悪役令嬢、アウェイな場に置かれる。
少々ストレス展開が続きますので、終わるまでは毎日投稿します。
執事を通じお父様への連絡を取り付けたその後。
わたしが夕食の為にダイニングに向かうと、なぜかわが魔王系マスコットが……。
上座に座ってた。
とりあえず言いたい。
なんで貴方が、そこにいる。
わたしはくらくらする頭を抑えながら、状況を考える。
……ああ、絶対夜中に熱が上がるわよ、これ。
そんな事は後回しよ、とにかく状況を判断してからよ。
まずは晩餐のセッティングからね。
この晩餐の主席はプリティ。
その後ろに、母の側近中の側近、ベネー婦人がいる。
つまりこの席は、ベネー婦人が取り仕切る。
わたしの席は、一見プリティの間近でありながら、一番の下座……入り口付近に用意された。
この席順で、客として最低ランクの人間という事を示してる訳だ。
わたしは、晩餐室の壁際を、わざとのようにヒールを鳴らして歩き回りつつ考える。
勿論、胸を張り、顎を引いて……誰が見ても恥ずかしくない貴族の娘の見本のような優雅さで、ね。
席順を理解し、クスクス笑ってる少女メイド達。
彼女達は、小声でささやき交わす。
(「偉そうな顔してるけど、いいざまよねぇ」)
(「奥様と違って無能な女のくせに、生意気だわ」)
(「あの憎たらしい生意気な顔と比べて、我らがベリル様のお可愛いこと! やはりこの家の血筋がだめなのよ、我らがグッラ子爵家が正してやらねば!!」)
……自白ありがとう、あなた達。
彼女らは間違いなくお母様の実家、我が家と似て裏社会で有名なグッラ子爵家の者と分かった。
しかし、まさかの乗っ取り計画?
お母様の実家は家格に見合わない権力を持つ子爵家だけど……「あの」 男性貴族界のドンを蹴落とし座すなど、無理が過ぎるでしょう。
わたしが居なくなっても、身内から誰かが立つだけの事でしょうに。
だいたい、お父様のシンパは高位貴族がほとんどよ。お父様贔屓、アヴァリーティア家と昔から仲のよい彼らが、むざむざと子爵家の乗っ取りを見逃す認と思うの?
……正直、理解出来ないレベルの無謀な挑戦ね。
まあ、お母様派にも何かしら仕込みがあるのでしょうけれど、わたしには正直分からないわ。
それにしても、顔も見た事もない事からおそらくは新入り、それも見習いのメイドなんでしょうけど。
領主の娘に対していい態度ね。
(「えっらそうな態度してるけど、誰も貰ってくれない恥かしい「傷物」 なのよ? あの女」)
クスクスと。
(「もっとコソコソしなさいよね、奥様からも見放されたくせに」)
ニヤニヤと。
(「そうよねぇ、「傷物」 の分際で。さっさとこの家から「売られて」 しまえばいいのに」)
愛する奥様……己が主の嫌う実娘を、笑い物にする女達。
口さがなくわたしを笑うこの娘達は、ほぼ確実にお母様派の、グッラ子爵家肝いりのスパイ達だろう。
まあ、こんなわかりやすい態度だもの、お父様はこの状況を知ってるわよね。
その上で泳がしてる。
だって、考えなくとも分かることよ。
主筋を睨みつけてせせら笑う、そんなメイドがどこの家で雇われ続けるの?
ありえないでしょ。
自家の者ですらこれでは、お客様に対しどんな酷い態度を取るかと、ぞっとするもの。
こんな質の悪いメイドが、少なくとも十名は潜り込んでいた、ってことは……。
お母様とお父様の対立って、実は以前よりかなり深刻だったのかしら?
――わたしの処遇を争うせい、で?
思わず眉間にしわを寄せる。
……こんなものを陰で用意してたってことは。
そういう事、なのかしらね? お母様。
まさか、だけれど。
実は、プリティ……ベリルの魔法による影響は軽微で。
あれは、ただのきっかけに過ぎなかったとか?
