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神殿が実家なオッサンです  作者: アッサムてー
ヌシラタミのお姫様
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最初の依頼

 冒険者ギルド。

 どこでもそうであるように、この冒険者ギルドでも依頼が掲示板に貼り出されていた。


 「これこれ!

 俺達の旗揚げには丁度いいだろ?」


 一階は依頼受け付け所とは別に食堂兼酒場が設けられており、二階は宿屋となっている、どこにでもある冒険者ギルドの建物だ。

 その一階の食堂兼酒場の片隅の席に、そのパーティはいた。

 先日、仲間となった四人組だった。

 全員が十代半ば。

 同じ年頃の者達なら、この中央大陸では高校へ通っている者がほとんどである。

 しかし、この者達に限らず、それぞれの事情で若くして冒険者になることは珍しいことでは無かった。


 このパーティのリーダーである戦士の少年は、その依頼書を仲間達に見せた。

 それぞれ魔法使いの少年、神官の少女、聖騎士の少女がその依頼書を覗きこむ。


 「討伐依頼じゃねーのかよ?」


 不満げな声を出したのは、魔法使いの少年だった。

 次に、


 「最近発見された、お城の調査か。

 まぁ、最初なんてこんなものだよ」


 聖騎士の少女がそんなことを言った。

 魔法使いの少年が、少しむくれて返す。


 「ファイアーボールとか撃ちまくれると思ったのに」


 「まあまあ、何事もコツコツと積み重ねが大事ですよ」


 そう諭したのは、神官の少女だ。

 そんな三人のやり取りを見て、苦笑しながらリーダーである戦士の少年は続けた。


 「メインは古城の調査なんだけど、ほい、その古城の周囲の森でモンスターが大量発生して畑や家畜に被害が出てるらしい」


 言いながら、もう一枚の依頼書がテーブルに置かれる。

 どうやら、同時期に同じ場所で別々の依頼が出されたようだ。


 「おー、二件か」


 「準備を万端にしなければ、か」


 魔法使いの少年が関心したように、聖騎士の少女が段取りを考えながら呟いた。


 「二件、ですか」


 神官の少女が、二枚の依頼書を見比べる。


 「モンスターって言っても、スライムとゴブリンだ。

 討伐数もそれぞれ十匹ずつだから、丁度いいだろ」


 そう言った戦士の少年の瞳は、キラキラと輝いていた。

 討伐依頼の方は初心者パーティ向けであるし、本人も言ったようにメインはあくまで古城の調査である。

 場所的に、強力なモンスターもいないであろうと予測されたため、初心者向けとなったのだろうと思われた。




 数日後。

 準備を整えた、初心者パーティである彼等はその地にやってきた。

 かなりのド田舎である。

 依頼のあった城は、周囲の山に囲まれて、まるで古い小説に登場する吸血鬼の城のように、昼間であるのに少々不気味な存在感を放っている。

 獣道を進み、遭遇したスライムとゴブリンを倒していく。

 モンスター討伐の依頼は直ぐに完了した。

 それに気を良くした彼等の足取りはとても軽かった。

 そして、あっという間に城までたどり着いてしまう。


 「なんか、お化けが出そうだな!」


 とても明るく、戦士の少年が言った。


 「下級のアンデッドくらいは覚悟した方が良いかもしれませんね」


 神官の少女が言って、スキル『神聖加護』を発動させた。

 一時的に恐怖耐性が上がるスキルである。

 四人全員がその効果を受ける。

 城の扉は錆び付いていた。

 試しに聖騎士の少女と、戦士の少年が押してみる。

 開かない。

 次に引いてみた。

 開かない。

 まさかと思い、車庫のシャッターのように開けようとする。

 それでも、開かなかった。


 「え、無理じゃね?」 


 戦士の少年の言葉に、待ってましたとばかりに魔法使いの少年がファイアーボールの魔法を唱えようとする。


 「他に出入口が無いか、調べましょう」


 冷静だった神官の少女の提案によって、無駄な被害はとりあえず出なかった。

 とりあえず、城を一周してみることになった。

 右回りで、歩いていると神官の少女が不意に立ち止まった。

 あたりをキョロキョロと見回す。

 それに気づいた他の三人も足を止める。


 「どうしたの?」


 聖騎士の少女が怪訝そうに訊ねた。


 「あ、えっと、声が聞こえたような」


 「声?」 


 「はい、歌声、だったような」


 神官の少女の言葉に、他の三人も耳を澄ませてみる。

 木々が風で揺れてざわめいている。

 他には鳥とも獣ともつかない鳴き声がどこからともなく聴こえてくるが、歌声のようなものは聴こえてこなかった。


 「何も聴こえないけど」


 魔法使いの少年が言った時。

 その視界の端に、何か動くものが見えた気がした。


 「あれ?」


 「どうした?」


 戦士の少年が訊ねる。


 「いや、今そっちの森に人が入って行ったような」


 魔法使いの少年が指をさす。

 他の三人が、その指がさす方向を見た。

 誰もいない。


 「ふむ」


 聖騎士の少女がそちらに歩み寄る。

 確認すると、草を踏み分け出来た獣道らしきものがあり、その道の続く先を見ると、木々の向こうに何かが見えた。

 聖騎士の少女は三人にその事を伝えると、獣道に足を踏み入れた。

 慌てて、残りの三人がそれに続く。

 すぐに開けた場所に出た。


 「ここは?」


 そこには巨大な石版が鎮座していた。

 文字のようなものが彫られているが、長い年月で風化したのか読むことは出来なかった。

 不思議そうに石を調べる戦士の少年、魔法使いの少年、聖騎士の少女の三人の横で、神官の少女が体を震わせた。


 「あ、あの、ここ寒くないですか?」


 神官の少女が言った時、その首がゴロリ、となんの前触れもなく落ちた。


 「え?」 


 そう言ったのは誰だったか。

 神官の少女の体が、糸の切れた人形のように血を噴水のように首からぶちまけながら倒れた。


 「おーーっ!」


 何か言おうとした戦士の少年も、顎より上を斬られ同じように地面に転がった。

 

 「え?」


 「おい!」


 ぶんっ、空を切る音がしたかと思うと残りの二人も同じ運命をたどった。

 四つの死体、流れ出る赤黒い血がその場を染めた。 

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