魔法少女、現状把握に努める。
「待って下さい、ドエース様ぁ……!」
「フーネー? フネフネ?」
歴史ある学校のグラウンドで、ドスンドスンと地響きを立て歩く巨大モンスターをバックに、振り返らぬ愛する人の背を追いかける清楚系美少女。
少女の切なる声にも振り返らず、アンニュイな美青年は校舎の方へと大股に歩み寄る。
「フーネー??」
空気を読まずモンスターはのしのし歩いてる。
……一体どんな図だ。
がれきの陰に潜んだわたしはいまだ絶不調。
まあね、これより酷い状態なんてわりとあったんだけど、最近平和だったもんで、痛みに弱くなってるもので……痛むあばらの辺りをさすりながら、魔法少女のなんとか回復するのを待っているところだ。
あと少し、ちょっとだけ、時間があれば動けるようになるとは思うんだけれど……。
……体は痛いしなんだか常にない状況だしでわたしも割と混乱してるかも。
今の内に、現状を確認しよう。
プリティが隣の領のカップルのピンチをいつものように察知して、わたしは緊急出動して。
そしたら、いつも通りに妙な規制に引っかかって、愁嘆場を眺める事になり。
ようやく解除されたとこで、バトルに入って。
そこまではいつものこと。この一年、いつもやってた通りの流れだ。
違ったのは……たまたま王都で一緒にいたドエースと共に来た事と、ドエースがビッチーナと仲間割れした事……かな。
うん、正直言って仲間割れとか驚いたよ。
そもそも、ビッチーナがナチュラルに不良幹部みたいな事言い出して、ウェルカム世紀末宣言したのが発端だろうか。
っていうか。
あれだけドエースラブだった癖に、何でまたビッチーナってば、不良幹部なんかに宗旨替えしちゃったんだろう?
魔法少女絶対殺す派で話が合ったから、とか? それでも、幾ら何でも短絡的過ぎるような気がするんだけども。
……でもそう考えると、仲間割れについては納得出来るんだよね。
丘の上での争いの様子を見るに、ドエースは同僚の不良幹部とはとことん話が合わない感じだったし。
何て言うか、ドエースは研究者気質なだけで、積極的に犯罪行為に手を出すタイプじゃないっていうのがわたしの勝手なイメージなのよね。
魔法を研究するには結社しかないから、そこにいた……そんな感じがする。
失われた歴史の探求者っていうか。
ほら、この世界って、歴史上から巧妙な程に魔法があった事は消去されているじゃない? となるともう裏技的に、不思議な力を操る結社に入るしかなかった……なんてね。そんな風に思うんだ。
まあ、本当のところはよく分からないし、わたしの勝手な想像でしかないけれど。
不良幹部? あれはど真ん中で犯罪者だし。散々蹴られし殺されかけたの忘れてないし。
あの紳士っぷりの半端ないドエースが女の子を拒絶したのは驚きだけど、反りの合わない不良幹部に思想を染められた感がある今のビッチーナを受け入れられないという感覚は、理解できる。
わたしも、ビッチーナのあの話はふつうに引いたもん。
後は……そうそう、思い出した。もう一つ忘れちゃいけない事があったっけ。
結社の本拠地のあるこの国の王家筋に手を出しちゃったって事も、結社としては割とまずいんだっけ?
まあ、その辺りはわたしとは関係ありませんけど。
「ドエース様、正気に戻って! 邪魔な魔法少女など殺して、神の遣いも首級に上げ、アタクシと世界を支配しましょう! きっと楽しいですわ、アタクシの、アタクシ達の世界ですもの……何で返事もして下さいませんの!?」
嘆くビッチーナを無視して、今もこちらへ歩いてくるドエース。真剣な彼の眼差しはわたしが潜むがれきの辺りを見つめていて。
その背に拒絶されて、美少女がおろおろしてる。
「どうしましたの? アタクシ以外の女なんて何の価値もありませんわ。ドエース様の対はアタクシ。総帥もそう造られたのに、おかしなドエース様。魔法少女など気に掛けるなんておかしいですわぁ、殺してしまいましょうよ、ねっ?」
甘えた声で気を引こうとする少女に、しかし青年は振り向かない。
いよいよ泣きそうな顔でビッチーナが叫ぶ。
「ドエース様ぁ! あの女のせいですか! あの女におかしな事を吹き込まれたんですねぇ!? そうです、そうに決まってます! アタクシは分かります!」
勝手にヒートアップしているビッチーナ。その言いようにわたしは思わず呆れた。
いや、おかしな事ってどんな事よ。
そんなわたしの突っ込みも知らず、ビッチーナは更に苛烈な言葉を重ねる。
「アタクシ、絶対にアタクシの横に並ぶアナタしか許しませんわぁ!! 絶対絶対、あの女を殺してやるっ」
うわぁ……怖っ。怨念籠もった言葉に、わたしはぞっと身を震わせる。
でも、そんな言葉にもドエースは反応せずに前だけを見て歩いている。
……うん? 本気で彼女のフォロー、しないんだ?
