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転換12「アトラクションと夢の時間」

どうも、作者です。

更新が本当に亀のように遅くなってしまい、申し訳ありません!

どうか、生暖かい目で見守ってやってくれると嬉しいです。

それでは、本編へどうぞ~。

 賑やかな夜の食卓。俺たちは全員揃って、家族の団欒を楽しんでいた。

 俺が鮭の塩焼きを口に頬張っていると、ふと父さんが言う。


「そういえば、明日はみんな暇か?」


 何の前触りもなく、いきなりの言葉。俺も含め四人ともが、不思議そうな顔をした。……いったい、どうしたというのだろう。


「予定は無いけど、いきなりどうしたんです? あなた」


 目をぱちくりとさせ、母さんが父さんのグラスにビールを注ぎながら答える。

 ただ透明だったグラスに、黄色い液体が泡とともに並々と注がれていく。父さんはそれに『おぉ、ありがとう』と言うと、今度は俺たちに向かって問い掛けてきた。


「三人はどうなんだ?」


「私は別にないけど……」


「俺もないぜ」


「私もないです」


 一旦箸を置き、一律、答える俺たち。父さんはそれを聞くと『ふむ、そうか……』と呟くように言って、ビールをくいっ、と流しこんだ。


「……で、一体何なんだよ!」


 痺れを切らした京が父さんを若干睨みながら問い詰める。俺たちも程なく視線を向ける。

 すると父さんは、ニカッと白い歯を輝かせて笑うとよく通る大きな声で言った。


「みんなで遊園地に行こう!!」


「…………」


 その言葉に、みんなが一斉に黙り込む。……少しだが、場がしらけたような感じもあったと思う。父さんはてっきりみんなが喜ぶとでも思ったのか、一人驚いた顔をしていた。


「あ、あれ? ……駄目だったか、これって!」


「いや、駄目ではないけど……」


 父さんがまるで子犬のように寂しそうに言った言葉に、京が宥めるようにとりあえず返す。


「何でいきなりそんなこと言ったの? お父さん」


「そもそも、そんなお金どこにあるんです?」


 無垢な瞳をしながら、純粋に理由を聞く美樹と、腕組みをしながら目を細めて聞く母さん。

 ……血をわけた親子でありながら、実に対照的だ。


「まぁまぁ、まずは話を聞こうよ」


 俯いて、可哀想なくらいにしゅんとなっている父さんを庇って、俺が言う。父さんはそれを聞くと、わかりやすい泣き真似をした。

 泣き真似というと『本当は泣いていないのに泣いているふりをしている』ということを普通は思い浮かべると思う。……だが、父さんの場合はその広義からは少し外れる。父さんの場合、それは『本当は泣いていないのに泣いているふりをしていると本人が思っているだけで、目尻には無意識ながら涙が浮かんでいる』というものなのだ。長い上にかなりわかりにくいと思うが、噛み砕いて言うと泣いてるのに自覚していないということだ。


「うぅ、ありがとうきよ。さすがは父さんの娘だ!」


 そんなお茶目(?)な父さんはそう言うと、ガバッと抱きついてくる。父さんの癖も最早慣れっこだが、ヒゲがちょっと痛い。……でもそれ以上に、また家族として扱ってくれることが、嬉しかった。


 ……何か俺、この身体になってから人の温かさに弱くなったような気がする。


「何言ってんですかお父さん。……私の娘です。あとセクハラですよ」


 そう言って父さんから、有無を言わさず俺を自分のもとへ寄せる母さん。


「あはは、私のお姉ちゃんだもーん!」


 美樹もそう言って、一緒に抱き付いてくる。性格的に一人だけ取り残された京は、少し寂しそうにこう言った。


「お、俺は何て言えばいいんだ!?」


「いや、別に言わなくていいよ」


 俺がそう言って、みんなで笑った。

 父さんが言うには、会社の同僚からチケットを貰ったらしい。……持つべきものはいい同僚、とでも言ったところか。こうして、俺たちは明日遊園地に行くこととなった。













「いや~、いい天気だな~!!」


 翌朝の午前十時。青空の中、父さんが言う。確かにその通り、今日は絶好の外出日和で、太陽が眩しく輝いていた。青く澄んだ空に雲がのんびりと浮かんでいる。


「そうねぇ、何だか気分も良くなるわ」


 古風に麦わら帽子を被った母さんが、笑顔で言う。俺たちはもう入園を済ましていて、入り口近くの広場にいた。ちなみに、ここの遊園地の名前は『ネズミーランド』らしい。……何も質問は受け付けないからな、言っとくけど。


