プロローグ
ぐるぐると繰り返す。
同じ時間を繰り返す。
もう泣かないように。
苦しまないように。
笑えるように。
笑いあえるように。
まるで、喜劇だ。
滑稽な、喜劇だ。
それでも、と思いながら。
繰り返す。
ふと、『一番最初』を思い出した。
繰り返す前の記憶。
喜劇の前の悲劇。
喜劇の前の惨劇。
その記憶を思い出す。
ただ、泣いていた記憶。
次に、思い出すのは幸せな記憶。
悲劇の前の幸せな記憶。
惨劇の前の幸福な時間。
また過ごしたい。
幸せな時間を過ごしたい。
家族と一緒に過ごしたい。
仲間達と一緒に過ごしたい。
ただ、大好きな人達と一緒に笑っていたい。
ただ、大切な人達とずっと一緒に生きていきたい。
それだけなのに。
なんで、どうして、うまくいかないんだろう。
いつも、いつも、気付くと赤い記憶に塗りつぶされる。
どうしても、血の赤に塗りつぶされる。
そして、また泣くのだ。
壊れて、憎み合って、狂って、死んでいく家族を見ながら、仲間達を見ながらまた泣くのだ。
泣いて、そして、また繰り返すのだ。
ぐるぐると。
もう、諦めようかとも思った。
大好きな家族を、仲間達のことを、そして自分の居場所を諦めようと思った。
でも、諦めきれなくて。
結局、同じ事を繰り返す事になるのだ。
我ながら、未練がましいと何度思ったことだろう。
それでも、いつかは望んだ時間が来るのだと信じていた、だからこそ、ここまで来た。
馬鹿みたいに、望んだ『いつか』が来るのを信じていた。
ただ、信じていた。
血に塗れて、汚れながら、それでも馬鹿みたいに信じていた。
だって、こんな自分を受け入れてくれた場所だったから。
要らないと言われた自分を、必要だと言ってくれた人達だったから。
わかってる。
本当はわかってる。
これは、罰なのだ。
神の逆鱗に触れた、罰なのだ。
神が許すまで永劫にこの時間は終わらないのだろう。
自分は、許されるその時まで、血に染まり続けるのだろう。
こんなこと、望んでいなかったのに。
ただ、皆の笑顔が見たかっただけだったのに。
役にたちたかっただけなのに。
ただ、それだけのことだったのに。
誰でもいい。
誰か。誰か。誰か。
「助けてくれ」
そう呟いた言葉は、怒号によってかき消された。
仲間だった者達の、家族だった者達の怒りと憎しみの叫びによって、誰にも届くことは無かった。
頭が割られて、視界が染まる。
赤く染まる。
赤く染まる。
赤く染まる。
血の赤に染まる。
そして、黒く黒く意識が塗りつぶされていく。
ーー悪魔でいい。誰でもいい。自分は地獄に堕ちていいから。だからーー
誰でもいいから、皆を助けてくれ。




