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悪役令嬢、アポを取られる。

 伯爵家のつまりわたしと、婚約者候補の伯爵家三男ドエース……いえベネディクトは、存分に語り合い、お互いを知り合った。


「おほほ、ベネディクト様は本当にお上手ですこと」

「ハハハ、バーバラ様こそ、私をこれ以上惹きつけて、どうなされるおつもりでしょうか」


 なーんて。

 もう知り合って一年以上。毎週のように顔を合わせるわたし達が、茶番にも程があるけど……。

 お父様やの使用人達の手前初対面で意気投合したシチュエーションは、作らざる得ないんだよねぇ。


 はあ、本当に貴族って大変。


 おいしい料理を時間をかけ、しっかりといただいて。

 デザートの段になる頃になってようやく気持ちがほぐれた。甘いものはやっぱり心和むね。


「ほう、これは……ケーキの中から溶けたチョコレートが出てくるのですか。なかなか面白いですね。添えられたオレンジとも相性がいい」

 ベネディクト青年も、どうやら気に入ってくれたようだ。


 わたしも早速一口。……うーん、濃厚なチョコがたまらない。

 わたしプロデュース、うちのパティシエ渾身の作のデザートは大成功。濃厚なフォンダンショコラがメインで、よく冷やしたスマイルカットのオレンジでさっぱりと口直し出来るようにしてみたの。

