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悪役令嬢、婚約者に詰め寄る。

 おかしな事もあったものだ。


 根ほり葉ほりと聞かれて失言するのを厭った為に振った話で、結局わたしが婚約者の事を話す事になるとは。


「わたくし達の恩人、ベネディクト様はどんな殿方なの!? もう逃がさないわよ、覚悟なさい!」

 高めに結ったツインテをぶんぶん振り回し、興奮気味に言うわが親友ツィスカ様。

「グスッ、わたくしもぉ、長年の心痛を払って下さった方の事、聞きたいですわぁ……グスッ」

 あああ、気弱なレーナ様まで乗り気。


「じゃあ、まずは馴れ初めからかな。おっと、一度話したからなど言わずに、バーバラ嬢。ここは我々の恩人の話、しっかりとお聞きしなくてはね?」

 小粋なウィンクと共に念押しするミゼット様ったら相変わらず恰好いいわぁ。


 ……わあ、詰んだ。皆、きらっきらした目でわたしの話を待ってるし。

 そうして、わたしは結局根ほり葉ほりと、全てを聞き出されてしまったのだった。


 ああ、さすがに適度に誤魔化したよ? 悪の結社幹部と魔法少女の婚約なんて、笑い話にもならないし。




 親友たちの婚約者の身の処し方が変わった。

 横柄な態度を取る殿方たちが紳士な態度に変わったのは、どうも、わたしの婚約者であるベネディクト……ドエースのせいであるという。


 そんな事も知らず、思い切り難癖付けちゃったわたしったら、もう。

 部屋に戻って早速、わが使い魔に今日の事を話したら、まんまる白い生物は、ティーテーブルで煩悶するわたしをそのふわふわな手で撫でつつ、フォローしてくれる。

「……いや、あやつが言わぬのが悪いのであろ。主人が知らぬが故だ、何も悪くない」

「それは、そうなんだけど……」


 過ぎ去った事を掘り返してもどうしようもない事は、わたしもよく知っている。

 優しい元婚約者を振り回し追いつめて、暴言を吐かせた過去を思えば、彼の事なんてぜんぜん笑えない。

 

 そう、ただわたしは恥ずかしいのだ。

 人の事なんて言えないわがまま気ままな貴族女が、よくもまあ彼を詰れたものだなと。


「それもこれも、恰好つけて過去の清算に走ったあやつが悪い。どうせ、反省を形にして主の歓心を買おうというのだろう。姑息な点数稼ぎだな、まったく」

 ふん、と胸の前で短い手を組んだプリティはドエースをなじる。

「プリティ……あなた、本当にドエースの事が嫌いね」

 わたしは寝る前の安眠のお茶を飲みつつ、しげしげと彼の事をみる。

 いっそ感心する程、わが使い魔の態度は一貫している。

「我は天の遣いであるぞ? 邪悪な結社の者を嫌うのは当然であろう」

 ふふん、とファニーフェイスにニヒルな笑みを浮かべるが、テーブルの上では恰好つかないよ?

「いずれにせよ、ここまでされてしまったら許すしかないし。まあ、和解の為に顔見せに行くしかないよねぇ……」

 はふ、と息を吐くわたしに、プリティはいやそうな顔をした。

「ご主人はあやつに本当に甘すぎる。奴がこの件でフォローするのは当然であろうに」

「それはそれ、これはこれだよ。反省してる人のこと、悪く言わないの」




 それから三日後のこと。

 立派な二頭立ての自家用馬車に乗り、わたしは王都の貴族街にあるわが家に身を寄せている婚約者へと面会を求めた。


 ツブヤイター人気お題から始まったアンソロジー風企画「悪役令嬢が多すぎる世界」 の、魔法少女ピュアリーラブラブリーが過ごす国、「アニマ」 の首都「アニマムーン」。

 王都は整然とした石造りの町で、その風情は前世で言えば18世紀のロンドンをイメージして貰えばいいだろうか。国を代表する川、アニ川が流れる落ち着いた雰囲気の町である。


