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神殿が実家なオッサンです  作者: アッサムてー
かごめかごめ
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ヒトをバケモノにするのはなぁに?

 ただ、一緒に居たかった。


 ただ、ずっと一緒に生きていきたかった。


 それは、とても簡単なことのハズだったのに。


 愛していたから。


 愛さえあれば良かったから。


 貴方は、でも、私を見ない。


 私を見ているようで、でも、見ていない。


 何度抱かれても、貴方は私の体を抱くだけで、私の心を抱いてはくれない。


 何度抱かれても、貴方は私の心に触れてもくれなかった。


 貴方の中で愛されていたのは、私じゃない。


 分かっていたのに。


 その事に気づいていたのに。


 でも、いつか私を見てくれると思っていた。


 ずっと、ずっと一緒にいたから。


 貴方は優しくて、私を気にかけてくれていたから。


 だから、愛されていると自分に言い聞かせた。


 私を頼りにしてると思っていた。


 私も貴方を頼りにしていたから。



 でも、貴方にしてみれば私はただの付き合いの長いだけの古い女であり、特別じゃなかった。


 それだけのこと。


 ただ、それだけのこと。


 だって、私が貴方の特別だったなら【化け物】なんて、酷い言葉を言うわけないもの。


 私は貴方の特別になりたかった。


 だから、特別になる方法を選んだ。


 貴方の喜ぶ顔が見たくて、神様の力を手に入れた。


 食べ物が豊かになって、暮らしやすくなったでしょ?


 災害が起こらないように、力を使ってきた。


 誰も理不尽な死を迎えることはなくなったでしょ?


 貴方が喜ぶ顔が見たくて、言われるがまま村の未来を担う子供達の世話をこなした。


 白髪が増えて、顔の皺も増えて、手のアカギレは治ることがなくなって、節くれだっていた。他の子のやわらかく、細いそれとは違っていた。


 ねぇ、私、こんなに頑張ったんだよ?


 貴方のために頑張った。


 妊娠した他の女達を抱けないから、その時は私が貴方と寝た。


 抱かれてやった。


 でも、そんなのお構い無しだったものね。


 私はこんなにも貴方に尽くしてきてやったのに。


 それが当たり前になりすぎてしまった。


 私は、便利な家政婦でも奴隷でもない。


 一人の女で、人間なの。


 心があるし、理不尽なことがあれば怒りだってわくのよ。




 もし、私が化け物になったと言うなら、私を化け物にしたのは、貴方。


 そして、貴方達。


 貴方が、貴方達が私を化け物にした。


 だから、貴方は私にその償いをしなければならない。


 私と一緒に永劫の時を過ごして、私の為だけに薄っぺらな愛を吐いて、私を満足させ続けなければいけない。


 ねぇ、破滅の始まりの日、新しい女を迎えるための歓迎会の日に食べた、貴方と貴方が迎えてきた女達が絶賛したミートパイ、覚えてる?


 私が丹精込めて育てた、貴方が私に預けた子供達の味はとても美味しかったでしょ?


 私だけ、人の道を外れるなんて出来ないもの。


 私だけ、子供がいないのなんて不公平だもの。


 これで、みんなお揃いよ?


 だって、貴方が助けて【家族】にした皆によって、私に宿った子は流れたんだから。


 気づかないとでもおもってたんでしょ?


 私にだけ、みんなで毒を盛ってたの知ってるんだよ。


 正妻面していい気になるな。


 思い知らせてやる。


 そんな陰口を彼女たちが叩いていたのも、知ってるんだよ?


 貴方に訴えたこともあったよね。


 助けてって。彼女たちを罰してって。


 でも、貴方はとりあってくれなかった。


 私よりも彼女たちを信じた。


 許せなかった。だから、絶対に許さない。




 ねぇ、救われたがっている、救いたがっている貴方。


 私を退治して、みんなが救われると本当に思ってるの?


 化け物になった悪者(わたし)を退治して、みんなで天国に行くなんてハッピーエンド、私が許すと思ってるのかしら?


 私は許さない、絶対に許さない。



 


 始まったらいつかは終わるもの。


 私は、私を終わらせに来た美しい死神を見た。


 「抵抗も、逃げもしないのか」


 意外だな、とその純白の死神は言ってくる。


 「侵入者の娘ならいざ知らず、貴方様には勝てないと本能が言ってますので」


 「そうか」


 「むしろ、話がしたかったんです。いいえ、お願いですね」


 「お願い?」


 「はい。貴方様が私を殺す時に、魂もしっかり消滅させてほしいのです」


 「なんで、わざわざそんな事を頼む」


 私は、微笑んだ。


 「意趣返しですよ。こちらの話で恐縮ですが。

 貴方様と侵入者の方々には迷惑をかけないための手続き、みたいなものですね」



 私の願いに、少し考える素振りをしてから雪のように真っ白なその死神は了承してくれた。

 私は、嬉しくて溢れてくる涙を止めることなく死神に、ありがとうと言った。

 すごく嬉しくて、感動して泣いてしまった。

 神様は、私の言葉に耳を傾けてくれた。

 土地神様も、この死神も、私を苦しめ続けた夫やその嫁達と違って、私を私として扱ってくれた。


 土地神様にはちょっと悪いことをしてしまったけれど。


 でも、土地神様。


 私の声を、お願いを聞いてくれて、何よりも私を見てくれて本当にありがとうございました。


 貴方の選択を私は受け入れます。

 夫やその嫁達の理不尽に比べれば、普通ですから。


 神様、神様。


 私を救ってくれて、ありがとうございました。



 そうして、私は消滅する。

 でも、その一瞬。

 私の手に小さな手が触れた気がした。

 本当に一瞬だった。

 でも、私には見えたのだ。


 それは、それはーー。


 「むかえにきて、くれたの?

 私の可愛い、坊や」


 とても可愛らしい幼子が、満面の笑みを浮かべ私の手を引いてくれた。

 あぁ、頑張ってきたご褒美かな?

 それとも、待っててくれたのかな?

 ごめんね。巻き込んで。

 今度は一緒におねんね、しようね。

 


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