 バニラアイスとウェハースを添えるのもありかなぁと思ったけど……そこは、まあ彩り優先って感じ。



 食後のお茶の時間。

「いやあ、堪能しました。流石は名高い伯爵家の晩餐だ、今日は随分と楽しませていただきました」

「そうかい? 美食家の君にそう言われると、私も鼻が高いね」

 何が気に入っただとか。

 盛り上がる男性二人の会話を、わたしは淑女の笑みで見守る。


「ところで……」

 お開きの前にと、気を利かせてくれたのか。どこか退廃的な気配の漂う美貌を笑みに飾ったベネディクト青年は、わたしに視線を向けて。

「是非、伯爵ご自慢のお嬢様ともゆっくりお話がしたいですね」

 とろりと甘い、笑みを浮かべる。

 それが演技と分かっていても。

 切れ長の瞳の甘い誘惑にドキリとしてしまうのは、仕方ないよね。


 タイミングとしては丁度いいだろう。お父様も、わたし達の意気投合ぶりを見た直後だ。

 盛り上がったところで、更に進展を、と。

 しょせん、数ある中の候補である「貴族三男」 ならばそう思う……と、お父様も理解するだろう。


 本当だか作った立場だか分からないけれど。

 貴族三男っていう立場は、結構不安定なところが多い。

 ……実家は長男が継ぎ、次男が取るだろう他の称号も温存されて、領地も分けてもらえない。

 たいていは、騎士として身を立てるか、娘しかない貴族の家に養子に入るか、はたまた婿入りするか。

 そんな弱い立場の三男ならば、多少がっついてでも「次代の領主の父」 という配偶者の立場が欲しい筈で。


 本当に外さないよねぇ、こういうチャンスを。

 傍目にはのんびりとお茶を飲んでいるふりをしつつ、この流れなら二人きりで会話出来そうだと、ほっとする。

 選ぶ側で女でと、色々なしがらみもあり、こちらからは言い出せないんだよね。


「……ほう? わが娘は気に入ったかね」

 お父様は年若い友人でなく、婚約者候補として、確かめるように言葉を返す。

「ええ、とても」

 言葉少なに、けれど若者らしい溌剌として弾んだ……それでもどこか退廃的な色気が漂う……声で、彼は応ずる。

 珍しい晴れわたった青空の如く澄み切った笑みを浮かべた彼は、その美貌ゆえに眩しい程に魅力的だ。


 ……ああ、そしてまたわたしの心臓はおかしな音を立てる。

 ドドドドと鼓動がうるさくなった。動揺が表情に出たらどうするのよ。人が苦労して赤面を抑えているというのに、自重して欲しい。


「ほう、そうか……わが愛する娘は……言わずもがな、というところだね」

 ちらりとお父様はこちらを見て。すぐに視線を戻す。

 まあ、顔、あからさまに赤いですしねぇ。演技中であっても顔色は出やすいんです、済みませんね。


「ま、いいだろう。私はそもそも君を「歓迎」 しているからね」

 お父様は、縁談を進める方向であるようだ。

「流石に付き人までは外せないがね……明日の昼にでも、バーバラ、客人を、我が家の自慢の庭に案内して差し上げなさい」

 そう言って、お父様は快く許可を出した。


 ……よく考えたら。

 こんな、視線を向けられるだけで心臓が爆音を立てるこのわたしが。

 二人きりで、会話など成り立つんだろうか。

 とはいえ、聞きたい事は山ほどあるんだよね。

 ええい、女は度胸だ。明日はしっかりと、情報を聞き出してやるんだから!!



 そんな、心臓に悪い晩餐から帰ってきて。

 ばあややメイドらに身体を清めて貰って、寝じたくをした、その後のことだ。


「なにい!? あの男が来ているだと!」

 てしてしふみふみ。ティーテーブルの上で、小さな身体の全身でお怒りを表現する魔王系マスコット様。

 お父様をお迎えする事になり、その流れでドエースに会いと、一日放っておいたのもきっと怒りの理由だよねぇ。

 うん、忘れてたわけじゃないよ? 荷物抱える訳にもいかず、単純に連れてけなかっただけだよ。


 寝る前の安眠のお茶……リラックス成分を含んだハーブティを飲むついでに、報告したらこれだもの。

 湯冷めしないよう大判のショールを巻き、ティーテーブルに着いたわたしは、プリティの興奮ぶりに少しばかり驚きを覚える。

 まあ、敵が私的空間に踏み込んできた訳で、気分悪いのも警戒するのも分かるけど、もう寝る時間なんだし、興奮したら身体に悪いよ?



「しー、声が大きい。隣の部屋のばあやが起きちゃうじゃないの」

 彼女はメイドとしてすごい優秀で、何くれなく気を配ってくれて助かってるけど、同時にいいお年なんだよね。

 夜ぐらいはゆっくり寝かせてあげたいんだよ。

 しー、と唇の前に指を立てれば、事情を知るプリティはむうと黙る。

 うん、今日もわが使い魔はいい子だなぁ。ほっこりと心が暖まる。

 まんまる頭をなでなでしてあげると、彼はふーふーと興奮した息を吐いていた。


 そのまましばらく、ふわふわ感触を楽しんでいると。


 心を落ち着けたか、素直にボリュームを落としたプリティが、話しかけてくる。


(「では、明日は二人きりで庭を散策するのか」)

(「まさか! 未婚の二人だもの、もちろん、相手様もこちらも、使用人連れは基本路線でしょ。こちらはばあやが付くし、ドエース……じゃない、今はベネディクトだった……のお供役は、執事の息子がやるって話」)

 まあ、あっちはあっちで元同僚が付き人かと苦笑してたけど。


(「ふむ……まあ、それならいいが。とにかく、我も警戒に加わるぞ。絶対に連れて行くのだぞ、ご主人」)

(「えー!? それは別にいいけど、どうやって連れてくのよ。十七にもなってぬいぐるみ持ってくなんてないし!」)

(「むう。こんな時こそあの姿が取れればよいのだが」)

(「禁止に決まってるでしょう。まだあの騒ぎから大して間も空いてないんだから」)

(「むう……」)


 こそこそ話し合う。


(「とはいえ、伯爵家の三男とか、色々怪しさ満点なのは確かなのよね」)

(「うむ。それが本来の出自ならそれはそれで問題であるな。……ところで、明日は!! 絶対に我を連れて行くのだぞ! 敵と二人きりで会話なぞ、悪い予感しかせぬ。それでなくとも、ご主人はあやつには甘いのだから!」)

(「ううう、分かってますよう。……でも、どうやって持ち込むの?」)

(「むう、それは難題だ」)

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