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悪役令嬢、怪人を問い詰める。

連日投稿中。明日も続きます。

 わたしは秘密結社の幹部の怪人ドエース……あるいはわたしの婚約者ベネディクトを睨んだ。


 どんなに酷い態度をとっても。いつだって彼はわたしの事を許してくれた。

 強がりの裏の言葉をきちんと探しあてて、笑って許してくれていた。


 でも、こればかりはだめだ。

 わたしは、彼と彼女の共謀を許す事が出来ない。


「……っ、綺麗な言葉で取り繕わないで、周りを見れば分かるわよ。わたしはここで殺されるんでしょ!」


 だって、現実に周りじゅうが敵で。

 信じろと言われても、あなたは結社の幹部で。


「違う、そんな事は!」

「黙って、黙りなさいよ。結社はこの国の乗っ取りを企みわが家を裏切ったってことよ! わたしとの契約はそこで終わりでしょう? 現当主として、アヴァリーティアは結社との取引を拒否するわ」


 甘い判断なんて、当主のわたしが許せるわけない。


 こんな時くらい泣ければいいのに。

 でも現実には、強がることしかできないわたし。真っ赤な唇を噛みしめ、どぎつい悪女メイクで睨みつけるわたしはきっと酷い顔をしてるだろう。

 本当に可愛げないなぁ……。女子力の低い自分が嫌になる。


 可愛く頼れたらいいのに。甘えられる勇気があればいいのに。

 そうしたら彼も、ビッチーナより、わたしを選んでくれたかも、知れないのに。



 怪人二人を相手にするには魔法少女にならなきゃ。

 変身する為の時間を稼ぐには、ここでは余りに不利すぎる。わたしは庇護する腕から離れて、包囲を突破しようとする。


「バーバラ……危ない!」

 けだるげな美声がわたしを呼ぶ。

「……え?」


 一人になったわたしを狙い、踊り掛かる構成員。とっさの判断で避ける身体。接近した敵を突き飛ばしその反動で跳ぶわたしのドレスを、他方から延ばされる手が無遠慮に掴もうとする。


「何て躾のなっていない輩なのかしらね……!」


 その手を避けても、また別の手が掴みかかってくる。

 くるりくるり、ドレスを翻しわたしはそれを避けていくけど。

 魔法少女でないわたしでは、多数の者を相手するのは難しい。


 絶対絶命。

 そこに響く銃声。

 敵を撃ち倒すのは、やっぱり彼で。


「何でよ、何でわたしを助けるのよ!!」

 自分でも支離滅裂だ。

 助けてくれた相手をわたしは睨む。


「好きな子が危険な目に遭っていて、放っておく男はいないよ」

 当たり前のようにさらりと彼が言う。

 銃声が響くたび倒れていく敵中で、わたしは懲りずに悲鳴めいた非難の声を上げた。


「う、嘘よっ!! 結社は、あなたは……わ、わたし一人から与えられる僅かなものより、多くの女性から「霊質」 を奪い、魔法を復活させるんでしょ! あの、不良男も言ってたわ!! 女を不幸にするのが、あなた達の正解だということでしょう!?」


 今、庇われたばかりの無様なわたしから、口から吐き出されるのはきつい言葉ばかり。

 こんなんだからドエースに愛想つかれたんだよね、だから裏切られたんだ、きっと。

 わたしが可愛くないから。お母様にも嫌われ、彼にも嫌われる。

 ぎゅっと痛い程にペンダントを握って無理矢理高慢な笑みを作る。

「わたし、あなたを許さないわ」


 最低だね、わたし。こんなにも何度も助けてくれた恩人に、なんて事を言うんだろう。


「それは……確かに、僕の甘い決断が君を、君の友人達を不幸にした事は否めない。過去の僕は成果ばかりを気にして現実に人を犠牲にした、最低の人間だった」


 敵を正確に撃ち抜きながら、痛みを堪えるように目を細め、彼は答える。

 誤魔化さない態度は誠実だと思うけど、言ってる事は最低だ。


「僕はもう二度と君を裏切らない。どうしても嫌ならば、結社との結びつきを解消してもいい。君を傷つけないと努力する。……それだけで君に償えるとは思えないけれど」

「……信じられない」

「そう、だろうね」


 わたし達の会話の合間も、金切り声の命令に従い機械的に寄せてくる包囲網。「あの女を殺しなさいよぉ、アンタ達は本当ね無能ねぇっ!!」 ああ、またビッチーナが構成員達を怒っているのか。


「……人を呼んだか。追加人員まで潜めているとは、本気で盗りに来ているようだね。バーバラ、僕の隣においで。また攻撃が激しくなる」

 無理して立場を偽装したところで先もないだろうに、何を考えているのだか。そうぼやいた彼は、呆れた目をビッチーナに向けた。

 疑心暗鬼のわたしは優しく差し伸べた手を取る気にもなれず、ぷいと横を向く。

「嫌よ、どうして敵の隣になんか!」


「嫌でも側に居てよ。君をこんな下らない事で失ったら、僕は後悔しきれない」

 力強く、でも優しく。ダンスのリードのように身体を浚われてわたしは彼の隣に戻される。

 抵抗する身体を優しく引き留める彼に、寄り添う体温に、わたしはまた絆されそうになった。


 彼に庇われながら、彼の言葉の真意をわたしは考える。


「嘘。あなたがそんな事できるわけない。それじゃ何のために身分まで偽ってわが家に来たのよ。騙されないわ! 不良幹部……ギャン・グー、だったかしら? 彼だってわたしの命を狙ったわ、今日もその延長でしょう。わが家を牛耳りこの国を裏から操れば、地下に潜むしかない今の不利な状況を覆せるものね」

「それは……」

 彼は困ったように眉根を寄せた。


 ……本当はね、もう十分に償ってもらえてると思うの。

 心にも経歴にも浅からぬ傷は付き、男の人にまだ不信感はある。でも彼に愛情を注がれ続けた事でわたしは婚約者を……優しかった「元」 婚約者の彼の裏切りは既に過去に出来ていた。

 わたしの友人らも傷つけられたけれど、彼のフォローで婚約者達に自省を促されてからは、関係を修復出来、きちんと婚約者扱いされる事で女性としての立場も取り戻したと聞く。

 その背後ではきっと慣れない社交界を渡り歩きながら、彼は償いの為に奔走し、わたし達を助けてくれたのだろうと想像できる。


 でもね……それとこれとは別。

 愛だけじゃだめなの、好きなだけじゃいけないの。

 わたしは、貴族の女だから。


「だから結社は油断ならないのよ。結社はこの貴族社会に害にしかならないわ」

 だからそう、わたしは結論づける。


「それが本当に結社の方針ならば、君の言う通りなんだろうね。ビッチーナの言う通り、裏で国を操る気なら」

 ああ、認めちゃったかぁ。

 わたしは残念な気持ちで彼から距離を取ろうとする。

 こうなったら、自爆覚悟で変身してビッチーナだけでもとまで思い詰めた。

 それを引き留めたのは、彼の手だ。


 いつかのように迷いなく、彼はわたしを片腕に抱き上げる。

 遠くに甲高い女の悲鳴が上がった。


「それが本当に結社の方針なら、だけれど」

「……え? それは、どういうこと」


 わたしは動揺しながら彼を見た。

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