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悪役令嬢、母との戦い。

 プリティ逃亡から二週間が過ぎた。

 その間の、わたしのスケジュールはびっしりだ。


 茶会の会場の後始末は、使用人に任せておけばいいけれど、茶会に招かれた人達から返されたお礼状のお礼状……大量のお手紙書きに明け暮れ。


 ほぼ一年ぶりに会えたというのに、全然話せなかった友人等へ、私的なお茶会へお誘いし――。

 折角の機会だったのに、まさかご挨拶だけで終わるとか、本当にないって。

 今度こそ、皆で沢山どーでもいい話をして憂さを晴らすぞ。わたしは絶対来てねと友人の手紙に文を添える。




 それから、お母様のお怒りを鎮める為に、良い子ですよとアピールするのに、お母様のご友人お勧めの事故物件、もとい訳あり令息達へと……。

 貴族らしい美麗かつ迂遠な言い回しでお断りのお手紙を書きまくった。


 案の定、わざわざわたしの部屋へ足を運んだお母様にお怒りを受けたが。

「なぜ、良縁を片端からお断りするのですか? 傷もので嫁ぎ遅れ掛かっている恥ずかしい娘の貴方などに、相手を選ぶ権利などわずかにもないのですよ! わたくしの言うとおりになさい!!」


 わたしは両手を体の前で重ね、うなだれて、いい子の姿勢で話を聞きながら、お母様とのすれ違いっぷりに憂鬱になる。


 あ、こらプリティ。籠の中から出てお母様に「良い子になーる」 をかけようとするのはやめなさい。

 ゆっくりじりじり長椅子の前に向かって、プリティの小さなまるい頭を押さえる。

 大きくなれても、寝る時はいつもこのフォームなんだよね。

 そして、下を向いたまま小さな声で言う。

(「これぐらいはいつものことだよ。気持ちはうれしいけど……伯爵家の家政を預かる母が前後不覚とか、ふつうに事件だよ、それ」)

(「しかし、ご主人……この母御の言いようは、酷すぎるではないか」)

 この人のは筋金入りだし、急場をしのいだところでまた言われるだけ。

 根本的に考えが合わないんだもの、無理だって。




 しかし、これって前世ではモラルハラスメントって言われそうなあれだね。

 まあ、知ってた。お母様は貴族の娘らしからぬわたしを昔から不気味に思って、嫌っていて。


 そこはね、悪いと思ってる。

 前世の自由な気風を心の中心においちゃってるわたしって、親の言うことを何でも聞く娘……政略の駒、という「家財」 になるには、どうにも外れてて。

 貴族娘らしい金の掛かるわがままだって、いつか金になる「家財」 だからこそ許されている事なのに、わたしときたら。


 婚約破棄されちゃう、価値の落ちた「家財」 ……お母様的には粗大ゴミみたいなものですし。

 だから、こういう蔑みの言葉も自然と出ちゃうんだね。


「本当に貴女という娘は……! わたくしは恥ずかしくてなりません!! わたくしの恥にならぬようにとあれほど言ったのに! 何て酷い、いやな娘なのでしょうか!!」

 わたしそっくりな悪役美女顔で、憎悪のまなざしを、わたしに向けて。


 あ、またプリティがよからぬ事を考えてる。ごそごそ動きだした彼の不穏な動きに、お母様のネグレクトぶりもどうでもよくなってきたぞ。

(「だから、プリティ。わたしもちゃんと対抗策盛ってるし大人しくしてよ!」)

(「しかし、ご主人!!」)

 そうやって怒ってくれる使い魔がいるんだもん、わたしは本当に大丈夫、だよ。


 しょうがないね。これは相性というものだね。お母様には本当に、わたしは邪魔で言うことを聞かないゴミなのだし。




 では、さっさといやな事は済ませてしまおう。

 わたしは一つため息をついて。お母様に告げる。


「これは、家長であるお父様の言いつけです。良家と縁を繋ぐなら、わが家に来ていただけるもっと良い家の話もあると。彼らでは次代の家の存続すら危ぶまれる、この縁は繋いでは駄目だ――そう、仰っています」


「な、何ですって!?」

 お母様、これでも一応娘なんだから、そんな人を殺してきそうな鬼の形相はやめよう。

 今回の件については、王都で仕事をしている父も頭を抱えたそうだ。

 悪役属性とはいえ、これで意外に友人思いなお母様を野放しにしておくからだよ、そりゃあ、家を傾けてでもお友達の家を救うでしょうよ。

 そういう、懐に入れたものには情を示す、敵は徹底的に叩く、というきっぱりしたところが、社交界のカリスマたるお母様の性格なのだ。

 わたし? まあ、一年前の婚約破棄で価値を下げてからは、限りなく敵に近い何かなんじゃないのかな。


 ため息を一つ。

「不満があるなら直接お話下さいませ。お父様の調べによりますと……」

 そう言って、鍵付きの引き出しからわたしは一つの封書を取り出した。

 封蝋はお父様のものとすぐ分かる、我が家の家紋で。

 お母様は慌てて、封を破り中身を確かめる。


「そ、そんな……!! こんなものは、でたらめです!」

 お母様真っ青だけど、わたしも家を継ぐんだよ? しょうがないね。

 でも資料は嘘つかないよ。そこに署名もあるでしょうよ、高名な紳士なあの方や、浮き名を流すハンサム貴族様や、紳士録でも上位の人々から聞いた真実です。


「では、苦情はそれを調べたお父様へ、どうぞ」


 いちおう、これでもわたしは、家の事を考えてるんですよ。

 あの茶会最後の事故物件ラッシュから、こうなる事はわかってたし、執事から手を回してみました。


 すると、出てくるは出てくるは。頭が弱くて投資で騙されてたり、悪行に手を染めて社交会から追放受けてたり。汚職で家格が来年にも下がりそうな家だとか。

 ……わたしも調査書を見たけど、めまいがする程に酷かったよ。


 彼らの駄目っぷりは貴族社会では有名だったらしく、あっという間に情報が集まったって。

 お父様のご友人達も親身になって署名まで添えてくれたんだよ。それほど酷い事故物件だったの。


 お母様、ご友人に恵まれなかったんだね……そこは、まあお気の毒に思うよ。




 今にも倒れそうな顔色で去っていったお母様だが……。まあ、わたしが心配したところで仕方ないね。

 あと、これで完全に親子の間に亀裂が入った気がしないでもない。


「まあ、今更かぁ。さて、わたしは手紙の続きをっと」


 来週には友人達とお話が出来るんだから、わたしはわたしが出来ることを頑張るんだ。

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