魔法少女、新幹部? と遭遇する。
わたしは木々の間を飛びぬけ、巨大な木の形のモンスターと、何度もぶつかりあっていた。
このモンスター、周りの木々の中に紛れたりして、なかなかに巧妙だ。注意して戦わないと。
「ご主人、そこだ」
「うん、分かった!」
パンチ、キックと、小刻みにモンスターの体力を削っていくと、やがて相手の動きが鈍ってくる。
「よーし、そろそろフィニッシュだよ! プリティ!」
「うむ、何時でも良いぞ」
プリティのサポートで背に翼を生やし、わたしは光の矢になって、モンスターに突き刺さる!
「スーギー!!」
木が伐り倒されるような音を立て、杉の形をした巨大なモンスターが、ゆっくり倒れていく。
すると、草木色の素朴な衣装を着た、森の妖精族の王子であるポロルク様が、マニキュアボトルみたいな封印から解放されて。
「ポロルク様!」
「ククララ? ぼくは……?」
彼を支えるように恋人の令嬢が、ぼんやりと首を振る王子を支えた。
「ポロルク様、私を嫌いじゃないよね?」
泣きじゃくる恋人の小さな頭を撫でながら、不思議そうな顔をしてポロルク様は断言する。
「そんなの……当たり前じゃないか。ククララはぼくの大事な子だよ」
小さな恋人たちの仲直りを、木々の間からほのぼの見守り、わたしは小さくうなずく。
よーし、今日も、めでたしめでたし、だよ!
今日は、敵の擬態を見破るまでが大変だったけど、戦闘内容は完勝って感じだったよ。
パワーアップして、プリティのサポート力も強くなったのかな?
そんなわけで、わたしは今日も魔法少女に励んでる。
本日も国外出張で遠距離をステッキでとばしてきたけど、帰りの問題がなくなっただけで、随分と気分は楽だ。
……まあ、わたしの不在を怒る人は、もういないかもだけれど、ね。
「じゃあ、帰ろっか!」
わたしは魔王系マスコット(美少年型) に振り返るけど。
そこに、とんでもない金切り声が飛び込んできた。
「キィィィッ!! また邪魔したわね! ピュアリーラブラブリー、あんたのせいで、あんたのせいでドエース様が……!」
木々の間から、ハンカチを噛んでこちらを睨んでいるのは、今日もギラギラで盛り盛りなアゲハっぽいビッチヒロイン怪人、ビッチーナである。
いつもの捨てぜりふとはちょっと違う。彼女は何をそんなに怒ってるんだろう?
……ドエースって何?
わたしが目を丸くしていると。
「おーっと、何よけーなコト言おうとしてんの?」
ジタバタ暴れる紫の派手ドレスの女を、ヒョロリとした長身を黒の革ツナギに包んだ男が押さえ込んだ。……どこの暴漢ですか、この人は。
「アンタはお呼びじゃないのよ、ギャン・グー! アタクシはこの女に、言ってやることがあるんだから!!」
「ハイハイ、可愛くないなー。とりあえずお前は何をチャラッと敵にウチのコト話そうとしてんの? 黙っとけ」
「うるさいわよ、アンタなんて嫌いよ、ギャン・グー!」
「はぁ? 知らねーよ」
ツンツン頭のパンクファッションっぽい男と、紫アゲハな女がにらみ合う。え、何だかすごい険悪なんですけど? 仲間じゃないの?
深い木々に囲まれた、静かな森の中。
恋を確かめ合う小さな妖精達をほのぼの見ていたと思ったら、反対側では、ド派手な男女が喧嘩をはじめました。
仲間割れする二人を、ぽかーんと眺めるわたし。
そんなわたしを、ビッチーナがキッと涙目で睨む。
「アタクシの愛するあの方が、どうしてこんな女の為に……!!」
……え?
「だぁから、お前は何でよけーなコト口に出すんだよこのダァホ」
叫ぶビッチーナの口を後ろから乱暴に塞ぎながら、男は荷物のように小脇に抱え。
「テメェが、アレか。結社が用意した「霊媒」 如きが、何で俺らの邪魔なんかしてんのかわかんねーけど、俺はあのクソヤローみてーに甘くねぇし。今度会った時がテメェの最期だ。俺が血の一滴まで綺麗に活用してやっから首洗って待ってろよ、イケニエちゃん?」
まるで、捨てぜりふのように。
そう言って、長身の男は去っていってしまった。
……え?
なんだったんだろう、今のは。
「帰るぞ、ご主人。あの男の話はたわごとだ。聞かなくていい」
呆然と二人を見送ったわたしは、ひょいとプリティの両腕に抱えられて、なすがままに帰還する。
ふわふわと、白馬の王子ならぬ白い王子様の腕に抱かれ空を飛んで帰る道。
わたしは、さっき聞いたばかりの言葉を頭の中で繰り返していた。
ドエースが……わたしのせいで?
確かに彼とは、茶会の次の日に庭園で会って以降、しばらく会っていないけれど。
彼が、どうしたというの?
わからない。わからないけど、胸が騒ぐ。
敵として。屋敷では使用人アウルムとして。
常に関わってきた彼の姿をもう、三週間は見ていない。魔法少女として活動して以来、これは初めてのことだ。
いったい、ドエースが、どうしたというの……?
『アタクシの愛するあの方が、どうしてこんな女の為に……!!』
憎々しげにこちらを睨みつける少女の顔が過ぎる。
『結社が用意した「霊媒」 如きが、何で俺らの邪魔なんかしてんのかわかんねーけど、俺はあのクソヤローみてーに甘くねぇし。』
そして、あの謎の男がわたしに告げた、意味深な言葉の意味も、分からない。
あたしは、ただの悪役令嬢で、魔法少女で。
このお話はただの娯楽で、無実の少女は必ず助かる、めでたしめでたしで終わる逆転劇で……。
そんな単純な話では、ないの?
パワーアップして大きくなれるようになった魔王系マスコットは、猛スピードで空を行き、家へとたどり着く。
「……主人、ご主人。屋敷に着いたぞ」
ところが、いつもならそそくさと腕から降りるはずのわたしが無反応で。
「ご主人? どうした、具合でも悪いのか」
怪訝とした表情を愛らしい少年顔に浮かべ、心配げに声を掛けてくれるプリティの声に……。
内心に浮かぶさまざまな疑問が膨れ上がるばかりのわたしは。
答える事が出来なかったのだ。




