魔法少女、結社幹部と共に駆けつける。
上司のドエースの命令もなしに、ビッチーナが単独で活動してる? 何でそんな事に。
婚約者と内密の話があると、側近も下げて二人きりの部屋で、わたし達はそろって難しい顔をしていた。
「まさか……また、総帥にも内緒でギャン・グーを檻から出したんじゃ。そこまでバカな子達じゃないと思うけど」
白皙の美貌を更に白くさせ、隣で深刻そうに眉根を寄せている男は、秘密結社の幹部で怪人、そして……今はわたしの婚約者のベネディクトである。
彼が無実なのは、確かなことだ。
婚約者であり結社幹部というどうしようもなく重要な存在である彼の事は、若手ナンバーツーのトマスと、お父様肝いりの裏仕事も出来ちゃう家の者が見張ってる。
特にトマスは、ベネディクトの秘書役も兼ねている為張り付きで侍っているから、外部と繋がるような事があれば逐一わたしか執事に話が通るはずだ。
……まあ、結社の不思議パワーで連絡が出来るなら止められないけれども、それなら彼の性格からして一言ありそうなものだしねぇ。別の方法で連絡するよ、とか。
惚れた欲目もあるだろうけど、彼の誠実さをわたしは買っているのだ。
じゃあ、指示もなく、ビッチーナが動いているのは何故?
そこで最初の疑問に戻る。
ヒロイン怪人ビッチーナ。
それはツブヤイター人気お題「悪役令嬢が多すぎる世界」 で作られた設定の中で、悪役令嬢兼魔法少女バーバラと対をなす重要なキャラクターだ。
……テンプレ的な婚約破棄シーンを演出する上で、なくてはならない「ヒロイン」 という配役。
ビッチーナは無実の罪で貶められる貴族令嬢の婚約者を誘惑する。
怪人に備わった魔法のような魅了と、イー! とそろって叫ぶような下っ端怪人達のお膳立てによって、それを可能とする。
そして、Aパート終了間近になって、確かな絆は砕かれ、乙女の純愛によりモンスターが生まれ……魔法少女は出動するのだ。
「……これは、どういうこと?」
わたしは声を荒げ彼に詰問する。
ソファの対面に座る彼は肩を竦めた。
「僕にもさっぱりだよ、何故彼女らが動いているのか分からないんだ。結社の意志は君との仲を盤石にせよ、安定的供給の一助となれという総帥の指示で統一されている筈だから、尚更に不明だ」
アイロンの効いた三つ揃い姿で憂う彼は、内心を表すよう乱暴な手つきで頭を掻き、銀の髪を乱している。
「じゃあ、何でビッチーナが動いているのよ!? 結社は何のつもりで、無実の女の子に嫌がらせしてるの!」
答えのでない問いに、わたしはまた声を上げた。
「二人とも、落ち着け。そんな事で揉めておる場合か」
そこで冷静な低く通る美声がわたし達を一喝する。
まんまる白い生物が、人払いの済んだ部屋で白髪赤眼の細身ながらも筋肉質な凛々しき美青年へと変貌する。
ふわふわの猫っ毛が覆う顔は中性的な美貌なのに、全身にみなぎる覇気が彼を女々しく感じさせない。
白いドレススーツに身を包み、いっそ人形のように完璧に整った顔でソファに優雅に座る姿はどこの魔王様、だ。
……それは先日、無事に二度目のパワーアップを果たしたわたしの使い魔のプリティである。
なんなの、こんなの望んでなかったんですけど。
本当、かわいいかわいいわたしのルビィ君を返してくれないだろうか。以前の弟バージョンの方がわたしの癒されてうれしいです。
そんなわたしのガッカリな心情をよそに、淡々と魔王様はその渋いお声でわたしに言う。
「ともかく、人払いも済んだしさっさと現場に向かわねばならんぞ、ご主人よ。哀れな恋人達を解放し、悪を払うが魔法少女の勤めである」
「あ、はい」
威厳たっぷりに言われると、反射的にわたしはうなずいてしまう。
それにしても、わが使い魔は本当に冷静だなぁ。あと、わたしの婚約者の事軽くスルーするのはあれですか、嫌がらせですか?
