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悪役令嬢、孤立無縁に立たされる?

連続投稿1日目。場面終了まで連日投稿します。

 絶体絶命だわ。まさにピンチだよ。

「まさか、ビッチーナが家の者を構成員にすり替えていただなんて……」

 わたしは周りを包囲され、孤立無縁の状況に唇を噛む。


 青くなるわたしに、女怪人ビッチーナは笑った。


「オーッホッホッホ!! これでアンタはおしまいねぇ。ドエース様ぁ、アタクシの為に本当にありがとうございますわ!!」

「気が狂ったのか、ビッチーナ。僕は……!!」

「オホホ、そう照れて下さらなくてもよくってよぉ! ピュアリーラブラブリー、アンタには散々手間を掛けさせられたけれど、アタクシの為に裏社会の地位を整備してくれてアリガトウ?」


 泣きそうになる弱い心を叱咤して、ソファからよろよろと立ち上がり覚悟を決める。

 全力で趣味に生き、ネタ動画やらショートストーリーを書いてたわたしは、ウェブデザイナーを目指してた。

 あのまま生きてたらきっとおひとり様になってたろうな、なんて思うぐらい創作活動を楽しんでいた過去生。

 そんな前世の記憶を時折に思い出すせいか、わたしは今世の貴族の価値観、女は家財として男に左右されるという困難さに不満を覚える。


 そういう意味で、独立独歩なお母様の強い生き方に憧れを抱いた。

 夫に左右されない自立した婦人になるべく、彼女の生き様を真似てきた。

 ああ、だからショックが倍増なんだ。


 憧れの人のお母様に、愛する婚約者に裏切られ、わたし女としてでなく「家財」 として売られちゃうんだもの。

 なんてことだ。本当に酷いよ。


 正直泣きそう、でも頑張る。自分を捨てたら終わりだもん。

 両頬を叩き、胸元の魔法のペンダントを手繰り寄せて、再び気合いを入れる。


 思い出せ。前にお母様に売られそうになった時の事を。

 お父様が許さない。家の者だって許さない。わたしだって許さない。

 よし、わたしは孤独じゃないぞ。悲劇のヒロインになんてなってやるか、わたしはヒロインじゃなくて、悪役令嬢だ!!


