悪役令嬢、婚約者と未来を語る。
隣の港町での事件の翌日。
わたしはビッチーナの行動についてドエースに説明を求める事にした。
彼女の暴走にしたって、そのベースはやっぱり、彼の計画に基づくわけで。
……うん、やっぱり割り切れないんだよね。
とはいえ、今はいろいろお互い忙しいので、日中は無理そうだった。
彼は面倒な小者……もとい接客応対、わたしはお父様の基盤引継の為にあれこれお偉いさんとの面会があるので、それを片づけつつ過ごす。
内心もやもやを引きずってるけれど、魔法少女関連の感情を持ち出すと面倒だから、それはひとまず置いて仕事に励む。
あまりの忙しさに、使い魔に相談する暇すらない。
あれで気配り上手な彼のことだから、このもやもやだって解消してくれるだろうに。
でも、天使な美少年から魔王様に格上げしてしまったせいで「よい子になーる」 魔法で大きくなった彼を配置するのも戸惑われるんだよね。
だからもう、それこそ朝と夜のご挨拶ぐらいしかできなくって。
その日の晩餐を終えて。
居間にて、どうにか時間を作り面会する。プリティは……うん、どうにか連れだそうと思ったんだけど、いつものバスケットを取り上げられちゃってねぇ。「女主人が物を持つなんてはしたない」 と。
うーん、今度からどうやって持ち込もうかな。
お互い気取らない部屋着の姿で……一応、婚約者とはいえ結婚前なので、お互い側近を連れているけれど、まあ、身内のくだけた席として場を造ってみた。
彼にはお酒、わたしはお気に入りのハーブティを淹れて、ソファにてくつろぐ。
しばらくは、気の置けない婚約者どうしの初々しい会話なんかに努めて、周囲の目を誤魔化してから本題に移る。
「……悪いですね。一応「あの件」 は、「お偉い方」 に打診しているんだけれど、まだ詳細は掴めてないのですよ」
「そう、それは仕方ないですね。昨日の今日ですから、「あの件」 については引き続き確認を取っていただける? わたくしは真実を知りたいだけですので、そちらの都合に会わせますわ。……ごまかしは許しませんけれど」
「ああ、無論分かっていますよ、わが愛する方」
あの件だのお偉い方だの、どうもハッキリしない言い方になっているけれど、人目のあるところだから仕方ない。
「ふふ、相変わらずお上手だこと。ベネディクト様のそんなすてきな笑顔で言われますと、わたくし照れてしまうわ」
なーんて甘えた事いいながら、広げた扇子の裏でわたしは微妙な顔をしてる。
あの件、は昨日の事件のことでお偉い方は勿論、結社の総帥のこと。
ドエース……ベネディクトには以下の件を聞いて貰ってる。
本当にあの事件はビッチーナだけの暴走だったのか。
結社はわたしと彼……魔法少女と結社幹部の結婚に基づく「霊質」 獲得によって、矛を収める気があるのかどうか。
なんてことを。
……まあ、逆に今の時点で連絡ついてたらそれはそれで嫌な感じだからいいんだけれど、この件はしばらく掛かるのかなぁ。
このもやもやもしばらく引きずるのか。それは面倒な。
うん、まあ。彼らが魔法復活に動いている以上、ずっとおとなしくしてるなんて事は思ってない。
神様が一度は人から取り上げてしまった、それは禁断の果実だ。
不良幹部やビッチーナなんていう過激派も抱えてることだし、いつ暴発するかも分からないあたり、秘密結社を名乗るだけあると思うよ、実際。
今回だってわたしの殺害を成功してれば、ビッチーナが公爵次男様経由で中枢に乗り込んだかもしれなくて。
……ぞっとしないよね、あの魅了の力と構成員のバックアップ体制でもって挑まれたら、本当に我が国ピンチだもの。
でも、わたしが魔法少女でいる間だけでもさ、神様の使徒として彼らと和解出来るなら。
結社の暴走もなく、恋人達に被害が出ないでひっそり地下で研究に励むだけにしてくれるのなら、それに越した事はないと思うんだよね。
ドエースが好きだからって理由だけじゃなく、わたしと彼の婚約にはちゃんと意味があるって、そう思えるんだ。
で、不良幹部なんかの失敗を見るに、結社は魔法を自由に操ってる訳でもなさそうじゃない。未だ基礎研究だの何だの言ってるぐらいだから、しばらくはそんなに破滅的な事にはならないと思うんだよね。
ある日突然世界が滅亡したりするような事は……ないんじゃないかと。
楽観的かな?
「それはそうとして、そろそろ、各方面へ結婚の知らせを送らねばなりませんね」
「そ、そうね。もうあと半年を切ったのだものね……また、沢山のお手紙を書く仕事が始まるわ……」
この国の貴族の結婚式は、身内で内々にやるもので、つきあいのあるお家などには「誰と誰が結婚します」 というお手紙を送るだけで済ます傾向である。
それなりに広い国だから、結婚式に呼び付けるとなるとお互い準備とお金が大変なことになるのだ。
身内だけと言っても分家やら篤い友人やらはくるので、そう寂しい事にもならないし。
「そちらのお家は、どうかしら? 何かしきたりがあるのならば早めに執事に言っておいて欲しいのだけれど」
「ははは、私は気楽な三男ですからね。こちらが何か言う事は無いと思いますよ。女性ならば母君から受け継ぐ代々の品があるだとか、そういう話も出るのでしょうが」
「まあ……そうなの? わたくし、男の方で同年代の友人など、少なくて。その点はよく分からないのよね」
一応上位貴族、伝統ある家であるだけあって、アヴァリーティアの「身内」 なら三桁は呼ぶ事になるだろう。
その人数を充分にもてなす用意をするのだから、大変だ。
対するベネディクトの方はといえば、聞いてみると本当にご実家と、わが家に繋ぎを得たい者達のみが参席するという。
「そちらのご友人は来られないの? わたくしは貴方もご存じの、親友達を呼びたいと思っているのだけれど」
数少ないとはいえ、わたしにも居るんですよ、親友と呼べる子達が。
「そういえば、あの子達から言われていたわ。結婚した時には是非貴方を連れて来て欲しい、と」
それはもちろん、彼女らが彼に恩があるから、というのもあるのだけれど。
わたしは扇子の影からじろりと彼を睨む。
「……美形と名高いベネディクト様にお会いしたいんですって」
鼻が高いと思うべきだろうけど、微妙に嫉妬心も疼くんですよ。
「おやおや、それは光栄だ」
彼はそんなわたしの態度にも関わらず飄々と笑う。その笑みはさわやかな筈なのに、どこか耽美な空気が漂うのは、彼独特の持ち味みたいなものだろう。
「そうですね、貴女に許して頂けるならば、幾人かは呼びたいところですが……こう見えても私は嫉妬深いので、未婚の男は呼ばない事にします」
なんて、わたしの心を読んだみたいに言い添えるからもう、たまらない。
いつだってそう、ひねくれたわたしの心を簡単に舞い上がらせるのは……。
「まあ、本当にベネディクト様ったらお上手だこと」
彼だったよねって、その笑みを見つめながら思う。
……ああ、でもこんな話をしてると、彼と本当に結婚するんだなぁって、今更ながら実感する。
一年前はもうまともな結婚なんて出来ないと思ってたのに、思えば変わったものだ。
好きな人が出来て。
好きな人と結婚出来る、だなんて。
我ながら不思議でならないよ。




