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悪役令嬢、脱出計画を練る!

悪役令嬢、脱出計画!


「今日もいい天気ねー。お散歩日よりだわ」

 いつものように派手メイク派手ドレスで、わたしはお庭を歩いていた。

 健康の為もあるけど……魔法少女として出動する時の脱出計画をね、練っていたの。

 相談役として一応、小ぶりのバスケットの中に魔王系マスコットこと、プリティも突っ込んである。


 伯爵家の庭は、季節の花で華やいでいる。お家も大きいけど、それに負けないぐらいにお庭も大きいの。

 これもまた、お家の権威を誇る為に必要なものの一つな訳だけれど……。

 庭師が丹誠込めて整えた花々とその香りに、わたしの心も浮き立ってくる。

 見栄でも何でも、綺麗なものは綺麗だよね。この庭のお陰で、わたしは自然が好きになったの。

 前世は引きこもり寸前の暮らしだったのに、随分健康的になったものだわ。


「お嬢様、失礼致します……お肌が日に焼けてしまいますわ」

 わたしがお昼間用の普段着ドレス(装飾控えめ) でもりもりと元気に歩いていると、そっと日傘を差し出してくる、影のような存在があった。

 ……こんなわたしにも、一応専属メイドがいる。 特に昨今は、お母様の厳しいチェックもあって、かなりきっちり張り付かれちゃってるのよね。困ったものだわ……。

 今は日傘を差して付き従っている少女がそれだ。

 三人いて、彼女らは朝番、昼番、夜番と三交代で、わたしの手となり足となるべく、側に控えているのだけど。




 うーん、さて、どうしたものか。

 わたしはてくてくと淑女にしては早いペースで歩きつつ、悩んでいた。

 ここ数日ほど、お母様の顔を立てて、淑女のレッスンに真面目に励むかたわら、考えてはきたものの。

 ……上手い手なんて、見つからないのよねぇ。


 だって、わたしには専属メイドが、常に斜め後ろあたりに控えていて。

 どうやって、彼女らの目を盗めばいいものやら。


 今までは、そんなに敵も強くないし、国境を越える程に遠い場所にも行かなかったし……ご近所での出来事だから、サクサクこなしてパッと帰ってきて、と。

 午睡の時間とか、授業の合間なんかに飛んでいって、お気軽にこなしてたから悩みもしなかったのよね。

 そう問題になることもなかった。

 便利なレーダー役のマスコットがいて、魔法のスティックで空も飛べるし。


(「何だ、ご主人。まだ悩んでいたのか」)

 バスケットの掛け布の隙間から、プリティがお気楽に声を掛けてくる。

 このまんまるい生物も、今回のお悩み相談には、あんまり頼りにならなかったのよねぇ……。


 ハア、とため息を吐いていた、その時だった。

(「……ご主人!」)

 バスケットの中から、プリティが声を上げる。小声ながら鋭い声の調子に、わたしはいやな予感を覚える。


(「二つ隣のホットスプリング領、領主の娘ヌクミ嬢の婚約者が結社に狙われている!」)


 こんな時に限って、なんなの! また遠距離ですか!!

 わたしは頭を抱えたくなった。


 どうしよう、どうすれば。 オロオロとわたしは、庭をうろつく。


「どうされましたか、お嬢様。顔色が悪うございますが」

 ……そうだ、いい考えが!

「そう、そうなのよ。ちょっと気分が優れなくて……。部屋で休みますから、ベッドを整えておいて頂戴」


「畏まりました。では、早速侍医の手配を致します」

 えええ……ぜんぜん、いい考えじゃなかった!!

 あのおじいさん医師のお薬、ちょー苦いし! それにお医者さんになんて待ってたら、ヒロイン怪人に遅れを取っちゃうじゃない。


 ええと、ええと。

「そ、そこまでではないの。少しだけ、少しだけなのよ。そう、二時間も横になれればいいの、午後のマナーレッスンにも間に合います」

「そう……でございますか?」

 わたしの慌てる様子に、怪訝と返すメイド。

 もう、焦りはマックスである。


 わたしの顔色はそれこそ、今にも倒れんばかりに真っ青だったろう。迫真の演技だね。部屋に連れ戻るメイド自身も恐ろしく厳しい顔つきである。

「お嬢様、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫……大丈夫だから」


 そんな時だ。バスケットの中から救いの声が上がったのは。

(「ご主人。少しばかり、お力を譲渡頂く事になるが……それでも良かったら、我に考えがある」)

(「そ、そうなの!? だったらそれ、お願い出来るかしら!?」)




 ……果たして、プリティの不思議パワーにて、ひどく聞き分けのよくなったメイドに部屋に連れられ、わたしはベッドに横になるふりをして寝室に入りざま、ベッドに毛布で寝ているような細工をし。


「……マジック、パステル、きゅるるんぱ!!」

 魔法の呪文を唱えると、すぐさまステッキに横乗りし、窓から飛び立った。

 メイド達には、二時間と言っておいたし、うん、超特急で終わらせようか!


 そうして、トップスピードで空を駆け着いてみれば。

 眼下では既に、貴公子がマニキュアボトル風封印に掛けられて、モンスターが令嬢に飛びかからんばかりとなっていた。

「ほ、本気でギリギリだよー! こうなったら高いの怖いなんて言ってられないよっ、えいっ」

 矢のように降下する魔法スティックの上から、わたしはモンスターに飛びかかる。

「……悪は、許さないんだから!!」

 格闘術解禁と鉄壁スカートの、おまじないはちゃんと忘れずにして。


 よーし、今日もがんばるぞっ。




「ふ。今日も我に力が注がれたぞ。……ご主人に格好いいと言われる時も近いな」

 ……だからわたしは、魔王系マスコットがまんまる顔に不敵な笑み浮かべ、何かを言ったのを――。

 うっかり聞き逃してしまったんだよね。

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