乙女ゲームの世界に転生したので外国に逃げましたが逃げ切れませんでした
オフィスラブ作品を読んでいたら思いつきました(なんで!)
皆さんは転生についていかがお思いでしょうか?
私が自分の転生に気付いたのは三歳の時でした。神庭学園付属の幼稚園に入園したときです。
最初何故か見覚えがあるな、と思ったのですが自分の名前を呼ばれた瞬間気付いたのです。あ、ここは乙女ゲームの世界だ。と。
『四神の箱庭』と呼ばれる乙女ゲームで、攻略対象は四神に連なる青竜・朱雀・白虎・玄武の四家に筆頭の麒麟家の嫡子達が上がっている。この五つの家を五大家と呼び、国の頂点に立っている。
隠しキャラが筆頭の麒麟家の嫡子で、学校では名字を変えて生活している。
話は少し変わるが、この世界の人間は茶髪茶眼の人間がだいたいだ。色の違う髪や瞳は特別な家に生まれた者のみ。私が今まで気付かなかったのは、私が黒髪黒目の異色を持つ玄武家の者だったのもあるのだろう。
五大家の家には異能と呼ばれる力があり、その力で国を繁栄に導いて来た。青竜家には降雨、朱雀家には温暖、白虎家には疾風、玄武家には堅守、そして麒麟家には神眼という具合に。
前世を思い出してしまった私は自分が悪役令嬢だという事に気付いた。隠しキャラの麒麟家の嫡子以外、四人のルートに登場する悪役令嬢で最後は散々な目にあう。制作者がライバルキャラを複数作るのをケチったのだろうが、四ルート共通の惨事に私は身震いした。
最初は神庭学園付属の幼稚園に通っていたものの、幼稚園は国内トップレベルの家の出の子供が多く話が合わない。そもそも幼稚園児の話に合うはずがないのだが。
そんなある時兄弟校がある事を聞き、外国にある学校に行く事を思い付いた。思い付いたが吉日と外国語を勉強し、祖父母に両親を説得し海外に飛び立った。
高校二年に上がり直ぐに家族が全員揃ってやって来た。全員ってマジで!? と思ったよ。祖父母と両親は仕事があるし、弟と妹は一つ下の高校一年。学校があるだろうと。
祖父母と両親、弟妹に説得され本国の学校に戻る事になった。
ああ、乙女ゲーム真っ最中じゃないかと。嘆いたが現実は変わらない
乙女ゲームの期間は私が高校二年の一年間が舞台になる。せめて来年だったらと思いはしてみたものの、私は本国の地に立っていた。
「本日からお世話になる一条 真貴です。宜しくお願いします」
私はせめてもの悪あがきと母方の性の一条を名乗った。一条も名家中の名家で神庭学園の中でも見劣りはしないどころか上位に食い込む。
ただ今の代の神庭学園には四神家が勢ぞろいしており、一条だからと特別扱いはされない。
髪は茶色に染め瞳はカラーコンタクトで茶色にしている。
「一条さんちょっと僕と来てくれないかな?」
「鶴藤 雅紀さんですよね。私に何か?」
おおい! 鶴藤 雅紀っていったら麒麟 雅紀じゃないか! 麒麟家の嫡子が私に何の用?
「僕と一緒に来て欲しいんだ。良いよね」
「は、はい」
その有無をいわせない雰囲気に私は頷いた。
鶴藤 雅紀 と名乗る麒麟 雅紀は茶色の髪におそらく茶色の瞳の男子だ。何故目の色がおそらくなのかというと、前髪が長く目を隠しているからだ。目には眼鏡を掛けており、パッと見根暗な男子生徒にしか見えない。
広大な校内の中で人通りの少ない所まで辿り着くと、鶴藤 雅紀は眼鏡を取り髪をかき上げると綺麗な顔を露わにした。
私の腰を掴むと壁に押しやり顎に手をかけると上を向けさせる。
わお、所謂壁ドンですか? 前世でもされた事ないや。でも全然ときめかないけどね!
