悪役令嬢、友人達に恋バナをせがまれる。
「銀の騎士とは、いつ知り合われたのだ?」
「白の王子様は年下の方とか? いったい、どんなロマンスがあったの? 教えなさいよね、バーバラ様!」
あああ。
どうしてこんな事になっちゃったのかな!?
銀の騎士ことドエースも、白の王子ことプリティにしたって、そういう艶っぽい話じゃないのにな。
……まあ、若干、振り返ると……。
『君のイジワルそうな顔が、好みなんだよね』
『僕自身は君の事ちょっと気に入ってるってことで』
『君のような可愛らしいお嬢さんが、わざわざ傷つく事はないだろう』
ドエースには、誘惑された事もあった気がしないでもないけれども。
「まあ、ホホホ。お父様も思うところがおありのようですし、わたくしが決める事ではありませんわ」
丸テーブルを囲み、わたしはにっこりと、ひきつりそうになる頬を頑張って引き上げて笑うも。
「そ、そんなことはありません!! グスッ、バーバラ様は、自らの心に誠実にあられて、浮気男との縁談を蹴られたではぁ、ありませんかぁ!」
おおっと。
いつもは弱気なレーナ様が、ここにきて急に張り切られているよ。ちっちゃな手をバンバン叩きつけて、痛くないのかな?
「そうさ、バーバラ嬢、君らしくもない。君はその気高き心に従って、自身で選んだ方と添い遂げられて欲しいのだ」
そう熱弁するのは、中性的な美貌の主。浮気症こそ発症していないものの、結社に狙われあわや婚約破棄の際に、『男なのか女なのか分からないような者など、このたおやかなビッチーナと比べたら天と地だ』 などと言われたミゼット様は、現在、若干男性不信気味である。
「そうよ、バーバラ様! あなたはわたくし達の希望の星なのだから、親の勝手などに負けないで欲しいの!!」
浮気男に悩まされている、ツィスカ様も、ツインテールをぶんぶん振りながら強く言い募る。
「そう、そうですよぅ。わたくし達は恋愛結婚など無理ですがぁ……グスッ、バーバラ様ならぁ……!!」
うう、お三方の期待のまなざしが辛いよ!?
本当に、どうしてこんな事に。
わたしがすっかり引きこもっていたこの一年の間も、盛んにお手紙や流行の詩集、お菓子のたぐいなどを送ってくれて、途切れることなく友情を暖めた、大事な友人達だ。
みんなの期待には応えたいけど……無理かなあ。
馬上デート……お母様の雷が怖くて、泣く泣く乗ったね。
王子様との中庭デート……薔薇迷路に、迷子の救出に向かったね。
うん、思い返してもロマンにはほど遠いね。
ええー、本当にどうしよう!? 本気で困ったよ!!
と、オロオロしていると。
すごく聞き慣れた渋い声が、わたしの耳朶を打った。
「ご主人、なぜ我を呼ばぬ? 困った時こそ我を呼べばよいというのに」
そう言って、耳打ちするように唇を寄せるのは、白いスーツに、ふわふわピンクブロンドの美少年だ。
……ぷ、ぷ、プリティ!! しかも大きいサイズで出てきちゃったー!!
室内にはきゃあっと、明るい少女達の声が弾ける。
「ほ、本当に……グスッ、まるで王子様です!」
「噂は半分で聞いてたけど、ちょっと、本当に美少年じゃないの?」
「おおっ! 本当に天使のように愛らしい方だ! 白の王子と呼ばれるのも頷ける!」
友人達のテンションは突き抜けんばかりだ……!
「だ、駄目に決まってるでしょ、家の人に見つかったらどうすればいいのよ!」
わたしがひそひそと小声で窘めれば。
「うむ? 問題あるまい。我には秘策がある」
ああ、うん、あったねそういえば。「よい子になーる」 の呪文で誤魔化せばいいんだよね。
わたしへの追求はプリティへ興味が移って止んだし、聞かれて問題がある事はあんまりないし。
……あれ? 特に問題は、ない?
「何でも聞くがよい、バーバラ姉上の親友の方ならば、我は歓迎するぞ!」
機嫌よく笑顔で振る舞い、プリティが大きくなった際に、一応作っておいた適当創作な出会いの話があるから、それを膨らましたりしながら、上手く友人らをあしらっている。
おかげさまで、わたしはのんびりとお茶を飲めるというものだ。
「お名前は何と?」
「我が名か? ベリルである。バーバラ姉上とは遠い親戚筋になる」
「お二人の出会いは? ベリル様はバーバラ様をどう思っていて!?」
「うむ。親戚であるからな、身内の集まりの際に、お互い自然が好きということで、意気投合したのだ。姉上は……とても、大事な人だ」
きゃー、と悲鳴が上がる。え、今ので何で喜びの声が上がるの?
「グスッ、普段はなにをされてますかぁ?」
「乗馬や狩りなどを嗜んでいる。カードやボードゲームも少々」
「普段はどの辺りのサロンに寄られますの?」
「我はまだ成人前ゆえな。もっぱら友人宅にしか行かぬが、確か……様の絵画鑑賞会や、……殿の詩の朗読会、……殿の弦楽演奏会などが素晴らしいとは聞いておりますな。ツィスカ様は絵画、レーナ様は詩集がお好きとか」
「ええ、絵は嫌いではなくてよ? まあ、でもそうね……様のコレクションはとっても素晴らしいのよね!」
「はっ、はいぃ、グスッ、そうなんですぅ。……殿は詩を読むのもお上手でぇ、ご本人も詩を書かれてぇ……」
「お二人とも実に素晴らしい御趣味でいらっしゃるな。我などまだまだ、外で遊んでばかりだ」
「そんな、恐縮なさらずともぉ」
「そうよ、これから色々学ぶんでしょ? これから励めばいいわ!」
「ふむ。……殿なら私の父が仲が良い。今度、招待状をいただけるか聞いてみようか?」
「我のような若輩では失礼になろうかと思われますが、お気持ちは有り難く。それよりミゼット様は、乗馬を嗜んでおられるとか?」
「おお、そうなのですよ! 最近はいろいろあって遠乗りには出かけられませんが……」
……し、知らなかった。結構話が上手いんだなぁ、プリティって。
一応、貴族の標準を狙って背景は作っておいたけど、細かいところまではフォローしなかったのに。
なんて、感心していたら。
「……という事で、これからもご主じ、いやバーバラ姉上を、皆様にどうか支えて頂きたい」
「分かっているとも!」
「ええ、任せなさい!」
「グスッ、もちろんですぅ」
おやあ?
「いいかい、バーバラ嬢。独りで悩んでは駄目だ! 銀の騎士とやらは相当悪い奴のようではないか!」
「口の上手い男なんてダメよ、絶対! あの浮気男みたいに、そこいらに女を作って回るのよ!!」
「そうですぅ、グスッ、ダメダメですぅ」
なぜか、選挙活動のごとくにプリティが皆の心得おまとめて、ドエースから引き離すような流れが出来ていた。
いや、そもそもわたしと彼は何でもないよ?
なにが起こったのかな?




