1〜3
1 ケッペキ
2 アブナイ
3 シアワセ?
1 ケッペキ
目の前で交通事故が起こった。軽自動車と、女性の接触。事故が多い道だと噂ではあったが、まさか事故の瞬間を見るとは思わなかった。
宙に舞う女性の姿と、何事も無かったかのように去って行く軽自動車に、一瞬、何が起こっているのか分からなかったが、すぐに我を取り戻す。
(助けなきゃ)
逃げた自動車を追おうったって無理な話だ。自分にできるのは、人命救助の為の応急処置。救急車を呼び、すぐに女性の元へ向かう。そして、女性の容態を確認する。
出血が酷い。腕や脚、頭も少し切れているだろうか。とにかく止血をしないと。
「……いで」
女性から声が聞こえる!意識はあるみたいだ。
「大丈夫ですよ。もうすぐ、救急車が来ます!」
意識があるなら助かる見込みはあるだろう。しかし、気は抜けない。しっかりと止血をしないと……
「触らないで」
「え?」
「止血は続けてほしいですけど……せめて手袋を……それも綺麗なので……」
2 アブナイ
(急がなきゃ……!)
午後2時頃、病院から連絡があった。もう80歳にもなる父親の容態が急変したそうだ。
ヘビースモーカーだった父は、二ヶ月前にとうとう肺がんを患った。毎日二箱を消費する吸いっぷりで、むしろ今まで肺がんにならなかったことの方が奇跡だ。
歳をとって、身体だってあんまり強くなくなったっていうのに、「いつ死んだっていいべ」とか言って、タバコを控えることを全くしなかった。俺や母が「少しは控えたら?」という勧めだって、一切耳に入れなかった。
(だからってよ、今死ぬこたぁねぇじゃねぇか)
仕事の真っ最中だったから、慌てて上司に断って、ものは散らかしたまま、サイフとスマホだけ持って車に乗ったのだ。
(頼む……間に合え)
ロクでもない人だったけれど、それでも俺の親父だ。感謝しても仕切れないものっていうのがある。死に目にも会えないようでは、息子として恥ずかしい。
国道に入ったところで、アクセルを踏み込む。焦る気持ちと、事故を起こしてはいけないという気持ちが交錯して、いつにない集中力が生まれる。一刻も早く、病院へ行かねば……!
ピーポーピーポー……
「そこの車。止まりなさい。黒の……」
残念なことに、親の死に目にも会うことはできなかった。
3 シアワセ?
「ねーねーB君!このバッグ欲しいんだけど〜」
僕の彼女は、上目遣いで僕のことを見る。彼女の視線の先には、少し高めのブランドもののバッグ。
全く、彼女にねだられたら、嫌と言えないな。
「買おうか?」
「良いの!?ありがと〜!」
そう。この嬉しそうな顔。この顔を見る時、僕は彼女と一緒になれてよかったと思う。
「君の幸せが、僕の幸せだよ」
「そう。じゃ、あなたといるより、A君といた方が幸せだから、彼の所に行くねー!」
今までで一番の、とびっきりの笑顔だった。
1はもはや狂気
2は運がなかったね
3はとってもやりきれないね