いやだってさ、この人目にそう言う甘い感情がないし、寧ろ怪しく光っているんだけど。あ、不味いコレ神眼だわ。神眼には人を操る力もある、使われたら不味いかも。
「一条 真貴お前は何者だ? 俺の知っている限り一条にお前の様な人間はいないはずだ。さあ、答えろ」
鶴藤 雅紀いや麒麟 雅紀は完全に本性を現し私に迫って来ていた。
何コイツ、もしかして名家の家の家族構成全部頭に入っているの? 何そのチート。
私の中の堅守の力が私を守ろうと力を発揮した。
「何!? この力は堅守の力か。くくく、なるほどお前は玄武 真貴か」
麒麟 雅紀は更に私の顎を掴み顔を覗き込んで来る。
「いい加減手を放してくれないかしら、麒麟 雅紀様」
私の顔を覗き込んでいた麒麟 雅紀は顎からは手を放したが腰を掴み、壁との間に私を押さえつける。
「雅紀で良い、様もいらん。俺も真貴と呼ぶ。お前が玄武家の者なら都合が良い、俺の調査を手伝え」
「はあ!? 何で私が」
「麒麟家の命令だ、良いな」
「……分かったわ」
麒麟家の命令には逆らうな、そんな副音声が聞こえた。事実麒麟家に逆らえる家など存在しない。
それにしても雅紀はこんな性格だっただろうか。確かに疑り深い性格ではあったが、こんな俺様な性格だったっけ?
「それで調査って何を手伝えば良いの?」
「現在の四神家の嫡子の事だ。特に青竜と朱雀のな。着いて来い屋上に行く」
雅紀に着いて行くと、雅紀は途中で髪を戻し眼鏡をかけ直した。
屋上に着くと雅紀は何処からか紙を取り出した。
「読んでみろ」
渡された書類を見て行くと『四神の箱庭』のヒロイン、春日 明美の事と青竜 鷹傅、朱雀 仁広の事が書かれていた。
青竜 鷹傅と朱雀 仁広は春日 明美を奪い合っており、婚約者すら目に入っていない状態だそうだ。一時期弟の玄武 輝貴もその奪い合いに加わっていた。と書かれていた。
雅紀との邂逅以来春日 明美を注意深く観察してみたが、転生者ではない様に感じた。もし転生者であったなら『四神の箱庭』を知らないのではないだろうか。
良く言えば天真爛漫、純粋無垢という言葉が似合う少女で、そんな所が青竜 鷹傅と朱雀 仁広の目に止まったのだろう。
「真貴、春日 明美をどう思う?」
「どうって、結婚する場合は婚約者に誠心誠意謝って許してもらうしかないでしょうね」
弟はどうやら憧れの先輩といった所だが、青竜 鷹傅と朱雀 仁広は本気の様だ。
「真貴も女だな、俺達の結婚は所詮政略結婚だ。それを分からぬ者に四神家の後を継ぐ資格は無い」
雅紀はそう言い切った。
「私達だって人間よ。恋すること位あるわ」
「ああ、俺達も所詮人間だ。だが、俺達の結婚は家と家を繋ぐもの。恋愛をするなら婚約者とすると良い」
「誰と恋に落ちるかなんて私達には分からないわ」
「それを律してこそ名を継ぐ者の務めだ」
私は溜息を吐きたくなった。雅紀はお家大事な人間なのだ。全ては麒麟家のためと他の事は斬って捨てる。だが、だからこそ麒麟家は雅紀の代になっても安心だと言える。それは青竜家や朱雀家にはないものだから。
「青竜家は妻や夫を逆鱗、朱雀家は片翼といって大事にするわ。好きになったら仕方ないのではない?」
「ふん、白虎家も番といって相手を大事にしている。その白虎家は婚約者を大事にしているではないか」
雅紀の言葉に私はグッと言葉に詰まる。確かにもう一つの家、白虎 速雄は婚約者を大事にしており春日 明美とは距離を取っている。
「格下の家の者と結婚したければ家を出る覚悟をするべきだ。それができないならただ甘えているだけだ。海外に留学していたお前のほうがまだ好感を持てる」
そう言うと私の方をチラリと見つめて来た。その流し目に私はビクリと肩を揺らす。
な、何だろうこの甘い空間は!?
