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悪役令嬢、不愉快な面会を続ける。

 それはのどかな昼下がりのこと。応接室でお茶を交え、話上手なドエー……婚約者のベネディクトが豊富な話題を振り、わたしはお母様を真似た権高い笑みを浮かべ女王の如くに場の空気を支配して。

 表面上は和やかに進んだよ。

 

 そんな中で、またお客人はおかしな事を言い出した。

「流石はゾフィー様のお嬢様だ。いや、本当に麗しい」

 更に畳みかけてきたよ、小娘と。まだ不穏な会話を引きずるつもりなんだろうか。

 っていうか……この人、ひょっとして隠れお母様派なの? 会う相手は精査した筈だけど、隠れて信者やってるのは潰せてないのかなぁ。


「儂は彼女に求婚した事もありましてなぁ。本当は、儂が貴女の父であったかも知れないのですがな。儂の目を盗み、彼は本当に良くやったものだ」

 またか。

 おじさんはお父様をどうしても下にみないといけないらしい。


「まあ、ご冗談を」

 呆れを内心に隠して笑うわたし、がんばってる。

 どうやってお母様と結婚する気だったんだろうな、このおじさん。お父様とお母様は国の要請で結婚したのにね?


「儂の時代では高嶺の花と呼ばれたものですよ。そんな美貌を受け継いだ令嬢と昵懇に付き合えるとは、いやはや長く当主を務めるものだ」

 ニタリと彼は笑った。


 ……んんん?

 わたしを跡継ぎと決めた際、お父様はある程度派閥の調整を済ませた筈なんだけど、この人はどういうつもりでわたしに失脚したお母様の名を告げるの?


 うーん、これは注意して話を聞かないといけないかも。敵かも知れないよ。


 それに、昵懇とはどういう意味だろう? 一応礼儀として顔通しはするけど、おべっか使いのこのおじさんとは親しくつき合う気ないんだけれど。

 彼の代わりはどこにでも居るし、変に汚職なんてやらかされて足を引っ張られるのもやだしねぇ。


「……ところで、伯爵。先日の夜会での事ですが」

 奇妙な空白、途切れた話をベネディクトが上手く繋いでくれる。それに内心感謝しながらわたしは目の前の脂下がった客人の身分を思い出す。


 おじさんは何とかわたしに話を振ろうとするが、わが婚約者がそれをさせない。

 社交に領政に流行にと、お客人が食いつきそうな新鮮な話題を提供する。

 ……男性貴族ならば押さえておきたいポイントばかりだ。一体どこから掴んできたんだろう。あ、今は王都にいるもんね。それに彼の親友様……つまりはわたしの友人の婚約者達も、若手貴族の中ではかなりの有名人だし、最新ニュースなんてお手の物なんだ。


 ベネディクトの変幻自在な話題振りに翻弄されるお客人。

 そのフォローのお陰で、進まない食事が何とか進んだ。

 わたしはいよいよ作り笑いを深めて二人の話を聞いている。


 と。


 油断したところでこちらに話が戻った。

「ははは、その気高い顔もまた良いものですなぁ。本当に生き写しだ。儂は令嬢と深い仲を……そう、特別な仲を築ける事を喜んで……」

 ニタリと笑うお客人の顔に欲望が灯る。

 結婚報告も済ませた女に、そんな顔をする理由とは。わたしは一つ、可能性に気づいた。……もしかして。まさか。


「ところで……儂の好意は受け取って頂けますな?」

 何故かニヤリと脂下がった笑みを浮かべ、彼は鷹揚を気取って言った。


「まあ、何の事でしょう?」


「このような重責、バーバラ様のような可憐な姫君が担うものではありませんぞ。ご父君の上を行くと言われた上役の儂に任せて、バーバラ様はその笑みを儂の隣で振りまかれれば宜しい」


「まあ……。伯爵様はずいぶんとご冗談がお上手ですこと。お父様という後ろ盾があるわたくしに、更に盾を増やせと仰るのかしら」


 この人も、お母様から家財……つまりわたしを「買う」 予定のお客であった、と?

 わたしはぞっと背筋を凍らせた。


 彼は隠居する前にに仕込んだお母様の置き土産か。


 小太りの伯爵はいやな笑いを浮かべる。わたしをモノとして扱う人間の顔を。

 わたしの顔には仮面のように張り付いた笑み。けれど体はかたかたと震える。

「わたしの「妻」 に何か? 余りおかしな事を仰らないで頂きたい」

 それを見取り、ベネディクトはわたしを庇おうまた、話を振るけれど。


「おっと若造、貴様はもう良いぞ。顔は覚えたからさっさと引かぬか。儂は既に「手付け」 も払ってあるのだぞ。全く、これだから若造は困る。気が利かぬなあ」

 しっしとベネディクトを追い払おうとする段で……部屋の外、隣に詰めた護衛達が動く音がした。



 ……けれどそれは助けの手ではなく。


「さぁ、アタクシの可愛い兵隊たち。あの女を引きずり出して野良犬にでも食わせてやんなさぁい。アタクシは女の顔をして、ドエース様と共にこの国を裏から牛耳ってやるんだからぁ」


 ひっ詰めた髪を解きながら、メイド姿から女怪人に姿を変えたビッチーナがそう、構成員と入れ替えた護衛の後ろで言った。


「ね、ドエース様ぁ。アタクシようやくアナタの気持ちが分かりましたわぁ。これを狙っておられたのですよねぇ?」


 盛り上げ髪にアゲハな衣装で派手に決めた彼女は、その紫の唇で優雅に笑う。


「アタクシと、結社の為に裏側でこの国を操る為に、アタクシの為にそのオンナの隣にたったのでしょう? そうに決まってるんだからぁ……」


「何を言っているんだ、お前はおかしい」

 わたしの隣からは困惑の声が聞こえるけど。


 彼女は唐突に笑う。


「あらぁ。ベネディクト様ぁ。アナタもやってるじゃないですかぁ、伯爵家三男とのすり替えを。アタクシがやっちゃダメなんてないですわぁ」


 人物のすり替え、裏からの支配。

 なんて悪の秘密結社らしい手口だ。わたしの婿がドエースで決まった以上、彼女がわたしの身に成り代わるだけで成立するというお手軽さが悲しいくらいに裏付けている。


「ああ……やっぱり……仕組まれていたの?」


「聞くな、お願いだバーバラ! 僕は君だけが……!」


「でもぉ、アタクシの為にそのすてきな席を空けていてくれたのだものねぇ~。今回は殺すのをやめてあげる。アタクシったら優しいわぁ!! アンタはそこのいやらしい豚にメイドとして飼われなさいねぇ、これは決定よぉ! 絶望の中アタクシ達のウェディングでも見ればいいんだわぁ、アハッ!! アハハハハハ!!」


 ……ゲタゲタと笑う女怪人。

 熱狂に煽られるようわたしは構成員が包囲を築き近づいてくる。


 この場に味方は、いない。


 わたしは絶望のまま、その言葉を聞いていた。


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