「負けるもんか。わたしはアヴァリーティアの娘。気高きお父様の、貴族の娘よ。絶対にあなた達なんかにこの家を明け渡さない、わたしはあなた達を許さない……!!」


 負けてやらない、わたしの居場所を狙う目の前の敵と戦うんだ。


 わたしは胸を張り、せめて貴族の娘として気高く最後の時を闘いぬく覚悟を決めてビッチーナを睨み据える。あ、なんかちょっと怯んだぞ。


「そっ、そんな怖い顔をして……やっぱり気に入らないわぁ!! 殺してしまおうかしらこの女!」

 キイイッと甲高い声で叫ぶビッチーナ、彼女の声に構成員らがわたしに掴みかかろうと包囲を狭める。


 あ、やってしまった。余計にピンチだ。


 不安に震える声を隠し、隣の男と……ドエースと距離を取り変身の隙を狙われない位置どりを探すけれど。

 包囲されてるもんなぁ、ちょっと難しいなぁ。肩が触れる距離から移動したら、今度は包囲網に取り込まれそうだ。しぶしぶ彼に引っ付く。

 そうすると彼の体温にほっとして、震えが一瞬だけど止まるっていうね。

 なんなのもう、情けないくらい彼に左右されるわたしってさ。


 でも、どんなピンチだって魔法少女は活路を見いだすの。だから負けない。絶対絶命の状況だけど諦めないよ。

 魔法少女はそういうものだ。いつだって勇気を持って難関に立ち向かう、女の子なら誰だってあこがれるそんな存在。

 だから前世は気軽に書いてたんだよね。

 すべての女の子は絶対に救われる。そういうエンディングが待ってる。そう信じたから、わたしは数々の婚約破棄なんてクライマックスシーンを書き続けた。

 ……正直、自身に降りかかってからはなんて酷い事書いてたんだろって思うけど。


 今のわたしは魔法少女だもの。


 わたしは、魔法少女は。女の子の純情を汚す悪を許さない。わたしは、負けない。



 正直状況としては完全に詰んでる。

 婚約者がいて、取引相手がいて。側近を引き離された状況で話を聞いていたから、わたしの周りには今、誰もいない。

 ……ドエースは、結社の人間だから味方とは言えないし。


 しかし、いつの間にすり替えられたんだろう。つい数時間前まで邸内には見知らぬ顔なんてなかった。まあ、離れなり地下階に潜まれてたら使用人なんて滅多に気にしないわたし達使う側の人間が知らなくても仕方ないところがある。

 ……ビッチーナが彼女の能力を盛大に使えば、あながち無理じゃないというのも笑えない事実だし。

 あれだ、プリティの「いい子になーる」 呪いバージョンみたいな? 操られてた人のあの盲目ぶりからすると、かなりの速効で強力な力みたいだし。

 だって彼女、つい数ヶ月前までは毎週のように貴公子をたぶらかして女の子を失恋させて恋心を奪ってたんだよ? すっごいやり手なんだから。


 あるいは、籠城してた中ですら味方を作ったお母様のこと、純アヴァリーティアの中でまた信者を増やしててもおかしくないかも。

 新人当主はやっぱり舐められてたってことかな。グッラ家にしっぽを振った人がいたのかな。使用人を決められるような人間、親族の者が取り込まれてたなら秘密裏にすり替えがあっても分からない。


 ……最悪な想定なら幾らでも考えられる。ああ、本当に笑えない状況だ。



「聞くな、こんなデタラメを真面目に受け取らないでいいから。君はここを脱出する事だけ考えて」

 まるで周りから庇うように肩を抱き寄せ、囁く優しい声が隣からするけど、今更だわ。

「うそつき……さわらないで。ビッチーナの、可愛い彼女の為につきあってたんでしょ。もう可愛くないわたしの婚約者の振る舞いなんてしなくていいから」


 逞しい腕を振り払って、わたしは震えながらも可愛くないことをドエースに言う。

 彼は悲しそうに目を細めた。

「ビッチーナの言葉など聞かないで。僕は君を裏切ってなんか……」

「今更、取り繕わなくていいから。彼女とお幸せに」


 なんで敵を好きになっちゃったんだろう。今でも好きなんだろう。縋りたくなる手を意志の力で押さえつけて、声を絞り出す。

 わたしってバカだねぇ、今でもこの気障で優しい、いや優しかった婚約者が恋しい。


「お願いだバーバラ、冷静になって、話を聞いて。また自分で自分を追い詰める気かい? 僕は言ったよ。君を裏切らないって」


 ちらりと隣をみる。彼は演技か素かわからないけど、真っ青になってこちらを悲しそうな目で見ている。薄く形のいい唇まで震えてるから、うっかり信じたくなる。

 その手は今もわたしに伸ばされて、その瞳はわたしだけ見ている。

 それでいて周りの動きを把握して、わたしから遠ざけようと、いつの間にか握られていたいつかのライフル銃で牽制していた。


「ドエース様ぁ! 演技などもう止めていいのですよぉ? その女なんてこの豚の横に放り投げてアタクシに熱いキスを下さいなぁ!!」


 包囲の人垣の外、安全地帯で高見の見学中のビッチーナは、楽しげに声をあげた。

 そういえば、と忘れていた彼女のご主人様を見ると……。

 騒ぎも気にせずソファに深く座り込んで、ぼうっと呆けている。

 これは、暗示状態……?

 豚、いや伯爵はおそらくビッチーナのキスを受けているんだろう。呪いのようなキスは彼女を愛した男をいいなりにさせる効果がある。


 ……つまり、それをねだるビッチーナは、ドエースを操ろうとしてる……?

 おかしいな、ドエースと協力してるならなんで。それとも怪人同士だとキスは効かないとか?

 まあ、それはいいや。今はそれどころじゃないし。

 どうにか、変身の隙を見つけなきゃ。


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