悪役令嬢、使い魔と語らう。
「……まったく、今日も不毛だったわ。何で誰も彼も、同じ事しか言わないのかしら」
唯一の憩いの時間である、寝る前のひととき。
わたしは魔王系マスコットことまんまる白いプリティをもふもふと撫でながら、安眠とリラックスを誘うハーブティを飲んでいた。
わたしは深く深く、ため息を吐く。
「あれだけ、奥方やお嬢様を通してわたしを嘲笑していた人達が、一斉に手のひら返しとくるんだから、お父様の後継って言葉はひたすら重いよねぇ……わたし、背負いきれないよ」
無理、絶対無理。
もうじたんだ踏んで叫びだしたいぐらいだけれど、わたしは貴族の娘として躾られてるので、そうも出来ないのであった。
わたしが俯いていると、その頬を柔らかく小さな手がぽふりと叩く。
「プリティ?」
「ご主人、何の為に我がいる? そなたの父がいる?
確かにその役目は重かろうが、一人で背負うものではなかろう」
「そっか……うん、そうだった」
お母様の支配が続いてたせいで、どうもネガティブに考えすぎてたみたいだ。
そういえば、今はわたし一人じゃない。
「うん、何とかなるよね」
勝手に煮詰まって、落ち込むのはやめよう。
黒幕引継騒動からこちら、恐ろしく不毛な客対応に追われながら一ヶ月が経った。
貴族業は恐ろしく多忙だが、逆に魔法少女業は廃業寸前である。
お陰で、自分の部屋でしか、満足に息継ぎができない毎日だ。
ネガティブ思考もきっとそのせい。ずうっと貴族令嬢業は開店休業だったのに、急変しすぎなんだよ。
白い猫足のティーテーブルで、お気に入りのカップを手に、わたしは憂鬱になる。
「わたしから謎パワーを得られるようになったからか、本当に結社のビッチ怪人の活動が、ぱったり止んだしね、もうね。思いっきり暴れられたあの頃が懐かしいよ」
領地でお籠もりしている設定ではあったけど、実際は毎週のように怪人たちの撃退にあちこちへ向かっていたじゃない。
でも、ここ一ヶ月は完全に屋敷内に拘束されている状態な訳で。
「むう、この体では政務にはつき合えぬし、我が役に立てないのである。これでは使い魔業も廃業であるな……」
ションボリとうなだれるプリティをよしよしと撫でて、わたしは苦笑する。
「でも奴らが動いてないってことは平和の証拠よ、いいって事にしましょ。それに、プリティはわたしの心の癒しなんだからいいの。そのまま可愛くわたしを癒して頂戴」
そんな言葉に、しかしプリティは納得できないようで。
「むう……しかし、万が一もあるのだ。あの不良幹部なぞが復活した時に備えて、今日も我はパワーアップに励むぞ」
「はいはい。わが使い魔どのは、心配性だなぁ」
「だが、しかし……まさかの連日の訪問とは、王都の貴族達は暇なのだな」
ティーテーブルの天板に乗り、額の宝石にわたしの謎パワーを集めながら、まふまふとお菓子を頬張るプリティ。
「まあ、それでも王都のドエースに、本物の小物は弾かれてたみたいだしね……」
はあ、カモミールティおいしい。
お茶を片手に額の宝石に指を当て、わたしはプリティと向き合う。
「むう。まだまだ選別にアラがあるのである。どうせ次世代では突出したカリスマであるご主人に言い寄りたいだけなのであるからして」
「カリスマって。ハリボテなのに?」
わたしはその言いようにくすっと笑う。
「ハリボテでも何でも、ご主人は「あの」 二大巨頭の娘ではないか。それだけで皆、良い顔をしたいのだ」
こ、この。言いづらい事を言い切ったな。
「使用人らも特に気にしておらんし、ご主人の代にはご主人のライバル候補は居ないのであろう?」
「そうだね、あんまり聞かないね。めぼしい女子は王族や高位貴族に嫁ぐでしょうし、殿方はどちらかと言えばうちと敵対より肩を並べる向きの方が多いし」
男性はねぇ、二十年前の話を知ってるせいか、積極的に絡んでこないのよね。
ようするに様子見。
そこで、若い娘を惚れさせて取り込もうとか、婿を出してこない辺り、本当にわたしの今生はハードモードだなぁと思う。
どんだけ警戒されてるんだよってね。
「小物らの大半は、敵方からの乗り換えやら日和見だろうに。九割弾いても問題ないだろうに、かように取りこぼしおって、全く使えんではないか」
まんまるボディでお菓子のかけらをこぼしながらニヒルに笑っても、恰好つかないって。
思わず吹きだし、プリティの口元を拭いてやる。ああ、もう癒されるなぁ。
とはいえ、その内容は余りにも辛辣だ。
「いやいや、それは辛口過ぎるでしょう。手紙によると、事態の見えてない奴の中には、ドエースの命を狙ってる輩もいるそうだし」
「ふん。あやつが、そこいらの刺客なぞに負けるか?」
私のフォロー、鼻で笑ったよ。
「まあ……負ける訳もないんだけど」
しかしその言葉には、わたしも頷かずにはいられない。
あの超絶な格闘センス、思い切りの良い戦い方にしろ、誰がついてけるかっていうと……。
それこそ、不良幹部くらいなんじゃないかなっていう。
何せ大物を狩り慣れたわたしの魔法格闘ですら追いつけないレベルなんだよ?
「さすがにうちの事情に巻き込んだお詫びに、腕利きの護衛も付けておいたし、そこは心配はしてないけど……でも、やっかみ酷いみたいでしょ。心労がねぇ、酷いんじゃないかと」
「ダウトである。我もあれから世俗を知らぬで反省したのだ。少しは貴族について学んだが、この好条件の領地に婿入りできるだけでも儲けであろう? それぐらいの有名税は喜んで払うべきである」
ダウトって。また神様仕込みなんだろうけど、この使い魔はナチュラルに前世の言葉を仕込んでくるな。
「それは、その通りなんだけど……」
いけない、フォローしきれなくなってきた。
「まあ、なるようになるでしょう。ドエースにはもう少し苦労して貰うことにして」
わりと酷い事を言いつつ気を取り直して、わたしは額の宝石に謎パワーを注ぐ事に集中する。
と。ふとプリティの変化に気づいた。
「うーん、それにしても、額の宝石の色がだんだん虹色を帯びてきてる気がする……」
「おお、それは本当であるか。そろそろニューバージョンの我を披露できそうである!」
わたしの言葉に、目を輝かせるプリティ。
そのうれしそうな顔に、わたしもまた笑みを浮かべた。
「ニューバージョンのプリティ……天使なフォームは半ば封じられてるし、ちょうどいいかも知れないね」
人型になれず屋敷の中も歩けずで、一ヶ月も経ってるしねぇ、プリティもストレスになってたかも?
「わたしは、一ヶ月連続しての力の照射に、力加減が分かってきた気がする」
結社との戦いが終わって暇になってから魔法のコントロール力が付くとか、全く無駄な感じだなぁ。まあいいけど。
「ともかく、今日もお疲れさまでしたっと。わたしはそろそろ寝るよー」
「うむ。我はニューバージョンな我に慣れる為の練習をしてから寝るのである」
「そう? あんまり夜更かししないようにね」
「うむっ」
そしてわたしは、この適当な返事を次の日の夜に後悔する事になったのだった。
「どうだ我が主よ。あやつに負けず背も高くなったぞ!」
「……天使の次が魔王様だなんて、ふつう思わないでしょ!? ちょっと、あの可愛いプリティを返してよ!」
「ご主人よ、それは酷くないか……」




