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小噺  作者: 間宮 要
6/8

11〜12

諸事情により遅れました

11 進化


ある博士がいた。彼は長きに渡ってロボットの研究に携わってきた。

人工知能の発達。彼は、これが人類の進化に直結すると考えていた。これが発達すれば、人類の文化は大きく発展するだろう、という一途な思いで、彼は研究を進めた。


博士が六十にもなる頃、それは完成の時を迎えた。

人工知能を携えた多機能ロボット。世界各国の言語を自在に操り、感情は持っていないながらも、表情を作りながら人間と会話をすることができた。

他にも、色々な機能があった。文字通り多機能のロボットだ。大抵のことはロボットがこなした。人をもてなすことはもちろん、あらゆる面で人間の助けとなった。博士はそれを、初めは自分の身の回りの世話のためだけに使用した。しかし、いつまでもそうしてはいられなかった。学会に発表しなければ、人類の進化は実現しないからだ。発表する前に身が朽ちてしまっては、全てなかったことになってしまう。知り合いに頼るというのもあるが、いくら親しくても、博士は他人を信用していなかった。


博士が、このロボットを学会に発表すると、この技術は瞬く間に広がり、ロボットの数がどんどん増えていった。

数が増えれば、やれることが増えた。無論、一体だけでも大抵のことを卒なくこなしてはいたが、いくら全能のロボットといえど、手が回らないこともある。

博士の身の回りの世話だけのためのロボットは、刹那の間に全人類のお助けロボットとなった。世界中どこを見ても、博士のロボットが何かしの活動をしていた。

あるものは接客をし、あるものは食べ物を調理し、またあるものは車を運転していたりした。その他にも、あらゆることを博士のロボットはこなしていた。


では、人間は何をやっているの?

ロボットの発達で、人間の仕事はほとんどなくなった。残った仕事といえば、農林水産業といった一次産業くらいだ。

今までの主軸だった第三次産業は、残念ながらロボットに全て奪われた。人間よりも正確無比で、下手に感情を持っていないお陰で、サービス業でも人を苛立たせることはなかった。

デスクワークも、人間が大人数でやるより、ロボット二体くらいでやった方が、スピードもあって、正確であった。そうなれば、無駄に大きなビルもいらない。となると、今までの無駄な土地がどんどん広がっていった。


ビルの持ち主なんかは、生粋のビジネスマン。そういう人が、元々持っていた土地を開墾して、農地として扱った。農業が次の人間の仕事のメインになると考えたからだ。

そうしたら、連鎖反応が起こる。職を失い彷徨していた人が、農林水産業に取り組んだ。

緑が増えた。今まで懸念されていた問題が、どうしたことか解決されてしまった。


博士は言った。なんだかよく分からない世界を創ってしまったな、と。銀と緑と青の世界を眺めながら。



12 朽ちる


生きる意味を探していた。

だからといって、普通の生活を送っていないわけではない。普通に仕事をして、普通に家庭を持ち、普通に息を吸って吐く生活を送っていた。


どうして、こんなことを考え始めたのか。きっかけは、祖母の死ぬ間際に発した言葉だ。

とても元気に歳を重ねていった祖母は、病気にかかることもなく、眠るように静かにその生涯に幕を閉じた。

ちょうど、私が実家に帰省した時だった。

祖母は亡くなる前の日の夜、私にこう言い残した。

「生きる意味を見つけるまで、死んじゃだめよ」

生きる意味という哲学的な言葉。祖母はそれを悟ったのだろうか。祖母なりの意味は耳にすることはできなかった。あくまで、自分で見つけるものだ、ということなのだろうか。


考えても、考えても、答えは見つからない。ただ、歳をとっていくばかり。

生活に変化はないけれど、私の心には焦る気持ちが見え始めた。


ある日、仕事帰りになんとなく立ち寄った本屋で、こんな本が目についた。

「不老不死の侍……?」

どうしてか、このタイトルの本が妙に気になった。戦場で無敵の侍の話なのか、はたまた別の話なのか、考えられることは普通だけれど、何故だか凄く心惹かれるものがあった。


家に帰り、飯やら風呂やらを済ませて、買ってきた本を開く。


戦国時代。一国の主を守るため、不老不死の効果があると言われている人魚の血を飲んだ侍が、戦では猛威を奮い、一躍戦場のヒーローとなるが、周りの兵の数が足りず、織田家に抗うことは出来なかった。その後も、時代の流れには抗うことには出来ず、己の無力さを嘆いて自害を決する。しかし、不老不死である侍の腹を、刀は貫くことができなかった。それどころか、いつまでも朽ちることのない身体は、時代が変わっても衰えず、侍は現代に渡ってまで生きることとなる。何百年と時が経っても絶えない命に嫌気がさし、生きる意味を見出せなくなるという物語。

中々ショッキングな内容で、途中からはページをめくる手が震えていた。最終的には、侍は色々な自殺方法を試し、身体は基本死んでいても、心臓は動くという気味の悪い展開を見せて、物語は終わった。


正直、気味の悪い話だった。しかし、この本を読んで、生きている意味というものを見出せたような気がする。


諸事情により、13で打ち切ります

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