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悪役令嬢、茶会当日……意外な人物、意外な状況。

 ああ……本当に酷い目にあった。

 既にわたしの胃は限界である。


 一年間、魔境から離れていたから、ご婦人方の積極的な攻撃に絶えられなかったよ。


 痛む胃を堪えながら、最後の一人にご挨拶を送った私は、完全に脱力していた。


 ……そこに。

「どうしたの、酷い顔色だよ。もっと君は強気な方が魅力的だと思うんだけど?」

 ……幻聴……?

 にしては、妙にはっきりした声が、扉の外から。


 部屋の入り口で応対していたわたしは、おもわずきょろきょろと周りを見回してしまう。


「バーバラさん?」

 そんなわたしの不審な様子に、お母様は怪訝と聞く。

「あ、いえ……」


 うん……きっと、幻聴ね。

 悪の幹部が、こんな処にいる訳ないもん。ていうか、むしろ自宅の奥まで進入とか怖い……。


「お嬢様。厨房の者が、お出しする順番をもう一度確認したいと……」

 こ、今度は。

 隣から幻聴が……!?


 ばっと振り返ると、そこには我が家の男性使用人のお仕着せ姿で、金髪の鬘を被ったドエースがいた。

 ……その美形顔、間違えようがないよ。何で、あなたが、ここにいる!?




 ……悪の幹部を、お客様の前に置いておくわけにはいかないよ!

 わたしは使命に燃え、勢いよくドエースの腕を掴んだ。

「伝達ご苦労様。厨房まで貴方にもつきあって貰います。ではお母様、わたくしが帰るまで少々応対をお願い致しますわ!」

「ば、バーバラさん!?」


 わたしは、貴族の娘らしからぬスピードで、その場から悪の幹部を連れ出した。




 そして、使用人向けの、人気のない裏庭に連行。

 飾り気のないそこは、井戸や物干し台、作業道具を詰めた倉庫ぐらいしかない、だだっぴろい場所だ。

 はたはたと干されたシーツが風に揺れている。


 ずんずんと貴族の娘らしからぬスピードで歩いていたわたしは、そこでパッと後ろを向き、相手に詰め寄る。

「……何でこんな処に!?」

 手は離さないわよ、逃げられたら困るし。


「やあ、久しぶりだねピュアリーラブラブリー」

 にこりと笑って、空いた手を胸に当て丁寧に礼をする、そんな姿もきまってる悪の幹部は、わたしの恥ずかしいコードネームを言う。

 変身してテンション上げてない時に言われるとよりこっ恥ずかしい……!!


「……わ、わ、わたしはバーバラよ!」

 だから、訂正するしかないじゃない!

 あああ、絶対顔が赤いわよ、今!


「失礼、バーバラお嬢様。じ言ったろう? 秘密結社の闇は深いってね。あ、ちなみにここではアウルムを名乗ってるよ」

 ば、バーバラお嬢様って言った……! わたしの頬はなお熱くなる。

 しょ、しょうがないでしょ、格好いい男の人に色っぽく囁かれるとか普段はないんだよ。

 男慣れしてないんだってば、本当に。


 しかし、(アウルム)とはまた直球な。変装用の金の鬘から取ったんでしょうけど、まるきりコードネームね。

 男性使用人の黒のフォーマルを着てもなお、退廃的な雰囲気を醸したドエースは、アンニュイな表情に笑みを浮かべ、小首を傾げる。


「どうだい? 僕の言う事、少しは信じられた?」

「……そうね。ここまで忍び込んでくるなんて、並大抵の事ではないのは、わかるわ」

 厳重な警備を抜け、貴族の家のお仕着せを盗んで、比較的人の出入りの多いパーティ会場とはいえ、従業員として働くなんて――そうそう出来る事じゃない。

 招待状の作成や過去の履歴にも、必ず、大きな貴族の家が関わってる……。ちょっと、どういう事よ、説明しなさいよねプリティ、わたしこんな複雑な状況なんて、対処出来ないわよ!?


