魔法少女、はじめての共同作業。
わたしは、ノープランのまま丘の上へと駆け上がった。
そこは、戦場だ。
あちこちに巨大モンスター……不良幹部のでかい拳の陥没が出来、平手に草が削れて土が露出してる。
……大事な憩いのスポットが!!
おのれ悪の結社め、環境破壊で慰謝料を請求してやろうか!
心の中でそんな絶叫を上げつつ、怒りのままにわたしは宙を蹴るようにして大ジャンプ。
足を揃えて、唯一トゲトゲのない巨大不良モンスターの仮面めいた顔へとキックを見舞う。
もちろん、魔法少女格闘術込みだから、巨体にも効くよ! ……効くはずだ、よ!
「グギャア!!」
おお、効いた効いた。我ながらびっくり。
流石は神様メイドな、魔法少女格闘術だ。体格差無視する威力は本物だねー。
でも、もろに鼻柱に入ったのは、いつも気の利く男ことドエースが気を引いてくれたからなんだけどね。
ナイスサポートだよ、ドエース。
「ウォオオオ」
それにしても、他人の痛みは無視するのに自分の痛みにはとことん弱いねー。なんか悶えてる。
それに不良モンスターの鼻っぽい穴から、緑色の体液を流し……って、緑色ぉっ!?
「ひ、ひいい! なんか変な色の血が!」
なんか、不良男ってば本気で人を辞めてるんだけど!? 血の色緑ってなんなの!
ショッキング過ぎる状況に、空中でバランスを崩したわたしを、ドエースは器用に片腕でキャッチした。
もちろん不良男へ牽制の銃撃も忘れない。
わたしを片腕に抱えたままなのに、然したる影響もないように……。
身軽く長い足で地を蹴って、足場の良いところまで避難したドエースは、今も鼻を押さえて悶える不良幹部、もとい巨大モンスターを睨みつつ言う。
「ああ、あれかい? 気にすることはない。どの道あの秘術を使ったからには、人の道から外れてしまっている。きっと今頃は、精神も半ば獣と変わらぬものになっているだろうね」
冷静に言ってるけど、いいのだろうか?
一応……同僚なんだよね? 不良男って。
しかし、秘術って……なんだか凄い物騒だね。
力を強める代わりに、人を人でないものにしてしまう、技術って感じ?
「全く……こんなものにまで手を出すなんて、本当に馬鹿げているよ」
巨大モンスターと化した同僚を睨みながら言うけれど、そのけだるげなドエースの声は、何時になく……。
哀愁を秘めていたようにも、思えたのだ。
「グギャア! グアアア!」
巨大モンスターは、ドエースの言うように、どんどん獣じみた動きをするようになった。
目に狂気を浮かべたそれは、二足歩行をやめて四足で地を駆ける。
「ちょっと、更にスピード上がったんだけど!?」
「より獣に近づいたことで、ある意味動きが洗練されたのかもね!」
わたしを抱えたまま、ドエースはさらに跳び退く。
その際、牽制の銃撃も忘れない。
「チッ……秘術なしでは遺物も牽制にも使えないか」
鋭く舌打ちするドエース。
わたしは、今更ながら疑問に思ってた事を聞く。
「……ところでその、秘術ってなんなの? それが出来れば、あいつにもその弾丸が効くようになるの?」
ちなみにわたしは、最早手出し出来ようもない凶暴さに腰が引いて、ドエースに抱えられたままでいる。
そんなわたしの顔を改めて覗き込んだドエースは、整った顔に苦笑を浮かべた。
「ああ、そうか。君はごく自然に魔法を使いこなすものだから、当然に分かっているものだと思っていたよ、ごめん。秘術というのは……」
ドエースの話をまとめると。
乙女達から集めた不思議な力が、世に神秘をもたらす「霊質」。いわゆるMPみたいなもので。
秘術とは、乙女を供物に捧げると世に顕現すると言われている、神秘そのもの……魔法を使うための方法をまとめたもの、なんだって。
「えーと、魔法の呪文とかそういうの?」
わたしが首を傾げると。
「まあまあ近い……っかな」
彼はまたモンスターの攻撃を避けて、柄を肩に押しつけ、なぜか弾切れのない不思議な銃で牽制の一撃を放つ。
……遺物、とか言ってたし、多分これも魔法文明製とかのトンデモアイテムなんだろうなぁ。
うーん。魔法文明のものなのに、魔法が乗ってないから使えない、の?
だとすると、あれは使えないかなぁ……。
「ねえ、ドエース」
「なんっ、だい!?」
曲芸じみた動きで超速の巨大モンスターの猛追を避けるドエース。お忙しいところ、すみませんね。
「ちょっとね、わたし試したいことがあるの」
「ギィヤァアアア!!」
黒いトゲトゲ怪物から、ひどい鳴き声が響いている。
わたしはちょっと手を添えるだけ。
照準も引き金も彼にお任せしたままのらくちんコースで……。
あら不思議、傷のひとつも付かなかった豆鉄砲が、レールガンばりの超弾速になっちゃうのでした。
それは、本当に思いつきだったの。
以前、プリティにしたように、ドエースのパワーアップを祈って、触れた肩に力を注いでみただけだったのだけれど……。
アンティークな銃に、わたしの必殺技みたいな白い羽根の意匠が浮かんだかと思えば。
銃口から雷光を纏った弾が飛び出したんだから、もう驚くばかり。
あとはまあ、無双だ。
もともと、どんな構えからも百発百中の精度を誇ってたドエースのこと。
敵に殴られない距離を保ちながら、ひたすら弾を撃つお仕事です。
……うん、こうなると元不良なモンスターにも同情するよ。
うおんうおん泣きながら、必死にドエースを殴ろうと追いかけてくる可哀想なモンスターの抵抗が止むのは、それから少ししてのことだった。
結果的には。
楽勝だったね……。
いや、ドエースが来なければ確実に死んでたんだから、本当に結果論なんだけれども。
そして丘の上には沈黙したモンスターが。
その巨体を眺めて……あーうん、これどうしようね?
わたしは思わずドエースの顔を窺って……。
あ、今更ながら。
緊張がやってきた、ぞ……!!
ドドドドドとうるさく鳴るわが心臓。
丘を吹き渡る風に熱された頬が、耳が心地よく感じる。
確実にまた、顔が赤くなってるよこれ!
「ご主人! またお主は性懲りもなくドキドキしおってからにー!!」
安全が確保されたのを確認したか、丘の下から、大鎌を抱えて走ってくるわが使い魔は、なかなかの健脚を見せながらお怒りモードだ。
でもでも、しょうがないじゃない!?
さっきは緊急だったし。
今は不安が解消されて。
やっと今気づいたんだよ!!
わたし、あこがれの人に抱っこされてるって――!!
しかも、暴漢に襲われたみたいにボタンが飛んだシャツのせいで、半脱ぎみたいな殿方の腕に……だよ!?
「――――ッ!」
わたしは声にならない悲鳴を上げ。
そしてそのまま、貴族の娘らしい現実逃避をした。
……つまりは、彼の腕の中で、気を失ったのだ。




