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悪役令嬢、結婚準備に勤しむ。

 結婚式の準備が本格的に始まった。


 すっかり昼間のわたしの居場所と化した執務室で、結婚の報告の手紙を沢山書く。と言っても、数が多すぎるから定型文をいじったものを使用人が書き、わたしとドエースがサインを添えるというものになるのだけれど。

 何せ、国内の主要な貴族を殆ど押さえるのよ? どれだけお父様とお母様ったら顔が広いのかしらね。本当、驚くわ。


 で、結婚式の日時の決定、招待客の選定と告知も同時進行。

 偶にいるのよねぇ、何とか親戚として顔を出そうとする縁もゆかりもない小者が。

 だから、親類友人など顔見知りが中心の内々のパーティでも、きっちりリスト作って弾かないといけないの。

 中には変に親切心出したり小金掴まされて引き込んじゃう人もいなくはないからね。そういう浅はかな人間をあぶり出す機会とも言えるけど。


「……そうね、この辺りが無難なんじゃないかしら。でも漏れがあったら失礼だし、お父様に一応チェックを頼んで貰えるかしら」

「では、父を通して先代様に確認しておきます。次に、当日のパーティですが……」

「格式が合っていれば、予算内でペーターがやりやすいように作ってくれて構わなくてよ。結婚式が終われば、後は身内の宴会みたいなものだし」




 それが終われば、ドレスの準備。

 生地からパターンから装飾用の宝石、レースの発注もあるし、ドレス全面に驚く程繊細な刺繍も施すから、半年前から頼んでもギリギリになるのよね。

 あ、勿論出入りのデザイナー、マダムエッタにお願いしたよ。


「まあっ、わたくしのミューズであるバーバラさまのご結婚衣装とは、まことに光栄ですわ。わたくしの最高傑作をお贈り致します」


 打ち合わせ当日には、既にどっさりとデザインが書き起こされていた。たちまち応接間のテーブルが埋め尽くされる……絵のモデルがみんな金髪縦ロールの女の子な時点で、それがわたし用に書かれたものだと分かる。ベタな髪型だけど、実はわたし以外に同年代の子でやってる子いないのよねぇ、縦ロール。


「ありがとう、マダムエッタ。貴方の腕は信頼しているもの、出来上がりを楽しみにしていてよ」


 わたしは胸を反らし権高く笑ってみせる。

 ……実際、彼女はやたらセクシー路線を勧めてくるけど、腕は確かだからね。


「ああ、そうだわ。貴方のお知り合いに紳士服を作られている方はおられる? わたくしの婚約者の分は、貴方のデザインに合わせた盛装をと考えているのだけれど、良いテーラーをご存じでない?」

「そうですわね、何件か、王都の老舗をご紹介出来るかと思います」

「あらそう。では良いように頼むわ。婚約者は王都でわたくしの補佐をして下さっているので、そちらで採寸など行って頂けるかしら」

「はい、では選定が済み次第、至急向かわせますわ。ところで、ご婚約者様の事も存じておりますわ、噂の紳士でいらっしゃいますね? ……とても美しい殿方だとか」

「まあ、流石は情報通ね。ええ、わが婚約者様はとてもお美しいの。そしてとても優しいのよ」


 もう何度も作って貰っているから、マダムエッタだと話が早くて助かるわ。

 ドレスメーカーはいくつか付き合いがあるけど、人によってはやたらとおべっかばかりで仕事が進まなくて、いらいらするから。


 それにしても、謎なぐらいに有名なのね、わが婚約者殿。

 まあ、しばらく社交界で活躍してたのはわたしの友人達から聞いてるし、三人の「親友」 が出来たぐらいだから、相応に顔も知れてるんでっしょうけど、それにしても。

 やっぱり、顔なの? 顔なのね?

 美形が嫌いな女子は滅多にいないものね、はあ。



 そんな感じで、しばらくは忙しくも平和に過ごしていたら、王都のドエースから連絡が来た。

 ……「お偉い方」 から返事が届いたと。


「そう。彼女は「個人的な暴走」 で、方針は変わらず、ですか」


 連絡から三日後の夜。

 晩餐を済ませて、遊戯室でカードゲームをたしなみながら食後の団らんを演じるわたし達。

 けれど話している内容は可愛くない。


「ええ。先方からは、はっきり確約を頂きました。私も今後はしっかりとそのように対応致しますので」

「……対応、ね」


 もし彼女が、ビッチーナが再びわたしの抹殺に動いたら。

 その時はちゃんと……わたしの味方として、彼女を撃退してくれるのかしら?

 生死が関わっても、ぶれずにこの人は、わたしを取ってくれるのかな。


 じっと彼の美しい顔を見つめれば、彼はふっと笑みを浮かべる。


「どうしました? そんな可愛い顔をして」

「可愛い顔?」


 どちらかと言えば、疑いの目で見てるんだけれど。


「貴方の目は偶に違うものを見ているんじゃないかと疑うわ。わたくしの意地の悪い顔を可愛いだなどと」


 私はテーブルにカードを投げ捨てるように置いて、ゲームを放棄する。二人用の七並べに似たルールのゲームは、わたしの投げ置いたカードに乱されて、意味をなくしてしまった。


 ……殆ど劣等感すら抱いている、かわいげのない悪役顔。

 あの子の可愛さや可憐さと正反対の、意地悪そうで腹黒そうな顔立ちだ。

 それに可愛いなどと言ってくるドエースは、本当に変わり者。


「私はその、意地悪な顔を可愛く見えるのですよ。貴方はいつだって私にとって可愛くて魅力的だ」

「……趣味が悪いわ」


 カードの代わりに扇子を取り上げ、わたしはその影に表情を隠す。


「眠くなりました。部屋に戻るわ」

「そう、それじゃあお休み。また明日も君と過ごせるのを楽しみにしているよ」


 まるでこの顔みたいにかわいげのない行動だ。話の途中で逃げるなんて。でも、加速度をつけて落ち込んでいく気持ちが止められなくて。

 このままだと、意味もなく彼に絡んで、困らせてしまいそうで。それが怖くてわたしは席を立つ。


 わたしの気ままな態度を、けれど彼は穏やかな顔で受け入れてみせる。

 ……その優しさが、いっそ辛い。


「ごめん、なさい。明日にはちゃんと、もっと話すから」


 きっと酷い顔をしてるだろうと思いながら、わたしはそれだけ言い置いて。


 彼の前から、逃げ出したのだった。


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