表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/70

魔法少女、外野で修羅場を見る。


 わたしの目の前には透明な壁がある。


 遠くに見える恋人達。

 足止めされている場所は、結構な距離があって、あっちはこちらの事なんて知らないまま愁嘆場を演じてるようだ。



 事件の現場は、国立大学校。

 アニマ国の貴族なら一度は通う、国政や領政を専門に学ぶエリート学校の、そのグラウンドだ。

 若い貴族社交場、見合い会場などと呼ばれ、年頃の貴族子女達が相手を見繕う場ともなっている。


 ……どこかで聞いたような設定?

 うん、まあお約束をこよなく愛す人たちが作った「悪役令嬢が多すぎる世界」 ですから、これもまたよくあることです。

 お約束な学園がこの国には存在したりするんです、わーい。

 と、でも思っておかないと、貴族が通う学校ってなんなのとか、ふつうそこは家庭教師を雇うものでしょうとか疑問が尽きず混乱するので深くは追求しないが吉だ。


 ちなみにこの地に設立されたのは、国王様のご兄弟様が治める地にお金を遣う目的もさることながら、大型船舶も立ち寄れる立派な寄港地であり、王侯貴族が留学に来やすいという立地であるからだって話。

 国外の若い貴族を呼ぶ口実に使いやすいというか、大人の事情も含まれてたりで創設されたとか。

 人種族の暮らすこの国で、こびとさんや妖精さん、エルフさんなんていうファンタジー種族が見られるのは港町のこの土地ならではのこと。


 なんて、わたしが遠い目でこのテンプレ的学校に思いを寄せている間にも、話は続いている。



 校門の柱の陰に隠れ遠目に見ていても、なんていうか酷い場面だね。


 こんなシリアス状況が続いている中で、立派な黒馬の上、頬を赤く染めた婚約者達がらぶらぶしていれば。

 ……そりゃあ、まあ。うちの魔王様でなくとも白い目向けるよねぇ、ははは。


 ごめん、本当空気読めてなかった、反省する。



「な、何故ですの……わたくしをあれほど大事にしてくださっていたのに」

 はらはらと透明な涙を流す愛らしき侯爵令嬢。

「わたくし達は確かな絆で繋がっていた筈ではなかったのですか? なぜ、何故こんな」

 突然に起きた恋人の変節。

 彼女は意味が分からないとでも言うように弱々しく首を振る。


「真実の愛の前では、貴様の薄汚い欲望まみれの見せかけの愛など比べものにならん! 私の愛のみを欲すビッチーナ、か弱く愛らしきわが恋人と比べ、貴様は常に家だ、国だ、プライドだと余計なものばかり口にする。損得を勘定に乗せて媚を売る、本当は私など大切でない貴様など、信じるに値しない!」

 その前にいるのは、片腕に純真そうなピンクのドレス姿の少女を抱き、瞳には忌々しげな勘定を乗せて令嬢を睨む美形の貴公子。


「本当に……何を言っていらっしゃるのですか。そのような無責任な事を言われるなど、信じられませんわ……」

 侯爵令嬢は目を見開き、口元を押さえかたかたと震える。


 それはここ一年魔法少女として何度も見た、悲劇の場面だ。



 先ほどの婚約者の無責任な言葉に、令嬢はしばらく呆然としているようだ。


「まあ、凄い恋愛脳な内容だったからね、それはまあ驚くよね」

 馬上で後ろからわたしを支えてるドエースがあっさりと言う。


「わたしがわざと言わなかった事をさらっと言っちゃった!?」

「まあ、君が介入出来ないで僕も君に可愛くお願いされた以上踏み込まないから、状況は悪化していくばかりだし。現状ギャラリーとして見てるしかないからね。暇なんだよ僕も」


 そんなひどい外野の会話など知らず、胸に手を当て深呼吸した彼女は恋愛脳な婚約者へと言った。


「な、何を仰いますの、これは、この婚約は国王様の命令であり、お国の為の大事な勤め……! それにわたくしは真実貴方様をお慕い申し上げて……」

「下らん、下らん下らん! そなたは結局私よりも家を、国を取る。私の愛など二の次だ。そんなものを愛と呼ばん。私はここに宣言しよう。貴様との婚約を破棄すると!」


 ……その決定的な言葉により、乙女の恋心は砕け、失われた愛を犠牲としてモンスターは生まれる。



 そうだ、いつものことだ。わたしだって前世で何度も書いた場面だ。

 けれど、当事者となった今では、割り切れない気持ちもある。



「……よし、制限溶けた!」

 公子様がマニキュア風なボトルに封じられ、モンスターが生まれると同時に不可思議な壁が取り除かれた。

 わたしは校門の柱の陰から飛び出し、グラウンドを走る。


「あははっ! 雑魚がのこのこと来ましたわ! 今日のモンスターはね、アタクシが特別に残してきた最高のモンスターなの。アタクシの眼鏡に叶った愛の中でも最高で最上の悲劇を素としていますわ。やっとアンタを、ピュアリーラブラブリーを殺せる!! アンタをアタクシの自慢のモンスターで摺り潰してこの世から消してあげるわ、それで最高の日となるのよ! オホホホホ!」