いつもはそれなりにビッチーナの事気遣ってたのに。
わたしが首を傾げている合間にも、真剣な顔つきのドエースはこちらへずんずん歩いてきちゃう。
ビッチーナを置き去りにして。
そんなやりとりを眺めつつ、どうにかこうにか痛みを押して、わたしは立ち上がる。
「よし……いくぞ」
ドエースがビッチーナを引きつけてくれたおかげで校舎は無事だし、負傷も何とか動ける程度までは治った。
今のうちにね、何とかしますよ。母校が壊される前にね。
……わたしは、魔法少女ですから!!
わたしはがれきの陰から飛び出し、すぐ側に来ていたドエースに声を掛ける。
「ドエース、ビッチーナの確保よろしく。今度こそあのモンスターを倒してくる!」
「ああ、健闘を祈るよ」
すれ違い様、パンッと手と手を打ち合わせ笑みを交わすわたし達。
ビッチーナが睨んでるけど、でももう気にしないもん。
ドエースはわたしを裏切ってない。それだけで、元気百倍で頑張れる気がするんだよ。
体はボロボロ、可愛い魔法少女の衣装だってすっかりよれよれ。
でも負ける気はしない。
ぐっと手を握り、地を踏みしめ。巨体めがけて繰り出すのは魔法少女格闘術。
ジャンプ一発でゆるキャラ風モンスターの頭まで飛び上がり、その顔(?)を蹴りつける!
「よし、今度こそ決着つけるよ!! プリティはサポートお願い!」
「心得たぞご主人。しっかり戦うのだ」
そしてわたしは、魔法少女のお勤めに、力を振るうのだった。
「フ……フーネー!!」
すどぉんと、地を揺るがせてモンスターの巨体がグラウンドに倒れる。
その胴体にはぽっかり穴があいてる。いつもより勢いの増した光の矢を食らわせたせいだ。
うーん、威力が三割り増しくらいになってるかな? 大物相手で気合いが乗ったね。
なんて、喜んでる暇はない。
「な、そんな……アタクシの自慢のモンスターが……!?」
愕然とした顔をしてるビッチーナをよそに、わたしは慌てて校門までダッシュする。
「ご主人、何を慌てているのだ?」
その長い足で隣を歩く魔王様フォームなわが使い魔が、不思議そうに首を傾げる。……くっ、足の長さが違うからって余裕だな!!
「何故って? いつもより時間がかかったせいで、変身が解けそうだからだよ! 後輩に正体知られるとかやだし!」
「ふぅむ? そんなものであるか」
公子様も侯爵令嬢もわたしの知り合いなんだもん、あっ、先輩だなんて言われたら恥だってば!!
第一何て説明すればいいんだか。魔法なんておとぎ話の中なこの時代に、面倒ごとは極力避けるべきでしょ。正体を見せる訳にいかないんだよ。急げ急げ!!
わたしに釣られて走る魔王様と一緒に、何とか時間内に校門の陰に滑り込む。
……よしよーし、セーフだよ。
ホッと息を吐いたわたしの背に、声が掛かる。
「お疲れさま。僕の馬で送ってくよ」
それはすっかりと馴染んだ、どこかけだるげな美声。
「うん、貴方も、お疲れさま……かな」
振り返ったわたしは、いつもの悪役姿で婚約者に笑い掛けた。
彼の肩越しに見える母校のグラウンドでは、恋人達が話し込んでいる。
公爵家子息と侯爵令嬢。
お二人とも、わが国を代表するお家の若様と姫様だ。次代の為にも是非とも和解して頂きたいものだけれど。
……でもまあ、人の心なんてなるようにしかならないという事は、わたしや友人達が証明しているところだ。
だからわたしは、ただよりよい未来に向かえるようにと祈るだけである。
ドエースと一緒の帰り道。
まんまる白いぬいぐるみ姿のプリティと悪役姿のわたしを前に乗せ、軽快に馬を走らせるドエースの姿があった。
あ、二人して王都から抜け出してきたので、王都の貴族街にあるタウンハウスに帰る事になるんだ。
「……あれ? ところでビッチーナはどうしたの」
変身解除前に逃げようと必死ですっかり忘れてたけど、そういえば彼女はどうしたんだろうか。
わたしを殺すって頻りに言ってたから、てっきり追いかけてくるものかと思ってたんだけど。
「ああ、彼女ね。逃げた……というか構成員が逃がしたというか……君を殺すってすごく暴れてたけど」
ドエースは微妙な表情で返答する。
「ああ……つまり、いつも通りって事ね、構成員さん達のミラクルな撤退術で、彼女は逃げましたか……」
わたしはなんとも言えない顔で、呟いた。




