悪役令嬢、薔薇の垣根に目標を見つける。
はあ、お茶が美味しい……。
わたしはドエース、あるいは使用人アウルム、と呼ばれる男に手を引かれ自室に戻ると、優雅にお茶を飲んでいた。
一応、彼がわたしの専属メイドに、アリバイとして前庭の迷路で迷ってたと説明してくれたので、お母様の怒りの突入はまだ、ない。
おかげで、落ち着いてプリティ捜索の検討ができるというものである。
……ただ、茶会の途中で抜けた事に対してのお怒りは、まだまだ冷めてないらしいので、どうにかして怒りを解かないといけないんだけどね……。
だからと言って、バカ正直に「悪の秘密結社の幹部の魔の手から、お客様を助けたんです!」 なんて言えないし。
ふつうに聞いたら、頭おかしい内容すぎる。
はあ、本当、悪役令嬢と魔法少女の二重生活って、大変すぎるよ。
さて。もう一度、朝の捜索で抜けてたところを考えてみよう。
軽食のスコーンを摘みながら、わたしは屋敷内の見取り図を頭の中に浮かべる。
屋敷内の主立ったところは、一度は調べた。
後は、物置になってる屋根裏、使用人の作業場となってる地下、だけれど……。
白くてまるい物体がそんなところにいたら、目立つよねぇ?
勿論、美少年姿も却下。どこから見ても良家の令息が、そんな場所に行ったら使用人に仰天されるし。
じゃあ、使用人らの住んでる離れや、裏庭は。
朝は一番バタバタしてるし、人の動きも激しいから、誰にも見られずにひっそり逃げだすなんてのには向かない。
特に、使用人らの住居なんかに、わたしのお気に入りのぬいぐるみと思われてる白い物体があったら、大変である。
使用人の盗みなんて事になったら、誰かが責任を取らされて首を括る事になるかも知れないし。
その当たりの事は、プリティだって分かってる筈だから潜り込んだりはしない……はず。
何これ、わりと手詰まりだよ?
ううむ……やっぱり使用人達に聞くべきなのかなぁ。
「ねえ、アンネ。今朝からちょっと見つからなくて悩んでいるのだけれど、わたしの白くてまるいぬいぐるみ、どこかで見なかったかしら?」
お代わりのハーブティを淹れている専属メイドに、さりげなさを装い聞くと。
「お嬢様の、ぬいぐるみ……でございますか。そういえば、いつもの長椅子にはございませんね。貴方達は?」
メイドは首を傾げ。ティーテーブルから軽食の皿を下げる同僚に聞く。
「わたくしも、気づきませんでした」
メイド達は見てない、か。
「そう。変な事を聞いて悪いわね。下がっていいわ」
「はい、失礼致します。御用がありましたら何なりと」
彼女らの様子からすると、特に離れでも騒ぎになってもいないようだし、もう一度朝と同じところを捜すしかないかなぁ……。
死角になりやすい、前庭を中心にして。
と、いうことで。
昼からも捜索です。
「……あ、いっけない」
貴族の娘らしからぬスピードで歩いていたら、またナチュラルに専属メイドを撒いてしまったようだ。
「ま、いいかぁ……。正直、プリティと話す時にいられると困るし」
わたしは、メイドを撒いちゃう健脚を活かして、広い前庭の植木や花の影など、細かい場所も捜す。
正直、彼女らが付いてこなくて良かったかも。
もし、プリティが昨日みたいに大きくなってたら、よけいに説明が出来ないもん。
そうして、前庭を隅々まで探し終え、薔薇の迷路に足を踏み入れる。
勝手知ったるわが庭であるので、サクサクと中心の四阿まで最短ルートを辿り……。
わたしはぴたりと足を止めた。
――よく考えたら、迷路の最短ルートなんて、あのまんまる生物が知る訳ないよね?
慌てて、わたしは外れルートを総当たりする事にした。
すると、大当たりである。
……膝を抱えた天使のような美少年が、迷路の袋小路にいた。
わたしは、わざと足音を立てて美少年に近寄る。
「捜したよ、プリティ。ひょっとして、朝からここで迷ってたの?」
ピンクブロンドのふわふわ髪を見下ろしつつ、わたしが言えば。
「う、うるさいのである」
ぷいと横を向いたぞ。かわいくなーい。
早速もふもふと手触りのいいピンクブロンドを撫でつつ、わたしは美少年型使い魔に言う。
「ほんと、朝からずーーーっと、捜してたんだからね!!」
「嘘である。悪の幹部とイチャイチャしていたのである」
「まさかの盗み聞き!?」
いや、確かにちょっと、ドエースと話してはいたけどね!
「あれは、プリティが見つからなくて煮詰まってたところだったの! さっさと出てきたら、わたしはプリティを優先したよ!?」
「嘘である。ご主人はまた我の忠告も聞かずに、危険な男にドキドキしていたのである」
ぷうとむくれる姿は可愛いが、言うことは可愛くないよ! 浮気みたいに言うのやめて。
「本当だってば! プリティが見つからなくて、わたし泣きそうだったんだよ?」
「む?」
プリティはようやくわたしに視線を向けて、膝を抱えたまま、赤い瞳を瞬かせる。
「くだらない話を聞いてくれて、わたしの側にいてくれて、わたしを励ますのは、プリティの役目でしょ!」
「むう。それでは我はただの苦情係か何かのようではないか」
また可愛くなく横を向いちゃったよ。あれ?
もう、何が不満なんだろう。わたしはだんだん混乱してきて、悲しくなってきて。
「う、ううー。だから!! 落ち込んだり、辛かったり、悲しかったりする時に、隣にいてくれるのは……あなたでしょ」
泣き言なんだか恨み言なんだか分からない事をつぶやきだす。
「……ふむ?」
「毎日大変でも、何とかやってけるのは、プリティがわたしを励ましてくれるからで」
「うむ」
「あなたは、わたしの大事な癒しで」
「ほう?」
「だから、あなたはわたしの使い魔なんだから、勝手に離れちゃ、だめなの!」
あ、あれ? 何だかこの言い方はよくないぞ。
「ふ、ふふふ……」
プリティは、おかしな笑い声を響かせたと思えば、すっくと立ち上がって胸を張る!
「ようやく我の事を認めたな、ご主人よ! 我がご主人の支えであると!」
ああっ、だめな方向に慢心しちゃった!
「もう、浮気は駄目である。ご主人は悪の幹部などより、我を大事にするように!」
輝くような笑みはかわいいけど、言ってる事はダメダメだよ!?
「だから、人聞き悪いこと言わないでってば……!!」
本体はまんまる生物のくせに、何を言うかなぁ、この使い魔は!
使い魔が見つかってとりあえず胸をなで下ろしたけど、この慢心ぶりをどうしたらいいの!?
わたしは薔薇の垣根に囲まれながら、低音の美声を響かせる魔王系マスコット(美少年型) を前に、頭を抱えていた。