「じゃあ、六時ごろここに集合だぞ!」


 出し抜けに、父さんが言う。それにみんなが怪訝そうな表情を浮かべると、父さんは少し照れたように頭を掻いた。


「いや、私たちは久しぶりに夫婦水入らずで……、な?」


「まぁ、あなたったら……」


 ぼそぼそとそう言って、二人して顔を赤らめる。


「全く、いくつになってもバカップルなんだから……」


 美樹がやれやれと、けれどもどこか微笑ましそうに言う。俺と京もそれに笑い、『バカップル』を尊重し俺たちは三人で行動することにした。












「~~~~」


「楽しそうだね? 美樹」


 三人の先頭を、鼻歌を歌いながら歩く美樹に俺はくすり、と笑うと何気なしに問いかける。美樹はそれを聞くと振り返り、満面の笑みで言った。


「だって……、夢だったんだもん! お兄ちゃんとお姉ちゃん、どっちともとこういう所行くの!!」


「……ったく。そんくらいではしゃぐなよな」


 横を向きながら、『恥ずかしいやつ』と事も無げに言う京。だけど、どこからどう見てもバレバレである。……にひひ。


「京? ……耳まで真っ赤になってるよ?」


「えっ!?」


 俺が意地悪く言った言葉に、京は思いっきり動揺する。そして、それに気が付いた美樹が更に追い討ちをかける。


「お兄ちゃ~ん? 嬉しいなら嬉しいって言ってもいいのに~!」


「う、ぐ……!!」


 あからさまに狼狽する京。俺たちは、まるで子供のように手を叩きながら、京を野次ることにした。……久しぶりに、悪い心が働いたんだろう、きっと。


「ツーンデレ! ツーンデレ!!」


「ツーンデレ! ツーンデレ!!」


「違うつってんだろうがぁ!!」


 顔を真っ赤にさせて叫ぶ京は、見ているだけでも面白かった。

 ……まぁ、実を言うと俺もかなり嬉しかったのだが。そこはそれ、内緒にしておくのが吉である。


「それはともかくとして、二人とも! あれ乗ろうよ!!」


 唐突に切り出した美樹の言葉に、俺たちはそのまま指差された方向を見る。……そして、同時に言葉を失う。

 美樹が指差した方向には、客を乗せて猛スピードで、今まさに直滑降している機体。

 ……ここまで言えば、もうお分かりだろう。そう、もちろんジェットコースターだ。


「面白そうだし、ね! 乗ろう?」


 本音を言うと、遠慮願いたい。かなり、遠慮願いたい。

 俺(この場合当然京もだが)は、実はジェットコースターは大の苦手なのだ。ジェットコースターというか、俺は基本的に高い所で激しい動きをするアトラクションが苦手だ。高所恐怖症なのかどうかは自分でははっきりわからないが、そういった類のものが苦手なことだけは確かである。


 ……だが、こんなにはしゃいでいる美樹を前にして『苦手だから……』と言って断るのは、兄として(いや、姉として?)非常に情けない。

 しかも、ついさっきあんな嬉しいことを言ってもらった直後だ。妹の夢を叶えてやる義務が、俺たちにはあるはずだ! 俺と京は、勇気を振り絞って美樹に言った。


「乗ろう!!」


「うん!!」












「うわー、何かドキドキするねー!」


「そ、そうだね……」


 やっと順番が回ってき、座席でセーフティベルトを締めた美樹がニコニコと笑顔で言う。そんな純真な美樹に、俺は引きつった笑顔で同意する。……まぁ、『ドキドキ』の意味が俺と美樹では天と地ほど違うのだが。知らぬが仏というものだ。

