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悪役令嬢、策を講じる。

 わたしの言葉にプリティは赤い目を見開いた。


「な、何を言っておるのだ? ご主人」

 激しく混乱しながらも、わたしの側から離れずに付き添うわが使い魔のスタンスはぶれない。


 うん、まあ、そんな君だからこそわたしは……退場を促すの。


 話は簡単なんだよね。

 お母様の企みはそもそもグッラ家の血がこの家を乗っ取るというところにあって。

 だったら、年頃の若君とやらを消してやればいいだけのこと。


「先程、言った通りよ。わたくしは、わがアヴァリーティア家へ手出しする者を許さない。由緒あるわが家の血を一滴も引かぬ|グッラ家の貴方《・・・・・・

》が、次代当主であるなどと戯れ言を言うのならば、今すぐにもその手勢と共に、領主代理権限により、屋敷から叩き出す――そう言ったの」


 使い魔プリティじゃなく、グッラ家のベリルが不要なのだから。

 まあ、かわいくて弟みたいで、結構気に入ってたけど……。


 ピンクブロンドの天使のような美少年様には、退場いただこうかなと、そう思うのだ。



 つんと顎を上げ、気位高くそう言えば、ビネー婦人とメイド達は悲鳴を上げた。


 領主の娘に対しての誹謗中傷、ならびに誘拐の共謀。

 この場に居る誰もが罪人であることは、明らかで。

 次々と拘束されダイニングルームから引き立てられていく中、誰かが声を上げる。


「傷物が偉そうに、う、嘘を吐くではないわ!! おそんな事、奥様がお許しになるものですか!!」

 ……うーん。この期に及んでこんな言葉がでるとは。

 彼女らはどれだけ奥様が大好きなんだ。その信仰はほぼ宗教の域だね。お母様のカリスマ、おそるべし。


 まあ、何を言おうが処分は決定しているし、戯言は聞き流すに限るけれど。


「……奥様の血を引きながら奥様の役にも立たず、奥様の計画すらも乱すとは、何という恩知らずな!! ああ、おいたわしい、奥様っ、奥様あっ!!」

 ビネー婦人の発言も大概だ。

 そろそろゲシュタルト崩壊を起こしそうなレベルでお母様の事を呼んでるんだけれど、ちょっとあの、精神的に大丈夫なのかな?


 ……そうして、奥様教の皆様とならず者達は衛兵に連れて行かれるのだった。

 しかし、最後の方はちょっと怖かったよ? 正直言って。



「はあ、今日は本当にさんざんだよ」

 朝にはいらない子扱いで、昼には襲撃受けて、ちょっと恋なんかに目覚めて、かと思ったら夕にはまた襲撃。

 色々ありすぎて、もうね。


 ……本当に何なの、今日は厄日なんですか?