さて、ドエースは立派な黒馬で、わたしは魔法のステッキに乗り、現場に急ぐ。
すると予想通りに、清楚なふりしたヒロイン怪人ビッチーナを抱き寄せた美形の身なりのよい男性が、美少女に婚約破棄宣言をしていた。
……うん、まあ、分かってた。
本日訪れたのは、内海領と呼ばれる海に面した港町だ。
そこは王都の目と鼻の先であるわが領の、主な収入源である大街道で繋がった「お隣さん」 の一つで、また、海に繋がる土地は当然に国の要衝だ。
そんな場所にいる貴公子といえば……。
「うわぁ、予想大当たり。彼、公爵様のところの次男様じゃない。結社も随分と切羽詰まってるのかな? 王位継承権を持つ本物の王子様を籠絡するなんて、ビッチーナのヒロイン力も凄いものだね」
「うむ……中枢内部より食い破る手に出るとは、なかなかどうして敵もやるものだ」
現場に到着する頃には、どうせ向かう先が一緒なのに飛ぶのも面倒になって、小さくなった使い魔と共にわが婚約者が駆る黒馬に便乗していた。
そんなわたし達が馬上でぽかんとその場面を眺めていると。
「……王族だけには手を出すなって言ったのに、あの子は何で言いつけを破るんだろうね。後始末を考えると絶望するんだけれど」
魔法少女姿のわたしを支える後ろで、結社幹部でもあるドエースが今にも頭を抱えそうな勢いで弱っている。
あ、彼は幹部姿じゃないよ。今日はあくまでわたしの婚約者の姿勢を見せるからって、紫スーツは遠慮したみたいなの。
「……えっと、やっぱり王族はやばいの? でも蜂の種族とかこびとさんとか、散々やらかしてた気がするんだけど」
「まあ、この際だから言ってしまうけれど、うちの結社のホームグラウンドはこの国でね。昔からこの国の王族にだけは手を出すなと厳命されてるんだ」
「え。それって本気で大変なんじゃ……」
目の前では公爵息子である王子様と、その婚約者である侯爵家の娘の悲劇がちゃくちゃくと進んでいる。
それを暢気に眺めてる……訳じゃなく。
「あーもー、イライラする。じゃまなこの壁って何なの」
「ほら、無駄に手を痛めてもしょうがないでしょ、無理しないの」
いつものように、わたしはクライマックスシーンには突っ込めない仕様です。
折角敵の幹部がいるんだしと、試しに介入を手伝ってもらおうとしてもアウトだった。
何故かわたしだけ、透明な壁にはじかれるようにして、馬上から落ちちゃったんだよねぇ。
身体能力化け物クラスなドエースがしを抱き留めてくれ、大きくなったうちの使い魔が暴れる黒馬を宥めてくれたから大事なかったものの、落馬してお馬さんに蹴られてたら大怪我一直線だったね、危ない危ない。
「ほんとこれ理不尽だよ……すぐ目の前に居るのに!!」
うーっとうなるわたしの頭をなでつつ、ドエースが提案する。
「何なら、僕だけで行ってこようか?」
その時わたしは、たぶん凄い顔をしたと思う。
「え、ここで敵幹部を見逃すとかないですし。寝返りとか怖いし」
肩を抱くようにして宥めるドエースがわたしの顔を見て、目を丸くしていたし。
「いやいや。だから僕は幸せに君と添い遂げるのが一番大事なんだけれど?」
「それは……信じたいけど。でも」
物語のセオリーとして、魅了系能力持ちに寝返った敵幹部を近づけるのはいやなんだよね。
それ以上に……。
「わたしが、いや。何だか貴方をあの子に取られそうなんだもん」
ぶすくれた顔して嫉妬を口にしたら、今度はドエースがすごい顔をした。
「いや、あのね……こんな所で僕を喜ばせてどうするつもりなの、君は」
頬をほのかに染め、口元を隠す彼の照れ顔につられてこっちまで赤くなる。
あれれ?
わたしここに何しに来たんだっけ? なんだか妙に照れくさくて胸がドキドキして、真面目に物事を考えられないんだけれど。
頬の辺りが熱くて、彼の姿がいつにも増して可愛く見えて、遠くに見える愁嘆場の、王子様の怒鳴り声すらまともに聞こえない。
そんな場違いなバカップルを前に。
「……そなたら、ここが戦場と知っての狼藉か。恥を知れ、恥を」
うちの魔王様は、凍てつかんばかりの視線をわたし達に投げかけていた。




