悪役令嬢、茶会当日……意外な人が、また一人。
「バーバラお嬢様、お手間を取らせまして申し訳ありませんでした。私めは厨房に連絡に戻ります」
「え、ええ。ご苦労様」
胸に片手を当て、綺麗な礼を取ったお仕着せ姿の悪の秘密結社幹部ドエース、もとい……金は裏庭から去っていく。
……ああ、別の意味で心臓に悪かった。わたしは今もドキドキする胸元を押さえる。
アウルムとの会話は、時間にして十分も掛からなかっただろう。
そんな短時間の邂逅で、大声出してストレス発散し、わたしの気分は上々で。
……やり手のお悩み相談室か何かか!? 鮮やか過ぎて驚くわ!
そして、わたしは、淑女にあるまじき自分の行為に頭を抱える。
「……殿方の手を思い切り掴んで引き回すとか、ありえないでしょ!!」
がっつり気合い入れて握ってたし、婚約者の時よりも明らかに積極的な行動だったよ!!
緊急時とはいえ何てはしたない! 思わずじたばたしちゃうよ、うー。
……そんな、わたしの嘆きを聞いたかのようにその人物は、空から降ってきた。
「ご主人! 我を呼んだな、大丈夫か!?」
低音の美声を響かせ、ひらりとだだっ広い裏庭に飛び降りてきたのは、くせっ毛のミディアムショートなピンクブロンド髪に赤い目の、肌も服も、真っ白な……夢のように綺麗な少年である。
燕尾服調の服装をしてるんだけど、襟元や袖口から覗くフリルがまた、容姿に似合ってこれまた可愛らしい。
歳の頃は……少し年下? 背丈はわたしより十センチぐらい高いかな。十三か十四歳ぐらいの、華奢で愛らしい顔立ちの子だ。
ビスクドールも真っ青のお肌つるつる美少年だよ。
「……だ、誰?」
思わずわたしは眉を寄せ、首を傾げてしまう。
ぴかぴかの白い靴とちらりと覗く白い絹のソックスからして、確実に良家のご令息だけど……。
こんな綺麗なご令息なんて、知り合いにいないけど。
「む? 分からないのか、我である。ご主人を助けに来たぞ。悪の幹部めは何処なのだ」
きょろきょろと首を振る姿もかわいい。
むう。言われてみれば――。
この渋い声、この俺様台詞、そして妙に威張った立ち姿……妙に見覚えがある。
わたしは、美少年の額にちょこんと付いてる、赤い宝石を見てあっと声を上げた。
「……プリティ!」
この美少年が、あの、ファニーフェイスなわが使い魔!? 嘘でしょ!
「そうだ。ようやくパワーアップしたのだ! そしてご主人のピンチに駆けつける我……! どうだ格好よかろう、もうあの悪の幹部などにフラッとくるのではないぞ!」
確かに綺麗だけどね、かわいいけどね、発言と行動がまんまる生物の時と変わらないよ! 無邪気にふんぞり返るな。残念生物め……!
「ふ、フラッとなんてしてないもん!」
わたしは使い魔の失礼な言いようにむくれる。
「嘘をつけ。我はお役立ちであるから分かるのだぞ。アレと一緒にいる時は、ご主人は無駄にドキドキしているのだ」
無駄とか言うな。
しかし……バイタルチェック機能まで搭載してるとか高性能なマスコットだね!?
「それで、悪の幹部は!?」
「仕事に戻ったよ」
「し、仕事……? 一体、あやつはご主人を裏庭になど連れ出して、何をして……はっ、ご主人、何もされなかったのか!?」
慌ててぐるりとわたしの周りを回り、服の乱れなどを確認するプリティ。
そういうツッコミはもう騒音おばさんでこりごりです。
「何もなかったし、されてないし!」
ジロリと睨むと、プリティはホッとした顔をして笑顔を浮かべる。
「それならいいのだ」
うう……そんな無邪気に喜ばれたら、短気起こしたわたしが恥ずかしいよ。
思わず頬を赤らめると、また調子に乗り出す。
「おっ、ご主人。我にドキッとしたな? どうだ? 我は格好いいだろう!」
はいはい、かわいいかわいい。思わずいつもの癖で頭を撫でちゃったよ、あっ、髪がふわふわだ!
「ところで、プリティ」
「うむ? 何だ」
長い睫の下の赤い目を瞬かせ、首をちょこんと傾げるわが使い魔。かわいい。
「あの……得意げなところ悪いけれど……やっぱり大きくなってもね、あの。プリティはね……かわいいよ?」
「なっ、なんだと!?」
ショックを受けたように後ずさる美少年。うん、青ざめてもかわいい。
「どうしてだ!? 背も大きくなったろう!?」
「うん」
「顔だってあやつに負けておらん!」
「うん」
「服だって頑張って、ご主人好みのシンプル可愛い感じにしたのだぞ!?」
「あ、そうなの」
なんと、服装までわたしの好みに合わせてくれたんだね。だとすると、このかわいい容姿も天使部屋にちなんで……か?
確かに燕尾服調のドレススーツはシルエットが綺麗で、要所に小技をきかせた感じがとってもわたし好みだし、お顔だちも可愛くて、うんうんわたし好みだねー。
にこにこ笑って、わーい、可愛い弟分ゲットだぞ! 前世も今世も一人っ子だからうれしいなー。
なんて、ふわふわ頭を撫でて喜んでたら。
「わ、我はもっとパワーアップする! もっと大きくなってご主人に格好いいと言われるんだからな!」
涙目でダッシュで叫んで去っていったよ!
あ、あれぇ……?
あれかな? 思春期かな? 嘘でも格好いいって言っとくべきだった?
でも、かわいいんだもん。
せっかく、例の便利呪文の「みんないい子になーる」 で、弟として生活して貰おうと思ったのになぁ……。ちぇ。
「と。そんなところじゃなかった。お茶会に戻らなきゃ。お仕事お仕事、っと」
わたしは、弾む足取りでお茶会の会場に戻る。
驚き二連続で、すっかり気分が向上してしまったわたしは、忘れていた。
……わたしが戻るその場所が、魔境であったことを。




