蛇に足が描きたされたような、そんな話3
気づけば、空間全体がスクリーンになっていた。
映し出されるのは、今目の前でコテハン【ガーナぶらっく】を髪の毛で締め上げている存在の記憶だった。
記憶の中と違って、その髪の色は墨のような黒。
意識が落ちたのか、なんとか絡みついた髪を解こうとしていたガーナぶらっくの手が、力が抜けてだらりと垂れ下がった。
エステルと大愚が動こうとした時二人の男性が、現れた。
それは、どこにでもいそうな男性と、純白の美しい死神だった。
「あ、来たね」
イルリスの、のんびりとした声がかかる。
「君らが協力するの、何十年ぶりかな?」
死神、リムは答えずおもむろに駆け出して髪の毛へ飛び蹴りをかました。
それを見て、エステルと大愚がはしゃぐ。
「……これが終わったら」
ライが、イルリスに向かって言葉を投げる。
「ん?」
「これが終わったら、全てを話してもらえますか?」
「さて、君が聞きたいことにもよるかな」
「……大人はいつもはぐらかしてばかりですね」
「君も大人でしょ?」
「…………」
「まぁ、いいよ。話してあげる。君も大人になったしね。
と言っても、それはまた別のお話になるんだけど。
こんな時になんだけど、予言するよ。
そう遠くない未来で、君は君の過去と向き合うことになる。
君は、もう、成人した大人だ。だから、二度目はもう壊れることはないと信じよう」
そんなことを言いながら、イルリスが、リムを見た。
ガーナぶらっくを無事に助け出している、リムを見た。
「君は、君の魂は、とりあえず彼を再び受け入れることを決めたみたいだ。
だから、よく見ておくといい。
逆もまた真なり、だ」
イルリスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、アカリが顕現した。
そして、指示を待つ。
「ご主人様、この場の浄化を行いますか?」
同時に、ヒカリも顕現した。
「とりま、あのブラウン管の向こうから来たような我儘お化けは、消すことになるけどな。
その方が救いになるだろ。
化け物と呼ばれ続けて、本当の化け物になるなんざ哀れすぎる。
ほんと、言葉ってのは怖いなぁ。
何かが違えば、明日は我が身だ」
ライは、同情的だった。
自分たちをこの世界に閉じ込めた黒幕の一人である、あの髪の毛お化けに対して、とても同情的だった。
でも、それは口にしない。
お化けの怒りを買うことは、火を見るより明らかだからだ。
あのお化けが犯した罪を裁くことは、ライにもリムにも出来ない。
何よりも、彼女を裁いてしまったら、このチャーチヒル近隣に住む、一部の村人も裁かなければならなくなる。
死を与えなければならなくなる。
あまりにも不公平な世界だ。
でも、仕方がない。それが、この世界なのだから。
依頼やその時の状況判断で、幽霊を、化け物を殺すこと。
時には、生者ですらリムは殺してきたのだということを、ライはなんとなく理解し、受け入れた。
そして、ライにもあって然るべきその記憶を改ざん、あるいら消し続けてきたのだ。
もう一度、ライは知らなければならないのだろう。
彼のことも、自分のことも。
「あぁ、アカリ、頼む」
ライがアカリへ指示を出すのと、リムがお化けを【殺す】のはほぼ同時だった。
リムによって殺され、消える直前。
お化けは、髪の間からギョロっとした目を覗かせて、ニタァっと笑ったかと思うと、
「みんなみんなふこうになぁれ」
最期だと言うのに、とても楽しそうに歌うように、そう口にしたのだった。




