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悪役令嬢、使い魔に留守番を言い渡す。

 それはある日の昼下がり。

 わたしは来客の為に武装……じゃない、ドレスを着て髪を結い上げ、時間になるまで部屋でくつろいでいた。


「……じゃあ、お仕事に行ってくるわ。くれぐれもいつもの所でおとなしくしているようにね」


 あ、今日は客が来るって事だから、悪女風の派手な赤いドレスに濃い化粧で着飾ってるよ。それはもう、お母様そっくりな見事な悪役女ぶりに仕上がってるよ。

 ……いや、お気に入りの緑のドレスとかでもいいんだけど、そっちだと若造だからって下に見てくる人も居てね。仕方なく、お仕事の場ではお母様の威を借ってるわけだ。


 そして今は、着付けが終わると一人になる時間が欲しいと言って、続きの間にメイド達も下がらせたところ。

 わたしは問題児に言い聞かせた。


「くれぐれも、部屋で大人しくしているのよ」

 わたしが顔に指先を近づけて厳しく言うと、わが使い魔はむうと頬を膨らませる。


「むう。今日は王都からあやつが来ているのであろう」

「そりゃまあ、もうすぐ結婚するパートナーだし。公式の場にいないのはおかしいじゃない」

 それこそ来客に無駄な詮索される隙を与えるよね。


「それはそうだが。あやつとご主人が会う場には必ず我を連れよと言っておるのに、何でご主人は我に冷たくするのだ?」

 鏡台の前の椅子の上、柔らかい布を詰めた籠ベッドの上でふんぞり返るはまんまる白いわが使い魔。

 その渋いお声を低め、冷たいとわたしの事をなじる。


「わたしだって出来れば、あなたを連れていきたいけど。今は無理なのよ」

「むう? 何故だ」

 わたしの言葉にこてんと首を傾げるまんまるさん。相変わらずかわいいとふわふわ頭を撫で和んでいる場合じゃなくて。

 ぱっと手を離し、身を引いてわたしは厳めしい顔を作った。


「忘れちゃったの? わがまま貴族女を気取れた以前とは違って、わたしの身分は伯爵なのよ?」

 慌てて腕を組み、すかさず偉そうに見下ろすポーズを取る。


「ご主人の父上から正式に譲られたのだったか。それは理解しているつもりであるぞ」

 こくりと頭を頷かせるプリティ。わたしは微妙に彼の理解を確信できなくて、疑問を浮かべてしまう。

 この使い魔は天界の生物のせいか、たまに凄い無理解を示す事があるもので。


「そう? 本当に?」

「うむ、ご主人は当主、家門のリーダーとなったのであろう? 群のリーダー、という事ならば流石にどんな立場かは分かるぞ」

 わたしの疑問に、そう遠くない答えが返ってきた。わたしは人なんで、群れは率いてないけど、まあそこまで理解出来てればいいか。


「だいたい正解。じゃあその地位を理解した上で聞いてね? 女主人となったからには、わたしはアヴァリーティアの顔よ。上位者は仕事をするのは品のない行為とされる上流社会では、何をするにも使用人にやらせるものなの」

