森から出た生首について
繋がっていた本体の意識が途切れた。
そのことに、その生首は落胆する。
本体、そう、座敷牢に閉じ込められていた存在のことだ。
生首の中には、呪術式が仕込まれている。
この中央大陸をどれだけ移動しただろう?
でも、本体が過ごした数百年に比べれば、ほんの数年の月日だ。時間だ。
その生首は、中身ーー記憶や人格こそ忌み子として生まれた転生者の物だが、外見はまるで違う。
それはそうだろう。
元々、この首の持ち主は城の調査に来ていた冒険者のものだ。
仲間の一人に運ばせて、呪いと不幸と狂気を振り撒くためだけに、本体がその記憶をコピーし、外の世界へ放逐した存在。
それが、この生首の正体だ。
わざと一人を生き残らせて、持ち帰らせて、世の中を混乱させた生首だ。
世界は広い。
もっともっと、呪いと不幸を振りまかなければ気が済まない。
【世の中すべてを不幸にさせ、地獄にたたき落とすこと】
それが本体の願いだった。
なぜなら、本体だけが不幸で理不尽な想いをするのはあまりに不公平だから。
自分をとりまく世界そのものを呪うための、生首だった。
今日も、その生首は空を飛び、移動し、世界に不幸を振り撒くのだ。
なぜなら、どんな他人であれ自分以外が幸せなことが憎いためだ。
「あははは、みんなみんな、不幸になぁれ」
他が不幸になれば、それだけ自分が幸福になるのだから。
だから、本体が消されてもその憎しみと妬みは永遠に消えず、残り続ける。
でなければ、この生首は存在していないのだから。
誰にも気づかれることなく、その生首は今日も不幸と狂気を振り撒いて、中央大陸を旅するのだった。




