第8話 魔術教本
11/21(火)の投稿となります。
目を覚ますと、変わり映えのしない部屋の風景が視界に入ってくる。ただ眠りにつくだけの部屋。僕の部屋だけが他の兄弟と比べて小さくて、僕だけ学校に行けないことは仕方がないことだと、とうの昔に諦めた。
ただ、何も変わらないこの部屋とは違って僕の心境はいつもと少し違った。
変わり映えのしない僕の生活の中に新しいものが入ってきた。
魔術。
その言葉に希望を持てるような気がした。同じ時間に起きて、毎日同じように家の手伝いをして、食事をして、寝る。それ以外のものが真新しく感じた。
僕はいつもより早く起きて、いつもより早く家の手伝いを終え、山へと向かった。そこには、不敵な笑みを浮かべた青年が立っていた。彼の名前はアレイスター・リー。僕の師匠らしい。
「やぁ!遅かったじゃないか」
「すみません、家のこと片付けるのに時間がかかってしまって」
「なるほど。それなら仕方ないね!」
そう言いながら、アルは羽織っているローブのポケットから折り畳んである1枚の紙を出した。それを広げると、30cm四方になり、その上には魔法陣らしきものが描かれていた。
「これは……なんですか?」
「これはね、魔法陣だよ」
「いや、それは分かりますけど……」
聞いて後悔した。僕は、この人があんまり頭がよろしくないことを思い出した。一から聞かなければダメか……。
「あの、どういった魔法陣ですか?」
「あぁ!そういうことね!見てて」
そう言うとアルはナイフで自分の掌を少し切り、出てきた血を地面に敷いた魔法陣に垂らす。そしてそのまま魔法陣に手を当てる。
すると魔法陣が淡く光り、ボンと音がなると共に白い煙のようなものが発生した。煙が消えると、魔法陣の上に本が出てきた。まるで手品を見ているようだ。
「おぉぉ」
「これは転移魔法の一種なんだ。この魔法陣は目には見えない空間を呼び出す術式だから、予めその空間に格納しておいた荷物などを呼び出せるんだよ」
「えぇと……荷物とかを取り出せるってことですか?」
「ん!ざっくり言うとそんな感じ!」
説明を聞いて、便利だなと僕は思った。それと同時に、アルは魔術の説明になると急に頭が良くなるなと思った。
「んで、この本。見て。なんて書いてある?」
「えぇと、『魔術教本Ⅰ』って書いてあります」
「そう!これに色々な魔法の詠唱方法や使い方が書いてあるんだ。これはボクの師匠が出版した本なんだけど、これ、あげるよ」
「え?良いんですか?」
「ボクはここに書いてある魔術はほとんど使えるから良いよ!」
「ありがとうございます」
「ん!本当はこれだけ渡して帰りたいところなんだけどね……」
「いや、さすがにもうちょっと教えて下さい」
「うん。いや、教えるよ?一応任務だしね」
そう言いながらもアルはものすごくめんどくさそうな顔をしている。その顔のまま僕に魔術教本を渡してきた。まぁ、アルのやる気がないのはデフォルトとして受け止めるしかないか。
魔術教本を開くと、この本を書いたであろう白髪の老人の写真が写っていた。ただしその人の顔をよく見ることはできなかった。なぜなら、鼻からはすごい量の鼻毛の落書きがあり、目には両目が見えなくなるくらいの大きさで『ばーか』と書いてあり、他にも悪意のある落書きがそこかしこに書いてあったからだ。
僕はその時思った。アルが書いたに違いないと。
「あははは!すっごい落書きだね!これ、僕の師匠(笑)懐かしいなぁ」
そんなことを言っているアルを横目に僕は1ページ目を捲った。そこには、『火球』という魔術が書かれていた。どうやら、名前の通り火の球を出す魔術のようだ。
「あ!それはやらなくていいよ!」
「え?なんでですか?」
「ゼロは昨日見た感じだと雷系統みたいだから火魔術からやらなくていいよ。まずは、風魔術かな。風魔術で原子に作用する感覚を覚えよう」
こうして、僕の魔術訓練が始まったのだった。
最後までお読みいただきありがとうございましたo(_ _)o ペコリ
次から本格的な魔術訓練が始まります。