代用品さえ見つかればいつでも動けるようになっていた?
わたしを売り払う先はすでにあるようだし。
すでに手の者は以前から、わが家に潜り込んでいるし。
状況的には噛み合うけれど……。わたしならともかく、お父様まで裏切って、こんなことを進めていたの?
そんな酷い事が、あっていいのだろうか。
確かに、もともと両親は政略結婚だったわ。
それでも記憶には、お互い歩み寄った時期があったように思うのだけれど……。
あの優しい記憶さえも偽りなの、お母様。
やはり、お母様がわたしを嫌った事が、始まりなの?
すべては、一年前の「あの」 婚約破棄からのこと、で。
ああ、ぐらぐらと頭が煮えるようだ。だからきっと、こんなおかしな事を考えてしまうのよね。
わたしは酷い頭痛を堪えて、考え続ける。
――これはそう。熱のせいで思い浮かべただけのだだの妄想よ、きっと。
一年前。傷物となった娘を棄てて、そんな傷物の娘をまだ支え続ける夫を見限って。
実家の権勢を強める為に。
そこから、グッラ家のアヴァリーティア乗っ取りの為の、水面下の動きは始まっていた。
……わたしの考え過ぎであって欲しい、けど。
彼女らは、更なる情報をわたしにくれる。
「この「傷物」は、あの有名な「幼女男爵」 に売られるのでしょう? 何年正気を保てるのかしらあ、ウフフ」
「未熟な女性しか好きじゃない、あの男ね? 二十過ぎたら男爵夫人が「病で死ぬ」 という、あの」
それはまた。物語で聞いたような酷い人物ね。
「そうよ。でもこの「傷物」 は育ち過ぎじゃない? 打診があったのは随分前の事だと言うし、その頃は奥様に似て可愛らしかったらしいのだけれど」
……自分で見てもお母様似なのだけれど、この子達の目は曇ってるのかしら。
「今はもう、奥様にも似ず憎たらしいだけの酷い面相ですものね! 見なさいよ、この冷酷な顔ったら!」
「ええ、全くね。この血も涙もない顔つき。アヴァリーティア女の顔だわ! これだもの、わたくし予想ではすぐ「病で死ぬ」 と思うの」
あらあら。わたしが死ぬのがそんなに嬉しいの。人の不幸を喜んで、なかなかに酷い顔つきよ、あなた達。
「それはいい事ねぇ。もうあちらの領では受け入れの用意が出来ているそうですもの、もうすぐ奥様の苦しみはこの世から消えるのね」
一応声は低めて。でも、はっきりと。
隠しもせずわたしが通り掛かる度に、お母様の信奉者は、これみよがしと聞かせてくれる。
冗談みたいな事を、嬉しそうに。
お母様の嫌う「傷物」 は金満家に「売却」 されると決まっている。
わたしの嫁入りの用意……大金の用意すらされているというの、そう。
……これまたおかしな事を、彼女らは教えてくれたわ。
一体、どこの世界の貴族家では、当主の認めなくして娘の嫁ぎ先が決まるようになるのかしらね。
この世界では、少なくともありえないのだけれど。
わたしはパラリと扇子を広げて、その陰でため息を吐いた。
ああ頭が痛い。また、連絡事項が増えたじゃない。
パチン。わたしは手に持っていた扇子を閉じる。
小気味よい音が鳴る。
――その時、ダイニングルームの外では、誰かが歩み去った気配がした。
まだまだ、部屋の中では楽しいおしゃべりが続いている。
「ああ、楽しみね。奥様をあんなにも長年苦しめた「傷物」 だもの。苦しんで苦しんで苦しみ抜いて! 死ぬがいいのよ!!」
そんなにも嫌いなのね。
そんなにも憎かったのね? ……お母様。
お母様は何を、彼女達信奉者に聞かせていたのかしら?
わたしを呪うように、わたしを嫌う言葉を、どれだけ聞かせていたのかしら……。




