り向くと、京はこれでもかというぐらいの白々しい笑顔を浮かべて、『ん?』と言った。浩人の目からぶわっと、一気に涙が溢れる。
「うわぁあんお兄ちゃあぁああん!! ごめんなさぁああい!!」
「わかればよし」
俺や女神ではなく自分の元へ泣きながら向かってきた浩人を、京は納得したように頷きながら、快く迎えた。
京に抱きついてわんわんと泣いている浩人を見て、女神は俺に抱きつきながら言った。
『一件落着ですね、きよ』
「……お前も離れろよ、エロ女神」
『私はいいんですよ、女神だから』
ジト目で言った俺に、女神が砕けた笑顔で言う。それに横から『自分で言うな』と京の苦笑しながらのツッコミが入り、ぷっと吹き出した。
やっと改心した浩人がそれ以来京を慕い、度々家を訪れるようになったのだが。
……それはまた、別のお話。
後書き劇場
第十六回「子供の頃はお気楽だ」
どうも、作者です。今回はよくあるエロガキの話を書きましたが、実際こんな子供っているんですかね(笑)
子供の頃って、もっと純粋ですよねー。作者もそうでした。それがいつの間にか、ただの変態に……orz
女神『元からじゃないんですか?』
すいませんでした(汗)
きよが声を上げたのは、もちろんくすぐったかったからですよ? 決して気持(強制終了
というか『京を慕うようになって』とか書いたけど、出番あるのかな(え
では、御意見、御感想いつでもお待ちしております!
ありがとうございました! TARでした!!