転換10「女の子よ! 強くあれ!!」
どうも、作者です。
今回は、若干俊平が出てきます。俊平ファンの方、必見!(ないない)
『俊平って誰だっけ?』って人の方が多いですよね、絶対(笑)
この小説も、やっと10話を達成しました!(厳密に言えば、プロローグとかもあるのですが)
これも、皆様のおかげです!! いつも御感想、本当にありがとうございます!!(はしゃぎすぎ)
まだまだ続けていきたいと思っていますので、これからも応援よろしくお願いします!!
では、本編へどうぞ♪
昼休みの教室に、女子たちのかしましい話し声が響いていた。……なにぶん女子というものはお喋りが好きで、俺はその輪の中にはいたが話半分に聞いていた。
「ね? きよもそう思わない?」
「……え? 何が?」
朱菜が俺の方へ振り返り、問いかけるが、当然頬杖をついてぼーっとしていた俺には分からない。慌てて聞き返すと、そんな俺に緑がくすり、と笑いながら教えてくれる。
「やっぱり聞いてなかったんだね……。今田くんがきよのこと好きなんじゃないか、って話してたんだよ?」
……今田? 俺は頭の中のyahooでその名前を検索してみる。そして、少しの間のあと、ようやく一致する。
……何だ、俊平のことか。
「授業中とかもずっときよのほう見てたしさぁ~、本当にそうかもよ?」
「いやまぁ、でもなぁ。……あいつの場合、女好きってだけの可能性が高いけどな」
さも楽しそうにと笑う朱菜に、葵が苦笑いで付け加える。葵の言葉は、実に的を射ていると俺は思う。
実は俊平とは中学校からの付き合いだが、あいつほど単純な奴を俺は未だかつて見たことがない。
少し茶がかかった黒髪で、眉毛にかかるぐらいの前髪。毛先の部分はツンツンと尖っている。体型も標準的で、全体的にさっぱりとした印象を受ける。……とまぁ。見た目は悪くないのだが、生来の女好きとそのお調子者な性格が災いして、何度も告白しているにも関わらず、彼女が出来たことは一度たりともない。
その俊平が、俺を好き?
男の俺にだったら気持ち悪いの一言だが、俺は今女だ。どうせ、女神たちが言うには美少女な俺のことを『可愛い~』とでも思っているだけのことだろう(あくまで忠実に再現しただけであって、俺が思っているわけではない)。
「そうそう。……そんなことないって」
馬鹿馬鹿しいと、俺は手を横に振りながら笑った。だが朱菜は『甘い!』と言わんばかりに人差し指を俺に突き付けた。
「そうだとしても、狙われてるなら危ないじゃない!」
「まぁ……、用心するに越したことはないよ?」
「襲われたら私に言えよ~? ボコってきてやるから」
続けざまに緑と葵が言う。……葵、『襲われたら』って嫌な例えだなぁ。
「まったく……」
俺は俊平を知ってるからこそ、やれやれという気持ちで、がたりと椅子から立ち上がる。
「どこ行くのよ?」
「ト・イ・レ」
朱菜からかけられた言葉に、俺は顔を振り向かせて答える。
「女の子なんだから、お手洗いって言いなさい! はしたない」
「あはは……」
朱菜の注意を笑って流し、そのまま教室から出ようとドアを開けようとした。
丁度、その時だった。
俺が開く前にドアは勝手に開く。俺の目の前には今さっき話していた俊平の顔があったのだ。このまま行けば間違いなく直撃コースだが、今更俺に止められる術もなく。体重的に重い俊平の方が俺に倒れ込んでくる。
当然受け止められるわけもなく、どしん、と鈍い音と共に俺は強く背中を打った。
あっ、という間の出来事だった。
「いっつつ……!!」
「おい。大丈夫かお前ら?」
上からかけられる声に、俺は痛みに顔をしかめつつも、顔を上げる。そこには、恐らく俊平と一緒に行動していたのであろう、京がいた。そしてそれより少し遅く、俊平も声を上げる。
「あいたたた。いや~、ごめんな~、きよちゃ……!!」
何故か、そこで言葉が途切れる。
「どうした? 俊平……!!」
様子を見に覗き込んだ京も、俺たちを見た瞬間に言葉を失い、顔を赤くする。妙な違和感を感じた俺は、嫌な予感と共にゆっくりと視線を下げてみる。倒れたときの偶然だろうが、俊平の頭はなんと俺の胸の間にあったのだ。
それに気付いたとき、俺は身体がかぁっと熱くなるのを感じた。
「うわわっ! いや、あの! 俺こんなつもりじゃ……!!」
即座に俊平が離れて言う。女好きの俊平でも、さすがにこれは故意ではないことぐらい俺にもわかる。伊達にこいつと長年友達はやっていないのだ。女好きだが、腐ってはいない。
落ち着かせるように、手を振りながら言った。
「あ、うん……! 気にしないで」
「…………」
