悪役令嬢、友人とお茶会する。
「……様? バーバラ様! 聞いておられますの?」
ぼうっとしていたわたしは、小鳥のさえずりのようにかわいらしい声によって現実に引き戻された。
いけない、いけない。
折角お友達が集まっているのに、また、この前の事を考えてしまってた。
今は、お友達とのお話を楽しまなきゃ。
「も、もちろんです。聞こえておりますわツィスカ様」
「それならよくってよ」
ツーン、と横を向くツンデレ少女の姿に妙に和む
猫目、ツインテ、ロリ、ゴスロリ。属性盛りすぎな彼女の名はツィスカという。
わたしは今、サロンこと天使のお部屋にて、猫足の白の丸テーブルを囲み、彼女のグチを聞いている。
「相変わらず、あの男は酷いものですね。ツィスカ嬢はお美しく人気の令嬢でいらっしゃるのに、どうしてあの浮気男との婚約を、破棄しないのですか」
憤慨するのは、スリムで長身、波打つ金髪に中性的な美貌で女性人気の高い女騎士こと、ミゼット様。
「そ、そうですわ。わたくし、ツィスカ様のお話を聞いているだけで涙が……グスッ」
もらい泣きしている、小柄で地味な茶髪に葡萄色のドレスの少女、レーナ様。
「ええ、わたくしも同情差し上げますわ。どうしてですの?」
わたしも皆の意見に同意する。
皆、わたしの大事なお友達であり、過去に秘密結社に狙われ、ビッチヒロイン怪人達によって婚約者を奪われ、あわや婚約破棄の寸前まで至った被害者達である。
そんな背景からか、大変に結束力の強いわたし達だ。
その中でも、とりわけ酷い目に遭っているのが、ツンデレ娘のツィスカ様。
わたしは彼女の話を聞いていると、どうしようもなく土下座したくなる。
……済まない、人気キャラゆえに何度も何度もゲストとして呼び立てして、と。
ようは、前世わたしがやらかした、ツブヤイター人気お題「悪役令嬢が多すぎる世界」 において、伯爵令嬢ツィスカは大変な人気キャラで。
いろいろな書き手が彼女を書きたがったゆえに、三ヶ月に一度ぐらいの勢いで、酷い時には二ヶ月立て続けに、結社のビッチヒロイン怪人に婚約者が狙われて、わたしが解決に駆けつけるという……。
大変に酷い状況に陥っているのである。
なんだろうこの、酷いマッチポンプ臭。
ああああ、本当に済まない、申し訳ない……!!
しくしくと痛む胃を押さえながら、わたしは外見には悪役令嬢らしい余裕の笑顔を浮かべて、話を聞く。
わたし達の同情の言葉に、猫目を潤ませながらもツンと顎を上げてツィスカ様は言う。
「仕方がないのですわ。彼の家は、子爵家ながらも大きな商いをされているでしょう。我が家は家格は上位ですけれど貧乏伯爵ですからね、しかもお父様は見栄っ張り。わたくし、借金の質になってるんですもの。箔をつける為の見合いですし、正妻にはなれるでしょうけれど、本命は他に作られるのではなくて」
そう皮肉り、精一杯、強がる彼女の姿は痛々しくて。
「そ、そんな事はないわ、ツィスカ様は大変に魅力的ですもの……」
苦しいフォローを告げる間も、わたしの胃痛はマッハである。
「……くっ、私が男ならば、ツィスカ嬢の苦境を救う為にあの男へ手袋を投げつけてやるところなのだが!!」
ぐっと手を握り締めるミゼット様。その横顔もりりしくお美しいですね。
浮気男に決闘を申し込む役とか……その役、皆のあこがれの女騎士様には似合いすぎです。
「ううっグスッ、分かります、分かりますよぅ……。婚約者のお家の方が強いからぁ、わたくし達はどれだけないがしろにされてもぉ、何も言えないんですよねぇ……」
「ああ、レーナ様は逆にお家が商いで成功されたばっかりに、上位貴族の家に嫁ぐのでしたか……。そちらの婚約者は、今は?」
お気に入りの青の磁器で、流行のフレーバーティを飲むミゼット様が聞くと。
「グスッ……あれからはぁ、もう本心を隠さなくなられたようでぇ……わたしの地味な姿が気に入らないとぉ……」
黄色い小花柄の磁器のお茶を一口飲んで涙を拭うレーナ様。
話によると、毎月のように婚約者が、地味かわいいレーナ様には似合わない派手ドレスを贈ってみせたり、流行色の高級化粧品を贈ってくるのだという。
「何と酷い……趣味があわないものを送り続けるなんて、ただの嫌がらせではないですか」
「その男、相手の趣味も確認しないだなんて、婚約者失格ね。こちらの浮気者でも、趣味に合わせた贈り物を選んでくるのに」
……おおう、お二人とも辛辣ですね。わたしもそう思いますけど。
「でもそれは……婚約者が頑張って失点を補おうとしている可能性がある、かも? 知れませんわよ」
結果が斜め下だけど。
話は殆ど、失点付きの婚約者達へのグチに始終するけれど、おいしいお菓子やおいしいお茶と共にストレスを吐き出せば、そのうち和やかになってくる。
そうすると、唯一独り者に戻ったわたしのコイバナへ、と。関心が移ってくるのだ。
見た目はりりしいけれど、一番のロマンチストなミゼット様がそこで口火を切る。
「聞きましたよ、バーバラ嬢? 銀の騎士との遠駆けに、白い王子様とのお庭デート、でしたか?」
「……んぐっ!?」
わたしは思わず、口に含んだお茶を吹き出すところだった。
「まあぁ、グスッ、すてきですわぁ!」
「え、何ですのそれ。そんな素敵な話があるの!? バーバラ様、隠さず聞かせなさいな」
レーナ様とツィスカ様も乗り気だ!?
銀の騎士、というのはおそらくドエースに送って貰った時に見られたのよねぇ。白の王子は、大きくなったプリティと庭でも歩いてる時の話だろうし。
……一体、どこから話が流れたのよ、噂好きのご婦人がたにしても、彼女らへと伝わるのが早すぎないかな!
「……ほほほ、それは見間違いですわよ。わたくしの評判はご存じでしょう?」
わたしは扇子を広げ、笑って誤魔化そうとするけれど。
「そういう誤魔化しは好かないな。バーバラ嬢が笑って流す時は、何かがある時に決まっている」
両手を組んでニヤリと笑う、その姿も格好いいですねミゼット様。
「まあぁ!! そうなんですの? グスッ」
「誤魔化すなんて許さないですわよ、バーバラ様!?」
あああ、三人とも、すっごく乗り気だよ……!!
お茶会という逃れられないシチュエーションの中、優雅に悪役笑いするわたしは内心で、冷や汗がだらだらと流していた。