 ビッチーナはまずわたしの姿を認めたようで、いつものように殺意をあらわにする。

 わたしは思わずぞっとして、走るスピードを緩めてしまう。


「相変わらず、エグい事言うなぁ……」

 彼女はいわば工作員であり、戦闘能力は持たない。戦闘はモンスター任せだ。

 だから、公子を籠絡して強力なモンスターが生み出せた事を自慢しているらしい。それにしたって酷い事言われてるよね、わたし。


 彼女はそこで、わたしの後ろから追随するように早足で歩いてくる紳士然としたドエースを見つけたのか。

「ドエース様!」

 喜びと憎しみが混じったような、複雑な表情をしながら大きな声を上げた。


「ああ、やっぱり! アタクシの為に来て下さったのねドエース様! 見て下さい一人でも上手に出来ましたわ。ドエース様の計画をアタクシが一番上手く出来るの、アタクシは誰よりドエース様の役に立てるんです!! その邪魔者を殺してしまえば、今度こそドエース様の大望が叶います! アタクシと魔法を復活させましょう、そして世界を盗るんです!」


 そう言って。

 ピンクのドレスを着た清楚なヒロイン姿の娘は、愛する人の元へと駆け寄ってくる。


 自信満々に言うだけあって、確かに彼女が呼び出した、公子様と公爵令嬢との愛を素にしたモンスターは巨大だ。いつもの倍の大きさはあるんじゃない?

 核となる公子様が港町のお生まれだからか、帆船を模したようなゆるキャラが、錨のような武器を持ってのしのしとこちらへ動いている。

「フーネー!!」

 ずしん、と重々しい足音を立てて近寄るその姿を見て、でも不良幹部モンスターと比べると迫力足りないなぁとか、わたしは割とのんきに考える。


 敵がこっちに向かってきてくれてるんだしと足を止めたわたしは、ビッチーナがドレスの裾を絡げて、高いヒールの靴でのんびり駆け寄ってくる間にムカッ腹を立てながらわたしの後ろに聞いてみる。

「……と、あなたの部下は犯罪を自供しているけれど、ホンットーにわたしを裏切ってないの? あなたの敬愛する総帥様にも誓える?」


「そう怖い顔をしないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」

 まあそうね。わたし変身中だから、もてかわキュートなナチュラルメイクですから、確かにいつもの悪役メイクよりは可愛いでしょうよ。


「笑顔でタラシな発言しても誤魔化されないから。それは答えになってないでしょ」

 やさぐれた内心を表すかのように更に睨みつけ、低い声で言えば。


「ああ、もう。そう睨む顔も可愛いけれどね? 本当だよ、総帥の名に、なんなら神に誓ってもいい。僕はこの件に関わってないんだ。だから怒りを解いてよ、僕の可愛い婚約者様」

 アンニュイな笑みに甘い声で、ドエースはわたしが信じたい事を、信じたいように返してくるから……余計に意固地になってしまう。


「それは本当? 嘘じゃないの?」

「嘘じゃない。今は君だけを見ている」

 彼は可愛いものを愛でるような視線で、わたしをただ静かに見つめていた。


「……そなたら、ここは戦場であるぞ。寄れば触ればイチャつきおって」

 そういえばこの場には、やさぐれた思考の人がもう一人いたんだっけ。

 麗美なる魔王様、いやわたしのマスコットが白いスーツ姿でこちらをうんざり顔で見ている。


「プリティ、でも、これは大事な事だよ! もし裏切ってたら」

「そやつが裏切っておったら、パワーアップした我が直々に叩き斬ってくれるから目の前の事に集中するのだ、ご主人よ」

 と、どこからか取り出したあの不良幹部の得物、すっごい重い蔓薔薇の絡んだ意匠の大鎌を構えてドエースを脅しつけている。

 ……あ、そう、物理でいくの。魔王フォームの今の姿にはすっごい似合うね。


 確かに、こうして思い悩んでる合間にモンスターが暴れて、わが国きっての立派な建物である学園の校舎が壊れてもいやだ。

 国費注ぎ込んだだけあって、煉瓦作りの校舎はわたしも数年前までは通ってた場所でね、いろいろ思い出もあるの。わたしの大親友である三人も、ここに通ってたから出来た友達なんだよ。


 だから、まずはあのモンスターを倒して、公子様を解放してから、本格的に追求する事にしよう。

「なら、ドエースの処理はあなたに任せるわ、見張りよろしく。それで、わたしはあのモンスターを倒してくる」

「うむ、任せよ」

 不安を振り切るよう帆船モンスターを見上げたわたしはプリティに言う。そして敵に向かって駆ける。


「え、ちょっと。それは酷いんじゃない?」

 その頃には、ドエースは駆け寄ってきたビッチーナに拘束……いや抱擁? されていたけど、わたしは睨みつけたい気持ちを振り切って思いっきり跳んだ。


「もし浮気したらわたしから婚約破棄するから」

 我ながら凄い捨て台詞。


「信用なさすぎてちょっと落ち込むんだけど」

 そんな言葉を聞きながら、わたしは魔法少女として戦う事を選んだんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