 悪辣と知られるわがお父様が、背景を探らない訳がないもの。彼の履歴は相当巧妙に偽装されている。それが出来るバックがいる。

「悪の秘密結社は本当に、魔法少女にテキトーにやられるだけにある、ウケ狙いな組織じゃなかったのか……!」


「そんなわけないでしょ、君ってバカなの」

 思いっきり呆れた顔で言われた。

 え、後半まるっと口に出してた? それは申し訳ない。


「ああもう、ただでさえ茶会で針のむしろで胃が痛いのに、魔法少女関係でも悩みが増えるなんて!」


「うん? 僕の事は気にしないでよ。別に君や、君の周りに迷惑掛ける為の出向じゃないし。ちょっとしたニアミスだってば」


 ……悪の幹部にそんな事言われても、信じられるわけないでしょ。

 じとりと睨むと、ハハハと、軽い笑いで済まされる。

 むうっ……。本当に、魔王系マスコットかわたしをこの世界に送り込んだ神様あたりに、この訳分からない状況の、説明を要求したい。


 奴は、わたしに拘束された片手を揺らして弄びながら、ひどくゆったりした声でわたしに囁きかける。

「厨房から”お嬢様”に、相談が出たのも本当。ただ、僕が連絡役を買って出ただけさ。と、いうわけで。主役級のチョコフォンデュと、お好みプチスイーツ盛り放題ワゴン。どっちを先に出すの? 早く決めちゃって? ついでに君の鬱憤ばらしにも付き合うよ。ちなみに君の好物は、やわらかプディングカラメル苦め」

 にこりと、妙に色気のだだ漏れな笑みを浮かべたドエースは、吐息のように甘い声を漏らす。


 あ、悪の幹部に好みまで把握されたー!


「……そ、そんな事言って。お客様の情報なんて渡さないんだから!」

 わたしが威嚇の声をあげるも。

「おや、残念」

 繋いだ手のせいで、ひどく近い位置にある彼は、小粋に肩を竦めて、楽しげに目を細める。

 そんな顔が魅力的だなんて、お、思ってないんだからね!

「ぜんぜん残念そうじゃない!!」

 なんなのもう、小憎たらしいったら!!

「だから早く、どっちが先なの?」

 男が首をちょこんと傾げるな! ……似合うけど。


「う……ワゴンが先、チョコフォンデュが後! あ、お客様の危険がないように、ちゃんとひとテーブルに一人、使用人を付けてその人にやらせるのを徹底してね」

 流石に滝のように流れるあれではないけど、お好みで一口サイズの果物やマシュマロを溶けたチョコにつけて食べて貰うの。ただのフルーツ盛り合わせより楽しいと思うんだ。


「ちょっとメモ取るから手を離してくれる? 大丈夫、逃げない……ね?」

 優しい声で言われて思わずわたしが手を離すと、上着の隠しからサッと携帯メモを取り出し、書き付ける……。

 ほ、本当にこの人出来る使用人装うの、上手すぎなんですけど!? いつもの「使用人任せですが何か?」 って感じのお上品な紳士ぶりはどうした!


「ワゴンが先、チョコが後。火の扱いがあるのでお客様の危険がないよう使用人にやらせる。……うん、了解。で? 叫んで少しはスッキリした?」

「はっ!」

 我が家に潜入した悪の幹部の衝撃に、思い切りお嬢様言葉も忘れて、素でしゃべってたよ、うかつ!

 ……それに、気楽にしゃべって好き勝手に叫んだお陰か、確かにスッキリしちゃってる!!


「な、なんなのこの、すっかりやられちゃった気分は……!」

 頭を抱えよろめくわたしに、優しい目を向けるんじゃなーい!!


 悪の幹部が、魔法少女を励ますって、どんな状況なの!!


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