 ちなみに京は俺たちの前の座席にいるが、先程から一言も喋らない。『すでに昇天してしまったのではないだろうか?』と思うほどで、少し不安だ。


「うぁっ!」


 ガタンと機体が動いたその振動に、俺は情けなく悲鳴を上げる。


「いよいよだねー!」


 美樹はそれを全く気にすることもなく、ひたすらに楽しそうだ。こちらはもう満身創痍だと言うのに、言葉の終わりに『♪』が付きそうな程だった。

 そう言っている間にも機体はどんどんレールを上っていき、だんだんと傾いていく。開けていく世界が、俺にはより一層の恐怖を誘っているように思えた。

 そして、丁度折り返しの地点まで来て下の様子が見える。『ガキン』とレールと機体を繋ぐ音が鳴り、その後一瞬の静寂が辺りを包んだ。


 ……ハハハ、見ろ! 人がゴミのようだ。


 刹那、一気に機体が動き出し、恐ろしい程のスピードでレールを下り始める。


「~~~~~っ!!」


 俺と京が、同時に声にもならない悲鳴を上げる。この下半身からくる、浮くような感覚がたまらないらしいが、苦手な奴にはそんなもん知ったこっちゃない。


 ……召されるぅぅぅ。


「ひゃー、すごーい!!」


 隣からの楽しそうな悲鳴。顔を向ける余裕などなかったが、きっと美樹だろう。


 喜んで、もらえ、たようで、何、よりです……。





「よー、きよ。青ざめた素敵な顔してんな」


「お前こそ。死んだ魚のような目してるぜ」


 地獄の時間が終わった後、俺と京は魂が抜けたように二人して無機質に笑い合った。


「じゃ、次行こっか!!」


 すると、トイレから戻ってきた美樹が笑顔でぐっと握り拳をつくって言う。

 ……マジですか?


 結局、その後も俺たちは様々なアトラクションに付き合わされることになったのだった。













「あー、楽しかった!!」


 もうすっかり日も暮れた遊園地内。満足気な表情で美樹が言う。心なしか、肌の艶が増しているようにも感じた。


「あー……」


「うー……」


 それに京と俺は死んだような、赤ちゃんのような言葉にならない言葉を返す。何だか、今日一日で一気に老けたような気がする。

 ……まぁけど、楽しかったことは楽しかった。美樹はほんとに楽しんだようだしな。俺と京は、顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。このくらいで楽しんでもらえたなら、お安い御用だ。


「あ! あれ、何だろう?」


「えっ!?」


 美樹の言葉に俺たちはさすがに、『またか』と焦る。しかしそこには、紫色のテントみたいな物に看板がかかっている、どう考えてもアトラクションではないものがあった。

 ほっ、と胸を撫で下ろす。


「占いの館…だって! 入ってみようよ!!」


 美樹が振り向きながら言う。ジェットコースターに比べれば、占いぐらいなら別にいいだろうと思い、俺と京も頷いて中に入っていった。

 中は壁(といってもテントなので布だが)につけられた怪しげな青のライトと、お香のような匂いに包まれていた。中央には赤い布がかけられたテーブルと、それを挟むように二つのアンティークな椅子があり、上にはいかにもな感じの綺麗な水晶玉があった。


「……いらっしゃい」


 テントと同じ、紫のローブを身に纏った老婆が、しわがれた声で言う。俺たち三人はその言葉にまだやっていることを確信すると、テーブルまで行く。老婆は不思議な雰囲気を纏っていて、まるで漫画かアニメにでも出てきそうないかにもな占い師だ。


