第6話 逆尖人
11/19(日)の投稿です。今回はゼロとアルの会話、およびそれに対する説明が多くなります。
「ふぅ」
僕は何が起こったのか理解出来ずに呆然としていると、アルが溜息を一つ吐く。未だにアルの口と脇腹からは血が流れていた。
「あははは!いやぁ、すっごいね!結構痛いんだけど!」
アルは血を流して笑いながらそう言う。それはそうだろう。脇腹にでっかい穴があいているのだから。話しだけ聞いていると普通の会話だけど、実際ダラダラと血を流しながら喋っているので、ホラー以外の何物でもない。
「あの、これはどういうこと……なんですか?なんかもう色々と整理できなくて……」
色々と一気に起こりすぎて、全く状況を理解できない。ただ、少しずつ落ち着いてきて心にゆとりができたので、思い切ってアルに何が起こったのか聞いてみることにした
「ん!そうだね。1から説明した方が良さそうだね」
「はい、お願いします」
「まずはねぇ……この穴!」
そう言ってアルは自分の脇腹を指す。穴があいていて痛々しいので正直見たくない。
「この穴をあけたのは……君だよ」
「え?僕……ですか?」
「うん。君、さっき僕に吹っ飛ばされてどう思った?」
「え、あの、死ぬかと思いました」
「そう!死ぬかと思ったでしょ?」
「はい」
「その時にね、身体的にはそうでもないけど、精神的に死に直面したんだよ。んで、それによって防衛本能が働いて、魔術の力が発動したのさ!」
アルはそのように説明した。
確かに、状況的にアルと僕しかいないのだから、穴をあけたのは僕というのは分かる。ただ、僕は魔術なんて使ったことがないし、そもそも潜在力0なのに魔術なんて高等な術を扱える訳がない。そもそも魔術を使える人なんてほとんどおらず、例えばこの村で使えるのは、教会のグレゴリー神父くらいだ。その事をアルに伝えると、意外な答えが返ってきた。
「あ、えーっと、そのグレゴリー神父?っていうのはたぶん魔術は使えないと思うよ。その人って魔法陣を使うでしょ?」
「あ、はい。そうですね。僕も魔法陣で潜在力を刻まれました」
「だよねっ!それは魔術じゃなくて魔法!村とか町には大体1人以上魔法を扱える神父さんがいて、生まれてきたみんなの潜在力を刻んだりするんだ。他にも色々とやるけどね」
アルいわく、魔法陣や術式、その他道具を使って行われるのが魔法。そして、自分の体の内部からエネルギーを発し、外部のあらゆるものに影響を及ぼすのが魔術のようだ。
だから、僕が行ったのは魔術で、死に直面したことによって体の中からエネルギーが放出され、それが大気に影響を及ぼして雷を発生させたらしい。僕に分かるのはこのくらいで、その他にも電子がどうとか原子核がどうとかよく分からない説明があったが、全く理解できなかった。
「それでね!魔術使いの見分け方はこれ!」
そう言ってアルは服を脱ぐ。と同時に自分の脇腹に手を当て、治療を行っているようだ。驚くことに、傷はみるみるうちに回復していき、1、2分後にはほとんど完治したようだった。体はかなりのもやしで、あまり筋肉はなく、どこからあのスピードが生まれているのだろうと思った。
「え……それで?」
「あぁ!これ!これが魔術使いの証!」
そう言ってアルは自分のの左肩を指さす。よく見ると、そこには『-728』という数値が刻まれていた。
「これは……潜在力……ですか?」
僕は思わずそう聞いてしまった。なぜなら、潜在力のようにみえるけれど、数値の前に横棒がついており、こんなものは初めて見たからだ。そしてこんなに大きな数値も見たことがなかったからだ。今まで見てきた中で1番大きい人でもせいぜい30くらいだ。
「そう!」
「え、じゃあこの横棒って……?」
「横棒……?あぁ!あはは!これは横棒じゃなくてマイナスだよ」
「あぁ、なるほど。じゃあ0より小さいっていうこと……?ですか?」
「ん!その通り!この0より潜在力が小さい人の事を『逆尖人』って言って、僕ら逆尖人は魔術を扱える事が多いんだ」
「なるほど……」
こうしてアルの話を聞いて、僕は知らなかった事を一つずつ理解した。しかし、結局僕が魔術を使えた理由は分からないし、僕は潜在力が0なのでマイナスなのかプラスかも分からない。そう言った疑問を僕は、更にアルにぶつてゆくのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!