だが、俊平の様子がおかしい。俺が返事をしたのにも関わらず、先程から目を大きく見開いたまま一言も喋らないのだ。京も京で、『ヤバい』といった表情で、冷や汗を垂らして立ち尽くしていた。
俺は不思議に思ったが、どうやら二人の視線が向かっているのは俺ではなく、俺の後ろの方であった。俺は振り返る。……一発で理由がわかった。
俺の後ろには、朱菜たち三人がいつの間にか立っていたのだ。何か負のオーラを発しながら笑みを浮かべている三人は、底知れぬ威圧感を放っていた。
「今田くん? ……何やってるのかしら?」
一つ一つに句読点が付きそうなくらい、朱菜はぶつぶつと区切って、力強く言った。それだけでもう十分に、怖い。
「まさか本当にやるとはな~? 覚悟はいいよな~?」
ポキポキと指を鳴らして歩み寄る葵。空手有段者である奴がこんな風に迫ってくれば、誰だって当然怖い。
「……うふふふ」
そして、いっそ楽しそうに微笑む緑。言うまでもない、怖い。
「いや、あの、その……」
三人のただならぬ雰囲気にすっかり萎縮し、もはや俊平は涙目だ。
「待った待った! ……今のはただの偶然だって」
「そうそう。俺も一緒にいたけど、不注意だっただけだ!」
俺と京はさすがに可哀想に思い、助け舟を出すことにする。無実の罪で裁かれるのは、いくら俊平でも気分が悪い。
……今回だけだぞ。
「でも……」
俺たちの言葉に、朱菜はまだ何か言いたげだった。だが、取り敢えずは引き下がる。
「おい、俊平? ……もういいってさ」
清々しいくらい綺麗に放心している俊平に、見かねた京が話しかける。俊平はその声を聞いてはっと我に戻ると、おもむろに大声で言った。
「俺のために庇ってくれるなんて……。何て優しいんだきよちゃん!!」
そう言って、勢い良く俺に抱きついてくる(この際、京が言った『俺は?』という言葉は無視させてもらう)。
「なっ……!!」
予想だにしていなかった行動に反応が遅れ、俺はそれをやすやすと許してしまう。
身体を抱きすくめられたのは女になってから何度かあるが、男にされたのは初めてだ。俊平にとっては自然な行動だったのだろう、アホだから。俺もそれを予想出来なかったのだから、迂闊だったと言えば迂闊だった(俺が男だったときも、あいつは喜ぶと抱きついてきた)。他のみんなは『やりやがった!』というような目で見ていた。
そして、しばらくの沈黙の後、京が溜息をつきながら投げやりに言った。
「自業自得だ……。お好きにどうぞ」
その言葉に三人は静かに頷くと、今更事の重大さに気付いた俊平を、両袖を掴んでズルズルと引きずっていった。
「ちょ、ちょっとぉタンマ!!」
俊平の悲痛な叫びがこだまするように教室に響き渡った。だが、今度は止められる自信もなかったし、止める気もなかったので、俺は止めなかった。
「大体、きよは無防備すぎるのよ!」
放課後の帰り道、俺たちは近くの喫茶店に寄っていた。朱菜の言葉に、俺はミルクティーを飲みながら黙っていた。窓際の席のここからなら、道を行く人々の様子が見える。俺は視線から逃げるように、そちらを向いて溜息をついた。
……そうは言っても、どうしていきなり自分に抱き付いてくるのを予想出来ようか、いや出来ない(反語)。
俺はそんな思いもこめて、向かいの席に座る朱菜を上目がちに見つめた。
「男なんてねぇ、み~んなケダモノなのよ? 日頃から注意しなくちゃ!」
「色々と、誤解を招きそうな発言だね……」
朱菜はレモンティーをくいっと呷るように飲むと、俺に諭すように言う。緑はそんな朱菜の発言に、コーヒーの砂糖をかき混ぜながら苦笑いを浮かべていた。
……関係ないが、砂糖入りとはいえ渋い趣味だな、緑。
「もっと女としての自覚を持て! ……ま、私が言うのもアレなんだけどな」
葵はそう言って、愉快そうにけたけたと笑う。……その様子を見てると、思ってしまう。葵の俊平への威嚇は演技だったのかも知れない。俊平には大いに効いた脅しだったが、恐らく本人にはあまりその気は無かったのではないだろうか。……意外と、三人の中では一番温厚だからな。
そんなことを思いながらも、遠慮がちに返事をする。
「別にそんなに気にしなくても……」
「またそんなこと言ってぇ。……お父さん、きよが反抗期なのよ!」
「あー、それはいけねぇなぁ母さんよ!」
しおらしい声で朱菜が葵に呼びかけ、それにノリノリで答える葵。……何だか、家でよく見る光景とだぶる。あえて誰と誰かは言わないが。
「じゃあ私は、妹やっていいかな?」
何だかんだで、緑までもが笑顔で言ってくる。そんなに可愛らしく首を傾げられても。……やりたいの?