「占ってください!」


「一回二百円だよ。……誰からだい?」


 ワクワクと言った美樹の言葉に、老婆は小さく言った。安いな、と俺は思う。……大抵こういう大型の施設の時は、何でも高いもんだが。……まぁ、安いんならそれでいいけど。


 好奇心旺盛な美樹は『私から!』と言って椅子に座った。


「では、始めるかね」


 老婆はそう言うと、水晶玉に手をあてて、静かに目を閉じた。そしてよく言われるように、念を込めているように低く唸り、しばらくしてから目を開けたあと、優しく言った。


「良好だね。……何かの大災害にあうわけでもなし、重い病気にかかる心配もないね。努力次第でいくらでも良い人生が送れるよ」


「本当ですか! やったー!!」


 老婆の言葉に、美樹は素直に喜ぶ。俺はあまり占いを信じてはいないが、良いのならそれに越したことはないだろう。


「じゃあ、次は……、そうだなー!! きよさんとお兄ちゃんの、相性占い!!」


「え!?」


「……マジかよ」


 俺と京は、出し抜けの言葉にびっくりする。だが美樹はそんな俺たちには構わず、半ば強引に椅子に座らせると、言った。


「お願いしまーす!」


「はいよ」


 そう言って、老婆は先程と同じように占い始めた。


 相性って言ってもなぁ……。


 俺がそう思いつつも黙っていると、占いを終えた老婆が静かに言った。


「お前さんたち、気を付けなされ……」


「え?」


 そのあまりに真剣な口調に、俺と京は思わず聞き返す。美樹は呆けたような顔をしていたが、気にせず老婆は続けた。


「一つの魂が二つに分かれたとき、協力者が現る。また、それと同時に監視者も現る。いつになるかは分からんが、何かが起こる。……くれぐれも用心することじゃ」


 そこまで言い切ると、テント内に不思議な沈黙が訪れる。だが、そんなものは次の瞬間、呆気なく破られた。


「あっはっは!! おばあさん! いくら何でもそれは無いですよー!!」


「そうそう! ありえないって!! 何だよそのゲームにでもありそうな話!!」


 溜まってたものが一気に放出されたかのように、美樹と京が大笑いする。あまりに意味不明かつ現実離れしている内容だったので、確かにそっちの方が普通の反応だったのかもしれない。


 ……だが、何故か俺は笑えなかった。


「……外れてるなら、そっちの方が良いんだがね」


 老婆は二人の反応に怒ることもなく、深刻そうに溜息をつきながら言った。


「そうですよー! でも、ありがとうございました! はい、二回で四百円!!」


 その言葉に美樹はそう言うと、財布から三百円を出してテーブルの上に置いた。


「……毎度あり」


「そんじゃ、そろそろ行くか!」


 背伸びをして言った京の言葉に、美樹も頷く。不安ながら俺も続いて出ようとすると、老婆から声がかけられる。


「お嬢さん、あんたは聞いているようだから言っておくけど。……監視者は、いつでもあんたらを見ている。本当に、気をつけな」


「……!!」


 胸が、ドキンとした。『そんなバカな』と言いたいのに、そんな言葉が存在しないかのように言葉は出てこず、


「はい……」


 俺は素直に頷いていた。


 『一つの魂が二つに分かれたとき』。これは、俺たちのことではないのだろうか? 俺はそう感じたのだが、……京は、何も感じなかったのだろうか。

 俺は、酷く胸騒ぎがしてならなかった。


「きよさーん、早くー!」


「あ! うん!……」


 外からの美樹の言葉に俺は短く返事をした。そして老婆に小さく頭を下げ、今度こそ本当にテントを出た。


後書き劇場

第十一回「黄昏ラプソディー」


どうも、タイトルが思いつかなかったので適当につけてみた作者です(おい


いやー、前書きでも言いましたが、更新遅れてすいませんでしたorz

更新を待っていてくださった皆様には、多大な迷惑をかけたことを深くお詫び申し上げます(何だこの謝り方)

暇つぶし程度だと思い、気を長くして待っていただければ幸いです。


それと、もう一つ。前にネタ募集すると言っていましたが、今も受け付けております。季節は5~6月くらいですので、まぁ思い付いた方はどうぞお送りください。



それでは、また次の話で会いましょう♪

ここまで見てくれて、ありがとうございました!


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