 あらかじめ面会の予定はとりつけてあったから、貴族街にあるわが家に着いてすぐに、居間にてドエースに会うこととなった。


「やあ、バーバラ嬢。今日も貴方はとても美しい。お会いできて嬉し……」


「貴方、どうしてわたくしに言わなかったの!? わたくし、何も知らなくて。お友達たちに逆に心配がられてしまったではないの」

 ……まあ、一言目があれなのは、許してほしい。

 いつものように、お菓子を差し入れるふりでバスケットに使い魔を忍ばせて面会に臨んだわたしは、部屋に入って挨拶もそこそこに彼に詰め寄った。

 ややお疲れ気味か、頬が削げてもやはり美麗なわが婚約者どのは、ほぼ真下からにらみ上げるようにして詰め寄るわたしに目を丸くする。

 監視とフォローに付けた、わが家の若い従僕曰く、いまだに人が来るらしい。それはお疲れさまだね。


 今日もなにがしかの面会があったのか、部屋着でなく貴族らしく仕立てのよい三つ揃いに首もとをクラヴァットに飾った彼は、いつものようにお菓子を差し入れるふりでバスケットに使い魔を忍ばせて面会に臨んだわたしの肩を軽く押すようにして適切な距離へ離す。


「まあ、そう興奮なさらず。まずはお茶でも飲んで落ち着きませんか」

 そう言ってさりげなく肩を抱き、わたしをソファセットの主人の席へと案内しがてら、視線では使用人らにお茶の用意を促す。

 ……この屋敷もわたしが主人として譲り受けた筈なんだけれど、もう彼の方が馴染んじゃってるなあ。



 そうしてお茶を飲み、落ち着いたところで。

「お疲れのところ申し訳ないのだけれど、ともかく、わたくしの友人の事で気を回して頂けたのは嬉しいのだけれど……何故きちんと報告して下さらなかったのかしら」

 わたしは再び、美しき婚約者へと苦情を言った。


 お茶会の時に、三人に寄ってたかって婚約者との恋愛事情を暴かれたわけだけれど。

 少なからずドエース……いやベネディクトの行動とずれた事を言ったらしくて、友人たちへのフォローの事を知らないのがバレちゃったのよね。


 で、「君達、ちゃんと話し合っているのかい?」 と、彼女らに心配されてしまったのだ。

 まあ、お互い仕事の引継に忙しいからという事でその場は収まったけれど……。


「おや、あの件ですか、もう知られてしまったんですね。意外と早かったな」

 お代わりのお茶を飲みながらも彼は悪びれない。


「……本当に、何で言わなかったのよ。貴方がした事は隠すような事じゃないじゃないの。むしろわたくし、感謝してるのよ?」

 言ってくれれば、必死に婚約者との不和を疑われて言い繕う必要もなかった筈だ。


 うらめしげなわたしの視線に、彼は困ったようにその形よい眉をひそめた。

「いや……これは、ね。私の好きでやった事で、貴方に感謝される事柄ではないと思ったのだよ。私は私の友人の行いに苦言を呈しただけだ」


(「……やはり、な」)

 膝の隣に置いたバスケットから、小さくも渋い声が上がる。

(「全く、恰好付けめが、これだから気障な男はいかん」)

 掛け布の下、プリティがつぶやく言葉に内心で頷きながら、わたしはベネディクトに言った。


「それで友人に不和を疑われるのでは本末転倒です。いずれわたくしに知られるのなら言っておしまいなさい」

「いや、だがね……」


 わたしと婚約者の言い合いに、従僕やメイドらは苦笑している。痴話喧嘩? そんなんじゃないわよ?



 ……そんな久々の会話で、盛り上がっていた時のこと。


 プリティが鋭くも小さな警告の声を上げた。

(「ご主人、そこな悪人も聞け。隣領の貴族令嬢の婚約者がブレイクハートを狙われている。例の女もいるな。そなたの手配か」)


「ベネディクト様?」

 わたしが問うように言えば、彼は首を振った。

 直属のビッチーナが居るというのに、彼の仕業じゃない?

 ……じゃあ、誰の仕込みで、結社は動いているのだろうか。


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