悪役令嬢、晩餐を楽しむ(2)
わたし達は、しらじらしく出会いの場面を作る。
そして、全力で近づこうと話題を手繰る。
全てはアドリブで、筋書きのない演技。
けれどやらねばならない。……だって、伯爵令嬢と伯爵家三男は、まだ知り合って間もない、顔見知りに過ぎないのだから。
「今日のドレスもお似合いですね。貴方の瞳に似て美しいペンダントは、何方からの物でしょうか」
「お父様からのお誕生日プレゼントで、お気に入りのものですの」
「ほう、そうですか。流石は伯爵、趣味が良い」
彼もその必要性を理解してか、わたしの茶番に乗って積極的に話し掛けてくる。
何せ、二人で話す時間が取れないと、彼は目的を達せない様子だし、わたしだって相手の潜入理由を聞けないのだから、それはもう必死というものである。
……それにね。
幾ら好きな人とはいえ、相手は悪の秘密結社の幹部である。油断なんて出来ないし、不用意に身内に近づいてなんて欲しくないのも、本音なんだよね。
そんな内心を押し隠し、わたしは笑う。悪役令嬢の演技ならばいつもの事だ。
「ベネディクト様は宝石にもご興味が?」
「そうですね。女性を美しく輝かせるものですし、ですが、どちらかと言えばそれが出来た時代に思いを馳せる方が得意です」
「まあ、考古学を嗜まれる……?」
まずは手探りで、相手の趣味を知るところから。そんな方向に舵を切る。
「バーバラ様も古の浪漫にご興味が?」
「ふふ、わたくしは女ですから、どちらかと言えば宝石の方に興味がありますわね」
ちなみにお父様は、わたし達二人の勝負を興味深げに見守っている。
まあ、最初から見合いのつもりで連れて来たのだろうから、わたし達がじゃれ合ってても、お父様にしたら何の問題もない訳で。
「おや、残念。では今度、私が手に入れた原石と、その時代について書いた本などをお贈り致しましょう」
「まあ、わたくしまで考古学趣味になさるつもり? それよりも女性には花の一つも贈ってはいかが」
軽快なテンポで。
食事を挟みながら。
瞳で、唇で、丁々発止とやり合う。
それが心地よく感じるなんて、楽しいなんて……認めたくはないけれど。
「いやあ、同じ趣味の人が増えるのは嬉しいものでしてね。ですが、貴方に花を贈れる機会を逃す私ではありませんよ」
「まあ……。これはわたくしが負けかしら、よろしくってよ。貴方様がどのような花を贈られるか楽しみにしていますわ」
わたし達は、会話を重ねる。
さりげなく、距離を縮めるように。
「そういえば、バーバラ様は詩集がお好みとか」
「しばらく領地で静養しておりましたから。友人に趣味の方がいらして、贈って下さるの」
「それは奇遇だ。私も浪漫派の者に友がおりまして。今度、お互いの持つ詩集を読み合わせませんか」
会話は途切れない。
まるで打ち合わせたかのように続く。
……立会人のようなお父様は、そんなわたし達の会話を、口も挟まずにただ聞いている。
「まあ、楽しそうですわね。ではそのような席を……」
「いいえ、二人で」
「あら、それは気が早いというものですわ」
「……では、同好の士を連れて?」
「ええ、それならば是非にと」
次々と約束が重なる。
次の次、その次の、約束を取り付けていく。
彼からばかりになるのは……ここばかりは、女の意地というものだから許して欲しい。
そうして、今許されるだけの互いの距離を近づけてから。
ここで少しだけ、デレを見せておこう。
「ご食事の後は、お父様とシガーを嗜まれる予定とか」
「はい、その予定ですが……?」
彼は不思議そうに首を傾げた。
「献立の確認の際に、少しばかり追加の注文をしておきましたの。その……ベネディクト様の側近の方にも、少々、お聞きしまして」
遊技室でも、わたしを忘れないでねと。
「遊技室にも、殿方が好みそうな酒肴を用意致しましたので、お召し上がり下さいね」
――そんないじらしさを感じてくれれば嬉しいかな、なんて内心に思ったりして。
ちょっとね、今の関係でやりすぎかなぁとは思うんだ。
これは、完全にわたしがやりたかっただけの事。
視線を下に向け、少しばかり恥じらった様子で言えば。
そんなわたしに彼は目を瞬いた。
「これはこれは……やられましたね」
彼は僅かに白皙の美貌を朱に染めて、片手で口元を覆った。
……少しは、動揺してくれたかな。




