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悪役令嬢、シリアス展開に苦悩する。

 わたしはその日、朝から悩んでいた。

『危険な事になんて首を突っ込まない方がいいと、僕は思うけどね……』

 ……あの日聞いた、悪の幹部の言葉に。


 お気に入りの温室にあるカウチに座り、ぼんやりと編み物を編んだり解いたり。手遊びにいじっていたら。

 ぐしゃぐしゃと、毛糸が絡む。

「あ……」

 慌てて解こうとするけど、余計に絡まって。


 ふう、とため息。

 こんがらがった糸はわたしの今の心みたい。


 軽く考えてたからかなぁ。

 創作世界だ、わたしはこの世界を知ってるし、って。

 改めて思えば、それってすっごい傲慢じゃないかな?


 ……とはいえ、それは余りに身近にあったもので、わたしにとっては娯楽で、コミュニケーションツールで、楽しいばかりのもので。


 そう。

 彼に言われた正論は、イージーモードでやってきたわたしにとって……。

「重すぎるんだよね、うん」


「大体、結社の闇って何なのよ」

 今日は考えごとがあるからと、温室の入り口にメイドを待機させているから、独り言も楽勝よ。

「モンスターは見かけ倒しだし、ビッチヒロイン達だって結局敗走してくし、そういうお約束展開を楽しむもの、じゃないの?」


 ビッチ怪人を量産して世間に混乱を起こしてるだけの、愉快な人たちと思ってたけど、もっとアレなの?

 怖いものだったの?

「……幾らなんでも、ご主人よ。そのお気楽思考は不味いと、我も思うぞ」

 お菓子を両手に抱えて、ゆったりした籐製のカウチの隙間に座る魔王系マスコットことプリティが渋い声で言う。

「……そうなの?」


 淑女の教育とか、怖いお母様とか、婚約破棄とか。

 まあ色々大変な毎日だけど。

 魔法少女に関しては、割とそーゆーものだと思って流してたからなぁ。


「貴族と魔法少女の二重生活だけでも大変なのに、ここにきてシリアス展開とか……」

 はあ。本気で勘弁してほしいな。


「ご主人……」

 プリティ、なま暖かい眼差しやめて。これからは真面目に考えるから。


 こんがらがった毛糸は脇にどけ、わたしは刺繍道具をバスケットから取り出す。

 地味な作業だけど、考え事のお供にはちょうどいいんだよね、これ。


 お父様に差し上げる予定のハンカチに、我が家の紋章を縫いつける。

 金糸に銀糸に深紅に深緑。派手好きな家にしては渋い色合いの家紋だ。

 ……でも、真面目に考えるって言っても、なにを考えればいいものやら。


『母親に叱られても、仕方ないよねぇ』

 クスリと笑う、悪の幹部の声が脳裏に過ぎる。


 うん……。真面目に考えよう。お母様のお怒り回避の為にも。




 目下の問題は、不安定な敵の出現に、わたしの生活圏よりも外に、遠くまで敵が手を伸ばしてる事。

 流石にいつ頃に問題起こして下さい。なんて、ビッチヒロイン怪人らに言っても無駄なのは分かってるから、それはおいといて。


「遠くに安定して行くには、どうしたらいいのかな……」

「うむ」

「あと、最近敵の手際がよくなってきてるよねぇ……」

「うむ」

「ちょっとプリティ、ちゃんと考えてってば」

「うむ?」


 渋い声できょとんと首を傾げる使い魔殿に、むうとわたしは頬を膨らます。


「我も、もう少しパワーアップ出来れば、送迎には問題がなくなると思うのだがな」

「え、それって本当?」

「うむ」

 こっくりうなずくまんまるい生物に、わたしは期待の目を向ける。


 だが、まんまる生物のその後の言葉が、期待を台無しにしてくれる。

「その為には、ご主人は我をもっと可愛がるのだ」

「え?」

「大事なのは絆である。信頼である」

「は?」

「ご主人は、我を適当に扱い過ぎるのだ! 特にあの、悪の幹部の前では……!!」


 ……まんまるぬいぐるみ生命体の癖に、焼き餅かーい!


 内心でツッコミを入れながら「ゴメンゴメン」 とまんまる頭をなでぐりしてあげる。

 まあ、この使い魔がいなきゃ、そもそも変身も必殺技も使えないし、プリティとの会話やふれあいは、窮屈な貴族生活の唯一の癒しなのだ。

 ……ペットセラピー的な?

 専属メイドは、確かにわたしを気遣ってくれるし日々のお世話をしてくれる、身近な存在だけれど……お母様がつけた監視役の要素が多くて、どちらかというと気詰まり要因なんだよね。


 うん、これからはもうちょっとプリティに気遣ってあげよう。


 しかし、可愛いところあるじゃない。

「んふふー」

「いきなり笑ってどうしたのだ、ご主人よ」

「いやー、プリティが可愛いなって思ってね」

 ご主人が意識を他人に向けるのを怒るなんて、まるで懐いた動物みたいで可愛いぞ!

「むう。我はお役立ちなのだ、可愛いなどという軽い言葉で言って欲しくはないぞ」

 むん、と胸を張るのも可愛いよ?


「分かってます、頼りにしてるってば!」

 何だか難しい事考えて、少し気分が落ち込んできてたけど、うん、プリティとのふれあいで元気出てきたよ。


「これからはプリティにもがんばって力注いで、早いとこ送迎をお願い出来るようにならないとね!」

「うむ。我がパワーアップすれば、ご主人様も新たな力を魔法の国の神様から頂く事も出来るだろうからな。苦戦続きも改善されるだろう」

 え、それってすごく重要じゃないの。

「そっちを早く言ってよ! もう、ガンガン力注ぐよ!?」

 わしっと、小さく軽い使い魔の身体を取り上げ、早速わたしは力を注ぎはじめる。


「こ、こら。待つのだご主人。何だこのフルパワーは! ご主人の素直さは評価するが、何事にも一直線過ぎる!! 余力は残すのだぞ!」

「はーい、分かってます!」

「分かってないだろう! そっと! 優しく! 注ぐのだ!!」


 ……結局この日、わたしはプリティ強化計画に夢中になって。

『結社の闇は、君が思うよりずっと深い……早めに手を引く事を、お勧めしておくよ』


 あの、常識人で真摯な悪の幹部の忠告内容を、深く追求する事を忘れてしまっていたのだ……。

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