「わ、私が留学したのは名家主義のこの学園に嫌気がさしたからりょ」
ど、どもった上に噛んだ。私は恥ずかしくなり顔を赤く染めた。そんな私を見つめて来る雅紀に私の顔は更に赤くなっている事だろう。
目の端に映る雅紀が微笑んだ様に見えたが、直ぐに顔を引き締めると冷淡に言いきった。
「夏休みが始まるまで様子を見て変わらないようなら四神家の当主に言っておこう。猶予はそれまでだ」
私はその言葉を聞き少し働きかける気になった。
「青竜 鷹傅様、朱雀 仁広様、今のお二方はお家に、婚約者の方に誠実とは思えません。行動を振り返ってはいただけませんか?」
私は青竜 鷹傅と朱雀 仁広に接触し、一般生徒として注意を促した。
「一条家のものが俺達に何の用かと思えば。俺達の行動に指図するな」
そう答えたのは三年で現生徒会長の朱雀 仁広。
「私達に直接言って来た勇気は買いますが、はっきり言って迷惑です」
朱雀 仁広に続き答えたのは私と同じ学年の現生徒会会計で次期生徒会長筆頭の青竜 鷹傅だ。
この二人は従兄弟同士でどことなく顔立ちは似ているものの喋り方は全然違う。しかし、反応はそっくりだった。
朱雀 仁広は赤い髪に赤い瞳の俺様系生徒会長。青竜 鷹傅は青い髪に青い瞳の丁寧口調、腹黒の策士タイプだ。どちらもプライドが高いので私の言葉に耳を貸してくれない。
〝玄武 真貴〟としての忠告なら聞いたかもしれないがそこまでしてやる義理は無い。そもそもこの二人に近付いた時点で目立ちまくっているのにそれ以上の行為は必要だろうか。
幼稚園の頃は悪戯っ子という面も併せ持っていたが、私とこの二人の信頼関係は低いとみて良い。この二人と話したのは幼児の時きり、会ってない期間のほうが長い。
私は「失礼しました」と二人の前を辞するしかなかった。
その後少し感傷に浸っていた私は、海外に行かず本国で過ごしあの二人と信頼関係を結んでいれば状況は変わっていただろうか? と悩んだが首を振り一番会わなければならない者、弟の玄武 輝貴に会いに行った。
「輝貴少し良いかしら?」
「姉上? 学校で話かけて来るなんて珍しいね」
私が話かけると弟は驚いて着いて来た。
人気の少ない校舎裏のベンチに座り会話をする。
「輝貴、貴方は春日 明美さんをどう思っているの?」
「姉上も明美先輩の事聞いたんだ。明美先輩は凄く純粋で眩しいんだ、そこが僕達と違って物凄く引かれた。だから明美先輩とは付き合えない。もし付き合ったら苦労するのは明美先輩だしね、だから僕は明美先輩から少し距離を取ったんだ」
「そう……」
弟の話を聞き私はただ頷く事しかできなかった。単純に選ぶのは春日さんなのだから貴方が引く必要は無いのよ。とも思ったが弟は玄武家の嫡子。春日家は名家の内に入るが、下から数えた方が早い家。弟の言った通り苦労するのは春日さんだ。
「貴方から青竜と朱雀にも注意しておいてくれないかしら?」
「いいけど。多分あの二人は止まらないよ」
「それでも、よ」
そう言って立ち上がった私に弟は小さく「危ないんだね」と言って来た。私はそれには答えず、その場を去った。
私が青竜・朱雀・玄武の嫡子に会った事は瞬く間に全校生徒に広まり、噂されるようになった。「良く言ってくれた!」と言う者「一条家とはいえ四神家に声をかけるとは畏れ多い」と言う者様々だ。
その噂を聞いた雅紀は「甘いな」と言って来たが何処かすっきりしていた。〝麒麟 雅紀〟として注意する事は出来ないが、あの三人の事は気にしていたのだろう。
名字と姿を隠しているとはいえ海外にいた私よりずっとあの三人に近かったのだから。
七月も半場が過ぎもう直ぐ夏休みが迫って来た。私との邂逅以来弟は春日さんとの間に一線を引き、白虎 速雄は今まで同様婚約者にしか興味を示さない。
「青竜と朱雀は切り捨てる」
そう言った雅紀の顔は何処か痛みを堪えたものだった。上に立つ者としての痛みを堪える雅紀に私は、そっと肩に手を添えた。
青竜と朱雀の婚約者は春日さんを虐めており、青竜 鷹傅と朱雀 仁広は恋の妨害に更に春日さんへの恋心を燻らせている。もう二人が止まる事は無いだろう。
雅紀は私の手を握りしめ腰を掬うと顎に手をかけ顔を覗き込んで来る。
ちょ、ちょっともしかしてまた神眼でも使う気?
少し肩を強張らせる私の顔を撫ぜると、何故か甘い雰囲気を醸し出した。
「俺ならお前の方が良い」
そう言うと咬みつくように口を塞いできた。
「んっ、……」
は!? キス? いやいや雅紀って私の事好きだったの? もっと家の事重視で決めると思ってた。って、私も玄武家の者か。というかこいつ以外にテクニシャンか!
夏休みに青竜と朱雀の嫡子の交代が知らされた。
二人は相変わらず春日さんと仲が良いようだ。男二人と女一人、この恋の行方はどうなるのだろう。
雅紀だがちゃっかり私との婚約を発表した。私が「あッ」という間に婚約が決まり披露宴になっていた。
私はこの強くて危うい人を守って行けるだろうか。
お読みいただきありがとうございました。
誤字脱字等ございましたら感想覧までお願いします。
この短編はここで終わる予定です。別視点はないと思います。