 なんて。湯浴みを済ませてから、自室のティーテーブルで、食べそびれた夕飯がわりに軽食を摘んで空腹を満たしつつ、疲労を覚えていると。


「ご主人~!! 我は離れぬぞっ! 我を棄てたりしたら恨むからな!」

 まんまる白いぬいぐるみ風使い魔が、テーブルの上からダイビング。

 ひしっとそのやわらかボディで腕にしがみついてくる。


 わたしは一口サイズのサンドイッチをその口に放り込んで黙らせつつ、呆れ顔で返す。

「いやいや、棄てないって」


「むぐ。では、先刻のあれは何なのだ!? 我を叩き出すと言ったではないか!!」

 低音の魔王系ボイスが恨みがましくわたしを責める。

 むう、なかなか黙らないなあ。もいっこ口に詰めようか。


 プリティにサンドイッチを与えつつ、わたしはもう少し詳しく事情を説明する。


「だから、あの場はね、ああ言うしかなかったの。「使い魔」 のあなたじゃなくて、「グッラ家のベリル」 がいることで、今回の事が起きてしまったんだから」

「うむぅ?」

 もぐもぐしながら、まんまる生物は首を傾げた。

 うーむ、これでは理解できないか……。


 わたしはサンドイッチを摘みつつ、ゆっくり話す。

「……ええと、まあつまり、後継問題に担ぎ出されたのは、ベリルを名乗る少年でしょう?」


「むぐ」

 そこは理解したのか、もぐもぐしながらまんまる頭を頷かせる。


 それにしても、キュウリとハムのサンドイッチおいしいなー。空腹に染みるわ。


「ところで主じ」

 わたしはまたプリティが開き掛けた口に、サンドイッチを詰める。

 するとまた黙ってもぐもぐする。ちゃんと食べる時は口を閉じて偉いなあ。


 まんまるふわふわな頭をよいこよいこと撫で撫でしつつ、わたしはのんびりと続きを話す。


「まあまあ、まだ説明終わってないから。問題の焦点の「ベリル少年」 なあなたと、「まんまるくて白いわたしのお気に入りのぬいぐるみ」 はね、わたしは二人が同一人物と知っているけど、普通の人にはつながらない別の存在でしょう。だから、問題の「ベリル少年」 の方を、屋敷から消そうと思ったの」


「……!!」

 今の説明で、プリティの中でもようやく話が繋がったらしい。


 おいしいものを食べるうちに落ち着いたのか、わたしの腕を放し、テーブルの上に座ったプリティは、短い手をぽんと打った。

「むぐぐ」

 そして、しきりに頷いている。


「まあ、わたしも突然あんな事言い出して悪かったとは思ってるよ」

 うんまあ、排除とか言われたらショックだよね。わたしも昼間にお母様にやられたしね、その気持ちは分かるよ。

 ……しみじみとね、うん。


「わたしにとって「使い魔のプリティ」 は、必要。でも、「グッラ家のベリル」 は、今居られると問題が多いから。だから、ほとぼりが冷めるまでは、家では大きくならないでくれるかな?」

 こくこくとプリティは頷く。うん、これで誤解はちゃんと解けたかな?



「その、ご主人……」

 しょんぼりとまんまる頭を俯かせたその様子で、彼が何を言いたいかは分かった。

 だから、わたしはそれを断る。

「謝罪はいいって、晩餐の席の事は不可抗力だったろうし。ほぼほぼ、お母様がおかしいんだからさ。それよりわたしが今知りたいのは、魔法の効果のことだよ」

「うむ?」

 気にしてないよと、食後のデザートのフルーツを持たせると、プリティは首を傾げた。


「よい子になーるの効果。あれって、人の心を操るようなものなの?」

 わたしの言葉に、大きく首を振る。

「まさか! あれは、人間の記憶の性質を使ったものである。そう大きな効果は期待出来ぬし、人心の操作など出来ぬ。曖昧な記憶の中に、少しばかり虚実を混ぜて錯覚させるだけの効果だからな。それによって多少の記憶の混乱はあるかも知れないが……」


 今回は、「こんな子供が親戚にいたかも」 「その子は行儀見習いに来たよね?」 というような、曖昧な感じで、ゆっくり時間を掛けてお母様を中心にその存在を定着させ、プリティが家にいる理由を植え付けてみたらしい。

 親戚の子が行儀見習いに来る事はそう珍しい事ではないし、それで皆納得したのだという。


「それで、何であんな事に?」

「それは我もわからん」

「そうなんだ……」


 まあ、プリティの言う通り、記憶なんて曖昧なものだしねぇ。

 ……ただ全ては、お母様が、薔薇の垣根の前で言ってたそのままなのかなぁ。


 嫌いなわたしを売って、自分の妹の子を、愛せる者を……この家の主に据えたい。

 だから都合のいい「ベリル」 という存在を、その心の中に創り出した、と。


 まあ、当人に聞かないと実際のところは分からないんだけれど。

 少なくともベネー婦人以下お母様派は、そう信じ込んでいたわけで。


「……もやもやはするけど、お母様の考えは、お母様にしか分からない、か……」

 正直気が重いけど、直接話してみるしかないのかなぁ。


 それはともかくとして。

 今日はもう、寝ようか……。


 プリティはいつもの籠を寝床に。

 そしてベッドに潜り込んだわたしは。

 予想通りに、深夜には熱を出し、うなされたのであった。

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