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神殿が実家なオッサンです  作者: アッサムてー
ヌシラタミのお姫様
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13人の冒険者と二回目の依頼

 冒険者ギルドのギルマスであるその男は、首を傾げていた。


 「行方不明?」


 彼はその書類を見ながら、とても怪訝そうな声を出した。

 しかし、その疑問に答える秘書は今他の仕事でこの場にはいない。

 しばらく考えてから、彼は依頼を受けたまま消息を絶った駆け出し冒険者パーティと、そのパーティが受けていたとされる二件の依頼について考える。

 しばらくしてから、答えが出たのか彼自ら依頼書を書き出した。




 翌日のことだ。

 所謂、中堅以上の冒険者向けに新しい依頼書が冒険者ギルドの掲示板に貼り出された。

 依頼内容は行方不明になった冒険者パーティの捜索と、古城の調査だった。

 ただ、珍しいことに八人以上という条件がついていた。

 いや、行方不明者の捜索なら役所との共同で救助隊を組んだ方が良いだろう。

 八人では足りない。

 不思議に思いつつも、行方不明者に関してはその手掛かりを見つけるのが最低条件であるので、まぁそんなものかとその依頼書を手にした中堅冒険者であるその女性は深く考えることはしなかった。

 何しろ、冒険者が不可解な失踪をとげるのはよくある話だからだ。

 確定はしていないが、ギルドとしては行方不明者の生存に関しては絶望的と判断しているのかもしれない。

 年の頃、二十代ほどの剣士の格好をした女性である。


 依頼書に書いてある報酬を確認して、女性は定位置になっている食堂兼酒場のカウンター席に座る。

 昼間であるので、少し弱めのアルコールと軽食を注文する。

 そうしていると、何度か一緒に仕事をしたことのあるパーティが依頼を終えて戻ってきた所だった。

 受け付けで成功報酬を受け取って、早速パーっとやるらしい。

 食堂を全体的に見渡して、この依頼を受けてくれるだろう者達を探す。

 そうして何組かに声をかけた。

 最終的に、人数は13人となった。

 

 そうして、古城の調査と行方不明者の捜索の依頼に赴いたのだった。


 三組のパーティに別れ、森の中を捜索しつつ城に向かう。

 それぞれのパーティの構成は、行方不明となったパーティとほぼ変わらなかった。

 ただ、それぞれのパーティに一人ずつーー合計三人の十代の駆け出し冒険者がいた。

 実践を積ませようと、最近仲間に入れた者達を連れてきたのだ。

 異変が起こったのは、城に着いてからだった。

 合流出来たのは、二組だけだったのだ。


 「あの熱血バカのパーティは?」


 最初に依頼書を手にした女剣士が言うと同時に、それは起こった。

 基本フリーで活動している女剣士は、他のパーティの助っ人をすることが多く、顔が広い。

 だから、今回の依頼で声をかけたパーティのメンバーは全員彼女と交流があり、時に様々な危険な仕事をこなしてきた。

 合流していないパーティも、そんな仕事仲間であり、それなりにどういったタイプの者達かは知っていた。

 実力はある、しかし、大人だと言うのに、未だに子供のような心を持っているパーティである。

 もしかしたら、一番早く城に到着していてもおかしくないメンバーが集まっていた。

 しかし、彼らが現れる気配はない。


 おかしいな、と女剣士も、二組のパーティも訝しんでいるとずずっ、ズズっと何かを引きずる音が聴こえてきた。

 そちら方に、一斉に視線が向いた。


 瞬間、駆け出し冒険者二人の首が飛んだ。


 「え?」


 中堅で、それなりの経験をつんだ者が多かった。

 中には、かつての仲間を失った者だっていたのだ。

 しかし、反応出来なかった。

 その攻撃に反応出来なかった。


 気配察知や魔力感知ができるスキルを持つ者が複数いた、中には反応を早くするため支援魔法の効果を発動させていた者もいた。

 しかし、誰一人として反応することは出来ずに、死者が出たのだ。

 駆け出し冒険者達の首がとんだ直後、近くにいた全身鎧の戦士が、その鎧ごと頭から股までを真っ二つにされ、内臓すらも綺麗に両断されて左右に転がった。


 悲鳴と怒号が上がるまで、一秒も掛からなかった。

 得体の知れないものに攻撃を受けている。

 経験があるからこそ、そして、スキルを発動させていたからこそその異常な状況に全員が混乱したのだ。

 魔物の気配がない、魔力感知のそれもない。

 経験した事のない状況だったのだ。

 想定外のことは何時だって起こる。

 だから、これはいつものことだった、はずだ。

 しかし、ただの気配はした。

 姿を消すことのできる魔法がある、しかし魔力感知ではその反応は無し。

 姿を消すことのできる道具がある、しかし気配察知ではその反応は無し。

 ただ、感覚が訴える。

 ここには、見えない何かがいる、と。

 それは、原始的な感覚だった。

 本能的な恐怖だ。

 夜の闇が怖いと感じる。

 闇の向こうに、幼い感情だが、まるで得体の知れない化け物ーーそれこそ幼稚な言葉で言うところのオバケが居るんじゃないかという、感覚。

 逃げろ逃げろ、と本能の声がした。

 しかし、それよりも先に血が舞うのが早かった。




 早朝のことだ。

 三組のパーティが拠点している冒険者ギルドのある街。

 日はまだ隠れているが、それでも世界は青白くなりはじめた時間。

 フラフラと、その女剣士は季節外れのスイカのような、玉遊びで使うボールのようなものを腹の前で大事に抱えて、大通りを歩いていた。

 昼間の出勤時間にはまだ早く、夜仕事をしている者達が帰路に着いている時間だ。

 ふらつきながら、何かを抱えてギルドに向かって歩く女剣士を見つけたのは、そんな夜の住人の一人でありダンピールのコンビニ店員だった。

 外に設置されたゴミ箱の確認に出た、その哀れなバイトは女剣士の姿と持っている物を見て、腰を抜かしてしまった。

 見慣れていなかったのだ。

 血の臭いには慣れていても、恐怖に歪んだ顔の生首なんて見たこと無かったから。

 そして、ダンピールーーつまり半分吸血鬼であるからこそその生首が、本物であることが分かってしまった。


 先輩バイトである狼獣人が、後輩の様子を見に来て、ゆっくりと目の前を歩いて行く女剣士と生首を視認し、大騒ぎとなったのだった。


 女剣士は現実と幻想の境界が認識出来ていない類の言動を繰り返し、捜査関係者に危害を加え、殺害事件を起こした。

 その時、女剣士は半狂乱で笑いながら殺害した捜査員の血を、嬉しそうに浴びていたのだという。


 この一連の事件には箝口令が出て、捜査局が出てくることになる。

 すぐに事件は解明されると思われたが、いくつか奇怪な謎を残したまま、迷宮入りとなり、女剣士はこの事件の数日後、楽しそうに自分の首をその指で掻ききって失血死してしまった。


 しかし、どんなに人の口を閉ざそうとしても、無理なことだった。


 この事は、都市伝説となり、怪談となり現代でまことしやかに語り継がれることになったのだった。


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