「それは不便なルールだな。たいていのことは自分でやった方が早いだろうに」

「こ、こら。わたしもそう思うけど、口に出しちゃだめよ?」

 あんまりな言いようにわたしはぎょっとする。


 そりゃまあ、お茶の一杯も淹れられない立場は息苦しいなぁと思わなくもないけどさぁ……それをいったらおしまいじゃないの。

 コホン、と空咳をして気を持ち直し、わたしは結論を言う。


「……で。わたしは上流に属す貴族で、家のトップよ」

「うむ」

「当然、手ぶらでいるのが当たり前だし、籠なんて持つのはあり得ない事なわけ」

「むう?」

「下品だとか家格に見合わない蛮行と取られちゃうの」

「なんと」


「だからこれ以降、バスケットを提げたり布袋に隠したりして、あなたを部屋から連れ出すのは無理だという事よ」

 まあ、つまりはこれを言いたかったんだけれど。

 たったのこれだけの事を理解させる為に、随分遠回りしたものだよね……とほほ。



「では我が大きくな……」

 目を輝かせ問題発言を言い出す前にわたしは手を挙げて彼の言葉を止め、早口で言及する。

「かといって、あなたが大きくなったらまたお母様が喜んで出てきて騒動起こすに決まってるし。お母様はね、まだ遊び足りないみたいよ」


 現在、お母様は「病を得て」 若くして隠居した、という形で地方の長閑な山村に身を寄せている。当然、お父様派の中でも武闘系の者に身辺を固めてさせて、ね。

 ラスボスお母様も鉄壁ディフェンスの中では信者を呼び寄せられないらしく、ここのところは随分おとなしくしている。

 そんなわけで、新当主であるわたしの周囲は平和になったのだけれど……。


 暇をあかせてか、しょっちゅうお母様が寄越すようになった手紙がね、わたしの精神を削ってくれるんだよね。


 美文に隠した上流風のいやみのオンパレードから始まり、わたしの不幸を願う一文で括られる、身内の手紙。完全に嫌がらせだ。

 お父様と存分にやりあえないまま隠居させられて、ストレス貯めてるからって、わたしをいじめてストレス発散するのやめて欲しいのだけれど。


「お母様、まだまだやる気のようよ? そんなにあなたがわたしの後釜を狙いたいって事は、わたしがお母様に悪趣味な貴族に売り出されて苦しめられたり、地位を失って娼婦にでも成り下がるのがお好みなのかしら?」

 自虐を込めて母親との確執を語り、鏡台の前の白く小さな姿をじろりと見れば、彼は大きく首を振る。


「そんな訳なかろうが。我はご主人の使い魔であるぞ、ご主人の幸せを願う事はあっても不幸なぞ望む訳がない!! そんな風に己を追い込むような言葉を使うでない」

 籠を飛び出しわたしの腕に縋ると、涙目で必至になってひねくれたわたしの自虐を止める。


「こんなに、震えてまで自分を卑下するなぞ正気ではないぞ。我が悪かった、まだ母御との確執は続いておったのだな……」

 慈愛の眼差しでわたしを見つめる彼は、小さな手で慰めるようにもふもふと腕を叩いてくる。

 本当、この子はわたしには勿体ないくらいにいい子だよねぇ……。


「……ごめん、言葉が過ぎたよね。とにかく今はあなたの存在が悪く影響しそうな状況なんだよ。わたしも側に置きたいけど無理なんだ。だからおとなしくしていて」

 わたしの為に。

 そう言えば、彼はしぶしぶと腕を放して、頼りなく飛んで籠に戻ってくれた。

 そして心配そうにわたしを見上げる。

「ご主人……思い詰めるなよ。何でも我に相談してくれ」



 結局ほとんどの時間をプリティを言い聞かす事に使ったわたしは疲労していた。

 まあその代わり、プリティのあの問題発言からこっちの数日は、余計な事をくよくよ考える暇もなくて夜はぐっすり眠れてて、それはそれで助かってるんだけど。


 そんな複雑な胸中を別として、わたしは午後から当主の仕事で、とある大物……? と、面会に臨もうとしていた。


 当然、これは顔繋ぎの場だから、王都から婚約者を呼んでいる。

 まだビッチーナの件で割り切れてないので、ドエースの顔をまともに見たりは出来ないけれど。

 それでも彼の腕に手を置いて仲良く並んで澄まし顔でいる事ぐらいは貴族の女として出来るわ。

 長年培った高慢な悪役顔は得意ですから、作り笑いで誤魔化しているわ。まあ、悪役芝居はつい先日まで日常的にやってたし、慣れよ、慣れ。


 さて、化かしあいを始めましょうかと、わたしはすっかりと被り慣れた仮面を装着して、目の前の貴族に微笑んだ。


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