「変な小芝居してないでよ……。大丈夫だから」
「子供が出来たって言っても遅いのよ! きよ!!」
「出来ないって! 展開早すぎ!!」
唐突にとんでもないことを言ってのける朱菜に、俺は口に含んでいたミルクティーを危うく吐きそうになる。……当然、反論する。
「じゃあさ。……もし抱き付いたのが神谷だったら、どうする?」
「へ?」
葵が頬杖をつきながら何気なく放った言葉に、みんなの視線が、興味深げに俺に集まる。
京が俺に抱き付いてきたら? ……まず、そんなことがあるわけないのだが。
「あったら、……と仮定するんだよ?」
そんな俺の様子を察したのか、緑が笑顔で釘をさしてくる。
あるとしたら……?
「とりあえず、びっくりするけど……」
「そうじゃないでしょ? きよがどんな行動をとるか、聞いてんのよ」
空になったカップを適当に弄りながら、朱菜がほらほら、と急かしてくる。俺はその視線を受け、とりあえず仮定して考えてみることにする。
まぁ、気持ち悪い……、とは思わないかな。俊平のときもそうは思わなかったし。心が男だから、ふざけあいの延長線上と思えないこともない。だから、他に誰もいないような状況だったらせいぜい『邪魔だ』と言うくらいかもしれない。
ただ、周りに人が居る状況だったらどうだろうか? その『人』が誰かにもよるが、それは物凄く恥ずかしいような気がする。
……仮にそうなったとしても、自分がどういうことをするかは、その状況になってみなければわからない。意外と、難しいなぁ……。
「う~ん……」
俺はいつの間にか真剣になり、腕を組んでじっくりと考え込んでいた。
「適当に言っただけなのに、まさかここまで考えこまれるとは……」
俺の様子を見て、葵が苦笑しながら申し訳なさそうに頭をかく。朱菜と緑も、半分呆れて、半分笑っていた。
「ほら、きよ! とっとと飲んでもう帰るわよ~!!」
朱菜の声に俺は顔を上げる。周りを見渡せば、もうみんなは帰る準備をしているようで俺以外のカップは空だった。
……わかんないことをいつまでも考えていても、仕方ないか。
俺は取り敢えず飲みかけだったミルクティーを一気に飲み干すと、三人と一緒にレジまで向かった。そして代金を払い終えると、俺たちは店から出て夕暮れの帰り道を、ゆっくりと歩いていった。
はいどうも、作者なんですけれども(なに)
今回は皆様にお知らせしたいことがあります。
何と、他の小説を投稿しました!
……え~、何やらブーイングが聞こえてくるようですが。御安心ください! あちらの前書きにも書きましたが、余裕があるときに書く程度です。
その小説のせいで、この小説が遅れることはありません(ドーン)
ま、それ以外の理由で遅れることはあるんですが(おい
小説名は『月明かりの下で』です。機会があったら、読んでやってください。
それはともかくとして、今回の話は如何だったでしょうか?
俊平が可哀想だという声が聞こえてきそうな感じもしますが、謹んで無視させていただきます(え
御意見・御感想お待ちしております!
では、また次回にお会いしましょう!!